Q&A  後見の申立て(相談事例から)

Q.後見の申立て(相談事例から)

私の母は、86歳です。父は既に亡くなり、兄弟は私と兄の二人です。母の財産としては、父から相続した預貯金や金融商品があります。兄とは、父の相続問題をきっかけに、以後、兄弟仲は良くありません。

兄は、母親と同居していますが、私に相談なく、母を3年前に介護施設に入れています。兄は、その後、自宅の増築などをしておりますが(土地建物は、兄が相続しています。)、母の預貯金等を流用している疑いがあります。

母と会うことは出来ますが、介護施設の方も、兄に言い含められているのか、母に関する情報―介護等級等も含め、私には教えてくれません。

そのため、母の財産管理を適正にやってもらうために、後見の申し立てをしたいと思いますが、申し立てをする上で、どんな点が問題となりますか。また、兄の協力が得られない見込みですが、そのような場合にも、スムーズに進行しますでしょうか。また、兄の母の預金からの不正流用が明らかになったときは、それを兄から返してもらうことは可能でしょうか。

 

 

A.「後見開始の申立」については、例えば、名古屋家庭裁判所では、後見センターがその窓口となり、申立の書式などが準備されています。手続に関する説明ビデオも置かれていますので、申立にあたっては窓口で事前にご相談をされてから申立をした方が、円滑に申立の準備ができます。

申立にあたって、申立をする方が、被申立人と日常接していない時に困るのが、主治医の診断書の取り寄せと財産関係の調査です。

財産関係については、できるだけの調査をして、それ以外は不明とするほかありませんので、わかる範囲で記載し、資料をつけることになります。

主治医の診断書についても、お兄様の妨害で円滑にとれない場合もありますし、お母様の能力の前提となる介護の等級やその認定資料も、ご本人生存中は、ご本人にしか内容は開示されないので、このあたりの資料が不足してくることになります。最終的には、ご本人が後見その他がふさわしいかどうかは、後見申立の手続の中の鑑定で決められます。

申立前には、協力が得られなくても、裁判所からの要請で鑑定に応じていただける場合もありますし、それに応じていただけない場合には、第三者の医師が鑑定人として関与することになります。ご本人の医療記録や脳などの画像データがない時には、施設外に連れ出して鑑定人等の施設で検査を受け直す必要も出てきます。お兄様が、たとえば、後見等がふさわしい能力制限の程度までには至っていない等として争って、施設外に連れ出せないという事実上の妨害という事態も想定されます。

このような場合は、鑑定人は勿論、裁判所にも鑑定を実施させるための前提となる協力を強制する権限がなく、最終的に鑑定ができず、裁判所から申立の取下げを要請されたり、これに応じなければ、申立が却下されるということもあります。但し、裁判所からの働きかけ等により、お兄様の方が協力をすることも考えられます。

こうした裁判所とのやりとりやお兄様への働きかけなどは、弁護士に依頼し、代理人として動いてもらった方が、円滑に進行するものと思います。

また、後見の手続が、上記のようにお兄様の妨害その他によって円滑に進行せず、手続中に、お母様の預金をさらに引き出したりする等のおそれのある時には、後見の審判の「審判前の保全処分」として、取り急ぎ財産管理者の選任をして、財産管理を行う後見命令の申立をすることも検討することになります。これらの保全処分の申立については、処分のおそれ等の疎明が必要ですので、やはり、弁護士を代理人として依頼して申立をしてもらうのが賢明です。上記のお兄様の鑑定への協力も、財産管理を通じて事実上要請すると、うまく行くこともあります。但し、診断書やその他、お母様の能力の程度についての客観的資料が全くない場合には、保全処分の発令は難しいものと思います。

後見人は、預貯金の履歴の開示請求、介護認定の資料やカルテ等の開示請求ができ、ご本人に関する情報の調査ができる立場にあります。したがって、後見人が選任されましたら、後見人に、あなたが疑問とする点を話していただき、お兄様からの返還の要請をしてみて下さい。後見人としても、資料等から、ご本人の能力が明らかに制限されて以降に、不正引き出しをしていることがわかれば、お兄様への返還請求の交渉を進めていくことになります。

(池田伸之)