株式交付に関する規定の新設

1.株式交付とは

2021年3月1日に施行された改正会社法での改正点を連続コラムで解説する第4回目は、株式交付に関する規定の新設についてです。

株式交付制度(会社法2条31号)とは、他の株式会社を買収しようとする株式会社が、その株式を対価として、円滑に当該他の株式会社を子会社とすることを可能にする制度です。

具体的には、他の株式会社を買収しようとする株式会社(買収会社,A社といいます。)は、当該他の株式会社(被買収会社,B社といいます。)の株式を譲り受ける際に、B社株式の譲渡人に対して、その対価として、A社の株式を交付することができるという制度です。

 

従来から、他の株式会社を買収するには、①株式交換(被買収会社が、その発行済み株式の全部を買収会社に取得させること)、または②現物出資(買収会社が、被買収会社の株式を現物出資財産として、被買収会社の株主に新株発行等を行うこと)といった方法があります。

しかし、①株式交換については、対象会社を完全子会社とする場合でなければ利用することができないこと、②現物出資については、原則として裁判所が選任する検査役の検査が必要であり、その時間・費用が発生すること、手続が複雑であるという指摘がされています。

このような問題を解消するため、今回の改正法により、株式交付制度が新設されました。

 

2.株式交付の手続き

(1)株式交付計画の作成・承認

株式交付を行う場合は、買収会社は株式交付計画を作成する必要があります。

株式交付計画では、つぎのような事項を定める必要があります。

・被買収会社の株主から譲り受ける被買収会社株式の数の下限

・株式交付の対価として交付する買収会社の株式や金銭等の内容およびその割当てに関する事項

・株式交付の効力発生日 等

なお、株式交付計画は、原則として、株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります。

(2)買収会社による通知

買収会社は、被買収会社の株主のうち譲渡を申し込もうとする者に対して、株式交付計画の内容等を通知します。

(3)被買収会社の株主による株式の譲渡の申込み

申込者(被買収会社の株主)は、申込期日までに、譲渡しようとする株式数等を記載した書面を買収会社に交付します。

(4)申込者への割当て

買収会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者およびその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め、その内容を申込者に通知します。

(5)被買収会社株式の譲渡

申込者は、効力発生日に、被買収会社株式を買収会社に給付します。これによって、申込者は買収会社の株主となります。

(6)事前・事後の備置き

買収会社は、事前開示として、株式交付計画備置開始日から6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容その他一定の事項を記載した書面(または電磁的記録)を本店に備え置く必要があります。

また、事後開示として、効力発生日後遅滞なく、株式交付によって譲り受けた株式の数等を記載した書面(または電磁的記録)を、効力発生日から6か月間本店に備え置く必要があります。

 

以上が、株式交付の大まかな手続きです。

今回の株式交付制度の新設により、株式を対価とした企業買収が、より円滑に行えることになると考えられます。

<石田美果>