2024年の重大問題-時間外労働に関する法改正と未払残業代請求のリスク

1 時間外労働に関する規制の適用拡大(猶予期間の終了)(202441日~)

働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働(いわゆる残業)の上限が法律で以下のとおり定められました(労働基準法36条3項ないし6項)。

 

原則:1か月あたり45時間、年間360時間(限度時間)以内

例外:臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合には、1か月あたり100時間未満(休日労働含む)、複数月の場合には月平均80時間以内(休日労働含む)、限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年間6か月以内

 

この上限は、2019年4月から大企業に、2020年4月からは中小企業にも適用されていましたが、以下の業種については、適用が猶予されていました。その猶予期間が、2024年3月で終了し、同年4月からは以下の業種についても時間外労働の上限が適用されます。

工作物の建設の事業/自動車運転の業務/医業に従事する医師/鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(ただし、業種によっては上記の規制がそのまま適用されないものがあります。詳しくは https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html をご参照ください)

 

 

2 中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(202341日から適用済み)

使用者が、労働時間を延長し、または休日に労働させたときは、その時間又はその日の労働について、割増賃金を支払わなければいけません(労働基準法37条1項)。この割増賃金を計算する際の、月60時間を超えた部分の割増賃金率について、従前、大企業は50%、中小企業は25%とされていたのが、2023年4月1日より、中小企業についても50%となりました。

 

3 残業代未払がある場合の制裁

上記のとおり、使用者が労働者に対して時間外労働をさせる場合には、上限を超えないように注意する必要がありますし、上限の範囲内であっても割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければなりません。適正な割増賃金が支払われない「サービス残業」が問題になることが少なく有りませんが、そうした割増賃金の未払については次のような制裁があります。

(1)残業代未払に対する罰則

時間外労働や休日労働をさせた場合に、法律に従った割増賃金を支払わないと、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科せられる可能性があります(労働基準法119条1号)。

(2)未払残業代の請求

割増賃金を支払っていない場合、労働者から未払分の請求をされる可能性があります(未払残業代の請求)。現在の法律では、賃金に関する請求権(退職手当を除く)の時効期間は3年とされています(労働基準法115条、同附則143条3項)。

残業代の未払が生じている場合には、法律の計算で算出された割増賃金に加えて、遅延損害金が発生します。この遅延損害金は、通常は民法で定められた年率(現在は3%)で計算をしますが、対象となる労働者が既に会社を退職している場合には、退職の日の翌日から年率14.6%の遅延損害金が発生します(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項、賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条)。

更に、未払残業代の請求が訴訟でなされた場合、裁判所に裁量により、未払賃金と同額の付加金の支払いを命ぜられることがあります(労働基準法114条)。

したがって、退職した労働者に対する残業代の未払が200万円あり、それを訴訟で請求された場合には、400万円以上の支払をしなければならない可能性があります。

 

4 おわりに

使用者として、時間外労働の上限が設定されたり、割増賃金率が上がったりすることは、一時的には負担に感じられるかも知れません。しかしながら、従業員に働きやすい環境を整備することは、長期的に見ると業務にも良い影響を与えるものと思われます。

なお、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備等に取り組む中小企業事業主は、その実施に要した費用の一部を助成する「働き方改革推進支援助成金」を受けられる可能性があります。こうした助成金なども活用しつつ、環境整備などをされると良いと思います。

(働き方改革推進支援助成金については、労働時間短縮・年休促進支援コースや1で説明した建設業等を対象とする適用猶予業種等対応コースなど5つのコースがあります。詳しくは、

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/index.html

の「働き方改革推進支援助成金」の項目をご参照ください)

何をして良いのかわからない、どのようにやっていくか相談したいという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬 裕久)