経営者保証ガイドラインの活用について
我が国では、人の保証をするということが、古くから安易に行われ、それによって厳しい責任を負うことがありました。裁判所は、その責任の範囲を解釈論で補って制限したりする工夫をしたり、また、法改正により、保証は、書面でしなければ効力を生じないものとしたり(かつては、口頭による保証契約も有効でした。)、貸金を含む一定範囲の不特定の債務等を保証する趣旨の個人の根保証については、その限度額(極度額)を定めないものは無効となっています。
また、保証する期間を5年以内とし、それより長期のものについては、無効として3年で保証する範囲の債務が確定する等、保証人が大きな保証責任を負わない工夫がなされています。今回、国会に上程されている民法改正案でも、さらに保証の範囲を限定する方向での提案がなされています。 中小事業者の金融機関からの借入れにあたっては、金融機関側は、必ず経営者の連帯保証を要求し、それが企業倒産にあたって、経営者の立ち直り(第2創業)を妨げてきたという批判があります。 保証責任の問題点を踏まえ、中小企業庁、金融庁が音頭をとって、「経営者保証に関するガイドライン」が作成され、平成26年2月1日より運用が開始されています。(http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/)
その内容は、①まず、貸付にあたって、経営者保証に依存しない融資の一層の促進をはかるため、個人と会社の財産分離がちゃんと出来ている等の、一定の要件を備えた企業の貸付については、保証を求めないこととしています。②また、企業の整理にあたって、保証債務の整理も一体的に処理をし、その代わり、一定範囲の資産を保証人に留保することを認める、ということを大きな狙いとして作られています。 このガイドラインは法的な拘束はありませんが、商工会議所、銀行協会が事務局となり、自主的なルールとして作成したもので、金融機関に対しては、事実上の拘束力があります。 保証をとらない中小企業への融資貸付について、そうした取組みが始まっているようです。
従来は、破産手続となれば、手元に残すことを認められた財産(自由財産といいます)以外は、全て債権者への配当等の形で清算をされていました。しかしガイドラインに従えば、破産手続をとる必要もなく、保証人である経営者が早期に事業再生や事業整理をし、あわせて「保証債務の整理」もすることに経済合理性がある(債権者にとってもメリットがある)ことを前提に、破産の時の自由財産以上の財産を手元に残し、その他の資産を処分して弁済し、残りの保証債務の免除が受けられることが可能となります。そうした事例が出て来ております。 これまでの参考事例については、金融庁のホームページで紹介されています(http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20141225-1/02.pdf)。
ガイドライン上は、年齢に応じて一定範囲の生活費を手元に置くことや、華美でない自宅を、場合により手元に残すことが可能となっています。医療費や介護費等が多くかかる等の、特殊事情はありますが、500万円を超える金額が手元に残された例もあります。 今までは、企業が倒産をして破産をする場合や、あるいは、第三者に事業譲渡をして会社自体は清算する場合は、保証人もあわせて破産するより方法はなかったわけですが、破産をすることなく、しかも、破産の場合より多く資産を手元に残しておくことが出来、選択肢が増えたことは、大いに歓迎すべきであることと思います。(このガイドラインについてのQ&Aについては http://www.jcci.or.jp/chusho/kinyu/gl20141001-3.pdfを参照)。
但し、このガイドラインは、必ずしもわかりやすいとはいえない細かく複雑な要件がついています。個別事案毎に、適用の有無等の検討が必要です。自己判断せず、必ず、弁護士等専門家への相談をして下さい。 (池田伸之)