財産開示手続について(連載第1回)
2021年9月30日の「民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情」(民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情)でご紹介したとおり,2019年の民事執行法により財産開示手続も改正され,改正前よりも使い勝手が良くなっています。
また,当事務所でも申立代理人として財産開示手続を利用し,実務的な流れについても把握できました。
そこで,財産開示手続の概略と実務の流れを2回に分けてコラムにします。
1 財産開示手続とは
(1)財産開示手続の概要
財産開示手続は,債務者を裁判所に呼び出し,どのような財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。
債務者とは,主に次のような裁判所等が支払いを命じた書類(こういった書類のことを「債務名義」といいます。)により,金銭の支払いを命じられた者のことを言います。
①判決
②仮執行宣言付判決
③強制執行受諾文言付の公正証書
④家事審判(婚姻費用審判や養育費審判など)
⑤和解調書
⑥民事調停調書
⑦家事調停調書(婚姻費用の調停調書や養育費の調停調書など)
なお,債務名義は,金銭の支払いを命じるもの(=金銭債権)に限られます。
(2)財産開示手続の申立て
財産開示手続の申立ては,債務者(=金銭の支払いをしなければならない者)の所在地(≒住所地)を管轄する地方裁判所に行うことになります。また,財産開示期日も申立てを受けた地方裁判所が行います。
例えば,債権者が名古屋市在住,債務者が東京23区内在住であれば,財産開示手続を申し立てる地方裁判所は東京地方裁判所になり,財産開示期日も東京地方裁判所で実施されることになります。
(3)財産開示手続の費用
財産開示手続を申し立てる際には,裁判所に対し,債権者1名ごとに2000円と,予納郵券約6000円程度か予納金7000円程度が必要になります(予納郵券や予納金は手続後に余りがあれば返還されます)。
従って,裁判所に納める金額は約1万円程度です。
また,裁判所に納める金額とは別に,財産開示手続を弁護士に依頼する場合には,弁護士費用が別途必要です。
池田総合法律事務所では,事案ごとに個別性が強いですので,着手金・報酬金をご相談のうえで決定させていただきますが,着手金としては11万円(消費税込)及び実費を最低限とさせていただいています。
(4)刑事罰について
改正後の財産開示手続では刑事罰が導入されています。
具体的には,
①「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において,正当な理由なく,出頭せず,又は宣誓を拒んだ開示義務者」(民事執行法213条1項5号)
②「財産開示期日において宣誓した開示義務者であって,正当な理由なく第199条第1項から第4項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず,又は虚偽の陳述をしたもの」(民事執行法213条1項6号)
については,『6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』とされています。
具体的には,
・債務者が財産開示期日に正当な理由無く欠席した場合
・債務者が財産開示期日冒頭で求められる虚偽を述べない旨の宣誓を拒否した場合
・債務者が財産の内容の陳述を拒否した場合
・債務者が財産の内容について虚偽を陳述した場合
には,刑事罰の対象となります。
この場合には,警察に対し,民事執行法違反として告発をするかどうかを検討する必要があります。
告発をする際には,例えば不出頭や宣誓拒否であれば,裁判所の財産開示期日調書が証拠になります。
2 財産開示手続への弁護士の関与
財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発の場面でも必要な助言をさせていただくことができます(ただし,刑事告発は財産開示手続とは別の手続ですので,ご相談のうえで別途の弁護士費用が必要となる場合があります)。
財産開示手続に罰則が導入されたことで,罰則の圧力のもとで,金銭を支払わない債務者から情報を引き出すことができるようになり,財産開示期日での和解や,財産開示手続で得た債務者の財産情報から給与差押え等の強制執行につなげていくことも可能となりました。
債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。
(小澤尚記(こざわなおき))