「働き方」に関する労働法制について
2018年にいわゆる働き方改革関連法が成立し、以後、①長時間労働是正のための規制(残業時間の上限規制、1年あたり5日の年次有給休暇の義務化、労働時間の客観的把握の義務化等)や、②格差是正のための規制(不合理な待遇差の禁止、差別的取扱いの禁止、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化等)が進められてきました。
長時間労働や格差といった、従来の日本型雇用に内在する大きな社会問題の解決のための改革が推進された背景には、人口減少と少子高齢化に伴う働き手の減少と、個々の事情に応じた働き手のニーズの多様化という大きな社会環境の変化がありました。
社会環境の変化という点では、2020年以降のコロナ禍とそれに伴う社会的な枠組みの大きな動揺もありました。感染防止対策のためにリモートワークが一気に推進されました。しかし、感染対策についての社会的コンセンサスが変化し、リモートワークの弊害(生産性の低下、マネジメントの効率低下、コミュニケーション不足等)も指摘される中で、その後のコロナ禍の収束とともにリモートワークの割合は一時期に比べ低下しているようです。
コロナ禍を経て、従前の働き方に回帰する動きがある一方で、物価高や一層の人手不足はコロナ前よりも状況はより深刻な状況です。働く側の交渉力が相対的に大きくなり、従来の日本型雇用をモデルとする「働き方」像とは違った形の「働き方」を選ぶ方も増えることが予想されます。
そのような状況下で、2024年4月からは働き方改革関連法の中心的な位置を占めた残業時間の上限規制について、猶予期間を設けられていた物流・運送事業や建設業にも残業時間の上限規制が適用されます。また、増加するフリーランサーを保護するための法制も動き始めます。
大きな社会環境の変化の中、いわゆる働き方改革はまだ途上ですし、今後の法制度の変化も少なくありません。当事務所のブログでは、次回以降、2023年夏時点での「働き方」に関わる法改正や規制内容について解説を行おうと思います。
解説することがらの概略はつぎのとおりです。
①物流・運送に関わる時間外労働についての法改正
2024年4月1日から物流・運送に関する自動車運転業務や建設業に関しての時間外労働の上限規制が適用されます。
②中小企業のハラスメント防止措置や時間外労働についての法改正
中小企業に対する規制もより強化されています。2022年4月1日から職場のパワーハラスメント防止措置が義務化され、2023年4月1日から時間外労働に関する規制が適用となっています。
③その他23年改正と24年改正
賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化やパート・アルバイトの社会保険適用拡大など、直近にも諸々の改正があります。
④フリーランス保護法制
フリーランサーは、労働基準法等が適用されないため、取引上弱い立場にあり、雇用される者と比べて不当な不利益を課されることもありました。2023年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案。いわゆる「フリーランス保護新法」)が成立しました。施行日は未定ですが、遅くとも2024年秋頃までには施行されると思われます。
⑤副業に関する労働法制上の諸問題
2018年1月に厚生労働省が、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成したことにより、副業・兼業が認められやすくなりました。物価高や人材不足もあり、副業・兼業がより選択されやすい状況も生じていると思います。労働者側、使用者側それぞれの立場から解説します。
山下陽平