「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」

日本国内の非正規就業者は、年々増加傾向にあり、2020年までには約2165万人まで増えましたが、昨年は、新型コロナウイルス感染拡大によって経済が低迷したことにより減少に転じ、同年8月時点では2070万人になりました。

経済が低迷すると、弱い立場の労働者が雇用の調整弁として扱われ、解雇や雇止め等により、苦境に立たされることになります。働き方が多様化する中、公平な待遇が求められるところです。

このような中、正規・非正規の格差解消をめぐる最高裁判決が、2020年10月13日に2件、同月15日に3件出されましたので、ご紹介したいと思います。

 

(1)まず、日本郵便(東京、大阪、佐賀)の契約社員らが、正社員との待遇格差について争った3つの裁判(下記①~③)では、主に「扶養手当」「年末年始勤務手当」「夏期冬期休暇」について争われました。

最高裁は、正社員と契約社員の労働条件の相違が労働契約法旧20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるとの判断基準を示した上で、これらすべてについて、格差は不合理であると判断しました。

①令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第794号、第795号)

本判決は、「扶養手当」について、従業員の生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられるため、同手当の目的に照らせば、正社員と本件契約社員との間に扶養手当にかかる労働条件の相違があることは、不合理であると判断しました。

②令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第777号、第778号)

本判決は、「年末年始勤務手当」について、多くの労働者が休日として過ごしている年末年始に、業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるとして、その手当を支給する趣旨は時給制契約社員にも当てはまるとして、時給制契約社員に同手当を支給しないことは不合理であると判断しました。

③令和2年10月15日第一小法廷判決(平成30年(受)第1519号)

本判決は、「夏期冬期休暇」について、業務の繁閑にかかわらない勤務に従事する契約社員については、正社員と同様に、夏期冬期休暇を与える趣旨が妥当するとして、夏期冬期休暇にかかる労働条件の相違を不合理であると認めました。

 

(2)つぎに、東京メトロ子会社の契約社員、及び大阪医科薬科大の元アルバイトが、正社員との待遇格差について争った裁判(下記④~⑤)では、主に「賞与」「退職金」について判断がなされましたが、最高裁は、いずれも正社員と契約社員等との業務内容に違いがあることを重視し、不合理であるとは認めませんでした。

④令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1190号、第1191号)

本判決は、「退職金」について、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い的性質や、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に支給することとしたものと言えるため、契約社員に支給しないことも不合理であるとまでは言えないとしました。

⑤令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1055号、第1056号)

本判決は、「賞与」について、正社員と契約社員で業務の内容は共通する部分はあるものの両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないこと、人事異動の可能性の面から、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できないとし、契約社員への不支給を不合理ではないとしました。

 

(3)以上のように、最高裁の判断は、非正規就業者と正規就業者の待遇の格差を完全に解消するものではありませんでしたが、個々の労働条件が定められた趣旨が非正規就業者にも当てはまる場合には、正規就業者と差をつけることは不合理であると判断しており、格差是正の道筋を、一定程度示したということが言えると思います。

新型コロナウイルス感染症により社会が大きく変わる中、雇用のあり方も一段と多様化していくのかもしれません。変化の中にあっても法令順守は必要であり、法令の枠内で企業や従業員にとって最善の方策を、弁護士とともに模索することが必要です。

各企業には、非正規就業者の待遇改善は社会的責務であるということを自覚し、格差解消のための取り組みを期待したいところです。

<石田美果>