インターネットの書込み被害への対処法とその責任
最近、某野球選手が妻の容姿について「ブス」と書込まれたブログを巡り、ブログ作成者を名誉毀損だと訴えたことが話題になっています。名誉毀損に当たるか否かは社会的な評価が低下したかなどの要件も問題になりますが、侮辱的な発言であることは間違いなく、言論や表現行為の自由があるとしても、他人の人格権を攻撃するような違法性のある行為は許されません。従って、民事であれば高額ではないにしてもある程度まとまった金額(たとえば数十万円程度)の損害賠償請求が認められる可能性があります。
インターネット上の発言がラフになされても、他人のこうした発言に対して毅然と対処するには手間暇とお金もかかることから、名誉毀損で刑事告訴をしたり、民事上の損害賠償で訴訟を起こすといった行動に出ることを諦めて泣き寝入りしてしまうことが多かったこれまでの社会的風潮に一石を投じたとも言えます。
インターネットでの書込み事件でトラブルになった場合、情報源が直ちに特定できないことも多いものです。まずは、「プロバイダ責任法に基づく発信者情報の開示を求める仮処分」を検討することになります。コンテンツプロバイダに対して、発信者の情報を仮に開示せよという申し立てです。
次に、同法に基づく、発信者情報消去禁止の仮処分も必要となることが多いと思います。いわゆる経由プロバイダに対して、発信者の特定に必要な記録が自動的に消去されていくため、発信者情報開示請求の手続が終わるまでの間、この消去を止める手続です。完全に満足した回答を得ることは難しいことが多く、仮処分だけでなく本案訴訟も起こすことになります。
また、投稿記事削除の仮処分も行うことになります。名誉やプライバシーなどの人格権に基づく請求です。
上記のような事件の処理には、プロバイダ責任法4条1項で権利侵害の明白性が要求されていますので、請求者側の立証には十分な準備が必要であり、弁護士等の協力者が必要だと思います。次第にこうした仮処分の申し立ても増えており、年間6、7百件あります。
自らのブログを配信したり、電子掲示板に書き込みをしたり、SNSに記事を投稿したりする場合、一義的には、投稿者が責任を負うことは間違いありません。また、上記の通り、プロバイダが削除義務を負うことも法律上明記されています。
では、検索事業者はどうでしょうか。Webサイトの管理者でないことから、従前は、媒介者にすぎないとか、サイトへの削除請求が困難な場合等の特別な事情がある場合に限られる補充的な責任だという議論もありました。しかし、最高裁の昨年1月31日付決定により、Webサイト上利用者の求めに応じて、検索し、検索結果を利用者に提供する事業者に対しても、「公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」という基準をもとに、事情により、検索結果から削除することを求めることができる、とする判断が示されました。
検索結果の提供がインターネット上には溢れていますが、情報流通の基盤としている役割は大きなところがあり、ネット上の情報に関わる個人も事業者も、それぞれの表現行為に責任を持つことが求められる時代だと思います。他方、思いがけずネット上の被害に遭ったら、重要な決断を伴うとはいうものの、泣き寝入りしないということも大切です。<池田桂子>