オリンピックエンブレム問題に学ぶ・・・営業マンにも著作権の研修は必要です

 昨年7月発表された旧エンブレムが盗作騒動で白紙撤回されてから8ケ月。4月26日、東京オリンピック2020の新エンブレムが決まりました。旧エンブレムの発表からすぐにベルギーのリエージュ劇場のロゴマークと似ているとそのマークのデザイナーから指摘があり、7月末には国際オリンピック委員会と日本オリンピック委員会に対して、エンブレム図柄の使用差止めを求める文書が送付され、納得がゆく回答が得られないということで、8月にはIOCをベルギーの裁判所に提訴しました。著作権侵害がその主張の内容ですが、どこにでも起きうるエンブレムやロゴマークのトラブルには注意が必要です。ある意味では、日本での著作権に関する無防備さや知識の無さを露呈した騒動であったともいえるのではないでしょうか。

 

 ロゴや標章は商標法や不正競争防止法により保護されます。一方、著作権は権利を得るための登録は必要としません。著作物を創作した時点で自然発生的に権利が生じます。商標権のように出願手続を要することなく、権利侵害を主張できるという特徴があります。

 

 従前の東京オリンピックでも、五輪マークについて、比較的簡単な図案標章であり、このマークがオリンピックの象徴とされてきたのはその美術性によるものではないとして著作権性を否定した裁判例があります。しかし、よほど簡単な図案模様であれば著作権性が否定されるかもしれませんが、創作性があれば、著作権として保護の対象になると考えて良いでしょう。エンブレムは紋章、記章、ドイツ語でいえばワッペンですが、学校やスポーツクラブなどのシンボルマークや自動車のボンネットにつけるメーカーのマークなど多様なものがあります。また、同様にキャッチフレーズや標語などの言語著作物にも著作権性が認めらます。

 

創作性があって著作権が有りと判断されれば、ロゴマークやエンブレムの図柄も似てる、似てないという著作権侵害の問題が出てきます。完全なオリジナルで偶然に似てしまったのか、元となった著作権を複製したのか(デッドコピー)、元になった著作権に手を加えて新たな著作物を作り出したものか(翻案)、が判断されることになります。アイデアが同じだからといって、直ちに類似しているとは言えませんが、従前から存在しているデザインがあれば、後行の著作物が先行の著作物に「依拠」して作成されたものでないことが必要であり、また先行の著作物がどこまで保護されるべきか保護範囲が問題となります。

 

 ネット社会の現代において調査は欠かせません。オリンピックに限らず、権利を保有しない第三者が権利者の許可を得ずに使用する便乗商法、便乗広告(アンブッシュマーケッティング)の限界もよく議論されるところです。

 企業や多くの組織では、コンテンツ産業以外でも自社で製作する著作物はかなりの数に上ります。企業で著作権に関する知識を社員が持っていることは大切なことです。社員教育の研修項目の一つとして著作権に関することを取り上げることをお勧めします。<池田桂子>