サラリーマンへの警告~養育費不払の差押は解除できるのか?

給料その他の定期に支払われる金銭の支払い債権を差し押さえる場合には、差押のもととなる債権について支払期が到来していることが、原則です。

しかし、養育費などの扶養に関する債権については、生計維持に不可欠なもので、またその額が少額なのに不払いの都度差押をしなければいけないとなると手続的な負担が重すぎます。そのため、現在では、養育費などの扶養等に関する債権が一部でも不履行になったときは、まだ期限の到来していない将来の分についても、給料、退職金その他の継続的な給付にかかる債権に対して、差押手続が開始できるようになっています。

 

したがって、一度でも不履行があれば、今後発生する養育費の全てについて差押ができる制度になっているのです。たとえば、家庭裁判所の調停で、20歳まで月額5万円の養育費の支払いを合意をしたにも拘わらず、現在子どもが15歳である平成28年1月分の養育費の支払いを遅滞した場合、未成年者が20歳に達するまでの全ての月額養育費のために、給料を差押するための手続を開始することが出来るのです。もっとも、実際に差押をすることが出来るのは、養育費の支払期限が到来した後に、支払日がくる給料等だけです。

 

しかしながら、遅滞している分だけ支払えば、差押手続が取り消されるわけではありません。勿論、養育費をもらう側の了解が得られ、取り下げをしてもらえばいいのですが、1回でも不履行があれば、将来きちんと支払ってくるかどうかについて不信感、不安感があり、通常は了解しません。

 

給料の差押にあたっては、勤務先に裁判所からの差押命令書が送られ、そこで養育費を支払っていないというセンシティブな情報が勤務先に知られてしまいますし、差し押さえられる金額算出のための自動計算ソフトを導入しているような企業もなく、差押先に支払う分と、本人に支払う分を、勤務先の支払担当者は、毎月手計算でしなければいけません。勤務先にも負担をかけ、体面も害し、表だってはともかくも、人事考課にも影響を与えるかもしれません。

 

では、一度でも差押をされてしまった場合、全く差押を解除してもらうことはできないのでしょうか。

 

民事執行法は、一旦債権の差押がなされた以降においても、「債務者又は債権者の生活状況その他の事情」を考慮して、裁判所において、その差押額の範囲を変更できることとされています(民事執行法153条1項)。

 

しかし、将来に亘って客観的に任意履行が見込まれると認定できるのは、本人が単に将来の支払いを約束するだけでは足らず、将来の支払いが確実と見られる客観的な状況がある、極めて稀なケースといえます。

 

最近の裁判例(東京地方裁判所H25.10.9決定)で、将来分の差押えを取り消された例はあります。しかし、このケースでは、将来分も含めた養育費全額を自分の委任している代理人弁護士に預け、そのうえで、その預託金を将来の養育費の弁済に充てる旨、本人と代理人弁護士の誓約書を相手方に提出しているという例であり、養育費全額に相当する金を担保提供しているに等しい例で、誰でもできることではありません。

 

くれぐれも、養育費の支払いは確実に (池田伸之)。