ビジネスと人権―人権デュ-ディリエンス
このタイトルを見ても、多くの人はビジネスと人権がどのように関係するのか、ピンと来ないものと思います。
スポーツ用品の有名メーカーのひとつに、ナイキがありますが、製造委託先のインドネシア・ベトナムの工場の労働実態が非常に劣悪で、ILO(国際労働機関)の基準を満たしていないものであることが、1997年にNGOにより指摘され、不買運動にまで発展をしていったという事件がありました。今後は、特に供給体制において、委託先の現場監査を徹底せず、人権を無視した苛酷な労働環境で製造された製品については、企業の評価・評判を著しく毀損し、いくら安くても売れないということが十分にありえます。
自分の会社の外のことは知らない、コントロールもできない、では済まされません。自社以外の商流の上流、下流にも十分に目配りをしていかないと、これからは大変な時代となっていきます。ごく最近の話でも、カレーチェーンの「CoCo壱番屋」の廃棄カツの処分依頼先の不正転売事件があり、被害者であるCoCo壱番屋にも、現場監査が不十分であったのでは、といった非難の眼が向けられています。
また、国際的なNGOについては、日本では反捕鯨団体ぐらいしか認識がないかもしれません。しかし、国際的にはNGO団体は、高い信頼性と影響力をもっている団体も多く、行動が過激でなんとなくうさん臭いから相手にしない、無視しておけばいい、ということでは済まされなくなってきております。
東京オリンピックも近づき、こうした大きなイベントを機会に、企業が低賃金、未成年労働等で搾取をしている、反環境保護的な動きをしている等として、日本企業をターゲットにしたキャンペーンが展開される恐れは十分にあります。
製造委託をするにあたっても、現場監査をすることを前提とし、そうした権限を盛り込んで契約をし、実際に現実に監査をする必要があります。
2011年6月に国連の人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、この原則では、取引相手との間の契約においても、CSR(企業の社会的責任)条項を入れ、CSRに叶った調達基準、行動規範を遵守する義務を負わせること等が必要とされています。
日本弁護士連合会では、昨年1月に「人権デューデリジェンスについての日本企業向けのガイドライン」という手引書を作成し、ネット上で公開しております。取引のグローバル化の中で、企業にも「国際的に認められた人権への尊重」は避けられないものです。この手引書には、人権の問題、コンプライアンスの問題を取り扱う具体的な方法、実践例の紹介やCSR条項のモデル条項の提言もあり、大部ですが参考になりますので、ご一読下さい(池田伸之)。