フリーランス保護法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)について

フリーランスに業務委託を行う発注事業者とフリーランスとの間には、通常、交渉力等について大きな格差があることから、それを是正するために発注事業者側に最低限の規律を設けることにより、その取引関係の適正を図ることを目的として、上記のフリーランス保護法が令和5年4月28日に成立し、5月12日に公布されております。

まだ施行日は決まっておりませんが、公布日から1年6ヶ月以内で、今後政令で決められます。

同様の取引関係を規制する法律として、下請法(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)があります。同法は、親事業者、下請の双方の資本金額で適用の有無を決めていますが、フリーランス保護法は、実際に事業に従事する人の人数で決まります。

フリーランス保護法と下請法は、保護範囲と規制範囲に違いがあります。下請法は、原則として、資本金1000万円超の事業者を対象としますが、フリーランス法では資本金の大小を問いません。

以下もう少し詳しく説明します。

1.対象となる事業者や取引について

業務委託を受け、本法の対象となる受託者は、「特定受託事業者」と定義され、「従業員を使用しない個人又は従業員を使用せず、かつ、その代表者以外に他の役員がいない法人」、つまり従業員を持たない事業者が対象です。委託者のほうは、「業務委託事業者」と定義され、「従業員を使用する個人又は従業員を使用しているか、もしくは2以上の役員がいる法人」が対象です。したがって、従業員のいない個人、あるいは、社長1人の会社が委託者となって、業務委託をするような場合は対象外です。

従業員の有無が要件となっていますが、短時間、短期間の一時的な雇用である等の場合には、本法の適用上は、「従業員」に含まれず、「従業員を使用した」とは認められないことになります。

「業務委託」は、事業者からの事業のために、他の事業者に、物品の製造、情報成果物(ソフトウェア、映像コンテンツ等)の作成を委託すること、又は、他の事業者に役務の提供を委託することをいいます。下請法の役務提供委託には該当しないとされている、受託事業者が発注事業者に対して直接役務を提供する類型の役務(いわゆる自家利用役務)も該当します。

2.取引の適正化のための方策

下請法と同様、以下に述べるような規制があります。

(1)取引条件の明示

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合には、直ちに、書面又は電磁的方法により取引条件を明示しなければいけません。発注は口頭ではだめで、文書で行なわなければいけません。

(2)報酬の支払義務

報酬は、原則として、給付を受領した日(検収終了日ではありません。)から60日以内のできるだけ短い期間で定めなければいけません。

検収完了により引渡完了とする合意をしても、無効です。但し、再委託の場合には一定条件の下、例外的に元委託契約の支払期日から起算して30日以内の支払期日とすることも認められています。

(3)受領拒否の禁止、返品の禁止

(4)報酬減額の禁止

(5)買いたたきの禁止

(6)購入、利用強制の禁止

委託者による自社商品、サービス等の押し付け販売を禁止するものです。

(7)不当な経済上の利益の提供要請の禁止

たとえば、名目を問わず、協賛会への協力を要請したりするような行為が該当します。

3.特定受託業務従事者の就業のための整備

特定受託業務従業者というのは、「特定受託事業者」である個人または法人の代表者その人を指します。法人が「特定受託事業者」である場合、法人それ自体へのハラスメント等は観念されないので、個人又は法人の場合の代表者その人である自然人をこのように別途定義したものです。

その自然人たる特定受託業務従事者の就業環境を整備するため、以下のような方策をとるべきとしています。

(1)募集情報の的確表示

募集にあたって、虚偽表示や誤解を生じさせる表示を禁止し、正確かつ最新の内容を保たなければいけないとされています。

(2)育児介護等と業務の両立に対する配慮

政令で今後定める以上の期間にわたって業務委託をした場合には、特定受託事業者からの申出に応じ、育児介護等と業務の両立ができるように、必要な配慮をしなければいけないとされています。

この配慮は、申出を契機として配慮することを定めているもので、申出のないすべての特定受託事業者について配慮を求めているものではなく、また、配慮は努力義務で、可能な範囲で対応すればよく、申出内容を必ず実現することまで求められているわけではありません。

(3)ハラスメント対策に係る体制整備等

各種のハラスメントにより特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならないとされ、ハラスメント相談を行ったことを理由として、契約の解除や報酬の減額その他の不利益な取り扱いをしてはならないとしています。

(4)中途解約などの事前予告及び理由の開示

解除や不更新の場合は、30日前までにその旨の予告をして、求めがあれば、その理由の開示をしなければならないとされています。

理由の開示については、第3者の利益を害するおそれのある場合等に一定の例外が認められて、省令で定められる予定です。

4.違反した場合の対応

本法の違反が疑われる場合は、公正取引委員会、中小企業庁長官は、必要に応じ報告徴収、立入検査が可能で、違反が認められた場合には、勧告、勧告に従わない場合の命令及び命令の公表を行うことができるとされています。

また、前述の3(2)(3)を除く就業環境の整備への違反が疑われる場合は、厚生労働大臣は、上記と同様の調査及び措置を講ずることができます。

また、上記(3)の違反の疑われるときは、厚生労働大臣は、報告徴収を行うことができ、違反が認められた場合は、勧告と勧告に従わない場合の公表が認められています(命令は認められていません。)。

また、上記の命令、勧告のほか、必要に応じて公正取引委員会、中小企業庁長官および厚生労働大臣は、指導、助言をすることができるとされており、また上記報告徴収、立入検査の妨害、命令違反に対しては、罰金、厚生労働大臣の報告徴収の妨害に対しては、過料の制裁が課されます。

下請法における事例等からみて、はじめての違反や軽微な違反についてはこの指導、助言が活用されるのではないかと予想されます。

池田総合法律事務所では、この新法のフリーランス保護法のみならず、優劣関係のある取引関係の規制を目的とした、独占禁止法、下請法、建設業法等の案件を取り扱っておりますので、関連の紛争やお悩みがありましたらご相談ください。

                          (池田伸之)