社会保険の適用拡大、賃金デジタル払い解禁、育休取得状況公表義務化 ~働き方改革への対応は十分ですか~

1.はじめに

働き方改革の一環として、2023年4月に、賃金デジタル払いの解禁、育児休暇取得状況の公表義務化に関する改正省令が施行されました。

また、2016年から社会保険の適用が段階的に拡大されており、2024年にはさらなる適用範囲の拡大化が予定されています。

本コラムでは、これらの内容についてご説明します。

 

2.社会保険の適用拡大化

厚生年金保険、健康保険、介護保険などの社会保険は、労働者の健康や退職後の生活を支える大切な制度です。

労働者の働き方、企業による雇い方の選択において、社会保険制度における取扱いによって選択を歪められたり、不公平を生じたりすることがないよう、出来るだけ多くの労働者に社会保険を適用することが目標とされています。

一方で、社会保険適用の拡大化は、事業主の負担増に直結し、経営への影響も大きいため、これまで段階的に適用拡大化が進められてきました。

2016年10月から、「従業員数501人以上の企業」が対象となりましたが、2022年10月からは「従業員数101人以上の企業」に拡大、2024年10月からさらに対象が拡大され、「従業員数51人以上の企業」が対象となります。

また、2016年10月から、対象企業の拡大と同時に、被保険者の範囲についても見直しが行われ、「①週所定労働時間が20時間以上、②月額賃金8.8万円以上、③勤務期間1年以上」 の要件を満たす短時間労働者(ただし学生は適用除外)への適用が実現され(③については2022年10月に撤廃)、2017年4月からは、労使の合意に基づき、企業単位で短時間労働者への適用拡大が可能となりました。

これにより、フルタイムで働く厚生年金の被保険者約4480万人(2020年現在)に加え、上記要件を充たす短時間労働者約232万人が被保険者として新たに加わることになりました。

 

3.賃金デジタル払いの解禁

労働基準法では、賃金は現金払いが原則となります。昔は、毎月給料日になると、現金の入った給料袋が従業員に配られるといった光景が見られました。

しかし、現在は現金で支払っている会社はごく一部に限られ、多くの会社では、労働者の同意のもと、銀行口座などへ振り込む方法により支払われているものと思います。

今後は、さらに進んで、キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化のニーズに対応するため、一部の資金移動業者(○○Payなど)の口座への賃金支払いが認められ、電子マネーとして給料を受け取ることができるようになります。

会社が賃金のデジタル払いを始めるには、まず、①利用する資金移動業者の指定などを内容とする労使協定を締結する必要があります。その上で、②労働者が、賃金のデジタル払いを希望する場合、会社に同意書を提出することが必要です。

なお、万が一、指定資金移動業者が破綻したときには、保証機関から支払いが行われるようになっています。

 

4.育休取得状況公表の義務化

2023年4月1日から、常時雇用する労働者が1000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられるようになりました。

常時雇用する労働者とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指し、具体的には、①期間の定めなく雇用されている者、②過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者、又は日々雇用される者で、その雇用期間が反復更新されて、事実上①と同等と認められる者(アルバイト、パートを含む)を言います。

今回、男性の育児休業取得促進のために、男性の育児休業等取得率の公表も義務付けられています。

育児休業は、「子を養育するための休業」であり、男女がともに育児に主体的に取り組むために、労働者が希望するとおりの期間の休業を申出・取得できるよう、会社は、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することが重要です。

 

5.おわりに

会社の経営者の立場から見ると、賃金のデジタル払いはともかくとして、育休状況の公表義務化や社会保険の適用拡大化は、経営の負担を増大することになると思われます。

しかし、国民の価値観やライフスタイルが多様化し、働き方の多様化がますます進む中、どのような働き方をしてもセーフティネットが確保され、誰もが安心して希望どおりに働くことができる環境を作っていくことは、長期的に見れば、人材の安定的な確保、会社の信用向上等、会社にも良い影響を与えるものと考えます。

池田総合法律事務所では、労務管理等についても経験豊富な弁護士が複数いますので、お気軽にご相談ください。

(石田美果)