プロダクト・バイ・プロセス・クレーム特許に関する最高裁の初判断
製造方法(プロセス)によって物(プロダクト)を説明する請求項のことをプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)と言います。今月6月5日、PBPクレームに係る特許権を有する上告人が被上告人の製造販売に係る医薬品は上告人の特許権を侵害しているとして、医薬品の製造販売の差止と廃棄を求めた事案で、最高裁は新しい判断を示しました。
その主旨は、物の発明についての特許請求に製造方法が記載されている場合であっても、その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定される、というものです。つまり、PBP特許の効力が請求項で特定された方法以外で製造された物にも及ぶという判断を示して、事件を知財高裁に差し戻ししました。物の発明について、「発明が明確である」(特許法36条6項2号)の要件に適合する場合とはどのような場合をいうのか、第三者の利益を不当に害することがないように、更に審理を尽くすように命じています。
特許上には、物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明の三つがありますが、PBPクレームは物の発明に当たります。物の構造によって発明内容を説明することが難しい時には、製造方法で特定することもできる訳ですが、特許権の範囲は、請求項に書かれた製造方法で限定的に解釈されるのでしょうか?それとも、製法が異なっても出来上がった物が同じであれば、特許としては同一であると考えるべきでしょうか?
上記の裁判では、PBPクレーム特許を持つハンガリ-の製薬会社が別の製造方法を利用する協和発酵キリン株式会社を訴えていました。薬剤を特許申請する場合には、化学式などで、構造や特性を特定することが普通です。この事例でも、「○○を含んで成る方法によって製造される、○○が○○量混入したプラバスタチンナトリウム」と書かれています。製剤を生産する方法を請求項(クレーム)に記載することで薬剤を特定して特許を取得する例です。
原審の知財高裁では、PBPクレームを二つの類型に分けて規範を示し、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合、その技術的範囲はその製造方法により製造されたものに限定されるとすべきだとし(原則)、もっとも物の構造または特性により直接的に特定することが出願時に不可能または困難である事情が存在する場合(真正PBPクレーム)には、その技術的範囲は、特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても、それは物を特定する目的で記載されたものだとして、「物」一般に及ぶと解釈され確定するべきだとの規範を示していました。出願時に特定が不可能または困難である事情が存在するとは言えない(不真正PBPクレーム)場合は製造方法に限定して解釈すべきである、というものでした。
最高裁は知財高裁の判断を覆し、特許は、物の発明について、特性等が同一である物であれば、その製造方法にかかわらず及ぶ、という判断したのです。
千葉裁判官の補足意見では、次のようなことが書かれています。平成16年の特許法改正により、同法104条の3が新設され、侵害訴訟において特許無効の抗弁を主張することが可能になり、特許庁の審査場面での発明要旨の認定と、侵害場面での発明の技術的範囲認定が同一の訴訟手続きにおいて審理されることになった。いわゆるダブルスタンダードの状況下で、PBPクレームの解釈、処理の枠組みが異なることは不合理であるから統一的にとらえるべきだ、という内容です。
今回の最高裁判決は、PBPクレームについては大きな影響があると考えられます。出願時に特許発明の技術的範囲を確定しているかどうか、はっきりしないとすれば、利害関係人や第三者が特許請求の範囲等を読むにあたって、発明内容の明確な理解ができず、権利者の権利の範囲について予測可能性が立たないという不都合をもたらすと考えられます。最高裁は、審理は尽くせとして差し戻していますが、「物の発明について、特許請求の範囲にその製造方法の記載がある場合において、特許法36条6項2号の発明が明確であるという要件に適合すると言えるのは、出願時において物の構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、またはおよそ実際的でないという事情が存在する時に限られると解するのが相当である」という厳しい判断をしています。思うに、物の構造によって発明内容が説明しにくい場合は、製造方法で特定するPBPクレームは、よほどでないと認められないということになるのでしょうか。<池田桂子>