マタハラ訴訟、最高裁の初判断は雇用主の意思改革を迫る

平成26年10月23日、最高裁判所は、マタニティーハラスメントに関する初判断を示しました。事案は、医療介護事業等を行う消費生活協同組合の運営する病院で、副主任という管理職のポストにあった理学療法士の女性職員が、労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を命じられ、育児休業終了後も副主任に任ぜられなかったことから、管理職(副主任)手当の支払いと損害賠償を求めたものです。

 

彼女は、従前病院リハビリテーション部門に勤務していましたが、その後訪問リハビリの部門に異動、またその後、第2子を妊娠した後、担当していた訪問リハビリの業務よりも身体的な負担の少ない病院リハビリ業務を希望しました。異動先では理学療法士として彼女よりも職歴の3年長い職員が主任として取りまとめをしていました。異動後、病院から、副主任を免ずる辞令の発令を失念していたと説明され、彼女は渋々これを了解しました。

復帰後に彼女よりも職歴の6年短い職員が副主任に任ぜられていたことから、彼女はこれを不服として、強く抗議し、提訴に至りました。

雇用主側は、彼女の同意を得たうえで、人事配置の必要性に基づいてその裁量権の範囲内で行われたもので問題はないと争いました。1審、2審の判断が覆り、最高裁は、降格という不利益な影響のある処遇について、均等法の趣旨、理念、強行法規である同法9条3項の妊娠・出産を理由にした不利益取り扱いの禁止などに照らして、「…事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、または、降格の措置をとることなく軽易業務への転換をさせる円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度および有利または不利な影響の内容や程度に照らして、均等法の趣旨、目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するときは、違反に当たらない」と判断を示し、事実関係の判断がさらに必要だとして、差し戻しました。

 

すなわち、要点をまとめると、①本人の明確な承諾がある場合、あるいは、②業務の必要性や人員配置の支障があり、均等法の趣旨判断である不利益取り扱いに当たらないとする特段の事情の存在が必要である、という、なかなかハードルの高い判断です。

妊娠中の軽    易業務は一時的な措置です。育児、介護休業を取ったからといって不利益扱いを受けないという(育児介護休業法第10条)趣旨からすれば、復帰後の職位等を軽易業務転換後の職位等と比較ではなく、軽易業務転換前の職位との比較で判断すべきだと考えられます。同趣旨のことを櫻井裁判官が補足意見で述べている点も注目されるところです。

 

連合の調査によれば、在職中の20~40歳代の26.3%がマタニティーハラスメントの経験があると回答しています。昨年、各地の労働局には、2090件の相談が寄せられたということですが、労働局が是正を指導した案件はわずかに28件でした。最高裁の判断は、事業主にも、監督庁にも、一石を投じた判断だと言えます。

(池田桂子)