リクナビ内定辞退率データ提供に潜む法的問題

株式会社リクルートキャリアは,自社運営の就活情報サイト「リクナビ」を利用した学生の,リクナビ上の閲覧履歴等をAIで分析・算出した内定辞退率を学生らに無断で企業に販売(サービス名:「リクナビDMPフォロー」)していました。

リクナビDMPフォローのスキームは,①リクルートキャリアと契約企業間の業務委託契約の範囲で,契約企業がリクルートキャリアに学生の氏名等,個人特定が可能な情報を開示し,②リクルートキャリアがリクナビ上の閲覧履歴等と,開示を受けた情報を突合し,学生ごとに内定辞退率をスコア化して契約企業に納品するというものです。

この問題により,リクルートキャリアは個人情報保護委員会(行政機関のひとつで,内閣府の外局です。)から是正勧告,指導を受けました。

本コラムでは,内定辞退率データ提供の法的問題点について,解説します。

 

1.個人データの安全管理の不備と個人データの第三者提供に対する同意未取得(個人情報保護法20条,23条1項)

まず,リクルートキャリアから企業に提供されていた内定辞退率データには,対象となる学生個人を特定しうる情報(=個人データ)が含まれていました。個人データを企業という第三者に提供するにあたり,リクルートキャリアは対象学生から明確に同意を取る必要がるにもかかわらず,一部の学生からプライバシーポリシー提示による同意を得ていませんでした。

年度途中で,リクルートキャリアのプライバシーポリシーが,「リクナビDMPフォロー」に学生の個人データを利用することを想定した内容に変更されたにもかかわらず,既にリリース済みの当該年次の「リクナビ」サイト全体にプライバシーポリシー変更が反映されなかったためです。

しかし,このような年度途中のプライバシーポリシー変更という運用に対応できないチェック体制,業務フローは,個人データの安全管理上非常に問題があります。

個人情報保護法も,個人データの安全管理を要求しています。

個人情報保護委員会は,①リクルートキャリアが適切な個人データの安全管理をしておらず,結果として,②一部の学生に対しプライバシーポリシーの提示と同意取得を脱漏したという点を問題視し,組織体制の見直しや適正なサービス設計をするよう是正勧告しました。

 

2.個人データの第三者提供に関する説明が不明確であること(個人情報保護法15条1項,個人情報の保護に関する法律ガイドライン(通則編26P,45P))

更に,個人情報保護法及び同法のガイドライン(個人情報保護委員会が公表しています。)上,個人データの第三者提供にあたり,利用目的を明確にし,本人に通知することが必要です。

ところが,問題視されたリクルートキャリアのプライバシーポリシーを要約すると,「個人を特定したうえで行動履歴等を分析・集計し,採用活動補助のための利用企業等への情報提供(選考に利用されることはありません。)に利用することがあります。行動履歴等は,予めユーザーの同意を得ることなく個人を特定できる状態で第三者に提供されることはありません。」といったものです。これを見た学生が,自分の内定辞退率のデータが,自分を特定できる状態で企業に提供されることを予測できるかというと,難しいと思います。

個人情報保護法は,個人が第三者提供に同意するにあたり正しい判断をできるように,利用目的を明確に設定するよう,事業者に要求しています。

個人情報保護委員会は,リクルートキャリアに対し,今後は個人データの第三者提供について合理的,適切な範囲をユーザーに提示し,利用目的を明確に設定するよう指導しました。

 

3.その他

リクルートキャリアは,個人情報保護法以外の法律に抵触する可能性もあります。

たとえば,独占禁止法,EUの個人情報保護法への抵触可能性があります。独占禁止法に関しては,学生が,リクナビを使わざるを得ないため仕方なくプライバシーポリシーに同意していたといえる場合,リクルートキャリアが学生に無断で個人データを第三者提供する行為は優越的地位の濫用行為にあたりうる,という議論がありえます。また,EUの個人情報保護法に関しては,リクナビユーザーにEU居住者が含まれていると,日本企業であるリクルートキャリアも同法の規制対象になるので,同法をクリアしていたか,検討の必要があります。

更に,リクナビDMPフォローを利用していた契約企業にも,応募学生のデータをリクルートキャリアに開示すること及びその利用目的を,応募学生に明確に通知できていたか等,個人情報保護法上の問題があります。また,職業安定法上,契約企業は,個人データである内定辞退率の提供をリクルートキャリアから受けることについて,応募学生本人の同意を得る必要があるところ,同意を得ていなかった場合,職業安定法に抵触しうるでしょう。

 

4.まとめ

AIによる分析データは,企業にとって大変有用ですし,既存の事業の発展,新規ビジネスの検討に欠かせないものになっていると思います。

しかし,有用である反面,種々の法律に抵触するリスクがありますので,商品,サービスの開発の際は,そのビジネスモデルを細かく分析し,法律に則った商品,サービスに整える必要があります。

データの活用にあたり,法律上の不安のある方は,ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

<藪内遥>