下請法について(第2回)

親事業者の禁止行為~買いたたき、下請代金の減額を中心として~

 

本コラムでは、前回(2022年10月4日 下請法について(連載・全3回))に引き続き、下請法の概要を解説します。

今回のテーマは、親事業者の禁止行為です。

 

 

1 親事業者の禁止行為

下請法4条は、「親事業者の遵守事項」というタイトルで、親事業者による一定の行為を禁止しています(そのような行為を「親事業者の禁止行為」といいます)。

(1)禁止行為(下請法4条1項:次に掲げる行為をしてはならない)

禁止事項 概要
受領拒否

(1号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取らないこと。
下請代金の支払遅延

(2号)

物品等を受け取った日から60日以内で定めなければならない支払日までに下請代金を支払わないこと。
下請代金の減額

(3号)

下請事業者に責任がないのに、あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
返品

(4号)

下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取った後に返品すること。
 

買いたたき

(5号)

下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
購入・利用強制

(6号)

正当な理由がないのに、親事業者が指定する物品、役務などを強制して購入、利用させること。
 

報復措置

(7号)

下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

 

(2)禁止行為(下請法4条2項:次に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない)

禁止事項 概要
 

有償支給原材料等の

対価の早期決済

(1号)

有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行っている場合に、下請事業者に責任がないのに、その原材料等が使用された物品の下請代金の支払日より早く、支給した原材料等の対価を支払わせたり、下請代金の額から控除したりすること。
割引困難な手形の交付

(2号)

下請代金を手形で支払う際に、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付すること。
不当な経済上の

利益の提供

(3号)

自社のために、下請事業者に現金やサービス、その他の経済上の利益(協賛金や従業員の派遣など)を提供させること。
不当な給付内容の変更及び

不当なやり直し(4号)

下請業者に責任がないのに、費用を負担せず、発注の取消しや内容変更、給付の受領後にやり直しをさせること。

 

(1)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすれば直ちに違法となりえますが、(2)については、それぞれの禁止事項にあたる行為をすることに加え、それによって下請事業者の利益が不当に害されることによって初めて違法の問題となります。

 

2 買いたたきについて

(1)買いたたきとは

下請代金の額を定める際に、

①下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い額を

②不当に定めること

をいいます(下請法4条1項5号)。

(2)買いたたきに当たるか否かの判断について

ア 「通常支払われる対価」について

「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)(以下「運用基準」といいます)では、「通常支払われる対価」について、

「当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。」とした上で、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」としています(運用基準第4の5(1))。

イ 買いたたきに該当するかの判断について

買いたたきに該当するか否かは、

①下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、

②差別的であるかどうか等の決定内容、

③通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況

及び

④当該給付に必要な原材料等の価格動向等

を勘案して総合的に判断します(運用基準第4の5(1))。

(3)買いたたきに該当するおそれのある行為について

運用基準第4の5(2)は、買いたたきに該当するおそれのある行為を列挙しています。

ア 多量の発注をすることを前提として下請事業者に見積りをさせ、その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること。

イ 量産期間が終了し、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めること。

ウ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

エ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。

オ 一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めること。

カ 親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

キ 短納期発注を行う場合に、下請事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ク 給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず、当該知的財産権の対価を考慮せず、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ケ 合理的な理由がないにもかかわらず特定の下請事業者を差別して取り扱い、他の下請事業者より低い下請代金の額を定めること。

コ 同種の給付について、特定の地域又は顧客向けであることを理由に、通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

以上の項目の中で、ウ、エについては、令和3年12月27日に内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び公正取引委員会の出した「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の中で、「中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう・・・労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できる」よう、「下請代金法上の『買いたたき』の解釈」を「明確化する」とされたことを踏まえ、令和4年1月26日の運用基準の改正で追加されました。

 

3 下請代金の減額について

下請法4条1項3号は、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止しています。

(1)下請代金の額を「減ずること」について

発注時に定められた金額(発注時に直ちに交付しなければならない書面に記載された額)から一定額を減じて支払うことを全面的に禁止する趣旨ですが、以下のような場合にも「減ずること」に当たると考えられます(運用基準第4の3(1))。

親事業者が下請事業者に対して、

・消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと

・下請事業者との間で単価の引下げについて合意して単価改定した場合において、単価引下げの合意日前に発注したものについても新単価を遡及適用して下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引くこと

・下請代金の総額はそのままにしておいて、数量を増加させること

・下請事業者と書面で合意することなく、下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金から差し引くこと

(2)「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合について

同号が禁止をしているのは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに」下請代金を減額することですので、「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合には、下請代金の減額が認められることがあります。

例えば、下請事業者の給付の内容が下請法3条に基づき交付される書面(3条書面)に明記された委託内容と異なることを理由に受領を拒否した場合には、その給付に係る下請代金を減額することができます。

 

4 禁止行為を行った場合の制裁

親事業者が禁止行為を行った場合、公正取引委員会から、その親事業者に対し、禁止行為を取りやめて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)や再発防止等の措置を実施するよう勧告がなされるとともに(下請法7条)、勧告がなされたケースでは、原則として会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。

 

5 親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えたら

親事業者からの行為が禁止行為に当たるか否かの判断は、その行為が下請法4条1項2項の各号のいずれに該当するのか、事実関係を整理し、運用基準や過去の判例等を踏まえた上で検討をする必要があります。

親事業者から禁止行為を行われているのではないかと考えた場合には、公正取引委員会の相談窓口で相談するか、弁護士にご相談されると良いでしょう。

池田総合法律事務所でも、この種の案件を取り扱っておりますので、ぜひご相談ください。

(川瀬 裕久)