不正競争防止法における営業秘密保護3

~第3回 退職者の営業秘密持ち出しに対する対応~

 

企業の秘密漏洩の原因としては、2021年3月の情報処理推進機構の調査によると、退職者による持ち出しが36.3%と最も多く、また、2009年のトレンドマイクロ社の調査では、転職時に会社の情報を持ち出す人が53.9%にも達しているそうです。

転職にあたって有利な条件を獲得したい、また、独立して起業をする場合に、新規ではなく既存客へのアプローチの方が労力が省けるといったことから、退職者の退職にあたっては企業側としても十分にその動向に注意する必要があります。

 

どんなに厳重に秘密管理をしても、秘密漏洩を完全に防ぐことは事実上不可能で、今回は秘密漏洩が発生した場合の企業側の対応について、お話をします。

 

まず、初動の段階で、だれによってどの情報がどの程度、範囲で漏洩しているのかを迅速に把握して、被害拡大を防ぐ必要があります。

どの程度、初動調査が出来、適切な対応が速やかにできるかは、結局、予防策がどの程度整備されていたかによります。適切な情報管理がしてあれば、情報にアクセスした人物、漏洩情報の範囲や時期等を確認することができることになりますが、予防策が杜撰であれば、情報漏洩が、だれによってどの程度の拡がりをもって漏洩したかが迅速に把握できず、対応が後手となってしまうことは避けられないことです。

 

営業秘密の漏洩については、その態様に応じて、窃盗罪、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪等にも該当することがありますので、警察への相談、被害届、場合によっては告訴手続を行うことが必要となってきます。

漏洩の規模やその与える影響が大きく、多くの個人情報が含まれているような場合は、ホームページ等での告知、場合によってはマスコミへの発表も必要ですし、個別に個人情報が漏洩された可能性のある個人には、その旨の通知も必要となります。これらの処置が迅速になされないと、会社のレピュテーションが急速に悪化するので、公表するのかどうか、するとしてどの範囲で行うかは、迅速に決断しなくてはなりません。

 

また、民事的には、退職者に対して、不正競争防止法違反や機密保持契約違反(労働契約、あるいは就業規則を根拠に、あるいは退職時に機密保持を約束させる書面を取ることによって、その違反を問うことができます。)を理由に、損害賠償の請求をすることが出来ます。

 

次に、漏洩等の不祥事を作出した者に対しては、退職金(就業規則上に根拠規定があることが原則)の不支給、あるいは既に支払済みの場合には、退職金の返還を求めることも検討するべきでしょう。

 

ただし、これらの請求をするについては、客観的な証拠が必要です。池田総合法律事務所でも、これまで退職者に対する損害賠償請求の案件の取り扱いがありますが、予防策が十分でない場合には、漏洩の事実や被害立証が困難を極めることが多いのが実情です。事が起こったときを視野におき、普段からその予防に力を入れるべきです。

(池田伸之)