不正競争防止法における営業秘密保護2

~第2回 営業秘密の管理方法について~

 

1 はじめに

会社の営業秘密は,『秘密』として管理されていなければ,営業秘密になりません。

不正競争防止法第2条6項は,

①秘密として管理されている【秘密管理性】

②生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報【有用性】

③公然と知られていない【非公知性】

のある情報を,不正競争防止法の保護を受けられる『営業秘密』と定義しています。

この点は,連載第1回目で解説していますので,こちら(不正競争防止法における営業秘密保護1)をご参照ください。

 

2 秘密管理性の具体的方法

秘密管理性を満たすために必要な秘密管理措置の内容や程度は,企業規模,業態,従業員の職務,情報の性質その他の事情によって異なります。

(1)紙媒体の場合

紙媒体の場合,もっとも簡単な秘密管理措置は,「マル秘」など秘密であることを表示することです。

しかし,「マル秘」とされていても,誰でも閲覧できる資料と同じファイルに綴じられていては,秘密として管理されているとは言えません。

最低限,「マル秘」の資料を別ファイルに綴って保管することが必要です。

また,ファイリングではなく,鍵をかけられる金庫やキャビネットに秘密となる文書を入れ,鍵を限られた社員が管理するという方法でも秘密管理性は満たすことができます。

なお,秘密に管理していることと,秘密に管理している書類が外部に情報漏えいすることは別の問題です。秘密に管理されているものでも,社員によるスマートフォンによる写真撮影などによる漏えいはあり得ます。それに対しては,例えば特定の部屋に秘密として管理する書類を鍵付きのキャビネットに収納し,そのうえで部屋に入室する場合にはスマートフォンの持込を禁じるといった方法や携帯電話の電波を遮断するなどの方法もありますが,結局のところ情報漏えい対策はどこまでのコストをかけるかという問題でもあり,難しい問題であると言えます。

(2)電子媒体の場合

電子媒体でも,電子ファイルやフォルダに「マル秘」と表記するというのが最も簡単な方法になりますが,電子ファイルやフォルダにパスワードをかける,社内ネットワークでアクセスできるエリアを社員ごとに限定するアクセス制御などの方法もあります。

また,外部のクラウド(ドロップボックス,AWSベースのシステムなど)に情報をアップロードする場合でも,非公開設定のクラウドで,かつ,アクセス制御がなされていれば,秘密管理性は充足できると考えられます。

なお,電子媒体の場合でも紙媒体と同様,秘密管理性と情報漏えい対策は別の問題です。情報漏えい対策としては単純なパスワード管理ではなく,生体認証や2段階認証といったシステム的な対応や,物理的にUSBポートを使用できないようにポートレスにするなどの対応が考えられますが,この点もどこまでのコストをかけるかという問題とも直結します。

(3)試作品等について

新製品の試作品や金型など,秘密情報が物の形をとっている場合には,保管室に「関係者以外立ち入り禁止」と看板を設置したり,保管室の鍵を特定の社員のみが扱えるように管理したり,入室に際してIDカードでの認証を求めるなどの対応をして,秘密管理性を確保することが考えられます。

(4)ノウハウなどについて

社員がもっているノウハウ,社員の頭の中に入っている顧客情報,特許などの権利化されていない技術情報などについては,そのままでは秘密管理性を満たすことができません。

そこで,企業として,どういったノウハウや顧客情報が営業秘密になるのかをリストアップして社員に示すことで,営業秘密であると周知し,秘密管理性を満たすようにする必要があります。また,社員に対して口頭や書面で秘密であると伝えることで秘密管理性を充足できる場合もありますが,ケースバイケースで判断するしかありません。

(5)複数法人間で同一情報を保有する場合について

グループ会社等の複数法人間で同一の情報を共有する場合には,秘密保持契約(NDA)を取り交わすことが基本的な対応になります。

 

3 「有用性」確保の具体的方法

有用性については,連載第1回目で解説していますので,こちら(不正競争防止法における営業秘密保護1)をご参照いただければと思いますが,過去に失敗した研究データであっても,失敗をもとに試行錯誤を繰り返すことで,トータルの研究費用を削減できるのであれば,その失敗した研究データも有用性は認められます。また,製品の欠陥情報であっても,どのような欠陥があり,それを検出するためにはどういったシステムやAIが必要かといった技術開発には有益な情報ですので,やはり有用性は肯定されると考えられます。

 

4 「非公知性」の考え方

営業秘密が秘密であるためには,当然,広く公に知られていない必要があります。

そこで,営業秘密といえるためには,合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載された情報ではない,公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析できないなど,秘密として管理している事業者以外では一般的に入手できないことが必要になります。

 

5 まとめ

秘密管理性については,企業の事業活動のうえで,すべてを厳格に秘密管理していると事業が円滑に進まないという側面もあります。他方,重要な営業秘密が社外に流出してしまえば,取り返しがつかない損失が発生する可能性もあります。

池田総合法律事務所では,例えば,本コラムを担当している小澤(こざわ)は,かつて顧客情報の情報漏えいでの不正競争防止法違反の刑事事件も担当したこともあり,会社の実態を踏まえた上で,何をすべきかのご提案させていただくことが可能です。

営業秘密の管理方法や現在の管理状態で問題無いかなど,営業秘密の管理について疑問や不安がある事業者の方は,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))