不貞行為の慰謝料について

夫(または妻)に不倫をされた場合、不倫相手や配偶者に慰謝料請求をしたいと考えることが多いと思います。今回は、その際の慰謝料額についてお話ししたいと思います。

法律相談をしているとよく「慰謝料の相場はどのくらいですか。」と聞かれることがあります。しかし、慰謝料の金額というのは、法律によって基準が定められているわけではなく、相場というものはありません。裁判では、従前の夫婦関係がどうであったのか、また、不貞行為の相手との交際期間や、不貞回数等、個別の事情を見ながら決められるというのが実情です。

その金額は、一般的には、数十万円~300万円の範囲内になることが多いようです。

では、高額の慰謝料が認められるケース、そうでないケースにはどのような違いがあるのでしょうか。

まず大きなポイントとなるのが、不貞行為によって、夫婦が離婚にまで至ったか否かです。仮に不貞行為によって、夫婦関係が修復不能になり、離婚にまで至れば、浮気をされた側の精神的損害は大きいものと判断され、慰謝料はより高額になります。他方で、不貞行為があっても、浮気をされた側がそれを受け入れ、婚姻関係を継続するならば、不貞行為によって受けた精神的損害は小さいものと判断され、慰謝料は少なくなる傾向にあります。

次に慰謝料の額に大きく影響するものとして、不貞行為に至るまでの夫婦の関係が挙げられます。夫婦円満であるにもかかわらず、一方が不貞行為に及んだのであれば、不貞行為をされた側としては、より大きな精神的苦痛を受けるのが通常であり、精神的損害は大きいと判断されます。他方で、もともと夫婦仲が悪かった場合には、浮気をされてもそれ程精神的ダメージは大きくないだろうと判断され、不貞行為によって受ける精神的損害は小さく認定される傾向にあります。なお、不貞行為に至る以前から、夫婦関係が完全に破綻していた場合には、慰謝料請求そのものが認められないことになります。

また、夫婦の関係と併せて、婚姻期間も考慮されます。一般的に、婚姻期間が長ければ長いほど、不貞行為によって受ける精神的損害は大きいと判断されます。

さらに、不貞行為の内容も慰謝料の額に影響します。例えば、不貞行為が1回きりの場合には、一時の気の迷いということもありますし、不貞行為が長期に渡っている場合に比べ、浮気をされた側の受ける精神的ダメージは小さいものと判断され、慰謝料額としては少額になる傾向にあります。

以上のように、慰謝料は、実はだいたい相場でこれくらいの額と言えるものではなく、様々な事情を元に、個別具体的に判断されています。

 

不貞相手に対する慰謝料請求については、今年2月に最高裁で重要な判例が出されました。その内容についても簡単にご紹介します。

夫が妻の不貞相手に不貞の慰謝料請求ではなく(こちらは消滅時効により請求権が消滅)、不貞により離婚をやむなくされたことによる離婚慰謝料の請求を求めた事件で、最高裁は、「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。」として、慰謝料請求を認めませんでした。

これは、離婚するか否かは、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄であり、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないとするものです。

したがって、不貞相手が不法行為責任を負うのは(離婚慰謝料が認められるのは)、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚に至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られることになります。この特段の事情については、まだ事案の集積がありませんが、例えば不貞相手が、夫婦の一方に離婚を求めて直接働きかけるなどし、且つその働きかけの程度が不法行為に当たり得る程強力である等の事情が考えられます。

(石田 美果)