事業の継続、廃止に向けた手続きについて

1.事業の継続に向けた手続き

(1)債権者との交渉

緊急事態宣言が継続されている現下の状況では、将来に向けた収支見込みが立たないのが実情です。

企業として体力があり、コロナ禍の中、資金繰りが出来る、あるいは、金融機関その他の債権者からの一時的な返済猶予が得られることが前提となりますが、今後、コロナによる影響が減じ、収支見込みが立つようになり、営業利益がプラスとなった時点では、金融機関などの債権者に対し、長期的な返済猶予や債務(元金、金利)カットの交渉をするということが考えられます。

その際は、企業のおかれた状況や経営者の個人資産も含め、資産負債の状況などを誠実に開示したうえで、金融機関とのミーティングを重ね、合意に向けた交渉をすることになりますが、全債権者から、猶予にとどまらず、債権カットの合意が得られたときは、金融機関側の無税償却の必要上、その合意内容を一定の司法的ないし準司法的な手続きで確認する必要があります。一般的には、特定調停手続を利用した手続がよく利用されます。

(2)M&Aの活用

また、事業自体は価値や独自性があって買い手があるような場合は、事業や雇用を継続する前提で、第三者に事業を売却して(手法として第二会社を設立するなどの方法があります。)、その売買代金で、債権者に債権額に応じて弁済し 、支払えない部分は、会社を破産、あるいは、特別清算という法的手続で、清算するという方法もあります。

その場合には、M&Aなどの手法で廃業を公的に支援する制度があります。詳細は、事業引継ぎ支援センター に関する当事務所の法律コラム(2015年8月11日「中小企業のM&A―『事業引継ぎ支援センター』って何?」を参照ください。

https://ikeda-lawoffice.com/law_column/

中小企業の%ef%bd%8d%ef%bc%86%ef%bd%81%ef%bc%8d「事業引継ぎ支援センター」

(3)民事再生手続

債権者との交渉の中で、一部の債権者が債権カットなどについて反対し、全債権者の同意が得られないときは、民事再生手続という法的な手続きが可能です。

民事再生手続では、手続きの中で再生計画案を提示し(たとえば、債権額の20%を5年で毎月分割弁済し、残りの80%は免除してもらう。)、会社の場合、債権者の頭数の過半数及び債権額で2分の1以上の賛成が得られれば、再生計画案が認可され、その再生計画に従って弁済をすることになります。他方で、この賛成が得られないときは、会社の場合には、申立が棄却され、自動的に、破産手続へ移行する(牽連破産といいます。)ことになり、注意が必要です。

個人の場合は、債務総額が5000万円以下その他の要件がありますが、小規模個人再生という比較的簡易な再生手続きが認められています。この場合は、不同意の債権者が頭数で過半数、債権額で2分の1を超える場合には、計画案は認められませんが、「不同意」でなければよく、積極的に同意してもらう必要まではありません。

以上のように、大口の債権者が強硬に反対しているときは、慎重に検討する必要があり、その場合には、事業継続を断念して、事業を廃止して、破産などの手続を取ることにならざるを得ません。

 

2.事業の廃止に向けた手続き

(1)債務の弁済が可能な場合

資産で、債務の弁済が可能な場合は、会社の場合は、会社を解散して、清算手続を取ることになります。

清算手続の中では、清算人が(それまでの代表者が清算人となるケースが多いと思います。)、会社資産を換価し、契約関係については解消し、従業員は解雇し、債務の弁済をしていくことになります。

資産の換価をした結果、債務の弁済の見込みの立たないときは、そのまま、清算手続きを取ることは出来ず、清算人は破産申立の手続きを取らなくてはいけません。債務の中には、従業員の解雇予告手当や退職金(規定のある場合)も含まれますので、注意が必要です。

(2)債務の弁済が不可能(債務超過)の場合

債務の弁済が、資産では不可能な場合は、破産手続を取って清算することが考えられます。

 

3.個人保証への対応

金融機関などからの借り入れに際しては、ほとんど、会社経営者やその親族が連帯保証人となっているため、会社が再生手続や破産手続をとり、債務カットがなされた場合、そのカットされた債権につき、連帯保証人としての責任が残ります。その責任を法的に免れるためには、連帯保証人自身も、破産ないし民事再生の手続きを取ることも一つの方法です。

そのほか、経営者保証ガイドラインによる処理の運用が定着し始め、前述の特定調停と組み合わせることによる解決手法が広がりつつあります。債権者との合意が前提となりますが、破産と比べて、自由になる財産の範囲が広がり、費用も低額で、経営者にとっては有利な解決方法です。

詳細については、当事務所のブログ(2015年6月8日「経営者保証ガイドラインの活用について」https://ikeda-lawoffice.com/law_column/経営者保証ガイドラインの活用について/  2019年2月13日「経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広がり始めている~代表者の保証債務からの解放・軽減~」https://ikeda-lawoffice.com/law_column/経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広が/)を参照ください。

 

4.その他のサイトのご案内

コロナ問題に特化したものではありませんが、特定調停手続その他の手続きを説明したものとして、法務省のサイトwww.moj.go.jp/MINJI/minji07_00023.htmlがあります。

また、経営者保証ガイドラインの説明をしたものとして、中小企業庁のサイトhttps://hosho.go.jp/があります。

 

5.ご注意

以上いろいろな手続きについてご説明をしましたが、いずれの手続ついても、弁護士、税理士、裁判所などの専門家、国家機関の力を借り、ご本人自身にも頑張っていたただいて、苦境を解決していく手法です。手続により所定の費用の高低はありますが、弁護士費用、申立費用、裁判所への予納金などといった形で、金銭が必要となります。最後まで頑張って精神的にも、金銭的にも、全く余裕をなくしてしまった状態では、必要な手続きが取れません。少し先を見越し、早め早めにご相談をすることをお勧めします。

(弁護士 池田伸之)