財産開示手続について(連載第1回)

2021年9月30日の「民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情」(民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情)でご紹介したとおり,2019年の民事執行法により財産開示手続も改正され,改正前よりも使い勝手が良くなっています。

また,当事務所でも申立代理人として財産開示手続を利用し,実務的な流れについても把握できました。

そこで,財産開示手続の概略と実務の流れを2回に分けてコラムにします。

 

1 財産開示手続とは

(1)財産開示手続の概要

財産開示手続は,債務者を裁判所に呼び出し,どのような財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

債務者とは,主に次のような裁判所等が支払いを命じた書類(こういった書類のことを「債務名義」といいます。)により,金銭の支払いを命じられた者のことを言います。

①判決

②仮執行宣言付判決

③強制執行受諾文言付の公正証書

④家事審判(婚姻費用審判や養育費審判など)

⑤和解調書

⑥民事調停調書

⑦家事調停調書(婚姻費用の調停調書や養育費の調停調書など)

なお,債務名義は,金銭の支払いを命じるもの(=金銭債権)に限られます。

(2)財産開示手続の申立て

財産開示手続の申立ては,債務者(=金銭の支払いをしなければならない者)の所在地(≒住所地)を管轄する地方裁判所に行うことになります。また,財産開示期日も申立てを受けた地方裁判所が行います。

例えば,債権者が名古屋市在住,債務者が東京23区内在住であれば,財産開示手続を申し立てる地方裁判所は東京地方裁判所になり,財産開示期日も東京地方裁判所で実施されることになります。

(3)財産開示手続の費用

財産開示手続を申し立てる際には,裁判所に対し,債権者1名ごとに2000円と,予納郵券約6000円程度か予納金7000円程度が必要になります(予納郵券や予納金は手続後に余りがあれば返還されます)。

従って,裁判所に納める金額は約1万円程度です。

また,裁判所に納める金額とは別に,財産開示手続を弁護士に依頼する場合には,弁護士費用が別途必要です。

池田総合法律事務所では,事案ごとに個別性が強いですので,着手金・報酬金をご相談のうえで決定させていただきますが,着手金としては11万円(消費税込)及び実費を最低限とさせていただいています。

(4)刑事罰について

改正後の財産開示手続では刑事罰が導入されています。

具体的には,

①「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において,正当な理由なく,出頭せず,又は宣誓を拒んだ開示義務者」(民事執行法213条1項5号)

②「財産開示期日において宣誓した開示義務者であって,正当な理由なく第199条第1項から第4項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず,又は虚偽の陳述をしたもの」(民事執行法213条1項6号)

については,『6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』とされています。

具体的には,

・債務者が財産開示期日に正当な理由無く欠席した場合

・債務者が財産開示期日冒頭で求められる虚偽を述べない旨の宣誓を拒否した場合

・債務者が財産の内容の陳述を拒否した場合

・債務者が財産の内容について虚偽を陳述した場合

には,刑事罰の対象となります。

この場合には,警察に対し,民事執行法違反として告発をするかどうかを検討する必要があります。

告発をする際には,例えば不出頭や宣誓拒否であれば,裁判所の財産開示期日調書が証拠になります。

 

2 財産開示手続への弁護士の関与

財産開示手続を弁護士に依頼した方が手続の進行もスムーズですし,刑事告発の場面でも必要な助言をさせていただくことができます(ただし,刑事告発は財産開示手続とは別の手続ですので,ご相談のうえで別途の弁護士費用が必要となる場合があります)。

財産開示手続に罰則が導入されたことで,罰則の圧力のもとで,金銭を支払わない債務者から情報を引き出すことができるようになり,財産開示期日での和解や,財産開示手続で得た債務者の財産情報から給与差押え等の強制執行につなげていくことも可能となりました。

債務名義はあるけれど,債務者が支払わず困っている方は,あきらめずに池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))

【法律コラム 目次】

 

掲載日 テーマ 執筆者
R5.3.15 財産開示手続について 小澤
R5.3.1 自動車に対する強制執行 伸之
R5.2.14 AI(人工知能)と弁護士業務 小澤
R5.2.3 債権回収のセオリー 桂子
R5.1.25 法人破産について(第4回) 山下
R4.12.19 法人破産について(第3回) 石田
R4.12.1 法人破産について(第2回) 伸之
R4.11.15 法人破産について(連載第1回) 小澤
R4.11.1 下請法について(第3回) 桂子
R4.10.17 下請法について(第2回) 川瀬
R4.10.4 下請法について(連載・全3回) 石田
R4.9.21 商標について 4 ~商標とフランチャイズ契約~ 山下
R4.9.5 商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~ 伸之
R4.9.5 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載10 小澤
R4.8.10 商標について 2 ~商標登録手続き、費用の概要~ 小澤
R4.8.2 商標について ~商標とは~ 川瀬
R4.7.25 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第6回~) 桂子
R4.7.11 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9 小澤
R4.6.17 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~) 山下
R4.6.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第4回~) 石田
R4.5.16 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第3回~) 伸之
R4.5.2 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第2回~) 小澤
R4.4.15 大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回) 川瀬
R4.4.7 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載8 小澤
R4.4.1 労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは 桂子
R4.3.28 労働審判手続きでの残業代請求について 山下
R4.3.4 労働審判制度の概要 石田
R4.3.1 紙の約束手形の廃止方針と廃業 小澤
R4.2.15 不正競争防止法における営業秘密保護3 伸之
R4.2.3 不正競争防止法における営業秘密保護2 小澤
R4.1.17 不正競争防止法における営業秘密保護1 川瀬
R4.1.13 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載7 小澤
R3.12.21 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載6 小澤
R3.12.13 賃貸物件の建物明け渡しの強制執行 山下
R3.12.7 子どもの引き渡しを強制的に求める方法は? 桂子
R3.11.26 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載5 小澤
R3.11.16 預貯金債権に関する情報の取得手続について 石田
R3.11.12 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載4 小澤
R3.10.28 給与債権に関する情報の入手手続きについて 伸之
R3.10.15 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載3 小澤
R3.10.11 改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~ 小澤
R3.9.30 民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情 川瀬
R3.9.22 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2 小澤
R3.9.17 環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1 小澤
R3.9.13 会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について 伸之
R3.9.3 社債に関する改正点 山下
R3.8.23 株式交付に関する規定の新設 石田
R3.8.16 土壌汚染対策法の概要 小澤
R3.8.2 会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設 小澤
R3.7.20 取締役の報酬に関する規律の見直し 川瀬
R3.7.2 社外取締役を置くことの義務付けについて 伸之
R3.6.7 中小企業とリース契約 小澤
R3.6.1 ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~ 山下
R3.5.28 令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~ 桂子
R3.5.18 不正競争防止法を意識していますか 石田
R3.4.26 債権回収の進め方 小澤
R3.4.19 デジタル時代の契約書と文書管理について 川瀬
R3.4.6 身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう! 桂子
R3.4.1 情報管理-個人情報保護法改正と情報セキュリティ- 藪内
R3.3.16 スタートアップの資金調達について 桂子
R3.3.3 廃業の前に事業承継の検討を! 伸之
R3.3.3 事業再構築補助金について 小澤
R3.2.18 「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」 石田
R3.2.5 アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組 山下
R3.1.18 はじめに
ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~
桂子
R3.12.18 立会人型電子契約に関する論点 藪内
R2.12.10 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について 伸之
R2.11.24 コロナ版ローン減免制度について 石田
R2.11.9 若い人も遺言書を作成してみませんか 川瀬
R2.10.27 非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合  山下
R2.10.2 公益通報者保護法の改正について 小澤
R2.9.18 スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号 桂子
R2.8.25 法務局における遺言書の保管制度が始まりました 伸之
R2.8.10 発信者情報開示請求 石田
R2.7.17 定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について 川瀬
R2.7.13 孤独死後の法律問題 山下
R2.6.11 土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点 小澤
R2.5.26 テレワークの推進に向けて 桂子
R2.5.21 商標等の「商標的使用」は許されるか、-「商標としての使用」を比較して- 伸之
R2.5.18 新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点 藪内
R2.5.12 パワハラ防止法について 石田
R2.5.8 事業の継続、廃止に向けた手続きについて 伸之
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料 小澤
R2.5.8 新型コロナウイルス感染症と雇用関係 小澤
R2.5.1 賃貸アパート経営における民法改正の影響(連帯保証について) 川瀬
R2.4.2 民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は? 山下
R2.3.2 刑事事件での『司法取引』について~最近の3事案を参考にして~ 小澤
R2.2.19 発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について 桂子
R2.2.13 【配偶者居住権が新設されます】 藪内
R2.1.28 遺産分割の仕方により、相続税総額が違ってくることはご存知ですか。 伸之
R2.1.20 法定相続情報証明制度について 石田

 

自動車に対する強制執行

判決等の債務名義を得ても、相手方が任意にその支払いをしないときには、強制執行を検討しますが、依頼者の方から、「債務者は高級外車に乗っているので、差押えしたい。」と言われることがありますので、今回は自動車に対する強制執行(自動車執行といいます)について、お話します。

 

自動車執行の対象となる自動車は、道路運送車両法13条1項の登録自動車、いわゆるナンバーのある自動車で、軽自動車等は除外されており、今回はこれを除外してお話します(軽自動車等については、動産類への強制執行と同様となります。)。

 

まず、要件として、登録上の所有者と債務者が一致しなくては、強制執行はできません。使用者欄が債務者であったり、現実に使用しているのが債務者であっても、強制執行はできません。ローンで自動車を購入したような場合は、ローン会社の名義で登録されている場合がありますので、事前に登録事項証明書を取得して所有者の確認をする必要があります。ナンバーがわかっていても、車台番号がわからないと、私有地の放置車両のケースの場合を除いて、登録事項証明書を発行してもらえません。車台番号は、車体に打刻されていますが、外から見えにくい位置にあり、通常はわかりません。このような場合は、強制執行を弁護士へ依頼して、その調査の一環として、弁護士法による照会を利用することにより、ナンバーしかわからない場合でも、登録事項証明書を入手することが出来ます。登録上の名義と債務者が一致すれば、申立が可能となり、登録上の使用の本拠地を管轄する地方裁判所に申立をして、裁判所の決定が出れば、差押をした旨登録され、これで第三者に売却をしようとしても、普通のルートでは売却できなくなります。

 

しかし、これだけでは債権の回収はできません。開始決定には、自動車を執行官に引き渡すべき旨記載されており、執行官が引渡しを受けて、売却をするということになります。但し、自動車は簡単に移動して隠匿することができますので、通常は、債務者に開始決定が届く前に、執行官による引上げの執行を行います。自動車の所在は、執行官が捜してくれるわけではないので、債権者の側で調査をすることになり、債権者の方も通常同行します。

 

引渡を受けた後は、執行官が場所を定めて、売却までの間保管をしますが、予め債権者の方で保管費用を予納しておく必要があり、売却代金から後日、立替えた保管費用の返還を受けることになります。

 

過去に自動車執行を行ったことがありますが、執行の途中で逃げられたりしたこともあります(逃げられないよう、自動車等でふさぐ等の対応が必要です。)。また、大型トラックの売却代金の分割金を、初回から支払わず、トラック自体を回収するため引渡の仮処分を申立したケースではありますが、車の回収はできたものの、強制執行を察知したのか、新品のタイヤが全て古タイヤに交換されていて、数百万円の損害が発生したというようなこともありました。

 

昨今、世界的な半導体不足から、新車も納期が大幅に遅れる等している状況で、中古車市場が活気を得て、価格も上がっているようです。上述したように、自動車の強制執行は、難点もありますが、強制執行の方法として十分に検討には値すると思います。強制執行に関するご相談、受任にも池田総合法律事務所は対応しておりますので、ご利用下さい。              (池田伸之)

譲渡担保について

2月3日のコラム「債権回収のセオリー」のセオリーでも少し紹介をしましたが、債権回収において、事前に担保を得ておくことは大変重要です。

本コラムでは、担保の中でいわゆる非典型担保といわれる担保の一つである譲渡担保について取り上げます。

 

1 担保とは

契約どおりに債務の弁済が行われない場合に、他の債権者よりも優先して自己の債権の満足を受ける方法として、事前に担保を取っておくという方法があります。担保には、保証人など債務者以外の人の信用力で債権回収における優先的地位を確保する人的担保と、物や権利の上に債権回収における優先的地位を確保する物的担保があります。

 

2 非典型担保

民法には、物的担保として留置権、先取特権、質権、抵当権の規定が置かれていますが、これらの担保権ではカバーできない場面において、実務上異なる方法での債権回収における優先的地位の確保がなされるようになりました。それが、譲渡担保や所有権留保といったいわゆる非典型担保と言われるものです。

なお、こうした非典型担保については、民法上に規定がないことから、主に実務及び判例の積み重ねによってルール作りがなされています。しかしながら、判例の射程がどこまで及ぶかは必ずしも明確でないことも多く、法的安定性に欠ける面があるほか、判例がルールを示していない論点も残されていました。そこで、現在、ルールの明文化・明確化を目指し、担保法制の見直しが審議されおり、令和4年12月に「担保法制の見直しに関する中間試案」が出されるに至っています。

 

3 譲渡担保の概要

譲渡担保とは、事業者Aが金融機関Bから融資を受けるにあたって、例えばAが所有する機械の所有権をBに譲渡するという担保形態です。

機械の所有権をBに譲渡するといっても、その機械がBの手元に置かれてしまうとAはその機械を使用して事業をすることができません。そこで、機械自体はAの手元においた状態で引渡す、占有改定(民法183条)という方法が用いられることになります。

機械のような動産を担保に取る場合、民法上定められた制度としては質権を用いることが考えられます。しかしながら、質権を設定するためには、担保の目的物(質物)の引渡しをする必要があるところ(民法344条)、その引渡しは占有改定ではできないと理解されていることから(民法345条)、質権を設定した上でAが機械を使用し続けることができません。そのため、譲渡担保という方法が採られるようになりました。

 

4 譲渡担保の実行方法(私的実行)

弁済期が到来したにも関わらず弁済がなされないときに、担保権者は設定者に対して譲渡担保権の実行通知を出し、目的物から優先的に弁済を受けることができます。裁判所による執行手続きは不要です(私的実行)。

私的実行の方法は2種類あります。

一つは、設定者が弁済期に被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者に目的物の所有権が確定的に帰属するという帰属清算型です。もう一つは、設定者が被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者は目的物の処分権限を取得し、処分の結果として得た価額から被担保債権を満足させた残額を清算金として設定者に支払うという処分清算型です。

いずれの場合であっても、目的物の価値が被担保債権の額を超える場合には、譲渡担保権者は差額を設定者に返還しなければなりません(清算義務)。

また、被担保債権の弁済期到来後であっても、譲渡担保権の実行が終了するまで(清算未了)の間は、設定者は被担保債権の弁済をすることで目的物の所有権を回復することができます。このことをとらえて、設定者には受戻権があると言われます。

 

5 集合物・集合債権等に対する譲渡担保

(1)集合動産譲渡担保

譲渡担保は、機械などの単体の動産だけでなく、動産の集合体(集合物)を対象として設定することもできます。例えば、ある一定の範囲に存在する在庫商品を一括して担保に取るというような場合です。このような譲渡担保を集合動産譲渡担保と言います。

集合動産譲渡担保では、譲渡担保権の実行通知があるまでは、設定者は、通常の事業の範囲内であれば、集合物を構成する個々の動産を処分することができます。上の例であれば、譲渡担保権の実行前であれば、通常の事業として在庫商品を販売することが可能です。他方で、集合動産譲渡担保を設定した後に集合物の範囲に入ってきた後の動産にも譲渡担保の効力が及びます。上の例であれば、譲渡担保設定後の増えた在庫商品も担保の対象となりえます。

(2)集合債権譲渡担保

複数の債権を一括して譲渡担保にとる場合があり、集合債権譲渡担保と呼ばれています。例えば複数の売掛金債権を一括して担保にすることが考えられます。将来発生する債権について譲渡担保の対象とすることも可能です。

(3)事業担保

事業担保とは「事業」すなわち動産等の有形資産や債権のみならず、契約上の地位、のれん等の無形資産を含めた全ての財産から成る有機的な一体としての事業を対象とする担保です。事業全体を一体として評価したときの価値が個別財産の清算価値の総和を上回る場合には、事業全体を担保とすることで資金調達の容易化や調達額の増大が期待されます。

現在、担保法の改正の中で導入が議論されています。

 

6 債務者が他の債権者の抵当権がついていない不動産を所有しているのであれば、その不動産に抵当権を設定することが考えられますが、実際には、債務者が価値のある不動産を所有していない、あるいは、所有していても既に他の債権者の抵当権がついており、そこからの回収は困難という場合が少なくありません。

そうした場合には、債務者の他の財産に目を向け、本コラムで紹介した譲渡担保などの手段で担保をとることを検討します。

債権の保全について悩んでいるという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬 裕久)

AI(人工知能)と弁護士業務

AI(人工知能)に契約書の文言を学習させ,契約書のチェックや定型的な契約書の作成をAIに担わせるということが世の中に徐々に広がりつつあります。

そして,現在,アメリカ合衆国のOpenAIが開発したChatGPTが話題になっています。

ChatGPTは,対話型AIですが,短文に対して応答できないSiriやAmazonエコーなどのAIとは異なり,まとまった文章(質問)に対して,まとまった文章で回答ができるというAIです。

ChatGPTの核心的な部分は,会話を成立させるための強化学習をし,文章での質問を,AIが検討し,質問に対してまとまった回答を文章として提示できるというところにあります。そのうえで,回答の内容も一見して人間があたかも回答したような水準に到達しています(内容として正しいか,間違っているかは別の問題です。また,AIに故意に偽の情報を大量に作成させ,インターネットに拡散させることも技術的に不可能ではないでしょう)。

このように言語を処理して,言葉を読み解き,言葉で返答,文章で回答できるようになれば,例えば,あるワードを提示すれば,一定の回答のようなものがAIにより提示される将来が来るかも知れません。スマートフォンに疑問に思っていることを言葉で入力すると,スマートフォンからまとまった回答が数秒後に言葉で返ってくるという世界です。

法律分野であれば,例えば,まずAIに我が国の法令をすべて機械学習させます。そのうえで,大量の判例を読み込ませ,どのような事案で,どのような法律が適用され,その結果として判決がどのような結論になったかを機械学習させます。更に,法曹が学習する法学や要件事実をも機械学習させるとします。

そうすると,法律的な問題を抱えた相談者は,その法律分野に特化したAIに,言葉や文章で事実関係を入力できれば,AIは事実関係を言語処理して読み解き,一定の文章等で回答できる未来が来るかもしれません。

そのような将来で,弁護士が果たす役割は,相談者から事実関係を聴き取ることになるかもしれません。人間の記憶は曖昧なものですし,必要な事実関係を相談者自身が適切に整理して,言語化するのは相当に困難であろうと思いますので,その事実の抽出が必要になるためです。もっとも,このような仕事は現在も弁護士として必要なスキルですので,弁護士の仕事はあまり変わらないのかもしれません。

また,AIが法律業務を担う場合には,弁護士法72条の問題は必ず生じてくるものと思われます。

池田総合法律事務所では,新しい技術で世の中をより良く変革できる可能性のあるサービスなどを提供するベンチャー企業様などにも,法的サービスを提供しています。企業の法務については,池田総合法律事務所にご相談ください。

                         〈小澤尚記(こざわなおき)〉

債権回収のセオリー

期限までに支払われなかった売掛金などの債権を回収するために債権者側が起こす行動(債権回収)として、日頃から考えておかなければならないことは何でしょうか。改めて、整理しておきたいと思います。 債権には一定期間権利を行使しないとその権利が消滅する消滅時効(債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年)があるため、それまでに行動を起こす必要があります。

 

1 スムーズに債権回収を進めるには、まず債権の状況を把握する必要があります。

契約書と債権額のチェックをする要点は、支払期限、期限の利益喪失約款条項(例、一回でも支払いを怠れば一括請求できるなどの条項)の有無、連帯保証人の有無、裁判所の合意管轄、発注書などでの当事者の一致などです。

 

 債権回収の具体的方法を検討します。債権回収方法の例をご紹介します。

①電話や面会での交渉

②交渉に応じないような場合は、弁護士に依頼して督促。特に感情的な対立が起きている場合などは弁護士が客観的立場で話をすることで、交渉がスムーズに進むケースもあります。

③内容証明郵便での督促-差出日時や差出人、受取人、内容について、郵便局が証明する郵便物です。正式な請求であるという意思表示です。記載する内容は、一般に、債権の金額とその根拠のほか、遅延損害金の金額とその根拠、支払期限、振込口座などです。なお、それに加えて、「期限内に支払わなければ法的措置を講じる」といった一文を加えます。

内容証明郵便などを利用して督促することで、消滅時効の完成を6ヵ月間猶予させることができます(催告)。

④民事調停手続-裁判所で当事者間の話し合いによって解決を図る。債務者が支払う意思を示すようであれば、柔軟な解決方法を探ることが可能です。弁護士を立てることも、立てずに自ら調停の申し立てを行うことも可能です。

⑤支払督促-簡易裁判所によって債務者に対して支払いの督促をしてもらう手続。支払督促を行って相手方が異議を申し立てなければ、仮執行宣言を得て、強制執行をすることができます。 但し、相手方が支払督促に異議を申し立てた場合には、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。

⑥通常訴訟

地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間は、9.5ケ月。相手方が争わない場合や相手方の主張に明らかに理由がない場合には、1回目や2回目の裁判期日で判決が出るケースもあります。また、一括ではなく分割で支払うなどの案を申し入れて、裁判上の和解が成立することもあります。

⑦少額訴訟

60万円以下の金銭の支払を求める場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うこともできます。少額訴訟は原則として1回のみで審理を終え、即日判決が出ます。しかし、相手が通常訴訟を求めた場合には通常訴訟に移行し、少額訴訟の判決に異議を申し立てると再び審理をやり直すことになります。

 

3 仮差押えと強制執行

訴訟が確定してからでは財産が散逸してしまう恐れがある場合には、訴訟提起に併せて、仮差押を申立て、保全します。保全の場合、裁判所の定める担保(現金等)を法務局に供託する必要があります。

裁判で勝訴判決や和解調書を得たにもかかわらず相手方が支払いに応じない場合、債権者の申立てにより、裁判所が差し押さえた債務者の財産から債権を回収します。強制執行には大きく分けて、不動産を売却して支払いにあてる「不動産執行」、在庫や設備などを売却して支払いにあてる「動産執行」、預金などを取り立てる「債権執行」の3種類があります。

差し押さえるべ物の有無がわからないときには、財産開示手続きを申し立てて、相手方を呼び出します。

 

4 債権回収できない場合に備えてファクタリングの活用

取引先の経営悪化などで債権回収が必要になった場合、多くの手間や時間がかかってしまいます。また、債権回収を行っても、回収できないケースもあるでしょう。そのような場合に備えて、債権保全の準備もしておきましょう。債権保全のためには、保証型ファクタリングの導入が有効です。取引先の倒産などにより売掛債権が回収できなくなった場合、取引先に代わって保証会社が支払いを行います。

 

5 その他の回収方法として重要な相殺

取引先が破産しても債権回収が図れるケースの代表例として「相殺」が挙げられます。相殺とは、当事者間で対立する債権を相互に保有し合っているような場合、両債権を同じ金額分だけ共に消滅させることができるという制度です。

取引先が破綻してしまった場合でも、取引先に対して債権と債務の両方が存する場合には、両者を相殺することにより、取引先に対する債権を回収したのと同様の効果を得ることができます。弁護士を利用すれば、破産手続等の法的整理手続に応じて、内容証明郵便を利用する等、より確実な方法で、相殺の意思表示を行うことができます。

 

6 債権の保全としての担保

契約時に、不動産に抵当権などを担保設定しておくことや集合動産担保、すなわち、債権者が有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を一個の債権としてとらえこれに譲渡担保権等を設定しておくなどして、破産手続開始決定があっても、債権者の担保権は制限されることなく行使することができるのが原則です。

また、商品を納入している業種では、所有権留保で、商品を取引先に売買して取引先が倒産した場合、売買契約を解除し、取引先の了解をとった上で商品を引き上げます。取引先の了解をとらないと、窃盗罪などに問われるおそれがあるため、書面で了解をとります。了解をとる場合、代表者か取引先の弁護士とすべきです。

取引先がその商品を既に第三者に転売している場合、その第三者が商品の所有権を即時取得していることが考えられること、また、取引先との売買契約の中で第三者に転売されたときは所有権留保が解除されると定められている場合がありますので、その場合は所有権留保の方法によることは難しくなります。

抵当権の場合、裁判所に対し、競売の申立てを行います。申立に際して必要な書類は、抵当権の設定登記に関する登記簿謄本です。登記簿謄本は、他にも抵当権の存在を証明する確定判決でもよいですが、大抵は登記簿謄本で申立てを行います。申立を行う裁判所は、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

 

7 債権譲渡

取引先が別の会社に対して売掛金を持っている場合、取引先からその債権の譲渡を受け、譲り受けた債権を第三者に対して行使することにより、債権の回収を図ります。債権譲渡は原則として自由にできますが、債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付ある証書により、取引先から第三債務者に対して譲渡の事実を通知させる必要があります。内容証明ならば確定日付がありますので、内容証明を用いて、取引先に譲渡の通知をさせます。

 

8 自社製品・他社製品を回収する

所有権留保している自社製品を回収する方法は、所有権に基づいて回収しますが、取引先の承諾が必要になります。また、他社の製品を取引先から譲り受けることにより、代物弁済として債権の回収を図ることができます。

 

9 契約書作成段階での検討

契約を締結する段階で、私文書である一般的な契約書の作成でもよいのですが、公証人役場で作る公文書、公正証書を作成する場合には、記載内容すべてが当事者の合意に基づいて真正なものとして作成されたという推定が働きます。「証書に定める金銭債務を履行しない場合には直ちに強制執行することに服する」という強制執行認諾文言を入れておくことによって、訴訟手続きを省いて強制執行することができます。

 

池田総合法律事務所では、業種や事案にあった債権回収や予防の制度をアドバイスしています。早めにご相談して頂ければ、と思います。(池田桂子)

法人破産について (連載・全4回中第4回)

法人の民事再生手続について

1 はじめに

3回にわたって、法人破産について説明をしてきました。今回は、法人の民事再生手続について説明します。

 

2 破産と民事再生の違い

法人が経済的に破綻し、債務を弁済しなければならない時期に弁済ができない状態を倒産の状態といいます。このような状態の法人の清算をするための法的手続が破産です。

一方で、民事再生は倒産状態の会社の再建を目的とした法的手続です(なお、民事再生は法人の中でも主に中小企業を対象とし、比較的大規模な株式会社の再建型の手続は、会社更生手続という民事再生手続よりも厳格な手続が利用される場合があります。)。

破産手続では、裁判所に選任された破産管財人が、債務や財産の調査等を行って、財産を換価したうえで公平の観点から配当を行い、法人格を消滅させるという流れになりますが、会社の再建を目的とする民事再生では、裁判所に選任された監督委員の監督のもと、債務の一部を免除してもらい、分割して返済していく、あるいは免除後の債務を一括返済する等の計画をたてて、債権者の同意と裁判所の許可を得て、その計画(再生計画といいます)を実行していくという流れになります。

 

3 民事再生の3つの分類

民事再生手続上で、再生計画案は債権者集会での決議と裁判所の認可を得る必要がありますから、確かな裏付けを持った実行可能な弁済の計画を提示する必要があります。そのような再建のあり方については3つに分類されるとされています。自力再生型、スポンサー型、清算型の3つです。

自力再生型は、一部免除による債務の軽減と、不採算部門の閉鎖等の企業努力により再建を図るというものです。第三者の援助もなく比較的シンプルな方法で、規模の小さな会社の場合に選択されることが多いようです。

スポンサー型は、スポンサーとなる他の会社等から、直接的な資金援助を受けて再建を図る方法です。

清算型は、多角的に事業を展開している会社が、価値がある事業を営業譲渡して得られた代金で債務の弁済を図る方法です。

なお、スポンサー型や清算型のうち、スポンサーや事業譲渡先を、民事再生申立手続き前に決まっている場合のことをプレパッケージ型ともいいます。

 

4 早期のご相談の必要性

再建のあり方は以上のような3つですが、実行可能な再生計画でなくては、債権者の理解も裁判所の認可も得られません。債権者が、再生計画案に賛成するかどうかの判断に際しては、収支や弁済の見通しが立つのか、その裏付けとなるスポンサーや事業譲渡先となってくれるような企業があるのか、といった点が検討されます。さまざまな要因が絡んできますし、多くの場合状況は流動的です。また、民事再生手続きについては、申立代理人となる弁護士費用や監督委員選任のための予納金等の費用がかかりますので、厳しい資金繰りの中で諸々の費用を確保しなくてはなりません。費用の確保も重要なポイントです。

 

池田総合法律事務所では、倒産手続について多くの実績があります。会社の経営が思わしくない場合、できるだけ早くご相談くださいますと幸いです。最善の選択肢を模索することができるかと思います。

 

山下陽平

 

法人破産について (連載・全4回中第3回)

1.はじめに

これまで事業者の破産について、法人破産の概要(第1回)、代表者の債務整理を上手に行うために(第2回)についてご説明しました。

今回は、法人破産の申立の費用とスケジュールについて、ご説明したいと思います。

 

2.法人破産の費用

(1)第1回コラム「法人破産の概要」で、「法人が破産をするには、裁判所に破産を申し立てる必要があり、破産管財人の費用として一定額を予納する」という話をしました。

具体的には、名古屋地方裁判所では、法人の負債総額が1億円未満の場合、裁判所に納める予納金は60万円、負債総額1億円以上の場合予納金は80万円、同3億円以上の場合予納金は100万円と段階的に増えていきます。負債総額1000億円以上になると、予納金は1500万円以上となります。

一方、少額予納管財事件として取り扱われることになると、予納金は20万円で済みます。

少額予納管財事件として取り扱ってもらうためには、

① 弁護士が申立代理人となっている法人破産申し立てであること

② 申立代理人による財産調査がなされた上で、換価可能な財産が存在しないことが確実であること、又は申立時点の法人の財産が60万円未満であることが確実であること、又は60万円以上であっても換価容易な財産(例えば預貯金や保険解約返戻金等)しか存在しないこと

③ 賃借不動産の明渡(原状回復)が終了していること

④ リース物件の返還が完了していること

⑤ 一般債権者が50名以下であること

⑥ 労働債権者が10名以下であり、かつ、申立前に解雇されており、解雇に関連する諸手続き(源泉徴収票の作成・交付、離職票の交付、労働債権額の明示、労働者健康福祉機構に提出する証明書の作成)が完了していること。加えて労働債権者に対し、破産手続等に関する説明を行っていること

などの要件を満たす必要があります。

他に費用として、収入印紙、予納郵券、官報公告費用で計3万円程度が必要になります。

(2)また、法人破産の申立てを弁護士に依頼する場合、別途弁護士費用がかかります。

当事務所では、法人の負債総額等により50万円からお受けしています。他に、実費(郵便代、交通費等)がかかります。

(3)以上のように、法人破産を申し立てるには、決して少なくない費用が必要となりますので、費用の確保を慎重に検討して下さい。

 

3.法人破産のスケジュール

つぎに、法人破産のスケジュールについてご説明します。

(1)弁護士への相談、委任契約

まず始めに、弁護士に会社の状況(債務を抱えるに至った経緯)、債務の種類や金額、会社の資産(在庫、預金、不動産等)、従業員の人数や雇用形態などをお話しいただき、破産の方針を決定します。

(2)受任通知書の発送

弁護士から債権者に対し、破産予定であることを書面で通知します。

弁護士が破産申立てを受任してから、通常1~3日程度で発送することになります。なお、会社が営業を続けているようなときは、売掛金の回収見込み等も考え、受任通知のXデーを予め決めておいて対応します。

(3)会社財産等の保全、従業員の解雇、賃貸物件等の明渡し等

会社の財産が散逸することを防ぐため、破産の方針を決定後すぐに、弁護士が会社から財産(在庫、預金、不動産等)の引き渡しを受け管理を開始します。

また、従業員の解雇や賃貸物件の明渡し等を行います。

(4)破産申立て

破産の申し立てに必要な書類を準備し、裁判所に破産の申し立てをします。

弁護士が受任してから申し立てまで、通常1か月程度かかります。混乱が見込まれる場合には、ある程度資料が整っていれば、1週間程度で迅速に対応します。

(5)破産手続開始決定

破産の申し立てをしてから、書類に不備等がなければ、通常2週間程度で破産開始決定が出て、破産管財人が選任され、債権者集会の期日が決まります。なお、早期に管財人に引き継ぐことを要するケース(生鮮食料品を扱う会社等)では、事前に裁判所と打ち合わせの上、申立後比較的短期間で開始決定を出してもらうこともあります。

(6)破産管財人による財産調査・管理・換価

破産開始決定後、通常1週間以内に、破産管財人と会社代表者、申立代理人弁護士とで打ち合わせを行います。この時、申立代理人弁護士が管理していた会社財産等を破産管財人に引き継ぐことになります。

その後は、破産管財人により、財産調査、管理、換価が行われます。

(7)債権者集会

破産開始決定から通常3~4か月後に債権者集会が開かれます。債権者集会は1回で終わることもありますが、会社財産の換価、処分の状況によっては、複数回行われます。

(8)債権者への配当

破産管財人による会社財産の換価、処分が終了し、配当ができるような原資が確保された場合は、債権者への配当の手続きが行われます。

(9)終結、廃止決定

配当手続が終了すると、裁判所より終結決定が、配当を行わない場合は廃止決定がなされます。ここまでに1年程度を要することはよくあります。

終結決定または廃止決定により、会社の権利義務は消滅し、会社の法人格は消滅します。

 

次回は、法人の民事再生について、ご説明します。          (石田美果)

法人破産について(第2回)~代表者の債務整理を上手に行うために~

今回は、会社代表者の債務整理について、ご説明します。
中小企業の場合、金融機関等からの借入れをする際、あるいは仕入れをする際に、企業の信用力を補完するため、会社代表者が連帯保証をしているケースが大半を占めています。
後述する経営者保証ガイドラインにより、今後は、中小企業の場合でも代表者の個人保証をとらずに、企業自体の収益力に注目して融資がなされるケースも増えていくとは思いますが、現状多くのケースでは代表者の個人保証が融資にあたって要求されることが大半です。
したがって、会社経営が破綻した場合、個人保証が現実化することになり、代表者が債務を返済できない場合、会社について再生、破産等の法的整理をとるだけでは足らず、個人についても債務整理の必要が生じます。

債権者との任意の話し合いで、連帯保証債務についても減免を承諾してもらえるときでも、債権者が、特に金融機関の場合には、経営者保証ガイドラインに沿った特定調停による解決を求められることが多いと思います。これは、債権者との間で債務の減免をしてもらうことについて事実上の合意を得たうえで、簡易裁判所にその合意内容を特定調停という形で確認して成立させる手続きで、2013年12月から経営者保証ガイドラインによって認められた解決手法(特定調停スキーム)です。この手続きをとれば、代表者は、破産をする必要もなく、代表者が自ら手元に置ける財産の範囲も拡がり(破産の場合は、原則最大限99万円ですが、ガイドラインによれば、代表者の年齢等にもよりますが、場合により、数百万円を手元に置けたり、華美でない自宅を残したりすることが出来ます。)、裁判所に納める費用等も安価で済み、債務者にとっては有利な解決となります。

但し、要件として、自らの財産、債務内容について全て開示をする等誠実な対応をしていることが要求されます。
したがって、債権者との交渉の際に、財産開示等で虚偽があったり、直前に財産隠しや財産移転のようなことがあったり、個人と会社の財産との区別が曖昧であるような場合は、債権者の不信を買い、また、手続き上も要件を欠くことになるので、ガイドラインに沿った解決はできなくなってしまいます。
このような場合や減免について債権者の理解が得られない場合については、代表者も自己破産や再生の申立てをして解決をしていくことになります。

最近は、代表者の連帯保証債務等につき、この特定調停スキームによる解決例が、増えてきており、これからは、このスキームによる解決が可能かどうかをまず検討することになっていくものと思います。
池田総合法律事務所では、自己破産、再生等の法的整理、ガイドラインに沿った特定調停による解決を取り扱っておりますので、会社経営が思わしくない場合には、早めにご相談して頂ければ、と思います。

(池田伸之)