ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~

1 はじめに

新型コロナウィルスの感染拡大により、個人生活はもとより会社経営のさまざまな事業局面に影響が生じています。2021年1月には2度目の緊急事態宣言が首都圏、近畿圏、中部圏などの11都府県に出されました。完全な終息はいつとなるのか予測はつきません。新型コロナウィルスの関係では131万人が失業したといわれる一方、株高などにみられる金余りで投資先を探すなどの状況も見られます。

先行きの不透明感を抱えながらも、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をはじめスタートアップ企業の誕生がつづくなど、いろいろな変化が見られます。また、従来の業務を見直して、コロナ後に向けて、仕事の進め方や働き方を見直し、変化へのスピード感のある対応をしようという姿勢が大切であると思います。

様々な変化が急激に起きる今日、維持・成長・変革につながる新たな視点に気付いた企業、企業家は強いと思います。大きな枠組みで、法律上の今考えるべき視点を整理して、連続ブログを企画しました。予定している内容は、後述の通りです。

皆さまのお役に立てれば幸甚です。

 

2 DXへの取組み

初回のこのブログでは、最近、よく聞くDXについて、少し述べてみたいと思います。

DXデジタルトランスフォーメーションについては、経済産業省がデジタルトランスフォーメーションのガイドライン(DX推進ガイドライン)を2018年12月にまとめています。それによれば、DXとは企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービスビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立することを指しています。

本ガイドラインは、DXレポートでの指摘を受け、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が抑えるべき事項を明確にすること、取締役会や株主がDXの取組をチェックする上で活用できるものとすることを目的としています。

本ガイドラインは、「(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つから構成されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットワークやIT化の進んでいない企業も多いところ、紙の文書をデジタル化することでデータのやり取りを各段に便利にし、それをもとに個別の業務をデジタル化する(例、テレワークでネットを使う、ネット決済など)、更には全社的に業務をデジタル化を展開するという段階を進んでいきます。

コロナ禍にあっても、進めておかなければならないデータの利活用を検討していただき、社内、グループ会社間、他社との連携や協力を見直し、新しい企業価値の創造を目指すことは、どの事業者にとっても避けて通れないところと思われます。その見直しの過程で、事業の変更、リスクの洗い出し、自らの事業の強化策、できること・できないことの整理などが明確になってくるものと思います。

 

3 予定している企画内容

(雇用をめぐる問題)

1 働き方改革の枠組み

2 最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例

-最高裁の5つの判決と同一労働同一賃金の原則について

 

(事業再編や事業承継をめぐる問題)

3 廃業を考えるなら、事業承継の4つの手法をまず検討―親族への承継、M&A、自社株売買、信託の活用

4 ベンチャー企業による資金調達

 

(組織の見直し)

5 情報管理-個人情報保護法の改正と情報セキュリティー問題への理解を深めておく

6 社内クレームへの対応-ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって

7 債権回収の進め方

 

(業務の見直し)

8 不正競争防止法を意識していますか

9 文書管理は適切ですかー契約書印の廃止と文書の保存

10 ディスクロージャーとの遭遇も考えておく

 

<池田桂子>

立会人型電子契約に関する論点

1.電子契約は,①当事者が自ら秘密鍵を用いて電子署名を行うタイプ(当事者型)と,②サービス提供事業者が立会人として電子署名を行うタイプ(立会人型)の2種類あります。

電子契約市場では、立会人型のタイプ(例:Docusign、クラウドサイン等)が多数を占めます。しかし、立会人型電子契約上の電子署名が、電子署名法2条1項に定める「電子署名」にあたるか、更に、電子契約のような電子文書の成立の真正(作成名義人が真に作成した、つまり誰かが偽造していないということです。)の推定に関する規定である電子署名法3条の適用があるか議論があります。

仮に、電子契約の成立の真正が訴訟で争われた場合、同条により成立の真正の推定を受けられなければ、争われた側は、契約締結に至る経緯や電子契約を用いることを当事者間で合意していたことを示すメール等を材料に成立の真正を立証していくことになります。他方、成立の真正の推定を受ければ、成立の真正を争いたい側が特に反証をしない限りその電子契約は真正に成立したことを前提に訴訟が進んでいくことになります。そのため、電子契約に関する紛争が訴訟化した場合、同法3条の適用があるかないかで、当事者の立証の負担の度合いに影響があり得ます。

本コラムでは、立会人型電子契約の電子署名が電子署名法上の「電子署名」にあたるか、仮にあたるとして、当該電子契約が同法3条の適用を受けるかについて解説します。なお、この点に関し、令和2年7月17日及び同年9月4日に総務省、法務省、経産省のQ&Aが公開されています(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei_qa.pdf )(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei3_qa.pdf )。

 

2.電子署名法2条1項の「電子署名」にあたるか

「電子署名」は、同条項によると、デジタル情報に行われる措置のうち、①当該デジタル情報が当該措置を行った者により作成されたことを示すものであり、②当該措置が改変されていないか確認できるものを指すとされています。つまり、「電子署名」であるためには、①本人が作成していることと②非改ざん性が要求されます。

この点について、立会人型電子契約の電子署名は、物理的には立会人が暗号化等の措置を行っているため、契約当事者である本人が作成したとはいえず、電子署名法上の「電子署名」にあたらないのではという問題が生じます。

しかし、前記Q&Aによると、電子文書について、技術的・機能的に立会人の意思が介在する余地がなく、本人の意思のみに基づいて、機械的に暗号化されたものであることが担保されていれば、その電子文書への署名は本人が作成したものと評価できる、すなわち当該署名は電子署名法上の「電子署名」にあたるとされています。

 

3.次に、立会人型電子契約の電子署名が、電子署名法上の「電子署名」にあたるとして、成立の真正についての規定である電子署名法3条の適用を受けるか検討する必要があります。

この点について、前記Q&Aによると、①電子文書に、「必要な符号及び物件を適正に管理することにより本人だけが電子署名を行えるようになっている」電子署名が付されており、かつ、②当該電子署名が作成名義人本人の意思に基づき行われたことの要件を満たす場合に限り、電子署名法3条により電子文書の成立の真正が推定されます。

要件①を見ると、電子署名法第2条1項の「電子署名」より更に要件が加重されています。同法3条の効果を生じさせる前提として、暗号化等を行うための符号について他人が容易に同一のものを作成できないことを要求する趣旨です。十分な暗号強度(例:2要素認証)を有する電子署名に限り、同法3条の適用を受け得るということです。

また、紙の文書に関しては、作成名義人本人の意思に基づいて文書上の印影が顕出されたことを前提として、その文書の成立の真正が推定されるとされるため(民事訴訟法228条4項の解釈)、電子文書についても同様、本人の意思に基づき電子署名が行われたことが要求されます(要件②)。

以上のとおり、立会人型電子契約でも、電子署名法3条によって成立の真正が推定される余地が十分あるということになります。

4.しかし、立会人型電子契約について成立の真正の推定を受けるには、立会人型電子契約の利用者と電子契約の作成名義人の同一性が担保された、暗号強度に信頼性のあるサービスであることが前提です。

そのため、紛争予防の観点から、立会人型電子契約を導入する際は、当該サービスの、利用者の身元確認の程度、なりすまし防止対策、暗号強度のレベルをしっかり確認することが重要です。電子契約導入にお悩みの方は池田総合法律事務所にご相談ください。       <藪内遥>

遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について

民法(相続法)改正により、遺留分制度も大きく変わりました。その中で、今回は、遺留分減殺請求権が遺留分「侵害額請求権」に改正されたことに伴う具体的な影響について考えてみます。

 

従前の遺留分減殺請求権は、権利行使(意思表示)をすると「当然に物権的効果」が生じるとされてきました。登記などの手続等を要しないで、直ちに、権利移転の効果が生じるという扱いでした。

 

これによれば、遺留分侵害の割合が3分の1とすれば、遺留分減殺請求権の行使の意思表示によって、全遺産につき、個々に3分の1の持分権が遺留分権利者に生じることになります。したがって、会社等の事業用資産や会社の株式などにも遺留分権利者の権利(持分権)が発生することになります。

会社の株式の場合、全体の株数にその割合に応じた株式が割り当てられるわけではなく、1株ごとに共有(正確には、準共有)ということになります。したがって、株主権を行使するときにも、共有者間で協議が必要となり、対立関係者間で共有されているときは、株主権という権利行使自身が円滑に行えないケースも想定され、事業運営に重大な影響を与えることになります。この場合、遺留分行使を受けた側から持分相当の価格を弁償して、遺留分の行使に対抗できますが、そのための協議なり裁判手続なりで解決するまでは準共有状態が続きます。

 

ところが、今回の改正では、遺留分を侵害された人が遺留分侵害額請求権を行使することにより、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権(金銭債権)が生じることになり、上記の「物権的効果」が生じるわけではなくなりました。不動産や株式についても、遺言等によって、取得した相続人等は、遺留分権利者からの持分主張を受けることなく、完全な所有権を取得することができ、安定的な事業運営ができることになります。

但し、このように遺留分侵害額請求権という形で、金銭債権化したことにより、逆に、気を使わなければならないことも出てきます。

 

たとえば、相続財産も含めて金銭がなく、そのため、金銭支払いに代えて、不動産や株式の現物で渡す場合、譲渡人の方に譲渡所得税及び住民税が発生する場合があります。弁済資金を直ちに準備できない場合、遺留分侵害額請求とされた人の請求により、その人の資力や、贈与または遺贈された財産等を考慮して、金銭支払いについて、裁判所の判断で期限の許与(支払時期を延ばす)ことができるようになりました。こうした制度を利用するのも一つの方法です。

 

なお、譲渡所得税等の課税を回避するために相続人全員(第三者の受遺者がいるときはその人も含めて)の同意が得られるのであれば、遺言書による相続ではなく、改めて遺産分割協議書を作成して相続をすることも考えられます。

 

また、事業承継税制によれば、特例猶予相続承継期間(5年以内)に後継者が贈与された株式を現物返還すれば、贈与税の納税猶予が取消されますが、改正前の民法の場合は、遺留分行使により、株式が共有状態になることから、株式を現物返還しても、株式の一部の譲渡とは考えられなかったのですが、新法になってからは、遺留分行使をしても株式の共有状態は発生しないため、株式という現物で返還をすれば、取消の対象となってしまいますので、注意が必要です。

 

遺留分は遺言の作成がなされた時の問題ですから、遺言を作成する際には、将来生ずるかもしれない遺留分のことも念頭におくことは当然として、さらに、上記のようにその権利の性質の変更にも気を配る必要があります。

 

池田総合法律事務所では遺留分や遺言に関するご相談や遺言の作成についても対応しておりますので、是非、ご相談下さい。

(池田伸之)

コロナ版ローン減免制度について

新型コロナウイルス感染者数が再び増加し、医療崩壊が懸念されるなど深刻な事態になっています。新型コロナウイルス感染拡大の影響は経済にも及び、倒産や失業者数も増加しています。

これに対しては、新型コロナ関連の各種補助金の支給やGotoキャンペーンなど様々な施策が取られていますが、その一つとして、2020年12月1日から、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて住宅ローンの支払いが出来なくなった債務者に対しても、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が適用されることになりました。

本コラムでは、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」と「新型コロナに関する特則」の内容について、ご紹介したいと思います。

1.「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」について

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」は、自然災害の影響を受けたことによって、住宅ローン等の債務を返済できなくなった個人の債務者を対象に、破産手続等によらずに、債権者と債務者の合意にもとづき、債務整理を行う際の準則として取りまとめられたものです。

従来の破産手続等と比較した際の大きなメリットは、①債務整理をしたことが信用情報登録機関(いわゆるブラックリスト)に登録されない。②破産手続きの場合に比べて、手元に残せる財産(自由財産)が多い。③「公正な価格」を支払うことで、自宅を手元に残すこともできる。④原則として、保証人に対しては保証履行を求められないという点があります。

他方、デメリットとしては、私的整理の一種であるので、全債権者の同意が必要という点があります。同意が得られなければ、通常の破産手続等を選択することになります。

債務者は、本制度の利用にあたって、弁護士等の「登録支援専門家」の支援を無料で受けられます。

2.「新型コロナに関する特則」について

本特則は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、失業や収入・売上げの大きな減少によって、住宅ローン等の債務を弁済できなくなった個人の債務者(個人事業主を含む)のために、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を補完するものとして新たに設けられたものです。

(1)対象債務は、対象債権者に対する債務のうち、以下の債務です。

ア.2020年2月1日以前に負担していた既往債務

イ.2020年2月2日以降、本特則制定日(2020 年 10 月 30 日)までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上げ等の減少に対応することを主な目的として以下のような貸付け等を受けたことに起因する債務

① 政府系金融機関の新型コロナウイルス感染症特別貸付

② 民間金融機関における実質無利子・無担保融資

③ 民間金融機関における個人向け貸付け

なお、令和2年10月31日以降に受けた貸付等に起因する債務はこの制度による減免の対象にはなりませんので、同日以降に住宅ローン等の借替え等をしてしまうとコロナ版ローン減免制度を使えなくなるため、注意が必要です。

(2)対象となり得る債務者

新型コロナウイルス感染症の影響により収入や売上げ等が減少したこと(具体的には、基準日である2020年2月1日以前の収入や売上げ等に比して債務整理開始申出日の収入や売上げ等が減少していること)によって、住宅ローン等、その他の本特則における対象債務を弁済することができないこと、又は近い将来において本特則における対象債務を弁済することができないことが確実と見込まれることが必要となります。

その他の要件は、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の以下の要件と同様です。

・弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること。

・基準日以前に、対象債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない。

・本特則に基づく債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と 同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

・債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること。

・反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと 等

(3)制度の利用

本制度を利用するには、まず最も多額のローンを借りている金融機関に対し、制度の利用を申し出ます。その際、当該金融機関から、借入先、借入残高、年収、資産などの状況を聞かれることがありますので、事前に借入等の状況がわかる資料を揃えておく必要があります。

上記金融機関から手続着手について同意が得られた後、弁護士会などを通じて「登録支援専門家」による手続支援を依頼し、当該専門家の支援を受け、金融機関等に債務整理を申し出ることになります。

制度の詳細は、下記のHPをご参照ください。

http://www.dgl.or.jp/guideline/

(一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関)

以上

(石田 美果)

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑨

2020年大統領選挙について

  https://www.ynassociates.net/ より

毎年11月の第一火曜日はあらゆる選挙が行われます。その中でも4年に1度の大統領選挙は大事な日になります。今年の11月3日はその、4年に1度の大統領選挙の日です。

共和党と民主党のどちらを国民が求めているのか問われます。今回、感染問題と人種差別が焦点になり、それぞれの党の意見が大きく別れました新型コロナ対策においても、「コロナ感染はほっておいても自然消滅する。大騒ぎすることはない」という共和党と「マスクをして人との接触を避け、自粛をする」という民主党が真っ向から対立しています。

共和党と民主党の支持者の差は、日本では考えられない国の大きさも要因の一つでしょう。米国の地図を見ると共和党が集まる州は、人口密度が低いです。多くの農業に携わる地域では、人より牛の数が多かったり、隣の家まで車で30分以上かかる、なんて場所も多かったりします。また、そういう地域で放送されているニュースなども、かなり限られた情報だったりします。

今回の選挙は、大統領が選挙当日に投票に行きましょうと呼びかけ多くの共和党支持者が詰めかけました。大都市では人が密集しないように期日前投票を呼びかけました。この期日前投票の差が開票に大きく反映されています。

郵便投票は以前からも多く使われる方法ですが、今年ホワイトハウスは、「郵便投票には切手を貼らなければ受け付けない。投票箱の設置はごくわずか」と、投票所に行けない人や感染を恐れる人にプレッシャーを与えました。期日前投票の期日に間に合わない、投票所に到着出来ない投票用紙は無効だとも言いましたが、結局は連邦裁判所の判断は、郵便消印が11月3日であればどんなに時間がかかっても有効、期日前投票も開票所に到着が遅れての有効と決定したため、選挙結果が決定するまで長い期間待つことになりました。

期日前投票の決まりを裁判所が判断するのを待つ前に、人口密度の高い地域は、早めの期日前投票所に押しかけ、郵便投票も早め早めに投票所に行う人が増えました。そうした票が開票所に届いて、開封と2重に投票していないかの確認作業に追われましたし、それは今現在も続いています。

それに世界中にある米国人の票を各国の領事館が集め、軍人や軍の家族、軍の船舶で航海中の軍人の票も数える必要がありますから、到着には時間がかかります。最終的な数は今週いっぱいかかることでしょう。すでに開票された数字から当選確実になったバイデン氏は米国は合衆国で2つに分かれていてはいけない、50州が一つになり解決していくことが大事だと呼びかけています。

2つの党がそれぞれにそれぞれの政策を主張することは当たり前ですが、「敵」だとか「危険集団」だとかという言葉が出るのはトランプ政権の4年間で初めて体験しました(残念ですが、移民に対しての偏見や黒人差別は実際にあります)。

ある黒人の男性が、「トランプ氏は3代前は移民でしょ? 奥さんは移民ですよね。私たち黒人は移民ではありません。多くの白人よりも前に誘拐されてきたのですよ」とコメントしていました。ショッキングな言い方ですが、正しい発言です。改めていろいろ考えさせられる選挙でした。

多くの人がトランプ氏の票の多さを評価していますが、そうでしょうか? この票は共和党と民主党の差でもあり、バイデン氏とトランプ氏を比べ、ペンス氏とハリス女史を比べ、女性の副大統領支持と反対など、様々な要素が入っています。大切なことは、多くの国民が選挙に関心を持ったことです。

多くの国で不正選挙や公平でない選挙の報道があります。米国の様な大国で今まで間違えがあったとしても、不正ではありません。開票に不満があり訴訟をする場合、不正があった証拠提出を連邦最高裁判所が受理し訴訟するに値するかどうかを判断します。

各接戦州の入票所の係官は、今まで長い事開票作業をしていて不正をする、または不正を見逃すなどできない、証拠を出してほしいと自分の名誉にかかっていると言っています。

多くの大都市では、開票の不満で、以前のような暴動が起きるのでないかとお店を閉め、木の板でお店のショーウインドウをカバーしました。マンハッタンでも11月3日からデパートや高級ブランド、携帯屋さんなど木の板で覆われていました(開店中のサインがなければ空き家の様ででした)が、11月9日には通常に戻りつつあります。

大統領交代、トランプ氏がホワイトハウスを出るのは来年1月半ばです。今年いっぱいの任期中に何をするのでしょうか? 開票中の緊張した中でゴルフを2日間続けている大統領と、コロナ感染について2021年初めに活動を始めようと用意する次期大統領との温度差が気になっているのは私だけでしょうか?

開票がまだまだ続いていて、数字がどんどん変わっていますが、バイデン氏の票が増えています。多くの情報が当選確実のようです。CBS Newsでは、刻一刻と変わる開票結果が見えます。

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

若い人も遺言書を作成してみませんか

遺言書というと比較的高齢の方が作成するものというイメージ持つ方も多いのではないでしょうか。実は、若い人も遺言書を作成しておいた方が良いというケースがあります。本コラムでは、いくつか事例をあげてご紹介します。

 

1 未成年の子どもがいる場合

事例①(夫A、妻B、未成年の子C、Dがいる場合)

亡くなった方が遺言書を作成していない場合、相続人間で遺産をどう分けるかを話し合う遺産分割協議をする必要があります。

事例①のケースで、Aが死亡した場合、B、C、Dで遺産分割協議を行うことになります。

もっとも、C、Dは未成年者ですので、自身で遺産分割協議をすることができません。 こうした場合には、本来であれば、親(親権者)であるBがCやDの法定代理人として代わりに手続をすることになります。

しかしながら、本事例では、Bも相続人の1人です。Bとしては、代理人としてCやDの取り分を増やそうとするとB自身の取り分が減るという利益が相反する状態にあります。そのような状態では、Bは自身の取り分を増やすためにCやDの取り分を減らす可能性があることから、BはCやDの代理人となることはできません。

では、どうやって遺産分割協議をするのでしょうか。

このような場合には家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることになります。家庭裁判所に対して、遺産分割協議をしたいので、特別代理人を選任してくださいという申立をすることになるのです。本事例のように未成年者の子が複数いる場合には、それぞれに別の特別代理人を選任してもらいます(別途、特別代理人の費用も負担する必要があります。)。

また、特別代理人が遺産分割協議に参加する場合、基本的には未成年者が法定相続分を確保できるように分けることになるため、分け方に制限が生じます。Bが親なのだから全部Bに相続させればよいと思っても、裁判所がCやDにも取り分をと求めてきます。

もし生前にAが遺言書を作成していれば、そもそも遺産分割協議をする必要がなくなるため、家庭裁判所に特別代理人選任の申立をする必要はなくなりますし、分け方も柔軟に決めることができます。

 

2 相続人が配偶者だけの場合

事例②(夫A、妻B、子どもなし、Aの親E、F)

事例③(夫A、妻B、子どもなし、Aの親E、F死亡、Aの兄G死亡その子I、妹H)

事例②のケースについて、Aが死亡したときの相続人はBとE・Fになります。

したがって、BはEやFと遺産分割協議をする必要があります。義父母と遺産分割協議をすること自体、Bにとっては負担だと思われますし、万が一、EやFが認知症の場合には、遺産分割協議の前に成年後見人の選任を申し立てなくてはなりません。

遺言書が存在すれば、こうした手続は不要になります。

 

 

事例③のケースでは、BとH、Iが相続人になるため、BはH、Iと遺産分割協議をする必要があります。IはAからみると甥っ子にあたりますが、8分の1の法定相続分を持っています。H、Iの両方が「Bが全て相続すればいいよ」と言ってもらえれば良いのですが、HやIが法定相続分をもらうと主張した場合には、それに相当する財産を渡さなければなりません。

Aが「Bに全て相続させる」という遺言書を作成していれば、BはHやIと話し合うことなく、すべての遺産を取得することが可能です。HやIには遺留分もないため、後から遺留分の侵害を主張されることもありません。

 

3 親権者が自身だけの場合

未成年の子がいる状態で配偶者と離婚した場合、いずれか一方の親が親権者になります。

未成年の子がいる状態で配偶者と死別した場合には、親権者は生存している親1名です。

こうした場合に、子が未成年の間に親権者である親が死亡すると、親権者がいなくなります。離婚して親権者とならなかった親が生存していたとしても、その人が自動的に親権者になるわけではありません。

そのため、親権者変更や、親権者に代わって未成年者のために監護養育や財産管理を行う未成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。申立があると、家庭裁判所は調査をした上で、親権者を変更したり、未成年後見人を選任したりしますが、誰が未成年後見人になるかは裁判所が判断をします。

そこで、この人に未成年後見人になってもらいたいという希望がある場合には、遺言書で未成年後見人を指定しておくことができます。

自身に万が一のことがあったときに、誰に子どものことを託したいかを生前に考えておき、その人にお願いをしておくとともに遺言書に未成年後見人の指定をしておくことで、その人が子どもの親権者代わりのことをできるようになります。

 

4 家族へ思いを残す(付言事項)

遺言書には、財産をどう分けるかなどの法律的な話だけでなく、遺言者の思いを記載することが可能です。若い方が亡くなるのは、事故や急病など、事前に家族に思いを伝えることができないケースが多いのではないでしょうか。

遺言書があれば伝えられなかった思いを伝えることができます。

 

5 遺言書の作成方法

遺言書には公証役場で作成する公正証書遺言と自筆で作成する自筆証書遺言があります。

若い人が遺言書を作成するケースは、「配偶者に全財産を取得させる」など、内容が余り複雑でないことが多いと思います。また、生活状況の変化によって、頻繁に遺言書を書き直す可能性もあると思いますので、自筆証書遺言で十分だと思います。

ただし、自筆証書遺言の場合は、財産目録以外は全て自筆で作成する必要がある、日付や署名・押印が必要であるなどの様々な条件があるほか、遺言者が死亡した際には、裁判所で遺言書の検認(遺言書の存在と内容を確認する手続)をする必要がありますので、ご注意ください。

現在は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度ができて、令和2年7月にスタートしました。この手続を利用すれば、検認という手続は不要になります。詳しくはこちらhttps://ikeda-lawoffice.com/law_column/%e6%b3%95%e5%8b%99%e5%b1%80%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e9%81%ba%e8%a8%80%e6%9b%b8%e3%81%ae%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e5%88%b6%e5%ba%a6%e3%81%8c%e5%a7%8b%e3%81%be%e3%82%8a%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f/

をご確認ください。申請手続きは、予約制です。

遺言書を作ってみたいがどのように作ったらよいかわからないという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。(川瀬裕久)

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑧

2020年 期日前投票について
https://www.ynassociates.net/ より

今回の選挙では、郵便投票の不正が取りざたされています。毎回、大統領選挙では、票の数え直しが各州で行われます。わずかな票の差が左右しますから当前です。もし、有権者が間違えでなく、故意に二重に投票した場合は、連邦法で罰金と禁固刑になります。

今回は郵便局を通さずに投票しようという国民が大勢います。郵便投票用紙は、期日前投票所へ出向いて手渡しすることで、郵便局を通さない方法で投票できる、ということで、多くの国民が期日前投票所へ、何時間も並んで投票をしています。

わたしの住んでいる、マンハッタンのイーストサイドでは、初日の土曜日に、10時からの投票開始に500人以上の有権者が集まりました。投票までの待ち時間は約3時間(!)ですが、各自人との間隔を開け、投票所内も手の消毒、と新型コロナ感染対策が徹底されています。

これまでは、投票時、会場にて有権者名簿のプリントの中から各自それぞれ自分の名前を見つけ、身分証明書で本人確認とサイン確認をしてからの投票、というやり方でしたから、結構時間がかかりましたが、今年からは、デジタル化され、有権者カードのバーコードを、会場のタブレットでスキャンしする、という方法で行われています。住所も署名も即確認ができて驚くほど速く、しかも確実になりました。

なお、タブレットへの署名、投票用紙記入用の黒のボールペンは、使い回しはしないという徹底ぶりでした。使ったペンは各自もらっていくのですが、このペン、結構日常で役に立っていたりします。

期日前投票がこれほど人が現れるとは誰もが思っていなかったことですが、今年の投票数は今まで以上に多いものになると予想できるのは、2日目で前回より150%多く510万人が期日前投票を行っています。マンハッタンでは、長い時間待っても混乱なく進んでいますが、1週間の期日前投票でどれだけの国民が投票するか興味があります。

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

非接触事故でも、賠償請求ができますか その2 単独事故として処理された場合 

「非接触事故でも、賠償請求ができますか」(過去記事リンク)でもご説明したように、非接触事故でも損害賠償請求をすることができます。非接触事故では、証拠の保存が非常に重要であることは改めて強調してもしすぎることはありません。具体的な証拠として、相手方の免許証の確認やドライブレコーダーや目撃者を確保しておくことに加え、警察に実況見分調書を作成してもらうことが重要です。以下、警察による実況見分調書の作成について補足的な説明をします。

 

実況見分調書とは、現場検証をしてその結果を書面に残すものです。刑事事件の証拠として作成されますが、交通事故でも人身事故の場合には作成されるのが一般的です(なお、物損事故の場合には「物件事故報告書」という書類が作成されます)。

非接触事故の場合でも、事故直後にかならず警察に連絡をして、実況見分をしてもらう必要があります。事故現場に臨場した警察官に対して、接触はないものの相手方の不適切な運転により事故が発生したことを、詳細に、粘り強く説明して下さい。実況見分調書に相手方の不適切な運転の内容を記載してもらうことが重要です。

 

しかし、非接触事故の場合、警察に届け出をしても、単独事故として処理されてしまうことがあります。被害者がすぐ病院に搬送された場合など、警察でも詳細な状況がわからず、単独事故として処理してしまうケースもあるようです。

単独事故として処理されてしまった場合の問題は、実況見分調書や交通事故証明書(事故の発生を公的に確認するための書類で、警察から提供された書類をもとに各県の自動車安全運転センターが発行交付するものです。)には、相手方の名前が全く記載されていないケースが散見されることです。というのも、公的な書類に相手方の名前もその不適切な運転の記載もない場合、相手方に損害賠償を請求しても相手方は自らに過失がないことを主張してくるからです。

 

対策として、実況見分調書や交通事故証明書にも相手方の記載がない場合には、相手方に請求する前に警察に実況見分調書を改めて作成しなおしてもらい、交通事故証明書にも相手方を記載してもらう必要があります。

具体的には、警察署に出向いて事故の原因が相手方にあることを説明し実況見分のやり直しを求め、実際に立ち合いの上で事故時の相手方の不適切な運転内容を説明して改めて実況見分調調書を作成してもらいます。そのような実況見分調書を、警察から自動車安全運転センターに送付してもらうと、交通事故証明書に事故の原因を誘った「誘因者」として相手方が記載されることになります。

 

 

弁護士に交渉を依頼いただいた場合、相手方との交渉の前提として、警察への実況見分のやり直し等の折衝も行います。実際私が担当したケースでも、警察への折衝を経て交通事故証明書に「誘因者」の記載がなされ、その後に相手方に請求して和解が成立したことがあります。

非接触事故で単独事故として処理されているからとあきらめず、池田総合法律事務所にお気軽にご相談ください。

                                                      山下陽平

公益通報者保護法の改正について

令和2年6月8日,公益通報者保護法の一部を改正する法律が国会にて成立しました。2年以内に施行されます。

公益通報者保護法の改正点は,次のとおりです。

 

第1 通報者の保護の強化

1 保護される人の拡大(第2条第1項など)

労働者に加えて,①退職者(退職後1年以内),②役員(ただし,調査是正の取り組みの前置が原則として必要)が追加されました。

2 保護される通報の拡大(第2条第3項)

刑事罰の対象行為に加えて,行政罰の対象行為を追加

3 保護の内容(新設第7条)

事業者が公益通報によって損害を受けたとしても,公益通報者に対して,損害賠償請求ができないことが明示されました。

 

第2 解雇無効等の公益通報者保護の拡大

労働者である公益通報者が,公益通報した場合に,事業者による労働者の解雇が無効とされる公益通報が拡大されました。

1 権限を有する行政機関への通報の条件の拡大(第3条第2号)

公益通報者が,通報対象事実について処分または勧告等をする権限を有する行政機関等に対して公益通報する場合,

①通報対象事実が生じ,若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

にくわえて,

②通報対象事実が生じ,若しくはまさに生じようとしていると思料し,かつ,公益通報者の氏名等が記載された書面を提出した場合

には,解雇が制限されます。

2 報道機関等への通報の条件の拡大(第3条第3号)

公益通報者が,通報対象事実ついて報道機関等に対して公益通報する場合,

①事業者に対する公益通報をすれば,役務提供先が,公益通報者を特定させる情報を漏らす可能性が高い場合を追加(第3号ハ。新設)。

②個人の生命身体に対する危害に加えて,「財産に対する損害(回復することができない損害または著しく多数の個人における多額の損害であって,通報対象事実を直接の原因とするものに限る)」に拡大(第3号ヘ)。

 

第3 事業者自ら不正を是正しやすくし,安心して通報を行いやすくする改正点

1 公益通報対応業務従事者の定め

新設第11条1項にて,事業者は,公益通報を受け,通報対象事実を調査し,その是正に必要な措置をとる業務に従事する者として,公益通報者対応従事者を定めなければならなくなりました。

2 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備

新設第11条2項にて,事業者が内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等をすることを義務づけました。

3 義務化の対象事業者

新設第11条1項,同2項の義務化は,常用使用する労働者数が300人より多い事業者に限定されています。

常時使用する労働者数が300人以下の事業者については,努力義務にとどまります。

4 守秘義務の新設(及び罰則規定の導入)

公益通報対応業務従事者または従事者であった者は,正当な理由無く,公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない(新設第12条)とされました。

守秘義務違反については,新設第21条により30万円以下の罰金が定められました。

 

第4 実効性確保のための行政措置の導入

1 報告の徴収,助言,指導,勧告

行政(内閣総理大臣)が,新設第11条第1項・2項に関して必要があると認めるときは,事業者に対して,報告を求め,または助言・指導・勧告ができるようになりました(新設第15条)。

2 公表

行政(内閣総理大臣)は,新設第11条第1項・2項に違反している事業者が,新設第15条の勧告に従わない場合,その旨を公表できるようになりました(新設第16条)。

 

第5 体制整備の必要性

企業や団体内部における不正は,早期に企業内部において発見し,その原因を分析し,再発を防止する方策を策定し,不正に関与した従業員等に適正な処分を下し,場合によっては積極的に不正事案の内容をマスコミに公表していく必要があります。

不正があるということは,その不正が生じたところに,企業・団体として,意思決定を含めて適切な業務ができていない,業務効率が低下している,コストが無駄にかかっていることになりますので,不正を早期に発見できれば,企業・団体がより良く成長していくために重要な材料を与えてくれることになります。

したがって,不正を通報してくれる従業員は,会社にとって財産でもあり,その財産を企業・団体としては保護していく必要があります。

公益通報者保護法は,公益通報者を守っていくものですが,第一次的には,企業・団体における自浄作用が求められています。

今回の改正では,公益通報対応業務従事者を定めることが求められています。しかし,ただ担当者を決めただけでは実効性は生じません。企業・団体のトップが担当者を信頼し,必要な権限を与える必要があります。

また,公益通報対応業務従事者に必要な知識等を付与する必要があります。

 

また,せっかく企業・団体に対して公益通報がなされても,社内で適切に公益通報の対象事案に対応できなければ,行政等への通報に繋がっていくことになりますし,企業・団体としても自浄の機会を逸し,評判(レピュテーション)の低下も招きかねません。

しかし,企業・団体は,基本的に収益を上げることが目的であって,不正事案の調査・証拠による事実認定,事実認定を元にした改善策の策定に十分な知識経験を有しているわけではなりません。

池田総合法律事務所では,池田総合法律事務所では,公益通報に対する企業・団体の経営者や,公益通報対応業務従事者に対する必要な研修をご提供することができます。また,豊富な企業法務での経験や,究極の不祥事ともいえる刑事事件の実務経験に基づき,不正調査を行っていくこともできます。その場合は,池田総合法律事務所として不正調査をするか,第三者委員会のメンバーとして関与するなどが考えられます。

弁護士であれば,研修や不正調査,第三者委員会のメンバーとして,企業の不正対応に積極的に関わることができます。

企業・団体において,公益通報への対応などでご要望がありましたら,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤(こざわ)尚記(なおき)〉

スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号

1 会社を設立するには、会社名である「商号」を決め、法務局に登記申請し、「商号」を届け出ます。以前は、不正な目的で付けられたり、紛らわしい会社名の登記を防ぐために、同一市町村区で類似した商号がある場合は登記することができませんでした。ところが、平成18年に施行された新会社法により、同一の住所で同じ商号の会社は登記できないと改正され、類似商号規制という点では、大幅に緩和されています。

 

もっとも、わざと他の会社のブランド価値を利用するような、不正な目的での類似商号登記は現在も禁止されていますし、タダ乗り商法を排除しようと不正競争防止法等によって争われ、損害賠償請求や使用差し止めの要求を受けることがあります。

使用しようとする商号を他者が商標登録していますと、それと同一や類似の商号を営業上使用することは、商標権の侵害に当たります。会社名の商標登録は、ブランドとして保護するうえで重要です。会社名や個人事業主の店舗の名前(屋号)を商標として登録した場合、独占的に使用できる商標権をもつことになり、しかもその効力は、登録時に指定して商品のサ―ビスの範囲内で日本国内全てに及びます。

 

2 会社名に限らず、事業展開するブランドを保護するために、特許庁へ出願するのが「商標」です。会社を設立する上で、商号は必ず必要になりますが、商標として登録するか否かは自由です。

商標登録により、商品やサービスの出所を表示したり、品質を保証する意味合い、更に宣伝広告としての機能を期待することができます。ブランドは、会社の信用を蓄積させていく上でとても大切です。創業者が取り組むべきブランド戦略の中でも、会社やサービスの名前に関わる「商号」と「商標」の登録は、特に慎重に行いたいものです。商号と商標は、名前こそ似ているものの、その意味は全く違います。片方だけ取得したからといって、安心してしまうのは早計です。

 

3 会社名や店舗の名前(屋号)や目印となるロゴマークなどを、商標登録するメリットについて、考えてみましょう。すでに商標登録されているネーミングを使用すれば商標権侵害として法的なトラブルに巻き込まれるおそれがあります。会社設立や店舗の名前(屋号)を決めるときは、商標権侵害に該当しないよう、その事業の大小にかかわらず、事前に弁理士、弁護士ら知的財産権の専門家に相談することをお勧めします。特許庁のデータベース「J-PlatPat」での検索でおおよその見当はつくかもしれませんが、商品やサービスの展開方法によりふさわしいネーミングや他者への侵害行為など、さらには申請の時期その他考えるべきポイントが少なくありませんので、お役に立てると思います。

4 スタートアップの場合、社名について言えば、① 社名をブランドとしてそのまま使うことによって早く名前を広められたり、② ドメインネームに使用することで紛争リスクを低減できる場合がある、といったメリットが考えられます。ちなみに、中国では社名を抜け駆け的に出願される例が見られます。この場合、中国で商品を販売し、本来ブランドを開発していた本家が商標権侵害で訴えられるという本末転倒な事態も起きています。市場展開を考えて、先んじて中国に出願しておくべきケースもあるでしょう。

5 会社名、ロゴマークを商標登録する手続きの注意点-自他識別性について考えてみます。これらを商標として登録しておくことは、ブランドのイメージを確立するのに役立ち、ブランドへの信用を保護して、広告宣伝をして様々な法的なトラブルを避ける上で大きなメリットがあります。

商標登録の審査基準では、「自他識別性」、つまり自己を示す目印として役立つことが要件です。ありふれた名前は、自他の識別力が弱く、商標登録が認められないことがあります。例えば、コーヒーなど飲食物の提供を事業展開するとして、第43類「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」に「○○○ブレンド」などとつけても「ありふれた名前」に該当すると判断されることが審査基準に記載されています。

営業活動で使われるロゴマーク(営業標識、ハウスマーク)は、名刺、商品、看板、パンフレットなど企業活動に広く使われるため、ブランドのイメージをつくるうえで大いに役立つ目印です。最近では、ネットでの販売戦略が大いにものをいうところであり、プロバイダーへの登録に当たり、ロゴマークを付しての商品展開も考えておく必要性が高まっていると思います。

6 スタートアップ向けの情報として、まずは参考になる特許庁の「スタートアップ向け情報 – 特許庁」もあります。https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html

社名や商品名に関する商標だけでなく、同業他者との関係で、特許や意匠も問題となります。 出願前に展示会などで公開すると権利にならない(新規性の喪失)、ビジネスモデルに他者と合致ないし類似していないか、などしっかり吟味しながら事業展開をしてください。 技術的な内容に応じて、あえて出願、公開しない(ブラックボックス化)という戦略もありますが、一方で広く公開して使ってもらうことにより市場獲得していく戦略が有効な場合もあります。事業展開は慎重に、かつ将来を見据えて考えたいものです。

<池田桂子>