スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号

1 会社を設立するには、会社名である「商号」を決め、法務局に登記申請し、「商号」を届け出ます。以前は、不正な目的で付けられたり、紛らわしい会社名の登記を防ぐために、同一市町村区で類似した商号がある場合は登記することができませんでした。ところが、平成18年に施行された新会社法により、同一の住所で同じ商号の会社は登記できないと改正され、類似商号規制という点では、大幅に緩和されています。

 

もっとも、わざと他の会社のブランド価値を利用するような、不正な目的での類似商号登記は現在も禁止されていますし、タダ乗り商法を排除しようと不正競争防止法等によって争われ、損害賠償請求や使用差し止めの要求を受けることがあります。

使用しようとする商号を他者が商標登録していますと、それと同一や類似の商号を営業上使用することは、商標権の侵害に当たります。会社名の商標登録は、ブランドとして保護するうえで重要です。会社名や個人事業主の店舗の名前(屋号)を商標として登録した場合、独占的に使用できる商標権をもつことになり、しかもその効力は、登録時に指定して商品のサ―ビスの範囲内で日本国内全てに及びます。

 

2 会社名に限らず、事業展開するブランドを保護するために、特許庁へ出願するのが「商標」です。会社を設立する上で、商号は必ず必要になりますが、商標として登録するか否かは自由です。

商標登録により、商品やサービスの出所を表示したり、品質を保証する意味合い、更に宣伝広告としての機能を期待することができます。ブランドは、会社の信用を蓄積させていく上でとても大切です。創業者が取り組むべきブランド戦略の中でも、会社やサービスの名前に関わる「商号」と「商標」の登録は、特に慎重に行いたいものです。商号と商標は、名前こそ似ているものの、その意味は全く違います。片方だけ取得したからといって、安心してしまうのは早計です。

 

3 会社名や店舗の名前(屋号)や目印となるロゴマークなどを、商標登録するメリットについて、考えてみましょう。すでに商標登録されているネーミングを使用すれば商標権侵害として法的なトラブルに巻き込まれるおそれがあります。会社設立や店舗の名前(屋号)を決めるときは、商標権侵害に該当しないよう、その事業の大小にかかわらず、事前に弁理士、弁護士ら知的財産権の専門家に相談することをお勧めします。特許庁のデータベース「J-PlatPat」での検索でおおよその見当はつくかもしれませんが、商品やサービスの展開方法によりふさわしいネーミングや他者への侵害行為など、さらには申請の時期その他考えるべきポイントが少なくありませんので、お役に立てると思います。

4 スタートアップの場合、社名について言えば、① 社名をブランドとしてそのまま使うことによって早く名前を広められたり、② ドメインネームに使用することで紛争リスクを低減できる場合がある、といったメリットが考えられます。ちなみに、中国では社名を抜け駆け的に出願される例が見られます。この場合、中国で商品を販売し、本来ブランドを開発していた本家が商標権侵害で訴えられるという本末転倒な事態も起きています。市場展開を考えて、先んじて中国に出願しておくべきケースもあるでしょう。

5 会社名、ロゴマークを商標登録する手続きの注意点-自他識別性について考えてみます。これらを商標として登録しておくことは、ブランドのイメージを確立するのに役立ち、ブランドへの信用を保護して、広告宣伝をして様々な法的なトラブルを避ける上で大きなメリットがあります。

商標登録の審査基準では、「自他識別性」、つまり自己を示す目印として役立つことが要件です。ありふれた名前は、自他の識別力が弱く、商標登録が認められないことがあります。例えば、コーヒーなど飲食物の提供を事業展開するとして、第43類「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」に「○○○ブレンド」などとつけても「ありふれた名前」に該当すると判断されることが審査基準に記載されています。

営業活動で使われるロゴマーク(営業標識、ハウスマーク)は、名刺、商品、看板、パンフレットなど企業活動に広く使われるため、ブランドのイメージをつくるうえで大いに役立つ目印です。最近では、ネットでの販売戦略が大いにものをいうところであり、プロバイダーへの登録に当たり、ロゴマークを付しての商品展開も考えておく必要性が高まっていると思います。

6 スタートアップ向けの情報として、まずは参考になる特許庁の「スタートアップ向け情報 – 特許庁」もあります。https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html

社名や商品名に関する商標だけでなく、同業他者との関係で、特許や意匠も問題となります。 出願前に展示会などで公開すると権利にならない(新規性の喪失)、ビジネスモデルに他者と合致ないし類似していないか、などしっかり吟味しながら事業展開をしてください。 技術的な内容に応じて、あえて出願、公開しない(ブラックボックス化)という戦略もありますが、一方で広く公開して使ってもらうことにより市場獲得していく戦略が有効な場合もあります。事業展開は慎重に、かつ将来を見据えて考えたいものです。

<池田桂子>

電子契約の訴訟における取扱い

当事務所の今夏のニューズレターでは電子契約の概要についてお伝えしました(https://ikeda-lawoffice.com/wp-content/uploads/2020/08/NO.25.pdf)。本ブログでは,電子契約の訴訟における取扱いについて簡単に解説します。

1 契約書にまつわる論点(成立の真正・二段の推定)

(1) 成立の真正

紙の契約書を訴訟において証拠とするにあたり,その契約書が,作成者=契約当事者の意思に基づいて作成されたこと(「成立の真正」といいます。)が必要です。要は,作成名義人が真に作成した,誰かが偽造していないということです。

訴訟では契約書の成立の真正が争われることがあります。

(2) 二段の推定

この点に関して,民事訴訟法228条4項に,有印私文書について,本人または代理人の署名または押印があれば,文書の成立の真正を推定するという規定があります。

更に,作成名義人本人の印章による印影が顕出された場合は,反証のない限り,その印影は作成名義人本人の意思に基づいて顕出されたと事実上推定(①)されるという判例があります。

この,①の推定を経て,上記の民訴法228条4項により,有印私文書の成立の真正が推定されます(②)。

このロジックは,①,②と二段階の推定過程を経るため,二段の推定と呼ばれています。

(3) 二段の推定により,契約者本人名義の印章による印影が契約書に押印されていることが立証できれば(本人専用の実印であることを,印鑑証明書で立証することが考えられます。),文書の成立の真正が推定される,すなわち,特に反証のない限り,契約自体は成立していると扱われることになります。

 

2 電子契約の成立の真正の立証

電子契約も,紙の契約書と同様に成立の真正の立証が必要です。そこで,電子契約にも,二段の推定の考え方が適用されるかが問題になります。

電子契約は,①当事者が自ら秘密鍵を用いて電子署名を行うタイプ(当事者型)と,②サービス提供事業者が立会人として電子署名を行うタイプ(立会人型)の2種類あります。

当事者型の電子契約には二段の推定の考え方が適用される可能性があります。前述の,事実上の推定(①/1段目の推定)が及ぶかについて,電子契約に関し判断した裁判例はありません。しかし,「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)上の要件(本人性,非改ざん性等です。)を満たす電子署名であれば,同法3条(民訴法228条4項と類似の規定です。)により成立の真正が推定されるところ,当事者型の場合,二段の推定の考え方を適用する基礎があると言われています。

他方,立会人型の電子契約には,二段の推定が及ばないと解釈されています。立会人型の場合,契約当事者自ら電子署名を付す形式ではないため,電子署名法が要求する署名の本人性を欠くところ,同法により成立の真正が推定されず,二段の推定の考え方を適用する基礎がないと解されるためです。

しかし,電子契約市場の多数派は,立会人型です(Docusign,クラウドサインなど)。当事者型は,認証機関で本人の電子署名を認証してもらい証明書を発行してもらわなければ利用できないというコスト的なデメリットがあり,あまり普及していません。

立会人型電子契約の成立の真正が争われた場合,二段の推定が及ばないとなると,どう成立の真正を立証するのか問題となりますが,契約締結に至る経緯や,電子契約を用いることを当事者間で合意していたことを示すメール等を材料に,立証していくことになると思われます。

このように,立会人型のタイプには成立の真正の立証に関する煩雑さはあるものの,継続的な取引相手との契約や,締結済みの紙の基本契約に紐づく個別契約等,本人・権限確認の問題が生じにくい場合は,成立の真正が争いになる可能性も低いです。そのような場合は,立会人型を利活用する方が日々の取引をスムーズに行ううえでメリットが大きいと思います。

 

3 まとめ

契約類型や取引内容により,成立の真正が争われる可能性は変動するので,当事者型と立会人型いずれの電子契約を活用するか,あるいは紙の契約書とするべきかのルールを,社内の文書管理規程で示す必要があります。

電子契約導入にあたり,社内のルール策定にお悩みの事業者様はぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。                <藪内遥>

 

 

法務局における遺言書の保管制度が始まりました

相続法改正に付帯して、遺言書を法務局で保管してもらう制度が作られ、2020年7月10日から、実施されています。

また、全ての法務局で、この事務を取り扱うわけではなく、法務大臣の指定した法務局に限られており、本局、支局であれば全て取扱いをしていますが、出張所については一部の例外を除いて取り扱いをしていません。

この制度については法務省のホームページで紹介されていますので(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html)、詳しくはそちらを見ていただくとして、要点や注意点を説明します。

 

(1)遺言書保管の申請について

法務局は、遺言書の原本を保管するとともに画像データとしても残します。この保管制度での法務局の果たす役割は、遺言書の様式、形式面のチェックと保管だけです。遺言書自体はご自身で作成する必要があり、法務局は、遺言書の内容に関する質問や相談には応じてくれないことにご注意下さい。内容的に問題があって、法的な効力に問題があったとしても、法務局に何らかの責任が生じるというわけではありません。

上記のホームページでは、書き方の注意事項が記載されて、内容面に亘る注意も記載されていますが、ごく一部ですので、作成にあたっては弁護士等の専門家に相談した方が安心です。

作成した後の保管の申請をする場合は、保管の申請書を作成して、本人自身が、本人確認書類等を持参して、法務局へ出頭する必要があります。遺言者の住所、本籍地、所有不動産の所在地を管轄する法務局が管轄です。予約が必要で、突然窓口へ出向いても申請を受け付けてもらえません。また、代理人に行ってもらうこともできません。

保管の申請手数料は、1通3900円で、毎年の保管料等を支払う必要はありません。手続が終了すると、保管番号が記載された保管証が発行されます。この保管証があると、その後の手続が楽になりますので、大切に保管しておいて下さい。但し、保管証をなくしても、手続が面倒にはなりますが、各種の手続をすることはできます。

 

(2)遺言書の閲覧

遺言者自身は、保管後、遺言書の閲覧について、モニターによる画像の閲覧(全国の法務局どこでも)、遺言書の原本の閲覧(保管先の法務局のみ)が出来ます。

閲覧は、本人のみで家族その他推定相続人でも遺言者の死亡前には閲覧はできません。閲覧手数料は、モニターの場合は1通1400円、原本の閲覧の場合は1700円です。

 

(3)保管の撤回

遺言者は、保管の申請を撤回することによって、遺言書の返還を受けることが出来ます。予約をしたうえで、撤回書を作成して、遺言者本人が出頭して遺言書を返してもらうものです。撤回には、手数料は不要です。

保管を撤回して、遺言書を返還してもらっても、遺言としての効力が失われるわけではないので、注意が必要です。保管を撤回して、遺言書を返してもらう場合の遺言者の意図としては、遺言書自体も撤回したいという場合が多いと思いますから、その場合には返還を受けた遺言書自体を廃棄するなどして、物理的に破棄しておくことが無難です。そのまま残しておくと、事情を知らない関係者がその遺言を発見した場合、それを正規の遺言書として取り扱われてしまう危険があります。

 

(4)相続人による遺言書の存否、内容の確認方法

遺言者が死亡した場合には、相続人、受遺者、遺言執行者等の相続の関係者(関係相続人等といいます)は、遺言者の遺言が保管されていることの確認をすることができ、遺言書を保管していることの証明書(遺言保管事実証明書)の交付の申請をすることができます(保管されていないときにも、その旨の証明書を発行してもらえます)。この交付は、全国どこの法務局からでも可能で、1通800円です。上記の証明書は、遺言書を保管していることだけの確認にとどまります。

その内容を知りたい場合には、閲覧の請求ができ、遺言者自身による閲覧(前述(2))と同様に、モニターによる、あるいは遺言書原本の閲覧ができます。請求できる法務局、手数料も同様です。

遺言書の内容自体を閲覧し、その内容についての証明を得る方法として、遺言書情報証明書の交付請求という制度が認められています。これにより、遺産である不動産の登記手続や預貯金の解約その他の相続手続をすることができます。

この証明書がある場合は、家庭裁判所による検認の手続が不要です。

 

(5)他の相続人らへの通知

これらの閲覧の請求や証明書の交付の申請は、相続人等が単独で請求できますが、遺言書について、関係相続人等が、遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたときは、その他の全ての関係相続人等に対しても、遺言書が保管されている旨を通知することとなっています。こっそり一人だけ内容を確認するということはできません。

また、まだ運用は開始されていませんが、法務局が、遺言者の死亡の事実を確認した場合には、予め指定した相続人の中の一人を指名して、遺言書が保管されていることを通知する制度も検討されています。令和3年以降に運用を開始する予定とのことです。これは、遺言者本人が希望する場合にのみに行われるものです(死亡の確認方法その他詳細は未定です)。

 

(6)最後に

この保管制度の発足により、従来からの自筆遺言証書のデメリット(検認手続が必要なこと、紛失等の危険があること)が弱まりましたが、遺言書の内容面でのチェックが行われるわけではない点等から、折角作成した遺言の効力が認められないというリスクは残ります。

したがって、この保管制度を利用する場合にも、前に述べたように、弁護士その他の専門家のアドバイスを得たうえで、自筆証書遺言を作成することをおすすめします。専門家と相談をするときには、公正証書による遺言も選択肢の一つとして、アドバイスを得ることも必要です。

池田総合法律事務所は、こうしたご相談にも応じておりますのでご利用下さい。

                           (池田伸之)

 

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑦

「 ニューヨークは今、コロナウィルスと100万円の悪夢の中にあります 」

今年3月の自粛宣言時に街の様子を知る方法は、TVニュースやネットニュースなどの報道もありますが、なんといっても、NY州知事の30分から1時間の毎日のテレビでの報告と説明、それに加えて、州にメールアドレスを登録しておくと毎日届く州からの状況報告Eメールでした。今もメールが続けて届いていますので、何処で何が起きているか知ることができ安心出来ます。

特に、何処の地区が感染が多いのか、どのようにしたら医療従事者は安全に移動出来るか、病院のベッド数等、刻々と変わる状況がよくわかり、緊迫した状況に不安感はあるものの、自分たちは何をすべきかよく分かり有益です。

感染の有無を調べるPCR検査等検査は全て無料です。今年3月から5月までは、医療関係者、公共交通機関者、食料品関係者などどうしても生活に必要な人が優先されていましたが、5月末からは、一般市民も受けられるようになりました。

私の住んでいるアパートメントの受付担当者が感染している事が疑われ、直ぐに検査へ向かいました。アパートから徒歩10分の診療所での待ち時間は15分、48時間後にはEメールで検査結果が送られて、まずは、一安心でした。その後も気をつけていましたが、知り合いの中には死亡者が出ました。そのため、新たに気を引き締めていたのですが、昨日アパートの同じ階の隣人が、最近感染して部屋に篭っているという噂を聞きました。まだまだ油断が出来ません。

マンハッタンで起きている事は肌で感じている事しか申し上げられませんが、普段、よく見かける物乞いの人は見掛けなくなりました。実は、こうした物乞いはプロの集団です。また、その他に見かけるバックパッカーの物乞いも、今はいません。

NYの地下鉄は、24時間営業を止めて、夜中1時から5時までは停止しています。夜半は、消毒作業と地下鉄で寝ているホームレスの収容場所提供をしていますが、以前より車内が綺麗な印象を受けます。それでも、私としては、密な場所となる地下鉄は使う気にはなりません。バスはどうしても必要な時に乗りますが、乗っている人も気をつけビクビクしてしながら静かに乗ります。

ニューヨーク州では、レストランやバーが再開し店内でなく道にテーブルを出して営業しています。再開には多くの規制があり、それに従わないレストランやバーは100万円までの罰金と酒売許可を停止ないし、却下になります。営業許可の再取得は不可能に近いぐらい厳しいです。毎日新しい決まりが示され人との距離を守らないレストランやバーは名前を公表されています。今日新たに気が付いたのは、一度の罰金が1万ドル(約100万円)と書かれていて何度でも罰金が課されることです。酒の販売取扱許可書は、その日から一時停止になり、期限付きか、許可取り消しなのか、厳しい判断をされます。

その他、飛行場では住所、氏名など感染対策の為の書類を提出します。それから、高速道路でも検問なども行われています。

ニューヨーク州は、パンデミック中の州からの訪問者に対して14日間の自宅待機、従わない場合は20万円の罰金、これは他の州で逃げられないように給料から合法的にさしひかれます。このように徹底していますのは、人の命はみんなで守ろうという市民意識です。この数か月に起きた悪夢が市民に浸透しています。罰則などの規定にも市民から文句の声は上がりません。それに、マンハッタンを歩いていて全部のお店には、マスク無しはお断りの紙が貼られていて、マーケットなどはガードマンが警戒しています。それでも完全には感染を避けられませんが、他の州と比べたら本当に安全だと感じます。
取引のある銀行は、支店を再開し入り口で名前と電話番号を控え、顧客が支店内で3人以上にならないように入れ替えています。銀行員との間にはプラスチックの衝立、署名に使ったペンはあげますと言った徹底ぶりです。支店のサイズは30メートル四方です。何処に行ってもプラスチックの衝立が有ります。

また、失業が厳しくなっています。そのように感じるのは、道に座ってカードボードを掲げて座っている人を見たときでした。「仕事を失い、アパートを失い、助けてください。」と見かけたときでした。40歳ぐらいの人で、心が痛みました。アパートの滞納は5ヵ月間合法に出来ると州が発表しました。銀行は3ヵ月の無利子を発表、生命保険の支払いも連絡すれば滞納出来ると連絡がありました。滞納はいつか支払わないといけないので 将来は不安だと感じる人は多いと思います。バーやレストランが開いても、外食は控えて、酒屋やマーケットで酒類を買い、食費に気を使う生活は続いています。

米国GDPの数字がマイナス23%以下の発表になった日の株式市場は勿論マイナスから始まり、そのままだと思ったら100ドル位も高くなって終了して、不思議な感じがしました。これからのGDP発表や世界経済状況と感染状態がどのように世界の為替、株式に影響があるのか不透明です。失業者の多い職種がありますが、感染後に職種によっては募集が増えている会社もあります。宅配は明らかに何倍にも増えています。即日宅配も必要が増えていますが、書類でなく箱に入った食品と生活用品ばかりです。

まだまだニューヨークは正常になりませんが、どこよりも感染率が低く抑えられているのは事実です。感染者数は、フロリダ、カリフォルニア、テキサスがニューヨーク州を超えていますし、人口密度の少ない州は病院が少なく、感染検査も時間がかかっています。早期検査キットは、正確性に疑問が有ります。

ニューヨーク州ではサイトが有って簡単にいろいろ調べる事が出来ます。(英語だけではありません。)https://coronavirus.health.ny.gov/covid-19-travel-advisory

米国は広くニューヨークからカリフォルニアまで飛行機で5-6時間、時差が3時間あります。州により人の考え方が全く違います。ここまではっきりニューヨーク州の政策に、人種、宗教、習慣が入り混じり、独特のコロナに対する危機意識が感じられます。自粛の対応も同じです。

コロナと共に生き、コロナを乗り切るには、まだ少し時間がかかりそうですが、確実に収束は近づいていると信じて、今私にできることを、自分のため、そして隣人のために行動したいと思います。

またお便りします。

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

発信者情報開示請求

1.今年の夏のニュースレターで、発信者情報開示請求について言及しましたが、今回は、発信者情報開示制度の抱える問題点と、制度改正に向けた議論の状況についてご紹介したいと思います。

 

2.問題点

まず、インターネットで誹謗中傷を受けた場合、被害者は、情報の発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能です。

もっとも、インターネット上の誹謗中傷などの書き込みは、殆どが匿名で行われており、情報の発信者が誰かわからない状況にあります。そこで、発信者を特定するために、発信者情報開示の手続きがあり、プロバイダ責任制限法では、被害者がサイト運営者などに発信者情報の開示を求めることができることになっています。

現在の制度では、発信者を特定するために、

①.書き込みがされたサイトの運営者に対して、発信者が書き込みを行った際のIPアドレス等の情報開示を求める仮処分を、裁判所に申し立てる。

②.①で開示されたIPアドレス等の情報からプロバイダを特定する。

③.当該プロバイダに対して、発信者情報(住所氏名等)の開示を求めるため、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を提起する、という流れになります。

しかし、プロバイダの多くが、アクセスログ等の保存期間を3か月程度としていることが多いため、上記①②③の裁判手続きを行っている間にログが消去されてしまい、結局発信者が特定できないという事態が想定されます。

また、上記①②③の裁判手続きは、被害者自らが行うにはハードルが高く、その分野に精通した弁護士に依頼する必要があるため、高額な費用がかかります。

そして、高額な費用を支払っても、最終的に発信者を特定出来ないこともあるため、被害者の多くが、泣き寝入りせざるを得ない現状にあります。

 

3.制度改正に向けた議論の状況

上記の問題を解決するために、発信者情報開示の手続きについて見直しを進めようという動きがあります。総務省では、今年の4月に「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を発足し、現在検討が進められています。今年11月には報告書が取り纏められる予定となっています。そこでなされている議論の一部を、以下にご紹介します。

(1)プロバイダ等による発信者情報の任意開示の促進

プロバイダ等が任意開示を拒む理由は、発信者からの責任追及のリスクを回避することにあると考えられます。そのため、任意開示を促進するためには、発信者からの責任追及のリスクを軽減することが必要です。具体的には、プロバイダ等が、「権利侵害が明白である」(発信者の書き込みが名誉棄損等にあたることが明白である)か否かの検討を十分に行ったことの疎明ができれば、免責される等の制度を新設する等が考えられます。

(2)送達場所に関する民事訴訟法の改正

現状、海外の企業(Google、Twitter、Facebook等)に対し、本案裁判を起こす場合、送達に半年以上の時間がかかります。仮処分の場合も、実務上、EMS(国際スピード郵便)が用いられていますが、最初の期日が入るまで3週間程度かかります。この時間を短縮するため、民事訴訟法の改正を行い、日本に拠点がある海外企業であれば日本法人への呼出し、送達で足りる形にすることが考えられます。

(3)発信者情報開示手続きの簡素化

発信者を特定するには、上述のとおり、現状では、2回の裁判手続が必要となります。実質的に同様ないし類似の主張立証を重ねることになるため、時間的にも、また訴訟経済上も無駄が生じています。そこで、上記②の裁判について仮処分を活用した手続きを可能とすることが考えられます。

また、アメリカでは、加害者を特定しないまま裁判所に提訴する「匿名訴訟」が可能であり、当該訴訟の中で、証拠開示手続(ディスカバリー)を用いて、サイト側に情報開示を命じさせることで発信者の情報を取得することが出来ます。こうした制度を、日本でも新設することが考えられます。

上記いずれの制度改正も、簡単なものではありませんが、SNSの誹謗中傷による被害は深刻化しており、多くの被害者が泣き寝入りをしている状況に鑑みると、一刻も早い見直しが必要であると考えます。

(石田 美果)

定期金賠償(令和2年7月9日最高裁)について

事故に遭い、不幸にも将来にわたり後遺障害が残ってしまったとしたら、どのように損害金の支払いを一時払いで求めるのが良いのでしょうか。それとも定期的な支払いを求めるのが良いのでしょうか。本コラムでは、後者の定期金賠償について説明をします。

 

1 不法行為時の損害賠償の方法

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。故意・過失によって他人の権利・利益を侵害する行為(=不法行為)をした人は、同条に基づき、損害を賠償する義務を負います。

賠償という言葉は、辞書的には「他の人に与えた損害をつぐなうこと」を意味しますが、法律的には、原則として、生じた全ての損害を金銭評価して、その合計額を支払うことにより賠償することになります(金銭賠償の原則:民法722条1項・417条)。

そして、実務上、多くの場合に損害賠償金は一時金として支払われます。

 

2 定期金賠償について

もっとも、事故により後遺障害を負った場合のように、損害が将来にわたって継続することが想定される場合には、一時金による支払いよりも定期的に一定額を支払う定期金賠償の方が適切な場合もあります。

法律上、損害賠償金の支払い方法は一時払いで無ければいけないという規定は存在しません。むしろ、1996(平成8)年に新設された民事訴訟法117条は以下のように定めています。

 

(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)

第117条 口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。

 

この条文は、定期金賠償による判決が出た場合に、後遺障害の程度や賃金水準等が大きく変わった場合には、判決の変更を求める訴訟を提起することができることを定めたもので、定期金賠償が可能であることを前提としています。

また、実務上、定期金賠償によることも少ないながらあります。

 

3 最高裁判例の紹介

そんな中、交通事故で後遺障害が残ったケースで、その逸失利益について定期金による賠償を認めた判決(以下「本判決」と言います。)が、2020(令和2)年7月9日に最高裁で出されました(最高裁ホームページ https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89571 )。

 

本判決は、事故当時4歳の子が道路横断中に大型貨物自動車に衝突され、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、高次脳機能障害の後遺障害が残り、労働能力を全部喪失した(全く働くことができなくなった)という事案です。被害者側は、上記後遺障害による逸失利益(得ることが出来なくなった利益)として、本来であれば働くことができた18歳から67歳までに取得できたはずの収入額を、各月払いの定期金によって支払うことを求めました。

これに対して、最高裁は、「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において」、不法行為に基づく損害賠償制度の「被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させる」という目的や「損害の公平な分担を図る」という「理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される」とした上で、本件後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を対象とすることを認めました。

 

4 被害者側からみた定期金賠償のメリット・デメリット

被害者側からみたときに、定期金賠償は、実態に即した賠償を受けることができるというメリットがあります。

例えば、一時金による賠償を受ける場合、中間利息控除(※)がされた金額を受け取ることになりますが、その際の利率(現在は3%)で運用することは、実際のところは容易ではありません。金利がほぼ0に近い現在の状況であればなおさらです。しかしながら、定期金賠償であれば本来の金額を受け取ることができます。

一時金払いの場合、最初に多額の現金が入るため、つい使ってしまい、後々困るということもあります。特に、未成年者や後遺障害により自身でお金を管理することが困難な場合、親や親族などのお金の管理者が使ってしまうという危険性もあります。

さらに、先に紹介した民事訴訟法117条により、障害の程度が大きく変わったり、大幅なインフレが生じた場合に、定期金の金額を変更する判決を求めることも可能です(もちろん必ず認められる訳ではありませんが)。

他方で、定期金における一番のデメリットは、支払義務者が消滅したり、支払能力がなくなったりした場合に、定期金を支払ってもらえなくなる可能性があることです。交通事故等の実質的に保険会社が支払うというケースでは、支払われなくなる可能性は小さいですが、ゼロではありません。

また、後遺障害の程度が当初の想定より大幅に改善した場合や著しいデフレがあった場合には、民事訴訟法117条により、先ほどとは逆に定期金金額が下がる可能性もあります。もっとも、損害賠償が被害者が被った不利益の補填であることからすれば、不利益の程度が軽くなっているのであれば、減額されるのはやむを得ないものともいえます。

 

5 加害者側からみた定期金賠償のメリット・デメリット

後遺障害の程度等、損害額算定の基礎となる事情が大きく変わった場合に、民事訴訟法117条により定期金の金額を変更できる可能性があるということは、加害者側から見てもメリットになると言えます。

ただし、後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償が命じられた場合に、その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したときに、民事訴訟法117条によって死亡後の定期金賠償の支払いを免除されるかというと、必ずしもそういうわけではありません。本判決を言い渡した裁判官の一人である小池裕裁判官は、補足意見として、上記のような場合には「被害者の死亡によってその後の期間について後遺障害等の変動可能性がなくなったこと」を理由として、「就労可能期間の終期までの期間に係る定期金による賠償について、判決の変更を求める訴えの提起時における現在価値に引き直した一時金による賠償に変更する訴えを提起するという方法も検討に値する」と述べており、死亡後の定期金賠償の免除では無く、一時金に変更しうるという見解を述べています。

また、加害者が任意保険等に加入していない場合には、定期金賠償=分割払いであることもメリットとして挙げられるかもしれません。

他方で、デメリットとしては、長期間にわたり支払いをしなければならないという債権管理上の負担がまずあります。

また、後の事情変更により、不利にもなり得ることはデメリットとも考えられますが、既に述べた損害賠償制度の目的・理念からすれば、やむを得ないことと言えるでしょう。

 

6 最後に

本判決により、交通事故や医療事故などで定期金賠償となるケースも増えるかもしれません。一時金と定期金、いずれの賠償を求めるべきか検討する必要も生じるものと思われます。

交通事故、医療事故等による損害賠償の請求を検討される際には、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

 

※中間利息控除については、本コラム 2020(令和2)年4月2日「民法改正による交通事故の損害賠償請求の影響は?」3の(2)をご覧ください。

(川瀬 裕久)

孤独死後の法律問題

家族に看取られることなく単身で死を迎えることを孤独死と総称するようです。単身世帯の増加と高齢化が相まって、孤独死は珍しいものではなくなりました。警察や住居不動産の管理者・貸主からの突然の連絡で、ご親族が知るところとなるようです。今回は、突然そのような連絡を受けたご親族が直面する法律問題について説明します。

孤独死の場合はどうしても発見が遅れます。暑い時期にはご遺体の傷みが激しく、住居内外の衛生環境等にもろもろの支障が生じます。そのような場合、貸主等からご親族に対して、即時に特殊清掃の手配についての判断を迫られることがあります。周囲への影響を最小化するために、特殊清掃を手配せざるを得ないこともあるでしょう。

特殊清掃には汚れた家財の処分を伴うケースがあります。相続財産を処分してしまうと、相続放棄ができなくなってしまうという単純承認の制度(民法921条)があり、家財を処分していいのか、という問題があります。高価品であれば格別、汚れた家財は売却しようにも値が付かないので財物の処分にあたらず、単純承認とされるケースは少ないでしょう。安全を期すならば処分品のリストの作成を業者に依頼する、相続人になりうる方以外(例えば法定相続人の配偶者)を特殊清掃の契約者にする等の対策が考えられます(高価品があれば別途保管が必要)。

特殊清掃の問題が解決すれば、あとは注意すべき点は通常の相続と同じです。原則として相続開始を知って3か月以内に相続放棄(民法915条)するかを検討する必要があります。なお、相続放棄をするだけでは、相続財産管理義務を免れることができない点に注意が必要です(民法940条)。この義務を免れるためには、費用を負担して「相続財産管理人」(民法952条)の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続財産管理人は、各種資産を売却してお金に換えて負債の支払いに充てますが、特殊清掃費用や葬儀費用を立て替えた場合には、相続財産管理人に対して支払いを求めることができます。

以上は、あくまで一般論で、ケースバイケースの事情もあるでしょう。お近くにご親族が孤独死された方がおられたら弁護士に相談するようお勧めいただければと思います。

山下陽平

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑥

「 With新型コロナウィルス、コロナと共に生きるニューヨークは今・・・ 」

つい最近、感染テストをした診療所からメールが来ました。アメリカでは基本、医師に掛かるときに予約が必要で当日すぐに見てもらえないのが普通ですが、今回利用したCITY MDは、2010年に出来たニューヨークのチェーンのクリニックで、ニューヨークに多くの診療所が有り、かかりつけの医師がいない場合で予約がなくても受信可能であり、また、24時間開いているので即診てもらえる利点があります。今回、ニューヨーク州でも感染テストを行う場所として認定されました。陰性の結果を得て一安心しました。CITY MDは予約なしでも受診出来るのでWalk-in Clinicともいわれます。ネットで検索すると最寄りの場所が出てきますし、比較的多くの保険が適用されるので覚えておかれると便利です。

さて、アメリカでは今、失業者が溢れています。アメリカでは日本と違い、企業の生き残りの為に簡単に従業員を解雇します。それでも、景気が戻れば採用します。失業保険は6か月以上働けばもらえますし、例えば2年A会社に居て半年B会社で働き、その後に解雇されるとA社とB社の給料から失業保険金額を割り出し6か月分は支給されます。特に今回の感染対策では、倍の支給が出たそうです。これは今年6月までの支給という内容であった記憶です。

クオモ州知事が、政府は大企業を援助しているのに、大企業は従業員を解雇し、受けた援助金を蓄えていると指摘していました。解雇された人の中にはサービス業だけでなく、支店を閉店した銀行員などもいます。きっと再雇用されるのでしょうが、こんなところにも株式市場のからくりが有ります。決して経済が立て直されたとか、見通しが明るいわけではありません。株式は世界経済を反映していない部分が多くあります。この頃数日間で、金融や自動車産業のような大手企業株が沸騰しています。また、日常品の流通よりも高価なものの流通産業株が上がっています。このような時は理由なく大きく値を下げる可能性が有ります。それから、米国株式は中国を含む世界の富裕層が投資家ですから、経済を見て株が動くのでない部分もあります。米国民は自分の家から手軽に株売買が出来ますので、うわさが飛ぶとあっという間に動いたりもします。

リーマンショックは人と企業が作り上げた不況で、本当は何年も隠していた経済悪化の実情をオバマ大統領が就任した途端に暴露されたのが実際のところで、かなり根が深いものがありました。NY市での9.11以降の株暴落は回復には長い時間がかかったのですが、今回はウィルス感染という目に見えない相手で様子が違い、2週間で大きく下げ2か月で大体が戻りつつあります。少し前まで円が買われドルが下がりましたが、今度は円を売りドル買いをして株買いに走っています。これには日本の銀行はじめ金融機関も大いに関わっていると思います。

いずれにしても、対コロナウィルスでも、経済の活況の面でも、ウィルス感染予防薬、治療薬の完成が待たれます。

感染問題が終わらない中、ミネアポリスで警察官によるアフリカ系米国人の暴行死事件が起きました。連日報道されているように人種差別問題が起きました。この問題は本当に根深く、人種だけでなく、宗教などの問題もあります。今回今までの歴史と大きく違うのはデモをする人に白人の割合がとても多いです。CNN ジャパンでも判るように政治に対する不満が爆発した感じです。今までの大統領はお行儀が良すぎて歯がゆい部分が多かったですが、今回は大統領が言いたい放題の行動をするので様子が大きく違います。

どこの企業も事務所も、今回の人種差別に対して許しませんと公表しています。マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された時から52年経って本当に変わるのでしょうか?その疑問です。これまで何度も同じような事件がありましたが、何となく事件の収束を知らされず終わってしまってきたからです。今回のフロイドさんの事件をきっかけに全米に飛び火した暴動や抗議は、大統領選にも影響を及ぼしそうな動きが出ています。

How to Make this Moment the Turning Point for Real Change

ミネアポリスの事件を受けて、オバマ前大統領が声明を発表した声明文の表題です。アメリカには立場を越えて、変えるという渇望があると信じたい、そんな思いで、今回のブログを終えたいと思います。今週月曜日から様々な規制が解除されNYの街も動き始めています。オフィスにも外出禁止で出かけられなかった期間も終わりです。さて外の様子はどうなっているのでしょう。マンハッタンの様子をニュースでなく自身で感じる時間が来ます。

またお便りします。

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点

1 リーディングケース

土壌汚染の分野は,土壌汚染が明らかとなれば,土壌汚染調査及び土壌汚染対策工事費に多額の費用を要するところです。

そして,調査,工事費が数億円から数十億円に達することから,その費用負担を誰が負うのかを,いかに合意するかが後のリスクの大きさを決めることになります。

このリスクを,買主と売主に適切に分配できるように契約文言の工夫が必要不可欠な分野であり,後の費用リスクを考えると,売主であっても買主であっても,事前に弁護士に相談をし,リスクを見定めておく必要があります。

具体的には,合意内容を表す契約書上にどういった文言で『瑕疵担保責任条項』を入れるかが契約当事者にとって非常に重要になります。

たとえば,【最高裁平成22年6月11日判決(民集64巻4号953頁)】は,土地開発公社が購入した工場跡地にフッ素が含まれていたところ,売買は土壌汚染対策法成立前になされており,売買契約時においてフッ素が人の健康に被害を生じるおそれがあるとは認識されていなかった事案ですが,

「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性質を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき

として,売主の瑕疵担保責任を認めませんでした。

これは,当事者間の合意の内容を重視する主観説によることを明らかにしたと評価できます。

そこで,以下では,売主・買主の注意点を解説します。

 

2 売主側の注意点

(1)売主の責任

①売主の契約不適合責任(いわゆる従来の「瑕疵担保責任」)

売買契約締結前の簡易調査で土壌汚染が発見されなくても,契約後の詳細な調査で土壌汚染が発見され,売主として瑕疵担保責任を負う場合があり得ます。

また,売買対象の土地の隣接地の地歴調査をしなければ,隣接地の工場稼働歴により,当該工場が排出した土壌汚染物質を原因とする土壌汚染があった場合に,後に売主として瑕疵担保責任を追及される可能性もあります。仮に,隣接地からの土壌汚染物質の流入があるのであれば,その流入を阻止する方策を講じる必要があります。

これは,民法570条の瑕疵担保責任が,売主の善意や無過失とは関係無く認められるためであり,仮に土壌汚染を売主が知らない(善意)であっても買主に対して損害賠償責任等を負うことになるためです。

そこで,売主としては,土壌汚染対策法に従った土壌環境調査か,それに準じた詳細な自主調査を行うことが,結果的にコストを安くできることがあります。

②弁護士費用

東京地方裁判所平成20年7月8日(判時2025号54頁)は,瑕疵担保責任にもかかわらず,2000万円の弁護士費用の売主負担を認めています。

もっとも,この裁判例のように弁護士費用がどういった場合でも認められるのかは,そもそも瑕疵担保責任は不法行為ではないので弁護士費用は認められないのではないかという疑問点もあります。

③消滅時効の更新

また,契約上の瑕疵担保期間経過後に,売主の役職者が瑕疵担保責任を負担するという文書を出していたことをもって消滅時効の中断事由(現民法での用語では「更新」)となっており,交渉に当たっても細心の注意が必要です。

④契約文言の重要性

以上のような売主としてのリスクがありますので,売買契約書中では,瑕疵担保責任の範囲や期間をできる限り限定した契約書になるように契約交渉をすることが必要不可欠です。

(2)信義則上の契約に付随する義務

①土壌汚染浄化義務

瑕疵担保責任制限特約において,地表から地下1メートルまでの部分に限り瑕疵担保責任を売主が負担するとされているので,信義則上,売買契約に付随する義務として土地土壌中のヒ素を環境基準値を下回るように浄化して買主に引き渡す義務があると認定した裁判例(東京地方裁判所平成20年11月19日判決(判タ1296号217頁))もあります。

②信義則上の説明義務(債務不履行に基づく損害賠償請求)

売主が,買主が土壌汚染調査を行うべきか適切に判断するための情報を提供しなかった場合,信義則上の説明義務を果たしていないとして,債務不履行に基づく損害賠償義務を肯定している裁判例(東京地方裁判所平成18年9月5日判決(判時1973号84頁),同20年11月19日判決(判タ1296号217頁))もあります。

(3)商法526条の適用の有無

土地売買でも商法526条の適用があるのが原則ですが,実際の売買契約では瑕疵担保責任として引渡し後1年までとするなど商法526条と異なる規定をしていることが多く,その場合は商法526条の適用が排除されることになります(東京地方裁判所平成18年9月5日判決(判時1973号84頁))。

 

3 買主側の注意点

土壌汚染では主に契約不適合責任(従来のいわゆる「瑕疵担保責任」)の主張をすることになります。

食品製造業者で不動産売買を専門としていない売主から,不動産業者である買主が食品工場跡地を購入した事案で,不動産売買契約書上の文言解釈を,当時の自然由来の特定有害物質は土壌汚染に当たらないとする行政通知に基づき,買主(不動産業者)に不利に解釈した事案があります(東京地方裁判所平成23年7月11日判決(判時2161号69頁))。

たとえ事業者間売買であっても,不動産番倍や土壌汚染に精通している等専門性を有する業者に契約文言が不利に解釈される場合もあります。

なお,現在は自然的原因による有害物質は土壌汚染にあたるとされています(環水大土発第100305002号平成22年3月5日環境省水・大気環境局長通知)。

 

4 借主側の注意点

建物を工場として賃借した借主による土壌汚染で,建物賃借人の債務不履行に基づく損害賠償責任を認めた裁判例があり(東京地方裁判所平成19年10月25日判決(判時2007号64頁)),建物賃借人であっても土地賃借人であっても賃借人が土壌汚染を引き起こした場合には,賃貸人に対して債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合があります。

 

5 土壌汚染対策法,ダイオキシン類対策特別措置法に定められていない物質による土壌汚染

法令で規制されていない物質による土壌汚染の場合も,「土壌に含まれていたことに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがある」限度を超えて物質が含まれていれば,瑕疵担保責任における「瑕疵」に当たり得ます(東京地方裁判所平成24年9月27日判決(判時2170号50頁)参照)。

そこで,やはり,契約上で瑕疵担保責任が生じる「瑕疵」とは何かをできる限り明確に定めておく必要があります。

 

6 地下に存在する産業廃棄物について

土壌汚染の問題ではありませんが,土壌汚染の問題と同じように地下に産業廃棄物が存在することがあります。

産業廃棄物が地中に存在する場合には,土地の利用目的等に照らして通常有すべき性質を備えないといえれば土地の「瑕疵」になり得るものと考えられます。

 

7 最後に

土壌汚染の分野は,土壌汚染が明らかとなれば,土壌汚染調査及び土壌汚染対策工事費に多額の費用を要するところです。

そして,契約において,買主と売主に適切にリスクを分配できるように契約文言の工夫が必要不可欠な分野であり,後の費用リスクを考えると,売主であっても買主であっても,事前に弁護士に相談をし,リスクを見定めておく必要があります。

 法人の事業等において,土壌汚染の問題がありましたら,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。                            〈小澤尚記〉

テレワークの推進に向けて

1 テレワークの必要性高まる

新型コロナウィルス感染防止対策で緊急事態宣言が出され、営業自粛をする事業者や企業が相次ぐ中、組織としての活動を継続しようと、急遽、テレワークの導入を進めた事業者も少なくないと思います。

 

テレワークというのは、従業者が情報通信技術(ITC)を利用して行う事業場外での勤務を言うと考えられますから、在宅勤務のほか、サテライトオフィス勤務、ノートパソコンや携帯電話を利用して選択した場所で業務を行うその他のモバイル勤務などが、それに当たります。

コロナウィルスの感染拡大リスクを回避するだけではなく、通勤時間などの移動時間を節約するなどの業務の効率化から、今後もテレワークを維持、推進していこうとの働き方の変更も議論されているところです。

 

テレワークを導入しやすいかどうかは業種により異なると思いますが、リモートも休業もできない、業種の代表例として、医療、福祉関連のような社会的なインフラ事業者が思い浮かびます。LINEリサーチによれば、テレワークが導入しやすいIT関連企業が73%と高い結果で、次いで金融業・保険業で58%、また学校・教育法人、卸売業・商社、不動産業が40%以上と続いています。困難な業種として、医療、福祉関連、飲食業・飲食関係、運輸・運送・倉庫業は2割を切る実施率とのことです。

 

2 テレワーク就業規則の策定について

多くの企業では就業規則は変えず、付則としてテレワーク勤務規程を作成しているところも多いと思われます。週に1、2日程度の在宅勤務であれば、勤務制度を大きく変える必要はない、またモバイルワークの場合は、外出規程をそのまま適用する企業も多いと思います。

しかし、改めて考えてみますと、ICT情報通信技術を活用し、時間や場所に制約されない働き方を柔軟に取り込もうとするならば、就業規則もこれに応じて見直すことも必要でしょう。

テレワークを導入する場合には、テレワークを命ずることに関する規定を就業規則に定める必要があります。これに関する労働時間や通信費などの負担に関する規定も含まれます。

在宅勤務規程については、厚生労働省から「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」が公表されていますので参考になさってください。

https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

 

通常の労働時間制では、一日8時間、一週40時間(労働基準法32条)の規制がありますが、テレワークにも適用され、オフィス勤務と同じ扱いです(但し、常時10人未満の従業員を使用する①商業、②映画・演劇(映画の製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業について1週は44時間)。同様に、時間外や休日労働についても上司からの命令があった場合に可能で、その場合は会社側は通常の勤務と同じように時間外労働や休日労働の割増賃金を支払うことになります。

 

ちなみに、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定をすることが難しい場合には、所定の労働時間を労働したものとみなす「事業場外みなし労働時間」制度を適用することが考えられます。この制度の導入は、労働者の通信機器が使用者の指示では常時通信可能な状態になってはいないことを前提とします。

 

テレワーク制度を採用する場合には、業務の開始及び終了の報告、連絡体制、通勤手当など、在宅勤務であるからこそ特に決めておかなければならない点があると思います。

 

3 勤務環境の整備を

テレワークはフレックスタイムなどとは違い、制度や勤務時間を変えるだけでなく、①環境を構築する必要がある、②セキュリティ―対策をとる、③勤務時間を把握する、④仕事の評価をどうするのか、などの課題があります。

また、それ以前に、データの電子化、ハンコ(判子)文化の見直しなどがあります。

 

4 情報管理体制の整備も

情報管理体制に問題があれば、従業員の過失によって、情報漏洩が発生し第三者に損害を与えたときに、使用者責任(民法715条)が問われ、裁判例もあります。テレワークの実施のために、業務データを持ち出したり、社外利用するについての社内規程の整備をすることが欠かせません。データを重要度に応じたレベルに分け、取扱い方法について定期的にチェックしたり研修したり、パスワードや多要素認証など通信セキュリティ―に関する課題も重要です。システムやデータの取扱要領が有名無実化していないかの点検も怠らないように気を付けたいものです。

<池田桂子>