債権回収のセオリー

期限までに支払われなかった売掛金などの債権を回収するために債権者側が起こす行動(債権回収)として、日頃から考えておかなければならないことは何でしょうか。改めて、整理しておきたいと思います。 債権には一定期間権利を行使しないとその権利が消滅する消滅時効(債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年)があるため、それまでに行動を起こす必要があります。

 

1 スムーズに債権回収を進めるには、まず債権の状況を把握する必要があります。

契約書と債権額のチェックをする要点は、支払期限、期限の利益喪失約款条項(例、一回でも支払いを怠れば一括請求できるなどの条項)の有無、連帯保証人の有無、裁判所の合意管轄、発注書などでの当事者の一致などです。

 

 債権回収の具体的方法を検討します。債権回収方法の例をご紹介します。

①電話や面会での交渉

②交渉に応じないような場合は、弁護士に依頼して督促。特に感情的な対立が起きている場合などは弁護士が客観的立場で話をすることで、交渉がスムーズに進むケースもあります。

③内容証明郵便での督促-差出日時や差出人、受取人、内容について、郵便局が証明する郵便物です。正式な請求であるという意思表示です。記載する内容は、一般に、債権の金額とその根拠のほか、遅延損害金の金額とその根拠、支払期限、振込口座などです。なお、それに加えて、「期限内に支払わなければ法的措置を講じる」といった一文を加えます。

内容証明郵便などを利用して督促することで、消滅時効の完成を6ヵ月間猶予させることができます(催告)。

④民事調停手続-裁判所で当事者間の話し合いによって解決を図る。債務者が支払う意思を示すようであれば、柔軟な解決方法を探ることが可能です。弁護士を立てることも、立てずに自ら調停の申し立てを行うことも可能です。

⑤支払督促-簡易裁判所によって債務者に対して支払いの督促をしてもらう手続。支払督促を行って相手方が異議を申し立てなければ、仮執行宣言を得て、強制執行をすることができます。 但し、相手方が支払督促に異議を申し立てた場合には、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。

⑥通常訴訟

地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間は、9.5ケ月。相手方が争わない場合や相手方の主張に明らかに理由がない場合には、1回目や2回目の裁判期日で判決が出るケースもあります。また、一括ではなく分割で支払うなどの案を申し入れて、裁判上の和解が成立することもあります。

⑦少額訴訟

60万円以下の金銭の支払を求める場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うこともできます。少額訴訟は原則として1回のみで審理を終え、即日判決が出ます。しかし、相手が通常訴訟を求めた場合には通常訴訟に移行し、少額訴訟の判決に異議を申し立てると再び審理をやり直すことになります。

 

3 仮差押えと強制執行

訴訟が確定してからでは財産が散逸してしまう恐れがある場合には、訴訟提起に併せて、仮差押を申立て、保全します。保全の場合、裁判所の定める担保(現金等)を法務局に供託する必要があります。

裁判で勝訴判決や和解調書を得たにもかかわらず相手方が支払いに応じない場合、債権者の申立てにより、裁判所が差し押さえた債務者の財産から債権を回収します。強制執行には大きく分けて、不動産を売却して支払いにあてる「不動産執行」、在庫や設備などを売却して支払いにあてる「動産執行」、預金などを取り立てる「債権執行」の3種類があります。

差し押さえるべ物の有無がわからないときには、財産開示手続きを申し立てて、相手方を呼び出します。

 

4 債権回収できない場合に備えてファクタリングの活用

取引先の経営悪化などで債権回収が必要になった場合、多くの手間や時間がかかってしまいます。また、債権回収を行っても、回収できないケースもあるでしょう。そのような場合に備えて、債権保全の準備もしておきましょう。債権保全のためには、保証型ファクタリングの導入が有効です。取引先の倒産などにより売掛債権が回収できなくなった場合、取引先に代わって保証会社が支払いを行います。

 

5 その他の回収方法として重要な相殺

取引先が破産しても債権回収が図れるケースの代表例として「相殺」が挙げられます。相殺とは、当事者間で対立する債権を相互に保有し合っているような場合、両債権を同じ金額分だけ共に消滅させることができるという制度です。

取引先が破綻してしまった場合でも、取引先に対して債権と債務の両方が存する場合には、両者を相殺することにより、取引先に対する債権を回収したのと同様の効果を得ることができます。弁護士を利用すれば、破産手続等の法的整理手続に応じて、内容証明郵便を利用する等、より確実な方法で、相殺の意思表示を行うことができます。

 

6 債権の保全としての担保

契約時に、不動産に抵当権などを担保設定しておくことや集合動産担保、すなわち、債権者が有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を一個の債権としてとらえこれに譲渡担保権等を設定しておくなどして、破産手続開始決定があっても、債権者の担保権は制限されることなく行使することができるのが原則です。

また、商品を納入している業種では、所有権留保で、商品を取引先に売買して取引先が倒産した場合、売買契約を解除し、取引先の了解をとった上で商品を引き上げます。取引先の了解をとらないと、窃盗罪などに問われるおそれがあるため、書面で了解をとります。了解をとる場合、代表者か取引先の弁護士とすべきです。

取引先がその商品を既に第三者に転売している場合、その第三者が商品の所有権を即時取得していることが考えられること、また、取引先との売買契約の中で第三者に転売されたときは所有権留保が解除されると定められている場合がありますので、その場合は所有権留保の方法によることは難しくなります。

抵当権の場合、裁判所に対し、競売の申立てを行います。申立に際して必要な書類は、抵当権の設定登記に関する登記簿謄本です。登記簿謄本は、他にも抵当権の存在を証明する確定判決でもよいですが、大抵は登記簿謄本で申立てを行います。申立を行う裁判所は、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

 

7 債権譲渡

取引先が別の会社に対して売掛金を持っている場合、取引先からその債権の譲渡を受け、譲り受けた債権を第三者に対して行使することにより、債権の回収を図ります。債権譲渡は原則として自由にできますが、債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付ある証書により、取引先から第三債務者に対して譲渡の事実を通知させる必要があります。内容証明ならば確定日付がありますので、内容証明を用いて、取引先に譲渡の通知をさせます。

 

8 自社製品・他社製品を回収する

所有権留保している自社製品を回収する方法は、所有権に基づいて回収しますが、取引先の承諾が必要になります。また、他社の製品を取引先から譲り受けることにより、代物弁済として債権の回収を図ることができます。

 

9 契約書作成段階での検討

契約を締結する段階で、私文書である一般的な契約書の作成でもよいのですが、公証人役場で作る公文書、公正証書を作成する場合には、記載内容すべてが当事者の合意に基づいて真正なものとして作成されたという推定が働きます。「証書に定める金銭債務を履行しない場合には直ちに強制執行することに服する」という強制執行認諾文言を入れておくことによって、訴訟手続きを省いて強制執行することができます。

 

池田総合法律事務所では、業種や事案にあった債権回収や予防の制度をアドバイスしています。早めにご相談して頂ければ、と思います。(池田桂子)