全面改訂された営業秘密管理指針への対応は大丈夫ですか

本年1月28日に営業秘密管理指針が全面改訂されました。この指針は、不正競争防止法として保護を受けるための基準として、過去の裁判例をベースに経済産業省が作成した指針です。行政庁の判断基準が、直ちに裁判所の判断を拘束するということではないと思いますが、一つの考え方として大きな意義を持っています。

 

営業秘密として保護されるためには、従来から3つの要件を満たす必要があると言われてきました。①秘密管理性、②有用性、③非公知性です。他社に知られたくないような情報は、おおよそ殆どが有用であり他人に知られていない情報と言えるでしょう。また、秘密管理性があるというためには、裁判例では、情報にアクセスできる者を特定し(アクセス制限)、その者が客観的に秘密であると認識できること(客観的認識可能性)が必要だということになります。改訂前の指針では、秘密管理性について指針では、この2点を掲げていました。

 

しかし、担当者がどの程度の措置をすれば良いのかハッキリしないところがありました。技術やノウハウについて漏えいのリスクが高まっているという指摘も産業界からなされていました。

 

秘密管理性の要件を満たすために必要な管理措置の程度ですが、「媒体の選択や当該媒体への表示、当該媒体に接触する者の限定、ないし、営業秘密たる情報・類型のリスト化等が想定される」としています。具体的内容や程度は、営業秘密に接する従業員の多寡、業態、従業員の職務、情報の性質、執務室の状況その他の事情によって異なることになります。従業員数が極めて少ないなら口頭確認で確認がなされている程度でもよいでしょうし、先端技術を扱う研究分野に従事する組織部署では立入制限といったことまで必要となります。要は、マル秘であることが形骸化しないようにシステム化することです。

 

新指針では、情報の媒体ごとに典型的な管理方法を示しています。

①    紙媒体なら、文書へのマル秘の表示、施錠可能なキャビネットや金庫等への保管

②    電子媒体なら、記憶媒体へのマル秘の表示、電子ファイル名・フォルダー名へのマル秘の付記、電子ファイルそのものやそれを含むフォルダーを閲覧するのに要するパスワードの設定

③    物件に営業秘密が化体している製造機械や金型等の場合は、物件のある部屋への扉への関係者以外立入禁止の張り紙、写真撮影禁止の張り紙、秘密物件のリスト化とその閲覧及び共有化

④    媒体が利用されない場合、口頭での伝達する方法も認められる。但し、立証の観点からは、リスト化、文書化を通じて、できるだけの可視化が必要。

 

自宅への持ち帰り禁止が必須のものではないとも、されています。

 

大事なことは、漏えいしたのはどこの部署のどの情報なのかがきちんと追求できるように、日常的に管理体制の単位、すなわち、○○部、○○事業本部、○○支店、など一定の独立性を有する単位であることを明確にしておくことです。

周知徹底のための従業員研修や教育や管理者の設置をして、組織的に取り組むことです。

 

また、他社との間で営業秘密の提供や共有が必要な場合には、秘密保持契約などの対応が必要なことは従前通りです。他社からの取得した情報には、受領の年月日や保管場所等を記録し、プロジェクトの解消時には、通知だけで済まさず、返却の確認をすべきです。このようなことまで含めた管理体制が問われていると言えます。

 

他社からの営業秘密の侵害があるとの疑いを持った場合には、警告書を送ることから始まりますが、自らの足元もしっかり固めておきたいものです。        <池田桂子>

 

※ 過去に、関連ブログ「親子会社間で情報共有に注意」「営業秘密の管理-チェックシートはお役立ちツール!」 がありますので、よろしければそちらもご覧下さい。