公益通報者保護法の改正について

令和2年6月8日,公益通報者保護法の一部を改正する法律が国会にて成立しました。2年以内に施行されます。

公益通報者保護法の改正点は,次のとおりです。

 

第1 通報者の保護の強化

1 保護される人の拡大(第2条第1項など)

労働者に加えて,①退職者(退職後1年以内),②役員(ただし,調査是正の取り組みの前置が原則として必要)が追加されました。

2 保護される通報の拡大(第2条第3項)

刑事罰の対象行為に加えて,行政罰の対象行為を追加

3 保護の内容(新設第7条)

事業者が公益通報によって損害を受けたとしても,公益通報者に対して,損害賠償請求ができないことが明示されました。

 

第2 解雇無効等の公益通報者保護の拡大

労働者である公益通報者が,公益通報した場合に,事業者による労働者の解雇が無効とされる公益通報が拡大されました。

1 権限を有する行政機関への通報の条件の拡大(第3条第2号)

公益通報者が,通報対象事実について処分または勧告等をする権限を有する行政機関等に対して公益通報する場合,

①通報対象事実が生じ,若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

にくわえて,

②通報対象事実が生じ,若しくはまさに生じようとしていると思料し,かつ,公益通報者の氏名等が記載された書面を提出した場合

には,解雇が制限されます。

2 報道機関等への通報の条件の拡大(第3条第3号)

公益通報者が,通報対象事実ついて報道機関等に対して公益通報する場合,

①事業者に対する公益通報をすれば,役務提供先が,公益通報者を特定させる情報を漏らす可能性が高い場合を追加(第3号ハ。新設)。

②個人の生命身体に対する危害に加えて,「財産に対する損害(回復することができない損害または著しく多数の個人における多額の損害であって,通報対象事実を直接の原因とするものに限る)」に拡大(第3号ヘ)。

 

第3 事業者自ら不正を是正しやすくし,安心して通報を行いやすくする改正点

1 公益通報対応業務従事者の定め

新設第11条1項にて,事業者は,公益通報を受け,通報対象事実を調査し,その是正に必要な措置をとる業務に従事する者として,公益通報者対応従事者を定めなければならなくなりました。

2 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備

新設第11条2項にて,事業者が内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等をすることを義務づけました。

3 義務化の対象事業者

新設第11条1項,同2項の義務化は,常用使用する労働者数が300人より多い事業者に限定されています。

常時使用する労働者数が300人以下の事業者については,努力義務にとどまります。

4 守秘義務の新設(及び罰則規定の導入)

公益通報対応業務従事者または従事者であった者は,正当な理由無く,公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない(新設第12条)とされました。

守秘義務違反については,新設第21条により30万円以下の罰金が定められました。

 

第4 実効性確保のための行政措置の導入

1 報告の徴収,助言,指導,勧告

行政(内閣総理大臣)が,新設第11条第1項・2項に関して必要があると認めるときは,事業者に対して,報告を求め,または助言・指導・勧告ができるようになりました(新設第15条)。

2 公表

行政(内閣総理大臣)は,新設第11条第1項・2項に違反している事業者が,新設第15条の勧告に従わない場合,その旨を公表できるようになりました(新設第16条)。

 

第5 体制整備の必要性

企業や団体内部における不正は,早期に企業内部において発見し,その原因を分析し,再発を防止する方策を策定し,不正に関与した従業員等に適正な処分を下し,場合によっては積極的に不正事案の内容をマスコミに公表していく必要があります。

不正があるということは,その不正が生じたところに,企業・団体として,意思決定を含めて適切な業務ができていない,業務効率が低下している,コストが無駄にかかっていることになりますので,不正を早期に発見できれば,企業・団体がより良く成長していくために重要な材料を与えてくれることになります。

したがって,不正を通報してくれる従業員は,会社にとって財産でもあり,その財産を企業・団体としては保護していく必要があります。

公益通報者保護法は,公益通報者を守っていくものですが,第一次的には,企業・団体における自浄作用が求められています。

今回の改正では,公益通報対応業務従事者を定めることが求められています。しかし,ただ担当者を決めただけでは実効性は生じません。企業・団体のトップが担当者を信頼し,必要な権限を与える必要があります。

また,公益通報対応業務従事者に必要な知識等を付与する必要があります。

 

また,せっかく企業・団体に対して公益通報がなされても,社内で適切に公益通報の対象事案に対応できなければ,行政等への通報に繋がっていくことになりますし,企業・団体としても自浄の機会を逸し,評判(レピュテーション)の低下も招きかねません。

しかし,企業・団体は,基本的に収益を上げることが目的であって,不正事案の調査・証拠による事実認定,事実認定を元にした改善策の策定に十分な知識経験を有しているわけではなりません。

池田総合法律事務所では,池田総合法律事務所では,公益通報に対する企業・団体の経営者や,公益通報対応業務従事者に対する必要な研修をご提供することができます。また,豊富な企業法務での経験や,究極の不祥事ともいえる刑事事件の実務経験に基づき,不正調査を行っていくこともできます。その場合は,池田総合法律事務所として不正調査をするか,第三者委員会のメンバーとして関与するなどが考えられます。

弁護士であれば,研修や不正調査,第三者委員会のメンバーとして,企業の不正対応に積極的に関わることができます。

企業・団体において,公益通報への対応などでご要望がありましたら,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤(こざわ)尚記(なおき)〉