スタートアップ(独立・起業)で大切にしたい商標と商号

1 会社を設立するには、会社名である「商号」を決め、法務局に登記申請し、「商号」を届け出ます。以前は、不正な目的で付けられたり、紛らわしい会社名の登記を防ぐために、同一市町村区で類似した商号がある場合は登記することができませんでした。ところが、平成18年に施行された新会社法により、同一の住所で同じ商号の会社は登記できないと改正され、類似商号規制という点では、大幅に緩和されています。

 

もっとも、わざと他の会社のブランド価値を利用するような、不正な目的での類似商号登記は現在も禁止されていますし、タダ乗り商法を排除しようと不正競争防止法等によって争われ、損害賠償請求や使用差し止めの要求を受けることがあります。

使用しようとする商号を他者が商標登録していますと、それと同一や類似の商号を営業上使用することは、商標権の侵害に当たります。会社名の商標登録は、ブランドとして保護するうえで重要です。会社名や個人事業主の店舗の名前(屋号)を商標として登録した場合、独占的に使用できる商標権をもつことになり、しかもその効力は、登録時に指定して商品のサ―ビスの範囲内で日本国内全てに及びます。

 

2 会社名に限らず、事業展開するブランドを保護するために、特許庁へ出願するのが「商標」です。会社を設立する上で、商号は必ず必要になりますが、商標として登録するか否かは自由です。

商標登録により、商品やサービスの出所を表示したり、品質を保証する意味合い、更に宣伝広告としての機能を期待することができます。ブランドは、会社の信用を蓄積させていく上でとても大切です。創業者が取り組むべきブランド戦略の中でも、会社やサービスの名前に関わる「商号」と「商標」の登録は、特に慎重に行いたいものです。商号と商標は、名前こそ似ているものの、その意味は全く違います。片方だけ取得したからといって、安心してしまうのは早計です。

 

3 会社名や店舗の名前(屋号)や目印となるロゴマークなどを、商標登録するメリットについて、考えてみましょう。すでに商標登録されているネーミングを使用すれば商標権侵害として法的なトラブルに巻き込まれるおそれがあります。会社設立や店舗の名前(屋号)を決めるときは、商標権侵害に該当しないよう、その事業の大小にかかわらず、事前に弁理士、弁護士ら知的財産権の専門家に相談することをお勧めします。特許庁のデータベース「J-PlatPat」での検索でおおよその見当はつくかもしれませんが、商品やサービスの展開方法によりふさわしいネーミングや他者への侵害行為など、さらには申請の時期その他考えるべきポイントが少なくありませんので、お役に立てると思います。

4 スタートアップの場合、社名について言えば、① 社名をブランドとしてそのまま使うことによって早く名前を広められたり、② ドメインネームに使用することで紛争リスクを低減できる場合がある、といったメリットが考えられます。ちなみに、中国では社名を抜け駆け的に出願される例が見られます。この場合、中国で商品を販売し、本来ブランドを開発していた本家が商標権侵害で訴えられるという本末転倒な事態も起きています。市場展開を考えて、先んじて中国に出願しておくべきケースもあるでしょう。

5 会社名、ロゴマークを商標登録する手続きの注意点-自他識別性について考えてみます。これらを商標として登録しておくことは、ブランドのイメージを確立するのに役立ち、ブランドへの信用を保護して、広告宣伝をして様々な法的なトラブルを避ける上で大きなメリットがあります。

商標登録の審査基準では、「自他識別性」、つまり自己を示す目印として役立つことが要件です。ありふれた名前は、自他の識別力が弱く、商標登録が認められないことがあります。例えば、コーヒーなど飲食物の提供を事業展開するとして、第43類「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」に「○○○ブレンド」などとつけても「ありふれた名前」に該当すると判断されることが審査基準に記載されています。

営業活動で使われるロゴマーク(営業標識、ハウスマーク)は、名刺、商品、看板、パンフレットなど企業活動に広く使われるため、ブランドのイメージをつくるうえで大いに役立つ目印です。最近では、ネットでの販売戦略が大いにものをいうところであり、プロバイダーへの登録に当たり、ロゴマークを付しての商品展開も考えておく必要性が高まっていると思います。

6 スタートアップ向けの情報として、まずは参考になる特許庁の「スタートアップ向け情報 – 特許庁」もあります。https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html

社名や商品名に関する商標だけでなく、同業他者との関係で、特許や意匠も問題となります。 出願前に展示会などで公開すると権利にならない(新規性の喪失)、ビジネスモデルに他者と合致ないし類似していないか、などしっかり吟味しながら事業展開をしてください。 技術的な内容に応じて、あえて出願、公開しない(ブラックボックス化)という戦略もありますが、一方で広く公開して使ってもらうことにより市場獲得していく戦略が有効な場合もあります。事業展開は慎重に、かつ将来を見据えて考えたいものです。

<池田桂子>