労働審判制度の概要

1.はじめに

賃金・残業代の支払い、解雇、配置転換等をめぐって、労働者と会社との間で何らかのトラブルが発生した場合に、当事者間で話し合いを行っても解決に至らないということがあります。その場合には、何らかの法的手続に進まざるを得ません。

通常、裁判手続きは、終結まで1年以上かかり、多大な時間と労力が必要になります。これに対し、労働審判手続きは、申立てから終結まで平均約2か月半と、裁判よりも早期に解決を図ることが期待できます。

そこで、本法律コラムでは、「労働審判」という手続きに焦点をあて、3回に分けて労働審判のご紹介をしていきます。

まず第1回目は、「労働審判」の概要です。

 

2.労働審判制度とは

労働審判制度とは、裁判官1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する審判員2名で構成する労働審判委員会が審理を行い、話し合いによる調停の成立による解決を試み、その解決に至らない場合には、審判を行う非訟手続をいいます。

労働審判は、審判員の専門的知識経験を取り入れ、原則として3回以内の期日で事件の審理を終結することにより、迅速かつ適正な紛争解決の実現を目的としています。

労働審判では、申立件数の約70%が調停成立により終局し、約15%が審判に移行しています(残りは取下げ、棄却、移送等です。)。

労働審判の事件の種類としては、賃金手当等請求など金銭を目的とするものが53.8%、地位確認(解雇)など金銭を目的としないものが46.2%です。

 

3.労働審判手続きの流れ

(1)申立て

労働審判の申立ては、裁判所に対し、申立ての趣旨および理由を記載した申立書を提出することで行います。

労働審判手続に係る事件は、①相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、②個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業者との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業しもしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所、または③当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とされます(労働審判法2条1項)。

(2)第1回期日の指定

労働審判手続きの第1回期日は、特別の事由がある場合を除き、労働審判手続きの申立てがされた日から40日以内の日に指定されます(労働審判規則13条)。相手方に対しては、裁判所から労働審判の申立書、証拠書類の写しとともに、期日呼出状等が送付されます。

(3)相手方による答弁書の提出

相手方は、第1回期日の1週間程度前までに、裁判所に答弁書および証拠書類を提出します。原則として3回の期日で終結する労働審判手続きでは、申立書と同様に答弁書についても出来る限りの主張と証拠を提出することが必要となります(労働審判規則16条)。

(4)審理

第1回期日では、双方から提出された書類の内容をもとに、争いのある点や証拠の整理を行って、当事者の審尋を実施します。

第2回期日以降においても、主張や証拠書類の提出はできますが、それらの提出は、やむを得ない事由がある場合を除き、労働審判手続きの第2回の期日が終了するまでに終えなければなりません(労働審判規則27条)。

(5)審理の進め方

多くの事件では、第1回期日に臨む前に、双方から提出された主張書面、証拠資料を確認のうえ、裁判官と審判員で評議をし、おおまかな心証や解決の方針等を既に持っています。

したがって、申立を受けた側(多くは会社側)は、抗弁として主張出来る事項やその裏付け証拠を、第1回期日前の早い段階で提出しておかなければ、その後の審判が不利な展開となります。

申立てを受ける側は、タイミングも選べず上記の通り十分な時間的余裕もありませんが、集中的に答弁書の作成と証拠収集の作業を行うべきです。

(6)労働審判の終了

多くの場合で、第2回期日までに、労働審判委員会から調停(話し合いによる解決)が試みられ、調停案が提示されます。調停が成立し、調停調書に記載された合意内容は、裁判上の和解と同一の効力を有します。

調停による解決に至らなかった場合には、労働審判委員会は、労働審判手続の経過を踏まえて審判を行います。審判は、当事者が出席している期日において、審判官がその主文および理由の要旨を口頭で告知する方法で行われます。

(7)異議申立てと訴訟への移行

労働審判に対しては、審判所の送達または労働審判の告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に対し、異議の申立てをすることができます(労働審判法21条1項)。適法な異議の申立てがあったときは、労働審判はその効力を失い、労働審判手続の申立てに係る請求は、当該労働審判手続の申立ての時に、裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(同条3項、22条1項)。

 

4.終わりに

会社が、従業員から労働審判を申し立てられた場合、あるいは従業員が会社に対して労働審判を申し立てる場合等に、必要な証拠の収集や適切な法的主張を行うためには、弁護士に依頼した方が良い場合もあります。

池田総合法律事務所では、労働審判の経験豊富な弁護士が複数いますので、一度ご相談ください。

<石田美果>