商標について 3 ~商標・不正競争に関する近時の裁判例の紹介~

1.「マツモトキヨシ」-音からなる商標登録(知財高裁 令和2年8月30日判決)

商標権の改正により、平成27年4月から「音からなる商標」その他の新しいタイプの商標出願も認められるようになりました。ドラッグストアの「マツモトキヨシ」を運営する会社がテレビコマーシャルでの例の「マツモトキヨシ」を含むフレーズを「音からなる商標」として申請したところ、特許庁は、これは、「人の氏名を含む商標」であり、使用にあたって、その人の承諾も得てないので、商標法4条1項8号に該当し、登録できないとしたため、知財高裁で争われたものです。

判決は、テレビコマーシャルやドラッグストアでの使用の結果、ドラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く知られている取引の実情を踏まえ、「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から、通常、容易に連想、想起するものは、ドラッグストアの店名、企業名としての「マツモトキヨシ」であって、普通は、「松本清」「松本潔」「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものとは認められないとして、商標法4条1項8号に該当するという特許庁の審決を取消しています。極めて常識的な判断だと思います。

このほか、音からなる商標としては、ラッパのマークの大幸薬品、半導体メーカーのインテル社等皆さんもCMで耳にしたことがあるものが商標として認められています。

このような新しいタイプの商標はブランド戦略上も大きな役割を果たしていくことが期待されます。

 

2.「無印良品」のユニットシェルフのデザインは、不正競争防止法により保護されるか(平成29年8月31日 東京地裁判決)

不正競争防止法は、他人の「商品等表示」として周知性のあるものと同一、類似の表示を使用する等して、他人の商品、営業と混同を生じさせる行為を「不正競争」の1つとし(同法第2条1項1号)、被害者に、その使用の差止、損害賠償請求の権利を与えております(同法3条、4条)。

工業製品のシンプルなデザインについては、それが商品の機能上、不可避な形態であり、また、ありふれた形態として、「商品等表示」に該当するということが、認められるケースがあまりない中、このケースは、それが認められた例外的なケースです(末尾に、一部の商品の外観の写真を付けてあります)。

複数のパーツを組み合わせて使う棚をユニットシェルフといいますが、無印側が、カインズのユニットシェルフの形態が自社製品と似ているとして、不正競争防止法に基づき販売差し止めを請求した訴訟の判決です。

無印側は、同社のユニットシェルフが6つの顕著な特徴をもつデザインとなっていることを主張し、このデザインは、需要者の間で無印良品のものとして周知であると主張をしたものです。

カインズ側は、その6つのそれぞれの特徴につき、強度等を維持するための不可避な形態である、ありふれた形態であり無印以外の事業者もユニットシェルフのデザインを備えた商品を製造、販売しており、無印良品のみがその形態を長年独占して使用してきた事実はなく、周知性はないと主張しています。

これに対して、判決は商品のデザインを考える場合、6つの形態それぞれではなく、組合わせた全体のデザインとして、ありふれているかどうか等を検討すべきであり、本件商品は、全体としてまとまり感のあるものとして、顕著な特徴のデザインであるとして、その類似品の製造、販売をカインズの不正競争と判断したものです。

無印良品が長年積み重ねてきた、簡素かつ機能性に注目してきた商品展開が評価されたものと思われます。

ひょっとしたら裁判官は、無印良品のファンだったかもしれません(笑)。

 

3.卸売、小売業者は、メーカーのつけた商品名を変更できるのか(令和4年5月13日 大阪高裁判決)

車輪付き杖の製造元として、「ローラーステッカー」の商品名でこれを販売していたメーカー(個人)が、これを仕入れた卸売業者が、「ハンドレールステッキ」との商品名を付して梱包箱の元のシールの上に新しい商品名のシール等を貼付け、卸売、又は小売を行っていたことに対し、新しい商品名を貼付したうえでの商品販売の差止と損害賠償の請求をした事例です。販売途中でもとの商品名につき、メーカーの商標登録が認められたことから、登録前は、不法行為、登録後は商標権の侵害を理由とする請求という形となりますが、判決はいずれも請求を棄却しております(原判決も同様)。

判決は、メーカー等との合意等特段の事情や公的規制のない限りは、当初の商品名をそのまま生かすことも、あるいは、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいは、より商品の内容を適切に説明しうる商品名に変更して販売することも許される、としています。

そのうえで、メーカーがブランドとしての統一を図る等の必要があれば、販売に際して、その旨の合意を得れば足り、そのような合意がない場合には、卸売業者、小売業者が常に当初の商品名によらなければならないと解すべき理由はない、としております(このような合意等が存在した場合には、これによって、メーカーに損害を生じさせた場合は、不法行為が成立すると解する余地があるとしています。)。

また、登録商標付の商品を商標権者から譲渡を受けた卸売業者が譲渡の過程で商標を剥離抹消し、さらに異なる自己の標章を付して流通させる行為は、商品の出所を誤認混同するおそれを生じさせるものではなく、その行為を抑止することが商標法の予定する保護の態様とは異なり、登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体として、商標権侵害を構成するとは認められない、としています。

確かに商標権の侵害に関する商標法の規定をみても、商品等に付された登録商標を剥離、抹消、変更する行為は商標権の侵害とは定められておりません。

意表をつかれるような論理構成で、商標権の使用、商標権の侵害・保護のあり方を考えるうえで、参考となる裁判例です。

以上

(弁護士 池田伸之)

無印良品の商品

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カインズの商品