廃棄物処理業の許可取消しと刑事処分
1 はじめに
環境に関心が高まっている今日,廃棄物の処理については,法律はかなり厳しい規制をしています。
しかも,廃棄物処理法は,時代の状況に応じて,法律による各種規制が積み上げられていった経緯もあり,非常に難解で読みづらい法律となっています。しかし,強力な規制をかけている法令ですので,根気よく読解していく必要があります。
もし,規制に違反し,許可の取消し事由(条件)に該当すると,行政には一切の裁量はなく,絶対に許可が取り消されることになるというのも廃棄物処理法の特殊な点です。
従って,事業者にとっては,資金繰りといった点とはまったく別の観点から,ある日突然会社の事業が継続できなくなる可能性があります。
2 廃棄物処理業の許可取り消しについて
廃棄物処理法により[i],
①執行猶予付でも禁固刑・懲役刑になった場合[ii]
②環境法令等違反で罰金刑になった場合[iii]
場合には,産業廃棄物処理法の許可が取り消されます。
②の生活環境保全を目的とする法律には,施行令4条の6において,
・大気汚染防止法
・水質汚濁防止法[iv]
などががあたるとされています。
3 具体的には
具体的に,どのような場合に許可が取り消されるのかについては,以下のとおりです。
①「禁固以上の刑に処せられる」場合は,具体的には,取締役などが自動車運転過失致死傷等で禁固刑を言い渡された場合などがあたります。
執行猶予付きの禁固刑判決であっても,禁固刑は言い渡されていますので,欠格事由に該当します。
裁判例でも,産業廃棄物収集運搬業の許可を受けている会社の監査役が業務上過失傷害の罪で禁固1年執行猶予3年の有罪判決を受けた事案で,東京地方裁判所平成21年3月27日判決は同社に対する許可取消しが有効であると判断しています。
スピード違反でも何回も繰り返せば,やがて執行猶予付きでも禁固刑の有罪判決となることもありますし,実刑になることもあります。
当事務所で弁護活動をさせていただいた方の中にも,スピード違反で禁固刑を言い渡された方もいます。
廃棄物処理業関係の方の場合,自動車を運転するだけでも,絶対に安全運転を心がけ,ハンドルを握る際は細心の注意をする必要があります。
しかし,もっとも欠格事由の中でおそろしいのは,②の廃棄物処理法違反や,大気汚染防止法違反,水質汚濁防止法違反の場合です。
この場合,罰金刑でも許可が取り消されます。
例えば,廃棄物の収集運搬や処分において,従業員が定められたマニュアルを守らない(あるいはマニュアルがそもそも存在しない)ことにより,従業員の行為が廃棄物処理法違反になり,法人として罰金刑となった場合,許可が取り消されます。
また,廃棄物の処分過程で,大気汚染を生じさせたり,基準に適合しない汚水を排出した場合には,たとえ従業員が行ったことであっても,従業員の故意か過失かによらず,法人として罰金刑に処せられる可能性があります。
3 欠格事由に該当した場合,どうするか?
欠格事由に該当したのが,経営者個人の廃棄物処理業とは無関係な刑事処分であれば,刑事裁判の判決も第1審の地方裁判所(または簡易裁判所)で判決があっただけでは確定せず,最終的には最高裁において判決が出るまでは有罪判決は確定しないため,直ちに欠格事由にあたることはありません。
そこで,刑事の判決が禁固以上の刑でなされた場合,控訴・上告しつつ,その間に該当する役員に法人の役員を辞任させることが,欠格事由の回避につながります。
しかし,法人として欠格事由に該当し,それが罰金刑でも許可が取り消される事由の場合(②の場合)には,不起訴処分(いわゆる「起訴猶予」など)を目指していくほかありません。
犯罪に当たるからといって,すべての犯罪が刑事裁判になるわけではありません。刑事裁判をするかどうかを最終的に決めるのは検察官になります。
検察官に対して,不起訴処分にするように働きかけをして,不起訴処分を得るしか法人として事業継続をする方法はありません。
しかし,いきなり検察官や警察官に適切に対応できる事業者はいません。
そこで,弁護士に依頼していただき,必要な情報を弁護人として収集し,検察官に働きかけをしていくことになります。
4 その前にすべきこと
そもそも欠格事由に該当することのないよう,廃棄物処理業は法令遵守に細心の注意を払う必要があります。
まずは,従業員に対する法令遵守(コンプライアンス)教育をすることから始まります。
弁護士を講師とする廃棄物処理法等の研修を繰り返し実施し,従業員個々人の行為が,会社の存続を危うくさせるということを,徹底して教育していくことが必須です。
次に,内部通報制度の導入です。会社の利益のためという理由でも,人手不足を原因とする手抜きであろうとも,法令に違反する行為が行われている可能性がある場合,会社の存続が危うくなります。
そこで,随時,内部通報で弁護士に情報が集まるようにし,捜査機関の介入を招くまえに,法令違反行為の是正を社内で図ることが必要です。いかに違法行為の芽を速やかにキャッチし,その芽を適切に摘み取っていくかが大変重要です。
5 最後に
廃棄物処理法等の研修講師や,内部通報窓口に弁護士はなることができます。
また,法令遵守を徹底して,事業継続を図っていくためには,弁護士と日常的に情報を共有し,弁護士の指導を受けるなどしていく必要があります。
廃棄物処理業は,上に述べたとおり,特に顧問弁護士の必要性が高い業界です。
また,万一,廃棄物処理法の許可が刑事処分により取り消される可能性がある場合には,速やかに弁護士に依頼すべきです。
特に,警察から事情を聴かれたら,その翌日にでもご相談・ご依頼いただければ,手遅れにならないことも多々あります。
廃棄物処理業で弁護士のアドバイスを必要とされている方,法律について相談したいが誰に聞いたら分からないという方は,是非,池田総合法律事務所にご相談ください。
〈小澤尚記〉
[i] 地道に法令を読み込んでいくと,以下のような条文構造になります。
【一般廃棄物処理業】
廃棄物処理法7条の4,同法7条5項4号(収集運搬業)・同条10項4号(処分業)
【産業廃棄物処理業】
廃棄物処理法14条の3の2第1項第1号,同法14条5項2号イ(収集運搬業),同法15条の3第1項1号,同法14条5項2号イ(処分業)
[ii] 正確には,「禁固以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない」場合
[iii] 正確には,産業廃棄物処理法違反,浄化槽法違反,その他生活環境保全を目的とする法律違反,暴力団対策法違反,刑法犯(傷害罪,現場ほう助罪,暴行罪,凶器準備集合及び結集罪,脅迫罪等),暴力行為等処罰法違反に該当し,罰金刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない場合
[iv]ほかには,
・騒音規制法
・海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
・悪臭防止法
・振動規制法
・特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
・ダイオキシン類対策特別措置法
・ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法