成年後見制度利用促進法について

急速に進展している日本の高齢化。現在、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備軍と言われています。認知症にかかると、判断能力が衰えることで、日常生活に加え、財産管理や様々な法律行為に支障をきたすようになります。

例えば、介護施設に入居する際、自宅を処分してその売却金を施設の費用に充てたいと考えたとしても、本人が認知症で判断能力が無いと判断されれば、たとえ自宅の所有者であっても売買契約が締結できず、自宅を売ることも出来なくなります。

そこで、認知症の高齢者等の支援策として設けられた制度が、成年後見制度です。

 成年後見制度は、判断能力が十分でない人に代わって、親族や弁護士、司法書士などがその後見人として、財産に関する法律行為(例えば、預貯金の管理、不動産などの売買契約や賃貸借契約の締結、遺産の分割等)や、生活・療養看護に関する法律行為(介護契約・施設入所契約・医療契約の締結等)を行う制度で、共生化社会の実現に資するものと考えられています。

しかしながら、成年後見制度が創設されてから約18年が経ち、徐々に認知度は高まっているものの、過去5年の申立件数を見ても毎年2万7000件台で推移しており、それ程伸びているとは言えません。高齢者が確実に増加していることを考えると、成年後見制度の利用は、寧ろ低迷しているとも言えます。

そこで、成年後見制度の利用拡大を目指して、2016年5月に成年後見制度利用促進法が施行されました。

成年後見制度利用促進法は、基本理念として、①ノーマライゼーション、自己決定権の尊重、身上の保護の重視といった成年後見制度の理念の尊重、②地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進、③成年後見制度の利用に関する体制の整備を掲げています。

具体的な施策としては、①に関して、成年被後見人等の権利制限に関する制度や成年被後見人等の医療に関する制度の見直し等、②に関して、市民の中から成年後見人等の候補者を育成し、その活用を図ることで成年後見人となる人材を確保すること、③に関して、関係機関等における体制の充実強化や相互の緊密な連携の確保等が図られています。

これまで複数の自治体で、上記成年後見制度利用促進法の趣旨に則り、成年後見制度の利用を促進するための要綱や規則等が定められており、平成29年4月には、埼玉県志木市で、全国初の「志木市成年後見制度の利用を促進するための条例」が施行されましたが、愛知県下では、残念ながらまだこのような条例等は設けられていません。

ところで、成年後見制度を利用するには、まず家庭裁判所に対して後見開始の審判の申立てを行う必要があります。その際の管轄裁判所は、本人(後見を受けようとしている者)の住所地の家庭裁判所となります。本人の他、配偶者、四親等以内の親族などが申立人となることが出来ます。身近に申立てを行う親族がいなかったり、申立ての費用等を負担できない場合等は、市町村長が申立てを行う公的な支援制度もあります。

家庭裁判所に申立てを行った後は、裁判所の調査官により、事実調査や本人、申立人、成年後見人候補者として記載した人等に対する事情聴取等が行われます。なお、必要と認められる場合には、本人の精神鑑定が行われることもあります。

後見開始の審判の申立てには、様々な書類の提出が必要であり、手続をスムーズに進めるため、弁護士等の専門家に依頼することをお勧めしています。

(石田美果)