新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点

1 新型コロナウィルス感染拡大防止対策の一環で,事業者は,訪問者や従業員から,発熱・新型コロナウィルス特有の症状の有無,渡航歴,濃厚接触者に該当するかどうかのヒアリングをすることがあります。また,社内で感染者が出た場合,企業はその事実をニュースリリース等で公表することが多いと思います。

このような情報の取得等の各場面では,個人情報保護法に抵触しないかを検討する必要があります。本ブログでは,新型コロナウィルス感染拡大防止対策に関連する個人情報取り扱いの留意点を簡単にご紹介します。

 

2 取得する情報の例
前述の,発熱・症状の有無,渡航歴,濃厚接触者に該当する事実は,各個人に紐づき,事業者において当該個人を識別できる状態で取得されることがほとんどだと思います。完全に個人との紐づきを捨象し,統計データ化している等の例外的な場合でなければ,これらの事実は,個人情報に該当します。

また,新型コロナウィルス陽性であるという病院・保健所の検査結果は,要配慮個人情報として,単なる個人情報以上に厳密な取扱いが要求され,取得にあたり原則として本人の同意が要求されます。

 

3 留意点
次に,上記の情報を取得,公表,第三者に提供するにあたっての留意点を解説します。
⑴ 取得時
個人情報の取得にあたっては,適正な手段で取得すること(個人情報保護法17条1項。以下は法律名は省略します。),利用目的を予め公表している場合でなければ本人に速やかに通知または公表すること(18条1項)が必要です。

事業者が,訪問者や従業員から,症状・発熱の有無,渡航歴,濃厚接触者該当性をヒアリングする際は,書面または口頭で新型コロナウィルス感染拡大防止の目的を明確に伝えることでこれらの要件はクリアできます。また,社内規程やプライバシーポリシーに規定された,個人情報の利用目的から,新型コロナウィルス感染拡大防止が読み取れれば,「利用目的を予め公表」しているといえるでしょう。これを機に,社内規程,プライバシーポリシーの見直しをしてみてはいかがでしょうか(池田総合法律事務所でご相談を承ります。)。

そして,取得する情報が,新型コロナウィルス陽性の診断結果,罹患の事実といった要配慮個人情報にあたる場合は,原則として本人の同意を得る必要があります(17条2項)。ただし,本人から直接書面または口頭等により情報を取得する限り,本人が情報を提供したことをもって,同意をしたと解釈できますので(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン通則編3-2-2,36ページ参照https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190123_guidelines01.pdf),別途同意書やオンラインのフォームを用意する必要はありません。

⑵ ニュースリリース等による公表
新型コロナウィルス感染者が社内で発生した場合,ニュースリリース等で社外に公表することが考えられます。

公表内容が,社内の感染者発生の事実,その後の社内対応(例:感染者が発生したオフィスの消毒,濃厚接触者隔離措置等の実施の事実)という,感染者本人を一切特定しない形であれば,感染者本人の同意を得る必要はありません。

しかし,新型コロナウィルス感染の事実は,非常にセンシティブな情報です。

そのため,情報の公開や後述の第三者への提供にあたっては慎重な姿勢が求められます。トラブル防止のため,ニュースリリース等による社外への一般公開の情報は,感染者本人を特定しない形になっているか,公開前にしっかり検証する必要があります。

⑶ 第三者への提供
情報の一般公表ではなく,特定の第三者に,感染者本人を特定できる形で情報を提供する場面も想定し得ます(個人データの第三者提供,23条1項)。例えば,社員が新型コロナウィルスに感染しており,当該担当者が接触していた取引先にその旨情報提供する場合です。

個人データの第三者提供にあたっては本人の同意が必要です。

しかし,上記の場合のように,事業継続,二次感染防止,公衆衛生向上の必要が認められる場合は,本人の同意は不要とされています(個人情報保護委員会「新型コロナウィルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて」参照。https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/covid-19/)。

 

4 以上のとおり,個人情報の取得等が,新型コロナウイルス感染拡大防止目的である限り,個人情報保護法は,事業者にそれほど厳密な規制を課すわけではありません。しかし,新型コロナウイルスに関係する個人情報,個人データのセンシティブな性質に鑑みて,事業者に慎重な姿勢が求められるのは言うまでもありません。不安のある方は,池田総合法律事務所にご相談ください。また,池田総合法律事務所は,新型コロナウイルス感染症関連情報の特設ページをご用意していますのでこちらも合わせてご参照ください(https://ikeda-lawoffice.com/covid-19/)。                        <藪内遥>