標章の商標的使用?

早口ことばではありません。ある標章(商品・サービスを表す記章、記号、シンボルマーク)が商標として登録されると、これと同一又は類似の標章を使用することは、商標権の侵害となり、商標権者はその使用する者に対して、使用の禁止や損害賠償の請求が出来ることになります(商標法36条以下)。

しかし、商標は、自社の商品やサービスの自他識別機能・出所表示機能に注目して認められたものですから、これらの機能を果たす態様で用いられていない場合には、「商標としての使用」に当たらない、すなわち、商標的使用には該当しない、という議論が「商標的使用」の問題です。意味がつかみにくいと思いますので、比較的最近の裁判例2つをご紹介しながら、その意味を明らかにしようと思います。

 

(1)「塾なのに家庭教師」事件

「塾なのに家庭教師!!」という登録商標で、学習塾の全国展開をしている事業者が、同じく学習塾を経営している著名な事業者を訴えたものです。生徒募集や従業員募集にあたって、折り込み広告、サイト上の広告に「塾なのに家庭教師」の文言標章を付して配布することが、商標権を侵害するということで争われた裁判です。判決は、この「塾なのに家庭教師」の表示は、他の説明文等と相俟って、学習塾であるにも拘わらず、自分で選んだ教師から家庭教師のような個別指導が受けられる等、塾としての長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句である。サービス(役務)の出所については、著名ないし周知性のある企業名等の表示から想起するものであって、「塾なのに家庭教師」の語(宣伝文句)からは想起するものではない。したがって、被告の標章の使用は、本来の商標としての使用に当たらない、としました。

 

塾

 

 

(2)「クイックルック」事件

「クイックルック」「Quick Look」ないしはそれを加工・図案化した登録商標をもっている電子機器等の販売業者が、同じく、コンピュータのハード・ソフトの製造販売を業とする業者を訴えたものです。被告がサイトの広告やカタログ図面で、「必要な情報への即時アクセスでお客様のビジネスを快適にするクイックルック」等と表示し、「Quick」「Look」を上下2段表示にした標章を表示し、各商品に、「Quick Lookボタン」「Quick Lookキー」等と表示をした行為が、商標権侵害にあたるかどうか争われた裁判です。

判決は、被告が用いる「クイックルック」については、被告製のパソコンが電源を切った状態においても、10秒程度でメール等を表示することができる機能を有することを広告する目的で表示したものである。需要者も、そうした機能を有する商品として認識するにとどまり、商品の出所については、同一のウェブ上に表示されている製品名から想起するものであり、商標的使用ではないとしました。

商品やサービスの標章を考える際、その機能や特徴を短い言葉で表現することは、需要者への印象も強く記憶に残りやすく、飛びつきやすいものですが、反面、それが端的に商品やサービスの提供業者(出所)を示すとは限りません。また、キャッチコピーとしての表現の独占が当然に認められる訳ではありません。一定の長さがあれば、著作物として保護される余地はあります。しかし、短く普通に使われる言葉の場合、創作性に欠け著作物として保護されません。長いと人の注目を引かず、短いと著作物として保護されないというトレードオフの関係にあります。知財戦略上、考慮すべきことのポイントの一つです。(池田伸之)