環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載9

~アップサイクルと廃棄物処理法~

 

1 「アップサイクル」とは

アップサイクルは,捨てられるはずだった製品に新しい価値を与えて,元の製品よりも価値が高いモノを生み出すことを言います。

リサイクル(再循環)は,例えばポリエステルからできているペットボトルを粉砕してフレークやペレットといった原材料に一度戻し,食品トレイや繊維などに再生させることですので,元の製品よりも価値が高くなるものではないという点で,アップサイクルとは異なります。また,例えばマテリアルリサイクルの場合は,原材料に戻す過程でエネルギーを投入する必要もあります。

これに対し,アップサイクルは,例えば履かなくなったジーンズからバッグを作ったり,繊維の端材を組み合わせて衣服にしたり,木っ端の木材を組み合わせて家具や日用雑貨にする場合などがあります。いずれも捨てられるはずだった製品に,ジーンズであれば風合いのある生地という新しい価値が備わったバッグが生み出されています。

このアップサイクルの概念は,SDGsの理念にリサイクル以上によく当てはまるものです。ごみは,実は宝物に代わるサスティナブルな次の一手になる可能性があります。その実例も続々と現れています。

 

※「ダウンサイクル」という概念もあります。例えば,古くなったタオルを雑巾にするという場合は,元の製品に新しい価値は特に与えられておらず,一般的にタオルよりも雑巾の方が価値が低いと捉えられることが多いので,ダウンするサイクルになります。

 

2 廃棄物処理法での「廃棄物=不要物」

では,「捨てられるはず」だった製品に新しい価値を与えるアップサイクルについて,廃棄物処理法はどのように適用されるでしょうか?

廃棄物処理法は「廃棄物」とは,『ごみ・・・(中略)・・・不要物』とされており(2条1項),不要物=廃棄物となり,そもそも廃棄物とは何かが良く分からない規定になっています。

そして,有名な「おから」判決(最判平成11年3月10日刑集275号499頁)は,『「不要物」とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。』としました。

この判例は,おから等を処理して飼料を生産する事業をしていた被告人が,乾燥機の故障などで廃棄物処理法上の許可を得ていた工場での乾燥処理が追いつかなくなり,無許可で工場を新設しておからの乾燥・熱処理を行っていたところ,無許可での産業廃棄物処理業として刑事裁判に至った事案です。

この事案では,最高裁は「おからは豆腐製造業者によって大量に排出されているが,非常に腐敗しやすく,本件当時,食用などとして有償で取り引きされて利用されるわずかな量を除き,大部分は,無償で牧畜業者等に引き渡され,あるいは,有料で廃棄物処理業者にその処理が委託されており,被告人は,豆腐製造業者から収集,運搬して処分していた本件おからについて処理料金を徴していたというのであるから」として,おからが「不要物」にあたり,「産業廃棄物」に該当するとしました。

この最高裁の考え方を『総合判断説』と言います。

そして,実務的には,取引価値の有無が大きな判断基準であると捉えていることが多いと思われます。

 

3 アップサイクルと廃棄物処理法

もっとも,おから判決が示した総合判断説も,総合判断である以上,不要物=廃棄物であるかどうかは時代とともに変わります(判決でも「本件当時」とされています)。

アップサイクルの素材となる製品等を入手する場合,捨てられるはずだった製品である点では事業者にとって不要になった物ではあり,不要物にあたる可能性はあります。

しかし,新しい価値を加えるアップサイクルの素材として利用するのであれば,廃棄物処理費用を別途支払って処理をする必要もなく,無償での引き取りであっても取り引きをする価値があることになるので,事業者の意思を考えれば,「不要物」にはあたらないとも十分に考えられますし,そのように考えることがSDGsなどの現代の価値観により適すると評価できます。

そこで,基本的にはアップサイクルの素材を引き取って,加工をし,新しい価値を与えることに廃棄物処理法の適用は無いと考えられます。

 

4 最後に

以上のとおりですが,アップサイクルとして廃棄物処理法の適用を受けないのか,受ける可能性も無いのか,法的なリスクは無いのかなどについては慎重な法的判断が必要になることは十分に考えられます。

池田総合法律事務所では廃棄物処理関係の支援や助言なども行っておりますので,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉