租税回避か節税か、その分かれ目の基準は?-ヤフーの買収の申告漏れ
このところ税金に関する判決が相次いでだされ、注目を集めています。なかでも、グループ内の事業再編に関わる税金を巡るヤフーと国税局との攻防で、東京地裁が国税側を勝たせた事件は、組織再編税制における行為計算の包括否認規定(法人税法132条の2)の適用を認めた判決で、同規定が初めて適用されたケースになるのではないかと思われ、反響を呼んでいるようです(ヤフー側は控訴)。
ヤフーは、平成19年7月にソフトバンクの100%子会社IDCとの間で、両社の共同事業を進める覚書を交わしました。20年12月ヤフーの代表者I氏がIDCの副社長に就任しました。21年2月にヤフーはIDCの株全部をソフトバンクから450億円で取得しました。同年3月にヤフーはIDCを吸収合併しました。同年3月法人税の申告で、ヤフーはIDCの540億円に上る繰越欠損金を引き継いだとして課税所得から控除しました。ヤフーはこの欠損金と自社の利益を相殺して税負担を減らす予定でした。これに対して、麻布税務署は22年6月追徴課税の更正通知書を交付しました。買収は異常ないし変則的で、税負担を不当に減少させるとして、包括否認規定を適用して、欠損金の引き継ぎを認めませんでした。
親会社が100%子会社を吸収合併した場合には適格合併であり、欠損金を合併法人に引き継ぐことができるのは当然といったように見えますが、「みなし共同事業要件」を満たさない限り、IDCの繰越欠損金の全額を引き継ぐことができません。
合併の共同事業要件とは、両社に事業関連性があり、被合併法人と合併法人の事業規模が5倍を超えないこと(事業規模の比較は売上金額、従業員数、資本金額等による)、被合併法人の役員1名以上の者と合併法人の役員の1名以上が、合併後の法人の役員に就任すること、従業員等事業の承継などですが、ヤフーは個別の規定上は問題がないように思われますから、それでもなお、包括的否認規定により、否定されたのは、役員の就任が形式的なものに過ぎない、IDCの買収価格に欠損金の引き継ぎによる税金の軽減額を上乗せしている、ソフトバンクがヤフーに対して追徴課税相当額を返還する約束があったことなどが判断の材料になったようです。
包括否認規定は、納税者が租税軽減を主目的として、異常な法形式を採用した場合に適用されるとされた訳ですが、安易に適用が許されるとしたら、税負担の予測可能性をそこない、租税法律主義に反します。
法が想定していない特殊な異常な取引により税負担の軽減を図ろうとする租税回避行為と、法が本来予定している取引により税負担の軽減を図ろうとする節税行為の違いがよくわからない、といった声も聞こえてきそうです。
包括的否認規定の発動は、①合併・分割等の組織再編の場合のほかにも、②同族会社その他経営判断にオーナーが強い権限を有する会社、③連結納税グループ会社が行う取引も対象とされています。事業上の必要性や経済合理性に欠くものである場合やその会社でなければなしえなかった場合に「不当」性を認定される可能性があります。手続き順守はもとより、事業上の必要性等を根拠づける事実、その書類の整備が重要であると言えます。
法人の行為計算に起因した法人課税のほか、株主の所得税、相続・贈与税など個人課税にも響いてくるので、注意が必要です。
<池田桂子>