第6回 所有者不明土地・建物の管理制度

日本の国土の内、実に22%が、相続登記が未了であったり、住所変更の登記がなされていないため、所有者が不明の不動産であるといわれています(平成29年国交省調査)。こうした土地は、管理が適正に行われていないことが多く、荒廃、老朽化が進み周囲に危害を及ぼしている、あるいは、その危険があり社会問題化しています。

こうした場合、現行の法制度では、①所有者が不在として不在者管理人、②所有者が死亡し相続人が不明の場合は、相続財産清算人、③法人が解散して清算人となる人がいないときは清算人の、各選任を裁判所に申し立て、その選任を経て、適切な財産管理をしてもらうということが可能です。

 

しかし、これらの制度はいずれも、管理が不適切となっている不動産だけでなく、不明となっている人や法人の財産全般を管理する「人単位」の建付けとなっているので、財産管理が非効率になりがちで、利用者にとっても負担が重く、また、そもそも所有者が全く特定できないときはこれらの制度が利用できません。

そのため、新制度では、効率的な不動産の適切な管理を実現し、また、所有者が特定できず、所有者が誰だかわからないケースでも対応可能なように、問題となっている特定の土地・建物のみに特化し管理を行う、「所有者不明土地管理制度」及び「所有者不明建物管理制度」が創設されました(新民法264条の2~264条の8)。

申立人は、当該土地建物の管理について利害関係を有する人や地方公共団体の長で、不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ申立てをします。

申立の要件としては、調査を尽くしても所有者またはその所在を知ることができないこと(登記簿、住民票、戸籍などの公文書調査や現地調査など)及び管理人による管理を必要とする状況にあることです。

 

裁判所は、1か月以上の異議申し出期間を定めて公告し、申立を相当と認めるときは、管理人による管理命令を発令し、不動産にその旨登記されます。管理人は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士などが予定され、対象不動産の管理処分権を専属し(当該不動産だけでなく、不動産内の所有者の動産、管理人が得た売却代金などの金銭等の財産、建物の場合はその敷地利用権を含みます。)、管理人は、対象不動産に対する保存・利用・改良行為のほか、裁判所の許可を得て、対象財産の売却,取壊し等の処分が出来ます。不動産の売却などで、管理の必要性がなくなったときは、管理人は売買代金などの金銭を供託し、裁判所は、その旨の公告をして、管理命令を取消し、管理命令の登記を抹消して終了となります。管理人は、裁判所の定める金額の費用の前払いや報酬を受けることができます。

 

【管理不全土地・建物管理制度】

所有者が不明の場合だけでなく、所有者による管理が適切に行われず、建物が倒壊の恐れがあったり、植樹が道路上に覆いかぶさったり、あるいは、ゴミの不法投棄などにより、臭気や害虫発生により、近隣の人々、通行人に、危害を生じる恐れがあるケースや健康被害を生じさせているケースが見受けられ、地域の問題となっています。

現行の制度では、こうした管理不全の不動産の所有者宛、物権的な請求権を根拠に危害を及ぼす物件の撤去を求め、あるいは、慰謝料などの損害賠償の請求を訴訟上請求し、判決を得て、強制執行をする等で対応はできますが、手続きが煩瑣で手間暇を要します。また、不動産の管理権自体を所有者から取り上げるわけではなく、管理をしない所有者に代わって管理を行うという観点がないため、実際の不動産の状況に応じた、継続的で適切な管理ができないという限界がありました。

そのため、新制度では、管理不全土地・建物について、裁判所が、管理人による管理を命ずることができるとする、「管理不全土地・建物管理制度」を創設しました(新民法264条の9~264条の14)。

 

申立人は、管理不全土地・建物の管理についての利害関係を有する利害関係人、市町村長です。倒壊の恐れのある建物などの隣地所有者や、ゴミ屋敷化により臭気や害虫が発生するなどの健康被害を受けている被害者等も、申立人になることができます。

不動産所在地を管轄する地方裁判所に申立てますが、管理人によって管理費用を確保しておく必要性があるため、原則的に予納金の納付が必要となります。

緊急性があるような場合を除き、原則として、所有者からの陳述聴取が必要で、そのうえで、裁判所は、申立を相当と認めるときは、管理人による管理命令を発令します。管理人は、弁護士、司法書士などが選任されます。管理命令は、不動産への登記は予定されていません。

管理命令は、所有者に告知され、所有者、利害関係人は、即時抗告により不服申立ができ、この場合、決定が確定するまで、命令は効力を生じません。

管理命令の及ぶ範囲、管理人の権限、裁判所の許可を得て売却などもできることは、上記の所有者不明の管理人制度と同様ですが、土地建物の売却などの処分をするときは、所有者の同意も必要です。また、管理処分権限を所有者から完全に取り上げるものではなく、管理人に専属するものではありません。

管理人への費用の前払い、報酬支払、売却の場合の供託、公告、管理の継続の必要がないときの管理命令の取消し等は、所有者不明の管理人制度と同様です。

 

これら二つの新制度の創設により、既存の不在者財産管理人などの制度が廃止されるわけではなく、どの財産管理制度を利用するかは、手続きの目的、対象財産の状況、管理人の権限の違いなどを検討して、申立人が適切な制度を選択するということになります。

 

このほか今回の改正では、①相続人不存在の場合、3回の公告を統合して2回として、手続きの短縮化を図ったり、②相続放棄をした場合の財産の管理継続義務につき、放棄時に現に占有する相続財産につき、相続財産の清算人に引き渡すまでの間として、その対象、終期を明らかにするなどの改正が行われている。

 

池田総合法律事務所では、従来から、所有者不明問題を含む、不動産の共有問題全般について、セミナーなどを通じて皆様に情報提供し、また、具体的な案件を担当しておりますので、お困りの案件がございましたら、ご相談できれば有益なアドバイスができると思いますので、ご気軽にご相談ください。

(池田伸之)