経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広がり始めている~代表者の保証債務からの解放・軽減~

従来、会社の経営が立ち行かなくなったとき、会社については、私的整理や法的整理(破産、再生)で処理する一方、会社債務について、個人保証をしている代表者については、破産ないし再生で処理するという扱いが一般的でした。

 

しかし、それまで地域での知名度も高く、活躍した経営者の方々にとって、「破産者」という烙印を押されることは耐え難く、破産手続をとることは、ハードルが高いものです(かつてのように、破産者が選挙権も制限されてしまい犯罪者と同様に見られていたという誤解はなくなってはきていますが。)。

 

破産手続による整理も、自由財産という形で保持できる財産も拡がり、リスタートの手段としての有用性は現在においても変わりはないのですが、心理的な障害の高さは依然として残っています。

そのため、中小企業団体、金融機関団体、法曹関係者が集まって研究会を作り、保証問題について検討をし、自主的、自律的なルールとして、平成25年12月に、「経営者保証に関するガイドライン」(以下、GLといいます)を公表しています。

 

GLの公表から、今日までに5年が経過し、このルールに従った運用が徐々に定着しつつあります。

 

GL利用のメリットとしては、代表者にとっては、個人破産を回避し、かつ、柔軟な解決が可能で、場合により、破産における自由財産の枠をこえた財産(インセンティブ資産といいます)を手元においておけるということがあり、債権者側にとっても、早期の債権回収、管理コストの圧縮、また、地域経済の活性化にも役立つといった点があげられます。

 

GLの適用にあたっては、誠実性の要件というものがあり、正確な帳簿記載、収益、財産の状況の開示が求められます。どこまでの正確性が求められるかは、それほど厳密ではなく、悪質性の高い場合(多重の決算書、多額の簿外債務等)は駄目ですが、そうでなければ、たとえば、中小企業ではありがちな在庫や売掛金の評価が適正でないといった点についても、GLの利用を開始するに際し、評価替えをして、実態に即した貸借対照表を作成すれば、問題となることは少ないと思われます。

 

また、会社が早期に再生等の手続をとり、保証人がGLの適用を求めた場合は、これを放置して時間が経過して財産状況が悪化した場合に比べて、債権者としても、全体として、回収見込額が増加することから、「経済合理性」ありとされ、その増加額の範囲内において、破産手続の中で認められている自由財産のほか、「一定期間の生活費相当額」(年齢に応じ、99~363万円が目安)と「華美でない自宅」等の保有が認められています。

 

但し、会社の経営状況が悪くなれば、個人資産を投じていることが多く、こうしたインセンティブ資産が、上限ぎりぎりまで残っていることはほとんどありませんが、破産の場合の自由財産よりは、より広い範囲で財産を残せることに間違いありません。また、「自宅」の確保といっても、多くの場合、債権者の担保に入っているため、こうした場合でも、「自宅」の担保を無条件ではずして、残すことができるというわけではありません。

 

GLに沿った情報の開示等を経て、原則5年以内の分割弁済の案について、債権者である金融機関と概ね合意が出来た場合には、簡易裁判所の特定調停を申立てることにより解決していくことになります。この手続をとることにより、債権者側も、回収不能額につき、無税で償却ができるメリットがあります。裁判所に納める申立の費用も、現在では、多くの裁判所で、債権者の数、支払うべき債権の圧縮金額の多寡にかかわらず、6500円でできるようになっています。

 

会社債務や個人保証の整理に当たって、このように解決手法が一つ増え、選択の幅が広がりました。このような点でお悩みの方は、ご相談ください。(池田伸之)