著作権判断の難しさー 釣りゲータウン VS 釣り★スタ事件から
グリー株式会社が同社の携帯電話機用ゲームソフト「釣り★スタ」について、同種のゲームソフトである「釣りゲータウン2」を送信している株式会社ディ・エヌ・エー他に対して、著作権(翻案権、公衆送信権)や不正競争防止法などを侵害しているとして、ウェッブページでの掲載の差し止めや作品影像の抹消、謝罪広告などを求めた裁判では、一審、東京地裁(平成24年2月23日)と知財高裁(平成24年8月8日)の判断が全く異なる結果となりました。
東京地裁の判決は、原告グリーの作品は、魚の引き寄せ場面が、水中に三重の同心円を大きく描き、釣り糸に掛った魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の所定の位置にいたときに引き寄せやすくすることによってあらわした点がそれまでの作品には見られなかった独創的な点であると評価しました。被告の作品は相違点はあるものの、原告の作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴、すなわち、水面上を捨象して水中のみを真横から水平方向の視点でとらえている点、水中に三重の同心円を表示する点、魚が同心円の一定の位置に来た時に決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点等についての同一性は維持されている、などとして、多数の選択の幅がある中で、被告の採用した具体的な表現は、共通点において、アイデアにすぎないとはいえない、と著作権の侵害ありと判断しました。
これに対して、知財高裁は、釣りゲームにおいて、魚や釣り糸を表現すること自体はありふれたもの、魚影をもっと表現すること自体アイデアの領域で、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない、と一審原告の主張の大半を退け、原告に厳しいとも感じられる判断を示しました。
表現行為に至らないアイデアはそのままでは保護されません。他人のアイデアはどこまで参考にすることが許されるか、他の作品そのままでなく、同種のアイデアを表現した場合の許される表現の限界の判断は難しいものです。
原作品に変更を加えて新たな二次的作品を作り出し、その二次的作品にはなお原作品の創作性が認められる場合に、原作品の著作権者は何も文句が言えないのか、ここで行使されるのが著作物に対する翻案権です。翻案の範囲に入るのか、それとも単に原作品のアイデアを利用しただけで原作品の著作権を侵害したことにはならないのか、非常に難しく裁判例も多いところです。裁判所は「二次的作品から原作品の表現上の本質的特徴を直接感得できるか」という基準を使って判断していますが、具体的な判断は両作品を実際に見て比較検討しないと何とも言えません。
両作品の類似している部分に着目し、その類似部分が原作品の表現上の本質的特徴かという判断を行うわけですが、どうしても最後は裁判官の主観に影響される印象があります。
絵をコピー機でコピーする等、原作品をそのまま特に変更せずに利用する場合は複製権の問題になります。他方、人物画を描くに当たり正面からではなく振り返った姿勢を描いた絵を参考にして同じように描いてみるなど、あくまでアイデア或いは創作性の無い部分が共通するだけで実際に出来上がった絵は全く別個のものである場合は著作権侵害の問題は生じません。問題はこの中間部分です。
身近な例で言えば、インターネット上で日記やブログ、または個人サイトで、英語などで書かれた文章を許可なく翻訳し、インターネット上にアップさせる行為、これは翻訳権の侵害になります。また、ある文章を表現などもそっくりそのまま使って短い文章に縮めて表現する行為は翻案権の侵害にあたります。しかし、同じような内容でも、表現をそのまま使わずに、自分の言葉で表現しているのであれば、それは翻案権の侵害にはなりません。いずれにせよ、自分の表現行為として、これが他人と違う本質的な特徴であるという部分が大切ですね。
みなさんは、釣りゲームソフトの事件、どう思いますか。(池田桂子)