誤嚥事故は避けられないが・・ 事故が起きた時の対応を判例から考える
4人に1人が65歳以上の高齢者となる時代、75歳以上の後期高齢者と呼ばれる年代層も増加しています。有料老人ホームや特別養護老人ホームはもとより、自宅から通うデイサービスなどでも、食事提供が行われています。咀嚼能力の低下が伴う利用者には、誤嚥事故のリスクが伴います。
誤嚥事故を防止するためには、
①事前には、入所やサービス利用契約時の情報収集(利用者からは情報提供)が欠かせませんし、具体的な支援計画や日々の体調管理、チェックが欠かせません。
②食事時には、まず、提供する食事の内容、提供される食材の選択という行為それ自体の適切さが問われます。通常食でよいのか、ミキサー食、ソフト食といったものが適しているのか。しかし、通常食からの切り替えには、本人の精神的なショックも伴うので、説明や了解も必要です。
判例では、長さ2センチ、幅5ミリのかまぼこ片を詰まらせた事例、こんにゃく1センチ大、はんぺん数片を詰まらせ死亡した例で、施設側の責任を認め賠償を認めたケースがあります。
通常食の提供がそれまでの本人の状況に照らして問題がなかった事例、たとえば、嚥下体操を励行していたり、通常は自力で食事が可能であった事案などでは、責任が否定されています。
加えて、食事時のみまもり体制や介助の職員体制などが問われます。
③事故時、誤嚥が発生した場合に責任が肯定されている事例を複数比較してみると、事故発生後直ちに、タッピングやハイムリックなどの方法で誤嚥物の排出除去を試みたり、吸引して取り除くように努めることはもとより、改善されない状況にあれば、直ちに、救急搬送体制をとることが求められているといえます。
その時の5分、10分の遅れが、死に至らせることがあるという危機意識や咄嗟の判断を求めている最近の判例がいくつか見られます(東京地裁平成19年5月28日判決など)。
高齢者は持病を持っている場合もあり、死亡に至る機序が争われることもあります。もっとも、要介護度が4、5といった高さにあることで、直ちに事故の責任が重くなるのではありません。
アルツハイマー認知症にり患し、大量にほおばる癖があった要介護4の高齢者(85歳)が自力で通常食を食べていたケースでは、介護体制、搬送体制等に問題はないと判断されています(東京地裁平成22年7月28日判決)。パーキンソン症候群で要介護5の81歳の高齢者が業者から取り寄せた通常食で死亡したケースでは、いつもどおりに嚥下体操を行い、利用者23名に対して職員5名で見守っていたところ、しゃっくり、痙攣、震えを起こし、その場でタッピングなどを施し、併行して救急車の出動を要請して対応し、賠償責任は否定されています(東京地裁平成22年12月8日判決)。
施設側としては、高齢者のケアを引き受けるというからには、誤嚥事故の発生のリスクを潜在的に抱えているのですから、支援計画、日頃の体調管理を十分にして、情報を職員全員で共有し、連絡体制を万全にして、安全配慮義務を尽くすように心がけることが重要です。情報を共有するためには、介護日誌、看護日誌の記載、連絡メモなどを整備しておくことがポイントであると思います。
そして、食事の際には、頸部を前屈しているか、嚥下動作に異常はないかなど、ポイントを突いた観察が事故を防止できるかどうかを左右します。ルーチンに行われるようにすること、日常からの体制作りが大事ということを判例は示していると思います。(池田桂子)