遺産分割と使途不明金

遺産分割の協議をしたり、調停で話し合いをしている時に、多くのケースで問題となるのが、使途不明金(預貯金の無断引きだし)、特別受益、寄与分の問題です。これらはいずれも、機械的で杓子定規な法定相続分を基準とした分割による不公平を是正し、相続人間で公平、公正に遺産分割を進めるために認められた制度でありますが、反面、法律上の要件、立証方法等について、難しい問題があり、話し合いを長引かせる要因にもなっています。今後、3回に亘ってこれらの問題を取り上げ、裁判所での取り扱いを含め、ご説明をしていきたいと思います。 

 

今回は、使途不明金の問題です。

 

相続人名義の預貯金があり、相続開始の前後にその払戻しがなされており、その使途が明らかでないとして、遺産分割の際に、この問題が取り上げられることが多いものです。生前は、たとえ親子でも預貯金の履歴を名義人の同意なく調べることは出来ませんが、死亡して相続が開始した後は、相続人という立場で、他の相続人の了解を必要とせず、単独で、金融機関に取引履歴の開示を求めることができます。その結果、同居していない相続人が、亡くなる時期に接して高額な預金が引き出されている等として、同居家族が無断で引き出したのではないか等といって争うことがあります。

 

引き出した現金については、名義人から相続人への贈与の場合もあるでしょうし、死亡後の葬儀等に備えて、その支払いに備えて預かっている場合もあるでしょう。相続人全員で、この引き出した現金につき、取得をした相続人が相続分として既に一部取得したものと扱う、あるいは、贈与があったとして取得した相続人の特別受益であるとして、合意できれば、遺産分割手続の中で解決する事が可能となります。

 

しかし、こうした合意ができない場合は、遺産分割の手続の中では解決ができません。預金が、名義人である被相続人に無断で引き出されたとして争う相続人は、その引き出し金を取得した相続人に対して、その引きだし行為が不法行為にあたる、あるいは引き出し金を取得する根拠がないとして、不当利得である、従って、自分の法定相続分に応じた金額につき、取得をした相続人に対して地方裁判所あるいは簡易裁判所に民事訴訟を提起して、解決しなければいけなくなります。

 

争いうるにしても、争っていく方が、訴訟を提起しなくてはいけないという負担を持つ上、引きだし行為や引きだした金の取得について、争われた場合、立証が困難な場合もあります。

 

この問題が解決しない限り、遺産分割の話し合いも事実上止まってしまう事態を招くことになり、紛争が長期化する懸念もあります。立証上の負担や長期化することによるデメリットなども考え、調停手続の中で譲り合って解決していくのが妥当ではあるのですが、関係者らの感情的対立があって、そうもいかないケースも少なくないのが実情です。

 

振り返れば、被相続人の生前に、財産管理をしているキーパーソンが誰か、また、適切な管理がなされているかが鍵と言ってよいでしょう。相続争いの前哨戦とも言うべき状況が進行している可能性がある訳で、なかなか難しいことではありますが、相続人同士で、被相続人の財産管理の状況に気を配る必要も考えられます。  (池田伸之)