「最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例」

日本国内の非正規就業者は、年々増加傾向にあり、2020年までには約2165万人まで増えましたが、昨年は、新型コロナウイルス感染拡大によって経済が低迷したことにより減少に転じ、同年8月時点では2070万人になりました。

経済が低迷すると、弱い立場の労働者が雇用の調整弁として扱われ、解雇や雇止め等により、苦境に立たされることになります。働き方が多様化する中、公平な待遇が求められるところです。

このような中、正規・非正規の格差解消をめぐる最高裁判決が、2020年10月13日に2件、同月15日に3件出されましたので、ご紹介したいと思います。

 

(1)まず、日本郵便(東京、大阪、佐賀)の契約社員らが、正社員との待遇格差について争った3つの裁判(下記①~③)では、主に「扶養手当」「年末年始勤務手当」「夏期冬期休暇」について争われました。

最高裁は、正社員と契約社員の労働条件の相違が労働契約法旧20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるとの判断基準を示した上で、これらすべてについて、格差は不合理であると判断しました。

①令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第794号、第795号)

本判決は、「扶養手当」について、従業員の生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられるため、同手当の目的に照らせば、正社員と本件契約社員との間に扶養手当にかかる労働条件の相違があることは、不合理であると判断しました。

②令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第777号、第778号)

本判決は、「年末年始勤務手当」について、多くの労働者が休日として過ごしている年末年始に、業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるとして、その手当を支給する趣旨は時給制契約社員にも当てはまるとして、時給制契約社員に同手当を支給しないことは不合理であると判断しました。

③令和2年10月15日第一小法廷判決(平成30年(受)第1519号)

本判決は、「夏期冬期休暇」について、業務の繁閑にかかわらない勤務に従事する契約社員については、正社員と同様に、夏期冬期休暇を与える趣旨が妥当するとして、夏期冬期休暇にかかる労働条件の相違を不合理であると認めました。

 

(2)つぎに、東京メトロ子会社の契約社員、及び大阪医科薬科大の元アルバイトが、正社員との待遇格差について争った裁判(下記④~⑤)では、主に「賞与」「退職金」について判断がなされましたが、最高裁は、いずれも正社員と契約社員等との業務内容に違いがあることを重視し、不合理であるとは認めませんでした。

④令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1190号、第1191号)

本判決は、「退職金」について、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い的性質や、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に支給することとしたものと言えるため、契約社員に支給しないことも不合理であるとまでは言えないとしました。

⑤令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1055号、第1056号)

本判決は、「賞与」について、正社員と契約社員で業務の内容は共通する部分はあるものの両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないこと、人事異動の可能性の面から、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できないとし、契約社員への不支給を不合理ではないとしました。

 

(3)以上のように、最高裁の判断は、非正規就業者と正規就業者の待遇の格差を完全に解消するものではありませんでしたが、個々の労働条件が定められた趣旨が非正規就業者にも当てはまる場合には、正規就業者と差をつけることは不合理であると判断しており、格差是正の道筋を、一定程度示したということが言えると思います。

新型コロナウイルス感染症により社会が大きく変わる中、雇用のあり方も一段と多様化していくのかもしれません。変化の中にあっても法令順守は必要であり、法令の枠内で企業や従業員にとって最善の方策を、弁護士とともに模索することが必要です。

各企業には、非正規就業者の待遇改善は社会的責務であるということを自覚し、格差解消のための取り組みを期待したいところです。

<石田美果>

アフターコロナを見据えた働き方改革の枠組

1 厚生労働省主導による働き方改革

働き方改革は「個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革」とされています(厚生労働省HPリンク)。

このような改革が推進された背景には、人口減少と少子高齢化に伴う働き手の減少と、個々の事情に応じた働き手のニーズの多様化という大きな社会環境の変化がありました。このような変化に対応するための働き方改革のポイントは、①長時間労働と②正規・非正規労働者間の格差の見直しであり、従来の日本型雇用に内在する大きな社会問題の解決を目的としています。

働き方改革関連法は2018年に成立し順次施行され、①長時間労働是正のための規制(残業時間の上限規制、1年あたり5日の年次有給休暇の義務化、労働時間の客観的把握の義務化等)や、②格差是正のための規制(不合理な待遇差の禁止、差別的取扱いの禁止、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化等)が進められてきました。

 

2 コロナウイルス感染拡大下の働き方の変化

そのような中で新型コロナウイルス感染が拡大し、新型コロナウイルス感染対策の必要からも働き方は大きく変わらざるを得ない状況となりました。①長時間労働の是正と②格差の是正を内容とする働き方改革を進めてきた企業は、新たに③感染拡大防止のための働き方の変化をも求められることとなったのです。

テレビのニュースなどでは、③感染拡大防止の要請への対応も含めた働き方の変化を、広く働き方改革と呼んでいることもあるようです。たとえば、リモートワークは、改革の名称にふさわしいインパクトと革新性(会社に行かなくてもいいんですか!?)を持っていますし、感染拡大防止効果だけでなく、働き方改革が目標とする多様な働き方を可能にする側面も持っていますので、若干の混乱は避けられないところです。

社会内で、各種の要請のもと働き方の変化が強く求められる状況にあり、不適切な働き方を継続することは、企業を社会的非難にさらし、企業価値を損ねることにつながりかねません。現在、企業は長時間労働と格差是正に加えて感染拡大防止にも配慮した働き方を模索する中で、新たな問題への対応を日々求められる状況にあります。

例えば、リモートワーク下での適正な労働時間管理の在り方は感染拡大防止と長時間労働の是正にかかわる新しい問題ですし、正社員をリモートワークとし非正規社員のみに出社を求めることは感染拡大防止と格差是正にまたがる新しい問題になりえます。また、リモートワークにはセキュリティ上の体制構築も不可欠ですし、リモートワークをきっかけとした働き方の変化はメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への変化を推進し、従業員の意識を変化させるかもしれません。

 

3 働き方の変化に伴う体制づくりの必要性

すでに取り組みを始めている企業も少なくないでしょう。とはいえ、時に衝突しかねないような各種の要請(法令、感染拡大防止、情報セキュリティ、従業員のマインド等)を調整して体制を構築するのは多大な負担を伴うものと思われます。

これらの新しい問題へ対応する適切な体制構築には、業務に関連する各種法令についてその趣旨にまでさかのぼった多面的かつ慎重な法的検討が必要であり、法的な専門家による関与が望ましいです。

当事務所には一般企業での勤務経験のある弁護士も在籍しております。働き方の変化に伴う各種問題について、ご相談ください。

 

山下陽平

 

ポストコロナに向けて事業見直しの視点~コロナ禍危機下でここからが経営者の勝負どころ~

1 はじめに

新型コロナウィルスの感染拡大により、個人生活はもとより会社経営のさまざまな事業局面に影響が生じています。2021年1月には2度目の緊急事態宣言が首都圏、近畿圏、中部圏などの11都府県に出されました。完全な終息はいつとなるのか予測はつきません。新型コロナウィルスの関係では131万人が失業したといわれる一方、株高などにみられる金余りで投資先を探すなどの状況も見られます。

先行きの不透明感を抱えながらも、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をはじめスタートアップ企業の誕生がつづくなど、いろいろな変化が見られます。また、従来の業務を見直して、コロナ後に向けて、仕事の進め方や働き方を見直し、変化へのスピード感のある対応をしようという姿勢が大切であると思います。

様々な変化が急激に起きる今日、維持・成長・変革につながる新たな視点に気付いた企業、企業家は強いと思います。大きな枠組みで、法律上の今考えるべき視点を整理して、連続ブログを企画しました。予定している内容は、後述の通りです。

皆さまのお役に立てれば幸甚です。

 

2 DXへの取組み

初回のこのブログでは、最近、よく聞くDXについて、少し述べてみたいと思います。

DXデジタルトランスフォーメーションについては、経済産業省がデジタルトランスフォーメーションのガイドライン(DX推進ガイドライン)を2018年12月にまとめています。それによれば、DXとは企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービスビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立することを指しています。

本ガイドラインは、DXレポートでの指摘を受け、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が抑えるべき事項を明確にすること、取締役会や株主がDXの取組をチェックする上で活用できるものとすることを目的としています。

本ガイドラインは、「(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つから構成されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットワークやIT化の進んでいない企業も多いところ、紙の文書をデジタル化することでデータのやり取りを各段に便利にし、それをもとに個別の業務をデジタル化する(例、テレワークでネットを使う、ネット決済など)、更には全社的に業務をデジタル化を展開するという段階を進んでいきます。

コロナ禍にあっても、進めておかなければならないデータの利活用を検討していただき、社内、グループ会社間、他社との連携や協力を見直し、新しい企業価値の創造を目指すことは、どの事業者にとっても避けて通れないところと思われます。その見直しの過程で、事業の変更、リスクの洗い出し、自らの事業の強化策、できること・できないことの整理などが明確になってくるものと思います。

 

3 予定している企画内容

(雇用をめぐる問題)

1 働き方改革の枠組み

2 最近の正規・非正規の格差解消をめぐる判例

-最高裁の5つの判決と同一労働同一賃金の原則について

 

(事業再編や事業承継をめぐる問題)

3 廃業を考えるなら、事業承継の4つの手法をまず検討―親族への承継、M&A、自社株売買、信託の活用

4 ベンチャー企業による資金調達

 

(組織の見直し)

5 情報管理-個人情報保護法の改正と情報セキュリティー問題への理解を深めておく

6 社内クレームへの対応-ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって

7 債権回収の進め方

 

(業務の見直し)

8 不正競争防止法を意識していますか

9 文書管理は適切ですかー契約書印の廃止と文書の保存

10 ディスクロージャーとの遭遇も考えておく

 

<池田桂子>

立会人型電子契約に関する論点

1.電子契約は,①当事者が自ら秘密鍵を用いて電子署名を行うタイプ(当事者型)と,②サービス提供事業者が立会人として電子署名を行うタイプ(立会人型)の2種類あります。

電子契約市場では、立会人型のタイプ(例:Docusign、クラウドサイン等)が多数を占めます。しかし、立会人型電子契約上の電子署名が、電子署名法2条1項に定める「電子署名」にあたるか、更に、電子契約のような電子文書の成立の真正(作成名義人が真に作成した、つまり誰かが偽造していないということです。)の推定に関する規定である電子署名法3条の適用があるか議論があります。

仮に、電子契約の成立の真正が訴訟で争われた場合、同条により成立の真正の推定を受けられなければ、争われた側は、契約締結に至る経緯や電子契約を用いることを当事者間で合意していたことを示すメール等を材料に成立の真正を立証していくことになります。他方、成立の真正の推定を受ければ、成立の真正を争いたい側が特に反証をしない限りその電子契約は真正に成立したことを前提に訴訟が進んでいくことになります。そのため、電子契約に関する紛争が訴訟化した場合、同法3条の適用があるかないかで、当事者の立証の負担の度合いに影響があり得ます。

本コラムでは、立会人型電子契約の電子署名が電子署名法上の「電子署名」にあたるか、仮にあたるとして、当該電子契約が同法3条の適用を受けるかについて解説します。なお、この点に関し、令和2年7月17日及び同年9月4日に総務省、法務省、経産省のQ&Aが公開されています(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei_qa.pdf )(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei3_qa.pdf )。

 

2.電子署名法2条1項の「電子署名」にあたるか

「電子署名」は、同条項によると、デジタル情報に行われる措置のうち、①当該デジタル情報が当該措置を行った者により作成されたことを示すものであり、②当該措置が改変されていないか確認できるものを指すとされています。つまり、「電子署名」であるためには、①本人が作成していることと②非改ざん性が要求されます。

この点について、立会人型電子契約の電子署名は、物理的には立会人が暗号化等の措置を行っているため、契約当事者である本人が作成したとはいえず、電子署名法上の「電子署名」にあたらないのではという問題が生じます。

しかし、前記Q&Aによると、電子文書について、技術的・機能的に立会人の意思が介在する余地がなく、本人の意思のみに基づいて、機械的に暗号化されたものであることが担保されていれば、その電子文書への署名は本人が作成したものと評価できる、すなわち当該署名は電子署名法上の「電子署名」にあたるとされています。

 

3.次に、立会人型電子契約の電子署名が、電子署名法上の「電子署名」にあたるとして、成立の真正についての規定である電子署名法3条の適用を受けるか検討する必要があります。

この点について、前記Q&Aによると、①電子文書に、「必要な符号及び物件を適正に管理することにより本人だけが電子署名を行えるようになっている」電子署名が付されており、かつ、②当該電子署名が作成名義人本人の意思に基づき行われたことの要件を満たす場合に限り、電子署名法3条により電子文書の成立の真正が推定されます。

要件①を見ると、電子署名法第2条1項の「電子署名」より更に要件が加重されています。同法3条の効果を生じさせる前提として、暗号化等を行うための符号について他人が容易に同一のものを作成できないことを要求する趣旨です。十分な暗号強度(例:2要素認証)を有する電子署名に限り、同法3条の適用を受け得るということです。

また、紙の文書に関しては、作成名義人本人の意思に基づいて文書上の印影が顕出されたことを前提として、その文書の成立の真正が推定されるとされるため(民事訴訟法228条4項の解釈)、電子文書についても同様、本人の意思に基づき電子署名が行われたことが要求されます(要件②)。

以上のとおり、立会人型電子契約でも、電子署名法3条によって成立の真正が推定される余地が十分あるということになります。

4.しかし、立会人型電子契約について成立の真正の推定を受けるには、立会人型電子契約の利用者と電子契約の作成名義人の同一性が担保された、暗号強度に信頼性のあるサービスであることが前提です。

そのため、紛争予防の観点から、立会人型電子契約を導入する際は、当該サービスの、利用者の身元確認の程度、なりすまし防止対策、暗号強度のレベルをしっかり確認することが重要です。電子契約導入にお悩みの方は池田総合法律事務所にご相談ください。       <藪内遥>

遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について

民法(相続法)改正により、遺留分制度も大きく変わりました。その中で、今回は、遺留分減殺請求権が遺留分「侵害額請求権」に改正されたことに伴う具体的な影響について考えてみます。

 

従前の遺留分減殺請求権は、権利行使(意思表示)をすると「当然に物権的効果」が生じるとされてきました。登記などの手続等を要しないで、直ちに、権利移転の効果が生じるという扱いでした。

 

これによれば、遺留分侵害の割合が3分の1とすれば、遺留分減殺請求権の行使の意思表示によって、全遺産につき、個々に3分の1の持分権が遺留分権利者に生じることになります。したがって、会社等の事業用資産や会社の株式などにも遺留分権利者の権利(持分権)が発生することになります。

会社の株式の場合、全体の株数にその割合に応じた株式が割り当てられるわけではなく、1株ごとに共有(正確には、準共有)ということになります。したがって、株主権を行使するときにも、共有者間で協議が必要となり、対立関係者間で共有されているときは、株主権という権利行使自身が円滑に行えないケースも想定され、事業運営に重大な影響を与えることになります。この場合、遺留分行使を受けた側から持分相当の価格を弁償して、遺留分の行使に対抗できますが、そのための協議なり裁判手続なりで解決するまでは準共有状態が続きます。

 

ところが、今回の改正では、遺留分を侵害された人が遺留分侵害額請求権を行使することにより、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権(金銭債権)が生じることになり、上記の「物権的効果」が生じるわけではなくなりました。不動産や株式についても、遺言等によって、取得した相続人等は、遺留分権利者からの持分主張を受けることなく、完全な所有権を取得することができ、安定的な事業運営ができることになります。

但し、このように遺留分侵害額請求権という形で、金銭債権化したことにより、逆に、気を使わなければならないことも出てきます。

 

たとえば、相続財産も含めて金銭がなく、そのため、金銭支払いに代えて、不動産や株式の現物で渡す場合、譲渡人の方に譲渡所得税及び住民税が発生する場合があります。弁済資金を直ちに準備できない場合、遺留分侵害額請求とされた人の請求により、その人の資力や、贈与または遺贈された財産等を考慮して、金銭支払いについて、裁判所の判断で期限の許与(支払時期を延ばす)ことができるようになりました。こうした制度を利用するのも一つの方法です。

 

なお、譲渡所得税等の課税を回避するために相続人全員(第三者の受遺者がいるときはその人も含めて)の同意が得られるのであれば、遺言書による相続ではなく、改めて遺産分割協議書を作成して相続をすることも考えられます。

 

また、事業承継税制によれば、特例猶予相続承継期間(5年以内)に後継者が贈与された株式を現物返還すれば、贈与税の納税猶予が取消されますが、改正前の民法の場合は、遺留分行使により、株式が共有状態になることから、株式を現物返還しても、株式の一部の譲渡とは考えられなかったのですが、新法になってからは、遺留分行使をしても株式の共有状態は発生しないため、株式という現物で返還をすれば、取消の対象となってしまいますので、注意が必要です。

 

遺留分は遺言の作成がなされた時の問題ですから、遺言を作成する際には、将来生ずるかもしれない遺留分のことも念頭におくことは当然として、さらに、上記のようにその権利の性質の変更にも気を配る必要があります。

 

池田総合法律事務所では遺留分や遺言に関するご相談や遺言の作成についても対応しておりますので、是非、ご相談下さい。

(池田伸之)

コロナ版ローン減免制度について

新型コロナウイルス感染者数が再び増加し、医療崩壊が懸念されるなど深刻な事態になっています。新型コロナウイルス感染拡大の影響は経済にも及び、倒産や失業者数も増加しています。

これに対しては、新型コロナ関連の各種補助金の支給やGotoキャンペーンなど様々な施策が取られていますが、その一つとして、2020年12月1日から、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて住宅ローンの支払いが出来なくなった債務者に対しても、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が適用されることになりました。

本コラムでは、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」と「新型コロナに関する特則」の内容について、ご紹介したいと思います。

1.「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」について

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」は、自然災害の影響を受けたことによって、住宅ローン等の債務を返済できなくなった個人の債務者を対象に、破産手続等によらずに、債権者と債務者の合意にもとづき、債務整理を行う際の準則として取りまとめられたものです。

従来の破産手続等と比較した際の大きなメリットは、①債務整理をしたことが信用情報登録機関(いわゆるブラックリスト)に登録されない。②破産手続きの場合に比べて、手元に残せる財産(自由財産)が多い。③「公正な価格」を支払うことで、自宅を手元に残すこともできる。④原則として、保証人に対しては保証履行を求められないという点があります。

他方、デメリットとしては、私的整理の一種であるので、全債権者の同意が必要という点があります。同意が得られなければ、通常の破産手続等を選択することになります。

債務者は、本制度の利用にあたって、弁護士等の「登録支援専門家」の支援を無料で受けられます。

2.「新型コロナに関する特則」について

本特則は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、失業や収入・売上げの大きな減少によって、住宅ローン等の債務を弁済できなくなった個人の債務者(個人事業主を含む)のために、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を補完するものとして新たに設けられたものです。

(1)対象債務は、対象債権者に対する債務のうち、以下の債務です。

ア.2020年2月1日以前に負担していた既往債務

イ.2020年2月2日以降、本特則制定日(2020 年 10 月 30 日)までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上げ等の減少に対応することを主な目的として以下のような貸付け等を受けたことに起因する債務

① 政府系金融機関の新型コロナウイルス感染症特別貸付

② 民間金融機関における実質無利子・無担保融資

③ 民間金融機関における個人向け貸付け

なお、令和2年10月31日以降に受けた貸付等に起因する債務はこの制度による減免の対象にはなりませんので、同日以降に住宅ローン等の借替え等をしてしまうとコロナ版ローン減免制度を使えなくなるため、注意が必要です。

(2)対象となり得る債務者

新型コロナウイルス感染症の影響により収入や売上げ等が減少したこと(具体的には、基準日である2020年2月1日以前の収入や売上げ等に比して債務整理開始申出日の収入や売上げ等が減少していること)によって、住宅ローン等、その他の本特則における対象債務を弁済することができないこと、又は近い将来において本特則における対象債務を弁済することができないことが確実と見込まれることが必要となります。

その他の要件は、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の以下の要件と同様です。

・弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること。

・基準日以前に、対象債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない。

・本特則に基づく債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と 同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

・債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること。

・反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと 等

(3)制度の利用

本制度を利用するには、まず最も多額のローンを借りている金融機関に対し、制度の利用を申し出ます。その際、当該金融機関から、借入先、借入残高、年収、資産などの状況を聞かれることがありますので、事前に借入等の状況がわかる資料を揃えておく必要があります。

上記金融機関から手続着手について同意が得られた後、弁護士会などを通じて「登録支援専門家」による手続支援を依頼し、当該専門家の支援を受け、金融機関等に債務整理を申し出ることになります。

制度の詳細は、下記のHPをご参照ください。

http://www.dgl.or.jp/guideline/

(一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関)

以上

(石田 美果)

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑨

2020年大統領選挙について

  https://www.ynassociates.net/ より

毎年11月の第一火曜日はあらゆる選挙が行われます。その中でも4年に1度の大統領選挙は大事な日になります。今年の11月3日はその、4年に1度の大統領選挙の日です。

共和党と民主党のどちらを国民が求めているのか問われます。今回、感染問題と人種差別が焦点になり、それぞれの党の意見が大きく別れました新型コロナ対策においても、「コロナ感染はほっておいても自然消滅する。大騒ぎすることはない」という共和党と「マスクをして人との接触を避け、自粛をする」という民主党が真っ向から対立しています。

共和党と民主党の支持者の差は、日本では考えられない国の大きさも要因の一つでしょう。米国の地図を見ると共和党が集まる州は、人口密度が低いです。多くの農業に携わる地域では、人より牛の数が多かったり、隣の家まで車で30分以上かかる、なんて場所も多かったりします。また、そういう地域で放送されているニュースなども、かなり限られた情報だったりします。

今回の選挙は、大統領が選挙当日に投票に行きましょうと呼びかけ多くの共和党支持者が詰めかけました。大都市では人が密集しないように期日前投票を呼びかけました。この期日前投票の差が開票に大きく反映されています。

郵便投票は以前からも多く使われる方法ですが、今年ホワイトハウスは、「郵便投票には切手を貼らなければ受け付けない。投票箱の設置はごくわずか」と、投票所に行けない人や感染を恐れる人にプレッシャーを与えました。期日前投票の期日に間に合わない、投票所に到着出来ない投票用紙は無効だとも言いましたが、結局は連邦裁判所の判断は、郵便消印が11月3日であればどんなに時間がかかっても有効、期日前投票も開票所に到着が遅れての有効と決定したため、選挙結果が決定するまで長い期間待つことになりました。

期日前投票の決まりを裁判所が判断するのを待つ前に、人口密度の高い地域は、早めの期日前投票所に押しかけ、郵便投票も早め早めに投票所に行う人が増えました。そうした票が開票所に届いて、開封と2重に投票していないかの確認作業に追われましたし、それは今現在も続いています。

それに世界中にある米国人の票を各国の領事館が集め、軍人や軍の家族、軍の船舶で航海中の軍人の票も数える必要がありますから、到着には時間がかかります。最終的な数は今週いっぱいかかることでしょう。すでに開票された数字から当選確実になったバイデン氏は米国は合衆国で2つに分かれていてはいけない、50州が一つになり解決していくことが大事だと呼びかけています。

2つの党がそれぞれにそれぞれの政策を主張することは当たり前ですが、「敵」だとか「危険集団」だとかという言葉が出るのはトランプ政権の4年間で初めて体験しました(残念ですが、移民に対しての偏見や黒人差別は実際にあります)。

ある黒人の男性が、「トランプ氏は3代前は移民でしょ? 奥さんは移民ですよね。私たち黒人は移民ではありません。多くの白人よりも前に誘拐されてきたのですよ」とコメントしていました。ショッキングな言い方ですが、正しい発言です。改めていろいろ考えさせられる選挙でした。

多くの人がトランプ氏の票の多さを評価していますが、そうでしょうか? この票は共和党と民主党の差でもあり、バイデン氏とトランプ氏を比べ、ペンス氏とハリス女史を比べ、女性の副大統領支持と反対など、様々な要素が入っています。大切なことは、多くの国民が選挙に関心を持ったことです。

多くの国で不正選挙や公平でない選挙の報道があります。米国の様な大国で今まで間違えがあったとしても、不正ではありません。開票に不満があり訴訟をする場合、不正があった証拠提出を連邦最高裁判所が受理し訴訟するに値するかどうかを判断します。

各接戦州の入票所の係官は、今まで長い事開票作業をしていて不正をする、または不正を見逃すなどできない、証拠を出してほしいと自分の名誉にかかっていると言っています。

多くの大都市では、開票の不満で、以前のような暴動が起きるのでないかとお店を閉め、木の板でお店のショーウインドウをカバーしました。マンハッタンでも11月3日からデパートや高級ブランド、携帯屋さんなど木の板で覆われていました(開店中のサインがなければ空き家の様ででした)が、11月9日には通常に戻りつつあります。

大統領交代、トランプ氏がホワイトハウスを出るのは来年1月半ばです。今年いっぱいの任期中に何をするのでしょうか? 開票中の緊張した中でゴルフを2日間続けている大統領と、コロナ感染について2021年初めに活動を始めようと用意する次期大統領との温度差が気になっているのは私だけでしょうか?

開票がまだまだ続いていて、数字がどんどん変わっていますが、バイデン氏の票が増えています。多くの情報が当選確実のようです。CBS Newsでは、刻一刻と変わる開票結果が見えます。

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

若い人も遺言書を作成してみませんか

遺言書というと比較的高齢の方が作成するものというイメージ持つ方も多いのではないでしょうか。実は、若い人も遺言書を作成しておいた方が良いというケースがあります。本コラムでは、いくつか事例をあげてご紹介します。

 

1 未成年の子どもがいる場合

事例①(夫A、妻B、未成年の子C、Dがいる場合)

亡くなった方が遺言書を作成していない場合、相続人間で遺産をどう分けるかを話し合う遺産分割協議をする必要があります。

事例①のケースで、Aが死亡した場合、B、C、Dで遺産分割協議を行うことになります。

もっとも、C、Dは未成年者ですので、自身で遺産分割協議をすることができません。 こうした場合には、本来であれば、親(親権者)であるBがCやDの法定代理人として代わりに手続をすることになります。

しかしながら、本事例では、Bも相続人の1人です。Bとしては、代理人としてCやDの取り分を増やそうとするとB自身の取り分が減るという利益が相反する状態にあります。そのような状態では、Bは自身の取り分を増やすためにCやDの取り分を減らす可能性があることから、BはCやDの代理人となることはできません。

では、どうやって遺産分割協議をするのでしょうか。

このような場合には家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることになります。家庭裁判所に対して、遺産分割協議をしたいので、特別代理人を選任してくださいという申立をすることになるのです。本事例のように未成年者の子が複数いる場合には、それぞれに別の特別代理人を選任してもらいます(別途、特別代理人の費用も負担する必要があります。)。

また、特別代理人が遺産分割協議に参加する場合、基本的には未成年者が法定相続分を確保できるように分けることになるため、分け方に制限が生じます。Bが親なのだから全部Bに相続させればよいと思っても、裁判所がCやDにも取り分をと求めてきます。

もし生前にAが遺言書を作成していれば、そもそも遺産分割協議をする必要がなくなるため、家庭裁判所に特別代理人選任の申立をする必要はなくなりますし、分け方も柔軟に決めることができます。

 

2 相続人が配偶者だけの場合

事例②(夫A、妻B、子どもなし、Aの親E、F)

事例③(夫A、妻B、子どもなし、Aの親E、F死亡、Aの兄G死亡その子I、妹H)

事例②のケースについて、Aが死亡したときの相続人はBとE・Fになります。

したがって、BはEやFと遺産分割協議をする必要があります。義父母と遺産分割協議をすること自体、Bにとっては負担だと思われますし、万が一、EやFが認知症の場合には、遺産分割協議の前に成年後見人の選任を申し立てなくてはなりません。

遺言書が存在すれば、こうした手続は不要になります。

 

 

事例③のケースでは、BとH、Iが相続人になるため、BはH、Iと遺産分割協議をする必要があります。IはAからみると甥っ子にあたりますが、8分の1の法定相続分を持っています。H、Iの両方が「Bが全て相続すればいいよ」と言ってもらえれば良いのですが、HやIが法定相続分をもらうと主張した場合には、それに相当する財産を渡さなければなりません。

Aが「Bに全て相続させる」という遺言書を作成していれば、BはHやIと話し合うことなく、すべての遺産を取得することが可能です。HやIには遺留分もないため、後から遺留分の侵害を主張されることもありません。

 

3 親権者が自身だけの場合

未成年の子がいる状態で配偶者と離婚した場合、いずれか一方の親が親権者になります。

未成年の子がいる状態で配偶者と死別した場合には、親権者は生存している親1名です。

こうした場合に、子が未成年の間に親権者である親が死亡すると、親権者がいなくなります。離婚して親権者とならなかった親が生存していたとしても、その人が自動的に親権者になるわけではありません。

そのため、親権者変更や、親権者に代わって未成年者のために監護養育や財産管理を行う未成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。申立があると、家庭裁判所は調査をした上で、親権者を変更したり、未成年後見人を選任したりしますが、誰が未成年後見人になるかは裁判所が判断をします。

そこで、この人に未成年後見人になってもらいたいという希望がある場合には、遺言書で未成年後見人を指定しておくことができます。

自身に万が一のことがあったときに、誰に子どものことを託したいかを生前に考えておき、その人にお願いをしておくとともに遺言書に未成年後見人の指定をしておくことで、その人が子どもの親権者代わりのことをできるようになります。

 

4 家族へ思いを残す(付言事項)

遺言書には、財産をどう分けるかなどの法律的な話だけでなく、遺言者の思いを記載することが可能です。若い方が亡くなるのは、事故や急病など、事前に家族に思いを伝えることができないケースが多いのではないでしょうか。

遺言書があれば伝えられなかった思いを伝えることができます。

 

5 遺言書の作成方法

遺言書には公証役場で作成する公正証書遺言と自筆で作成する自筆証書遺言があります。

若い人が遺言書を作成するケースは、「配偶者に全財産を取得させる」など、内容が余り複雑でないことが多いと思います。また、生活状況の変化によって、頻繁に遺言書を書き直す可能性もあると思いますので、自筆証書遺言で十分だと思います。

ただし、自筆証書遺言の場合は、財産目録以外は全て自筆で作成する必要がある、日付や署名・押印が必要であるなどの様々な条件があるほか、遺言者が死亡した際には、裁判所で遺言書の検認(遺言書の存在と内容を確認する手続)をする必要がありますので、ご注意ください。

現在は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度ができて、令和2年7月にスタートしました。この手続を利用すれば、検認という手続は不要になります。詳しくはこちらhttps://ikeda-lawoffice.com/law_column/%e6%b3%95%e5%8b%99%e5%b1%80%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e9%81%ba%e8%a8%80%e6%9b%b8%e3%81%ae%e4%bf%9d%e7%ae%a1%e5%88%b6%e5%ba%a6%e3%81%8c%e5%a7%8b%e3%81%be%e3%82%8a%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f/

をご確認ください。申請手続きは、予約制です。

遺言書を作ってみたいがどのように作ったらよいかわからないという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。(川瀬裕久)