譲渡担保について
2月3日のコラム「債権回収のセオリー」のセオリーでも少し紹介をしましたが、債権回収において、事前に担保を得ておくことは大変重要です。
本コラムでは、担保の中でいわゆる非典型担保といわれる担保の一つである譲渡担保について取り上げます。
1 担保とは
契約どおりに債務の弁済が行われない場合に、他の債権者よりも優先して自己の債権の満足を受ける方法として、事前に担保を取っておくという方法があります。担保には、保証人など債務者以外の人の信用力で債権回収における優先的地位を確保する人的担保と、物や権利の上に債権回収における優先的地位を確保する物的担保があります。
2 非典型担保
民法には、物的担保として留置権、先取特権、質権、抵当権の規定が置かれていますが、これらの担保権ではカバーできない場面において、実務上異なる方法での債権回収における優先的地位の確保がなされるようになりました。それが、譲渡担保や所有権留保といったいわゆる非典型担保と言われるものです。
なお、こうした非典型担保については、民法上に規定がないことから、主に実務及び判例の積み重ねによってルール作りがなされています。しかしながら、判例の射程がどこまで及ぶかは必ずしも明確でないことも多く、法的安定性に欠ける面があるほか、判例がルールを示していない論点も残されていました。そこで、現在、ルールの明文化・明確化を目指し、担保法制の見直しが審議されおり、令和4年12月に「担保法制の見直しに関する中間試案」が出されるに至っています。
3 譲渡担保の概要
譲渡担保とは、事業者Aが金融機関Bから融資を受けるにあたって、例えばAが所有する機械の所有権をBに譲渡するという担保形態です。
機械の所有権をBに譲渡するといっても、その機械がBの手元に置かれてしまうとAはその機械を使用して事業をすることができません。そこで、機械自体はAの手元においた状態で引渡す、占有改定(民法183条)という方法が用いられることになります。
機械のような動産を担保に取る場合、民法上定められた制度としては質権を用いることが考えられます。しかしながら、質権を設定するためには、担保の目的物(質物)の引渡しをする必要があるところ(民法344条)、その引渡しは占有改定ではできないと理解されていることから(民法345条)、質権を設定した上でAが機械を使用し続けることができません。そのため、譲渡担保という方法が採られるようになりました。
4 譲渡担保の実行方法(私的実行)
弁済期が到来したにも関わらず弁済がなされないときに、担保権者は設定者に対して譲渡担保権の実行通知を出し、目的物から優先的に弁済を受けることができます。裁判所による執行手続きは不要です(私的実行)。
私的実行の方法は2種類あります。
一つは、設定者が弁済期に被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者に目的物の所有権が確定的に帰属するという帰属清算型です。もう一つは、設定者が被担保債権の弁済をしない場合、譲渡担保権者は目的物の処分権限を取得し、処分の結果として得た価額から被担保債権を満足させた残額を清算金として設定者に支払うという処分清算型です。
いずれの場合であっても、目的物の価値が被担保債権の額を超える場合には、譲渡担保権者は差額を設定者に返還しなければなりません(清算義務)。
また、被担保債権の弁済期到来後であっても、譲渡担保権の実行が終了するまで(清算未了)の間は、設定者は被担保債権の弁済をすることで目的物の所有権を回復することができます。このことをとらえて、設定者には受戻権があると言われます。
5 集合物・集合債権等に対する譲渡担保
(1)集合動産譲渡担保
譲渡担保は、機械などの単体の動産だけでなく、動産の集合体(集合物)を対象として設定することもできます。例えば、ある一定の範囲に存在する在庫商品を一括して担保に取るというような場合です。このような譲渡担保を集合動産譲渡担保と言います。
集合動産譲渡担保では、譲渡担保権の実行通知があるまでは、設定者は、通常の事業の範囲内であれば、集合物を構成する個々の動産を処分することができます。上の例であれば、譲渡担保権の実行前であれば、通常の事業として在庫商品を販売することが可能です。他方で、集合動産譲渡担保を設定した後に集合物の範囲に入ってきた後の動産にも譲渡担保の効力が及びます。上の例であれば、譲渡担保設定後の増えた在庫商品も担保の対象となりえます。
(2)集合債権譲渡担保
複数の債権を一括して譲渡担保にとる場合があり、集合債権譲渡担保と呼ばれています。例えば複数の売掛金債権を一括して担保にすることが考えられます。将来発生する債権について譲渡担保の対象とすることも可能です。
(3)事業担保
事業担保とは「事業」すなわち動産等の有形資産や債権のみならず、契約上の地位、のれん等の無形資産を含めた全ての財産から成る有機的な一体としての事業を対象とする担保です。事業全体を一体として評価したときの価値が個別財産の清算価値の総和を上回る場合には、事業全体を担保とすることで資金調達の容易化や調達額の増大が期待されます。
現在、担保法の改正の中で導入が議論されています。
6 債務者が他の債権者の抵当権がついていない不動産を所有しているのであれば、その不動産に抵当権を設定することが考えられますが、実際には、債務者が価値のある不動産を所有していない、あるいは、所有していても既に他の債権者の抵当権がついており、そこからの回収は困難という場合が少なくありません。
そうした場合には、債務者の他の財産に目を向け、本コラムで紹介した譲渡担保などの手段で担保をとることを検討します。
債権の保全について悩んでいるという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。
(川瀬 裕久)