法務局における遺言書の保管制度が始まりました

相続法改正に付帯して、遺言書を法務局で保管してもらう制度が作られ、2020年7月10日から、実施されています。

また、全ての法務局で、この事務を取り扱うわけではなく、法務大臣の指定した法務局に限られており、本局、支局であれば全て取扱いをしていますが、出張所については一部の例外を除いて取り扱いをしていません。

この制度については法務省のホームページで紹介されていますので(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html)、詳しくはそちらを見ていただくとして、要点や注意点を説明します。

 

(1)遺言書保管の申請について

法務局は、遺言書の原本を保管するとともに画像データとしても残します。この保管制度での法務局の果たす役割は、遺言書の様式、形式面のチェックと保管だけです。遺言書自体はご自身で作成する必要があり、法務局は、遺言書の内容に関する質問や相談には応じてくれないことにご注意下さい。内容的に問題があって、法的な効力に問題があったとしても、法務局に何らかの責任が生じるというわけではありません。

上記のホームページでは、書き方の注意事項が記載されて、内容面に亘る注意も記載されていますが、ごく一部ですので、作成にあたっては弁護士等の専門家に相談した方が安心です。

作成した後の保管の申請をする場合は、保管の申請書を作成して、本人自身が、本人確認書類等を持参して、法務局へ出頭する必要があります。遺言者の住所、本籍地、所有不動産の所在地を管轄する法務局が管轄です。予約が必要で、突然窓口へ出向いても申請を受け付けてもらえません。また、代理人に行ってもらうこともできません。

保管の申請手数料は、1通3900円で、毎年の保管料等を支払う必要はありません。手続が終了すると、保管番号が記載された保管証が発行されます。この保管証があると、その後の手続が楽になりますので、大切に保管しておいて下さい。但し、保管証をなくしても、手続が面倒にはなりますが、各種の手続をすることはできます。

 

(2)遺言書の閲覧

遺言者自身は、保管後、遺言書の閲覧について、モニターによる画像の閲覧(全国の法務局どこでも)、遺言書の原本の閲覧(保管先の法務局のみ)が出来ます。

閲覧は、本人のみで家族その他推定相続人でも遺言者の死亡前には閲覧はできません。閲覧手数料は、モニターの場合は1通1400円、原本の閲覧の場合は1700円です。

 

(3)保管の撤回

遺言者は、保管の申請を撤回することによって、遺言書の返還を受けることが出来ます。予約をしたうえで、撤回書を作成して、遺言者本人が出頭して遺言書を返してもらうものです。撤回には、手数料は不要です。

保管を撤回して、遺言書を返還してもらっても、遺言としての効力が失われるわけではないので、注意が必要です。保管を撤回して、遺言書を返してもらう場合の遺言者の意図としては、遺言書自体も撤回したいという場合が多いと思いますから、その場合には返還を受けた遺言書自体を廃棄するなどして、物理的に破棄しておくことが無難です。そのまま残しておくと、事情を知らない関係者がその遺言を発見した場合、それを正規の遺言書として取り扱われてしまう危険があります。

 

(4)相続人による遺言書の存否、内容の確認方法

遺言者が死亡した場合には、相続人、受遺者、遺言執行者等の相続の関係者(関係相続人等といいます)は、遺言者の遺言が保管されていることの確認をすることができ、遺言書を保管していることの証明書(遺言保管事実証明書)の交付の申請をすることができます(保管されていないときにも、その旨の証明書を発行してもらえます)。この交付は、全国どこの法務局からでも可能で、1通800円です。上記の証明書は、遺言書を保管していることだけの確認にとどまります。

その内容を知りたい場合には、閲覧の請求ができ、遺言者自身による閲覧(前述(2))と同様に、モニターによる、あるいは遺言書原本の閲覧ができます。請求できる法務局、手数料も同様です。

遺言書の内容自体を閲覧し、その内容についての証明を得る方法として、遺言書情報証明書の交付請求という制度が認められています。これにより、遺産である不動産の登記手続や預貯金の解約その他の相続手続をすることができます。

この証明書がある場合は、家庭裁判所による検認の手続が不要です。

 

(5)他の相続人らへの通知

これらの閲覧の請求や証明書の交付の申請は、相続人等が単独で請求できますが、遺言書について、関係相続人等が、遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたときは、その他の全ての関係相続人等に対しても、遺言書が保管されている旨を通知することとなっています。こっそり一人だけ内容を確認するということはできません。

また、まだ運用は開始されていませんが、法務局が、遺言者の死亡の事実を確認した場合には、予め指定した相続人の中の一人を指名して、遺言書が保管されていることを通知する制度も検討されています。令和3年以降に運用を開始する予定とのことです。これは、遺言者本人が希望する場合にのみに行われるものです(死亡の確認方法その他詳細は未定です)。

 

(6)最後に

この保管制度の発足により、従来からの自筆遺言証書のデメリット(検認手続が必要なこと、紛失等の危険があること)が弱まりましたが、遺言書の内容面でのチェックが行われるわけではない点等から、折角作成した遺言の効力が認められないというリスクは残ります。

したがって、この保管制度を利用する場合にも、前に述べたように、弁護士その他の専門家のアドバイスを得たうえで、自筆証書遺言を作成することをおすすめします。専門家と相談をするときには、公正証書による遺言も選択肢の一つとして、アドバイスを得ることも必要です。

池田総合法律事務所は、こうしたご相談にも応じておりますのでご利用下さい。

                           (池田伸之)