下請法について (連載・全3回)
1.はじめに
下請法(法律名:下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。
下請法に違反した場合には、公正取引委員会から、違反行為を取り止めるよう勧告されます。勧告があった場合、企業名、違反事実の概要などが公表されることになります。
企業の法令遵守が強く求められる中、下請法違反は、企業の信用を大きく損なう行為となり得ます。
そこで、下請法の内容を正しく理解し、公正な取引を行うことが重要です。
本法律コラムでは、全3回にわたって下請法についてご説明したいと思います。
2.対象となる取引
まず、下請法の規制対象となる取引は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの取引に大別されています。
①製造委託
物品の販売や製造を営む事業者が、企画、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを依頼することをいいます。ここでいう「物品」は動産であり、家屋などの建築物は対象に含まれません。
②修理委託
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。
③情報成果物作成委託
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。情報成果物の代表的な例としては、プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラムなど)映像や音声などから構成されるもの(テレビ・ラジオ番組、映画など)、文字、図形、記号などから構成されるもの(設計図、各種デザイン、雑誌広告など)が挙げられ、物品の付属品・内臓部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。
④役務提供委託
運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った役務を他の会社に委託することをいいます。ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、下請法の対象とはなりません。
3.対象となる取引の主体(「親事業者」「下請事業者」)
対象となる事業者は、以下のとおり資本金の額と、上記取引の内容により決まります。
(1)①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託(プログラム作成に関するもの)、④役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に関するもの)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
(2)③情報成果物作成委託(プログラム作成を除く)、④役務提供委託(運送、物品
の倉庫における保管及び情報処理を除く)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
また、子会社を通して取引する場合であっても、事業者(直接下請事業者に委託をすれば下請法の対象となる場合)が、資本金3億円以下の子会社を設立し、その子会社を通じて委託取引を行っている場合には、①親会社-子会社の支配関係、②関係事業者間の取引実態について一定の要件を満たせば、その子会社は、親事業者とみなされて下請法の適用を受けるので、注意が必要です。
4.親事業者の義務
親事業者には、4つの義務が課されています。
(1)書面の交付義務
口頭発注によるトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たって、発注内容に関する具体的記載事項を記載した書面を交付する義務があります。
(2)書類作成・保存義務
製造委託をはじめとする下請取引が完了した場合、親事業者は給付内容、下請代金の金額など、取引に関する記録を書類として作成し、2年間保存することが義務付けられています。
(3)下請代金の支払期日を定める義務
不当な支払期日の変更、支払遅延により、下請事業者の経営が不安定になることを防止するため、親事業者は下請事業者と合意の上で、下請代金の支払期日を事前に定めることが義務付けられています。この場合、支払期日は納入された物品の受領後60日以内で、かつ、出来る限り短い期間になるように定めなければなりません。
(4)遅延利息の支払義務
親事業者が、支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、下請事業者に対して遅延利息を支払う義務が課されます。
次回は、買いたたきや下請代金の減額など、親事業者に禁止される行為について、ご説明します。
(石田美果)