不良債権の処理は早すぎず遅すぎずに

小規模事業者や中小企業の会社の決算書を拝見すると、長年回収出来ていない売掛金が計上されていることがあります。

 

不良債権でも、売上計上により、その発生年度で、所得として法人税を納付したり、消費税を納付しており、できれば、これを損金として処理することにより、税部分の資金負担を解消したいものです。法人税や消費税の税率を考えると(法人税実務税率35%、消費税8%)、不良債権も損金で処理できれば、税負担の取り戻しで、半分近くが資金回収できることとなります。

 

そうはいっても、不良債権の処理にあたっては、税務上のルールがあり、その処理に従わなければ、損金としての処理が認められず、永久に税負担をし続けることになりかねません。

 

企業会計上の損失や費用は、そのまま、法人税上の「損金」として認められるかどうかは別問題で、会計上の費用、損失が、法人税法上は「損金」として認められないものも多いです。

まず、法人税上重要なことは、「回収不能が確定した時期に、損失処理をすること」が必要です。

 

早期に回収不能と判断して債権放棄をしても、回収不能として、その全部又は一部が、寄附金扱いをされて、損金とならないという事例もあり、また、売掛先が事業破綻等により、回収可能性がなくなっているにも拘わらず、長期間それを放置していた時は、遅すぎて、債権放棄が認められないということになります。

 

損失については法人税上3つの方法が認められています。

(1)法的な手続による債権の免除等による処理

民事再生、破産等の法的手続に伴う手続の場合は、回収不能かどうかの立証は要せず、税務上の問題は生じないのが原則です。

(2)回収不能見込みにもとづく処理

回収不能の判断は、客観的に行われないといけないので、税務署との間でこの判断をめぐってトラブルが生じやすいものです。よく、債権放棄の内容証明を出しておけば処理できるかのように言われることがありますが、客観的な回収可能性が判断出来なければ、損金として認められず、寄附金と認定されてしまい、そのタイミングの判断が重要です。

(3)時効に準じた処理

継続的な取引先の売掛債権については、取引停止をしてから1年以上経過していることを前提に、債権者側の判断で損金として計上することが出来るもので、この場合は、備忘価格1円だけを残して、残額を損失処理するものです。

これを、(2)の場合と比較して、判断上のリスクが比較的低いので、利用できる債権の範囲は限定的ですが、客観性のハードルは低く、利用価値は高いです。

 

時々、回収ができそうにもないにも拘わらず、諦めきれず、また、感情的な問題もあって、これを貸付金に振り替え、長期で弁済させるような契約書をみることがあります。この場合、債権の性質が、売掛金から貸金にその性質が変じてしまい、この特例による損金処理が認められず、また、消費税の税額免除も行えなくなってしまいます。この契約により現実に債権の回収ができればいいのですが、回収できないときは、債権を保全したつもりが、かえって税効果による債権の一部回収ということも出来なくなってしまいます。

 

回収の可能性を客観的に見直し、適切なタイミングで放棄した方が得策な場合もありますので、注意が必要です。(池田伸之)