刑の一部執行猶予制度の新設について
刑事事件で裁判をうけた場合、判決では、実刑の場合と執行猶予の場合があります。
実刑は、実際に刑務所に服役するもので、執行猶予がつく場合は、服役せず、執行猶予期間中に再び他の犯罪を犯す等のことがなければ、刑の言渡が効力を失って、服役しなくてもよくなります。執行猶予の場合、判決で、たとえば「懲役2年、執行猶予4年」といった形で、刑の言渡がなされます。今までは、執行猶予は刑の全期間を通じるもので、その一部の執行猶予、たとえば1年は刑に服し、残り1年を執行猶予とするということはできなかったのですが、こうした一部執行猶予の法律が平成25年6月に成立し、3年以内に施行される予定です。
初犯ないし前刑の服役を終わって5年を経過した人等については、3年以下の刑の言渡しを受ける時にその刑の一部の執行猶予の判決を言い渡すことができます。実刑を受けて服役し、満期前に仮釈放により社会復帰する場合と比べて、一部執行猶予の方が、社会への復帰の意欲を促したり、早期の社会更生につながるという点で、望ましいと言えます。
また薬物犯罪については、累犯者についても、刑の一部の執行猶予を言い渡すことが出来、但し、このときは、保護観察をつけなくてはいけないことになっています。保護観察付の執行猶予の場合には、生活上守るべき条件をつけたり、保護観察官や保護司への定期的な面接を義務付けられます。また、今回、この守るべき条件の中に、社会貢献活動をすることを義務付けることが出来るようになりました。
刑務所における施設内処遇と社会内処遇を組み合わせ、弾力的に対応することが出来て再犯防止や改善更生に有用であるということが法改正の建前となっていますが、背景には、過剰収容の問題があります。徐々に緩和されているとはいえ、依然として、刑務所は慢性的な過剰収容の状態にあるといわれています。一部執行猶予により、その収容の回転率を良くしようという思惑も窺われ、建前通りには受け取られないところもあります。
報道によると、平成24年の検挙者のうち、再犯者の占める割合が過去最悪の45.3%と高くなっています。そのうち、薬物事犯はさらに高く、平成25年の警察庁による覚せい剤事犯の上半期の速報値で、再犯率は63.5%です。就職支援、薬物濫用の防止プログラム等、社会内処遇の充実も図らなければ、再犯率を逆にアップすることにもなりかねません。今後の運用・動向を見守って行く必要があります。(池田伸之)