労働審判の手続きで解決できる場合・できない場合とは
はじめに
2回にわたり、①労働審判手続きの全体像と、②労働審判での残業代請求の特徴と対策としての労務管理について、説明しました。今回は、労働審判での解決策やその限界について説明します。
労働審判手続きでの解決に適した事案とは
労働審判の特徴は、原則として3回以内の期日で審理を終結することになるため、申立段階から十分な準備をして、充実した内容の申立書と必要な証拠を提出することが重要です。
解雇や給料の不払いなど、個々の労働者と事業主の間の労働関係のトラブルを、実情に即して、迅速、適正かつ実効的に解決する非公開の手続きです。平均審理期間は77.2日、調停成立での解決が70.3%、労働審判6.5%、併せて4件に3件は手続きの中で解決しています。統計からすると解決事案は申立から3ケ月以内に概ね解決している状況にあります。
地方裁判所に申し立てられた事件は40日以内の日に第1回の期日が指定され、双方が呼び出されて、労働審判官(裁判官)と労働審判員からなる労働審判委員会から直接事情聴取を受けますが、話合いの見込みがあれば、調停が試みられます。
事案の性質から労働審判での解決になじまないと、労働審判員委員会が判断した場合には、終了することもあります(労働審判法24条終了)し、労使の対立が深刻なケースでは労働審判での合意に達することが難しく、労使はいずれも下された労働審判に異議を申し立てることができるので、会社側では訴訟に移行させたくないといった事案でも、やむなく訴訟に移行するという場合も出てきます。
そもそも、3回の期日で整理できない証拠類が提出されるケースは審判にはなじまないといえますし、対立の激しい事案では、例えば会社の方針において、他への波及を考えて対応しなければならないような事案も見られます。
訴訟へ移行するとはどういうことか
訴訟に移行した時でも、労働審判申立時に労働者側から出された申立書は、訴訟の担当裁判官に引き継がれます。これに対して、申立書以外の答弁書や書面、証拠等は引き継がれず、訴訟において、改めて、再提出しなければならないことになっています。
解決のための金銭支払いについて
例えば、解雇トラブルの事案では、職場復帰の見通しが立ちにくい事態が生じていることも容易に予想されるところですが、職場復帰をしない代わりに金銭支払いで解決を図ることは多くの事案で見られます。解雇が有効と考えられる事案と解雇が無効と考えらえる事案では、解決金として裁判所から示される金額案に大きく異なります。有効と考えられるケースでは1~3ケ月の月額賃金を言う解決例も少なくないと思いますが、解雇の有効性に争いがあるケースでは、それ以上、半年分くらいの月額賃金が求められることもありますし、明らかに無効と思われる事案では、復職を仮定した解雇期間中の未払い賃金額を前提にし、更には、訴訟移行した場合の審理期間を予想して解決金が要求されることも考えられます。
また、残業代請求では、訴訟移行し判決になれば遅延損害金等の支払いが必要になります。
いずれにしても、事前にある程度、予想される争点についての心証を労働審判員や労働審判官の指摘を分析しながら、計算をしておくことが望まれます。月額の賃金ベースはいくらか、何ケ月分だといくらになるか、再就職後の収入を控除するとすればいくらか、などを頭に起きながら、話合いに臨むことをお勧めします。いずれの場合も「解決金の根拠」をどう考えるのか、問われたときに答えられるようにして、期日に臨んでいただくことが望ましいと思います。
池田総合法律事務所では、労働審判や労務管理についての経験豊富な弁護士が複数いますので、お気軽にご相談ください。
<池田桂子>