発明の進歩性判断~「予測できない顕著な効果」~について

発明における解決課題は、従来の技術との対比して判断します。発明が保護に値する進歩性を有するかの判断は、当該発明の構成を当業者が容易に想いを到ることができたか、容易想到性の枠組みで判断することになります。その判断として、評価を根拠づける事実と評価を障碍する(妨げる)事実のないことを検討していきます。

とりわけ、用途発明については、実務上、既存の物の新規な用途における作用が予測できない顕著な効果を有するか否かが、進歩性判断の際に重要な考慮要素とされています。

 

昨年、最高裁は、化合物の医薬用途にかかる特許発明の進歩性について、発明の顕著な効果の有無の判断手法を示し、知財高裁の原判決を破棄する判決を言い渡しました。

事案は、ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤に係る特許 (特許第3068858号) に対する無効審判の審決取消訴訟において、本件特許の進歩性を否定し、審決を取消した知財高裁の判決を破棄し(第四部判決、平成29年(行ケ) 第10003号。以下「原審」といいます。)、事件を知財高裁に差戻したものです(最高裁第三小法廷、令和元年8月27日判決、平成30年(行ヒ)第69号、審決取消請求事件)。

 

事案の特許は、発明の名称を「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」とし、平成7年6月6日に米国でした特許出願に基づく優先権を主張して、翌8年5月3日に特許出願され、平成12年5月19日に設定登録されました。アレルギー性眼疾患を処置するための点眼薬として、公知のオキセピン誘導体である化合物を、ヒト結膜肥満細胞安定化(結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制)の用途に適用する薬剤に関するものです。

 

原審は、優先日の技術水準から予測できる範囲と比較して、顕著な効果がないとして進歩性を否定しました。本件他の化合物について同程度以上のヒスタミン遊離抑制率が記録された文献がその根拠とされています。これに対して、最高裁は、請求項にかかる構成から予測される範囲と比較して顕著な効果の有無を判断すべきであるとの見解を示したものと考えられます。

 

最高裁判決の判旨は、(難解な言い回しでありますが)、要約すると、①特許発明の構成から当業者が予測することができなかったか否か、②構成から当業者が予測することができた範囲を超える顕著な効果であるか否か、という点について、十分に検討する必要があるというものです。そして、化合物を特許発明の用途に適用することが容易に思い至ったことを前提に、判断基準時に他の複数の化合物が知られていたということのみで、直ちに、効果を予測できないほど顕著なものではないと否定してはいけない、と言っています。なお、判決文の言い回しは、末尾に掲げますので、ゆっくり味わってください(*)。この最高裁判決は、今回、予測できない顕著な効果の認定方法を示した初の判断として、重要な意義があると思われ、この判決を受け、知財高裁がどのような判断を下すのか注目されます。

 

進歩性のレベルは経済に与える影響が強いところがあります。複数の先行技術を組み合わせる場合、進歩性の判断には、請求項毎に発明を容易に想到できたことの論理付けができるかが重要です。引用発明の内容や技術常識からみて、様々な観点から論理付けを試みます。引用発明の一致点、相違点を見極め、発明の動機付けとなりうるものがあるか否かなどをよく点検してみることが重要です。相違点に係る構成について進歩性をどう判断するかは、①公知材料の中からの最適材料の選択、②数値範囲の最適化又は好適化、③均等物による置き換え、④技術の具体的適用に伴う設計変更等に加えて、「予想以上の効果はあるか否か」が、要件となります。

 

今回の判断は、進歩性違反の拒絶理由に対し、発明が予測できない顕著な効果を有するときの反論を行う場合の参考となるでしょうし、出願するときには、効果の程度について、明細書に発明の構成から当業者が予測できた範囲の効果を超える顕著なものであることを主張できるように、複数の実施例を記載しておくべきでしょう。

<池田桂子>

 

*「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者 が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する 本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決 を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を 誤った違法があるといわざるを得ない。」