社債に関する改正点

1 社債に関する規定の改正について

2021年3月1日に施行された改正会社法で、社債に関する規定も改正されました。

社債は、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、募集社債に関する事項の決定に従い償還されるものと定義されており(会社法2条23号)、会社による資金調達の一手段です。

しかし、社債を発行するにはいくつかの高いハードルがあり、十分に活用されていないとの評価があったようです。今回の改正では、社債の活用を促進するための改正がなされました。以下、従前からある「社債管理者」制度と新たに創設された「社債管理補助者」制度を中心に社債に関する改正点について説明します。

 

2 社債管理補助者制度の創設について

(1) 改正の背景

社債を発行するには、原則として会社は「社債管理者」を定め、社債権者のために社債の管理を委託するとされていました(会社法702条本文)。しかし、社債管理者は広範な権限や裁量を有する一方で適切な権限行使の責任が大きいこと、銀行や信託銀行等しか社債管理者になれないという資格要件も厳格であることから、社債を発行する上で設置のコストの高さや担い手の確保が大きな障害となっていました。そのため、実際に社債を発行するケースでも、社債管理者の設置を免除される法律上の例外規定に該当するよう社債を設計することが多かったようです。

しかし、そのような例外措置には社債権者保護が不十分というデメリットがありました。本来、デフォルト発生時(債務被履行時)などには社債管理者が社債権者のために権利行使をすることになっていますが、社債管理者が設置されていない社債については、デフォルト発生時に社債権者自身が自ら権利行使をせざるを得ない点で、社債権者の負担が大きいのです。

このような点に配慮して創設されたのが、「社債管理補助者」(会社法714条の2)の制度です。

(2) 社債管理補助者制度の概要

社債管理補助者は、社債管理者よりもその権限や裁量を限定されるとともに、その責任やコストを軽減したという特徴があります。

社債管理補助者は、社債権者が自ら社債を管理することを前提に、あくまでその補助を行うものであり、その権限は社債管理者の権限の一部(会社法714条の4第1項)とその権限が限定され、その他の権限は委託契約で定めるとされました(会社法714条の4第2項)。

そして、権限が限定されたことに連動する形で、資格要件も緩和されました。つまり、社債管理者になる資格を有する銀行や信託銀行に加えて、弁護士及び弁護士法人も社債管理補助者になれるとされたのです(会社法714条の3、会社法施行規則171条の2)。要件緩和により社債権者保護の役割の担い手が増えることが期待されます。

なお、社債権者保護の役割を担う以上、社債管理補助者は、公平誠実義務(公平かつ誠実に社債の管理の補助を行う義務)および善管注意義務(善良な管理者の注意をもって社債の管理の補助を行う義務)が課せられます(会社法714条の7、704条1項、704条2項)。

社債管理者設置のハードルにより社債発行をためらっていた会社には、社債管理補助者制度の創設により、資金調達の選択肢が増えたといえるでしょう。

 

3 その他社債権者集会に関する改正事項

(1) 改正の背景

改正前の会社法では、社債権者集会の元利金減免権限や、社債権者集会決議省略手続きにつき、明文の規定がないため議論が分かれる論点がありましたが、今回の改正で明文規定が置かれました。

(2) 元利金減免権限の明文化について

改正前の会社法では、社債権者集会決議による社債の元本及び利息の全部または一部の免除(元利金減免)は、改正前会社法第706条1項1号の「和解」に含まれるので、社債の元利金減免ができるとする見解が有力でしたが、明文規定がなく解釈により運用されていました。

この元利金免除権限につき、改正会社法706条1項1号は、「当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務若しくはその債務の不履行によって生じた責任の免除又は和解」と改正され、社債権者集会の元利金減免権限が明文化されました。

(3) 社債権者集会の決議の省略の明文化について

一定の事項には社債権者集会を開催して決議をすることが法律上求められており(会社法第716条、706条等)、社債権者集会の決議は裁判所の認可を受けなければ効力を生じないとされています(会社法第734条)。

しかしながら、債権者の全員が個別に同意している場合に、わざわざ社債権者集会を開催した上での決議や裁判所の関与が必要かについては議論がありました。

その点について明文により、株主総会と同様に、社債権者全員の書面による同意があれば社債権者の決議があったと見なされ(会社法第735条の2第1項)、裁判所の認可も不要とされました(同条第4項)。

 

4 以上が社債に関する改正点のあらましです。

社債をはじめとする企業金融には多くの事項を検討する必要があります。お気軽にご相談ください。

山下陽平