立会人型電子契約に関する論点

1.電子契約は,①当事者が自ら秘密鍵を用いて電子署名を行うタイプ(当事者型)と,②サービス提供事業者が立会人として電子署名を行うタイプ(立会人型)の2種類あります。

電子契約市場では、立会人型のタイプ(例:Docusign、クラウドサイン等)が多数を占めます。しかし、立会人型電子契約上の電子署名が、電子署名法2条1項に定める「電子署名」にあたるか、更に、電子契約のような電子文書の成立の真正(作成名義人が真に作成した、つまり誰かが偽造していないということです。)の推定に関する規定である電子署名法3条の適用があるか議論があります。

仮に、電子契約の成立の真正が訴訟で争われた場合、同条により成立の真正の推定を受けられなければ、争われた側は、契約締結に至る経緯や電子契約を用いることを当事者間で合意していたことを示すメール等を材料に成立の真正を立証していくことになります。他方、成立の真正の推定を受ければ、成立の真正を争いたい側が特に反証をしない限りその電子契約は真正に成立したことを前提に訴訟が進んでいくことになります。そのため、電子契約に関する紛争が訴訟化した場合、同法3条の適用があるかないかで、当事者の立証の負担の度合いに影響があり得ます。

本コラムでは、立会人型電子契約の電子署名が電子署名法上の「電子署名」にあたるか、仮にあたるとして、当該電子契約が同法3条の適用を受けるかについて解説します。なお、この点に関し、令和2年7月17日及び同年9月4日に総務省、法務省、経産省のQ&Aが公開されています(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei_qa.pdf )(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei3_qa.pdf )。

 

2.電子署名法2条1項の「電子署名」にあたるか

「電子署名」は、同条項によると、デジタル情報に行われる措置のうち、①当該デジタル情報が当該措置を行った者により作成されたことを示すものであり、②当該措置が改変されていないか確認できるものを指すとされています。つまり、「電子署名」であるためには、①本人が作成していることと②非改ざん性が要求されます。

この点について、立会人型電子契約の電子署名は、物理的には立会人が暗号化等の措置を行っているため、契約当事者である本人が作成したとはいえず、電子署名法上の「電子署名」にあたらないのではという問題が生じます。

しかし、前記Q&Aによると、電子文書について、技術的・機能的に立会人の意思が介在する余地がなく、本人の意思のみに基づいて、機械的に暗号化されたものであることが担保されていれば、その電子文書への署名は本人が作成したものと評価できる、すなわち当該署名は電子署名法上の「電子署名」にあたるとされています。

 

3.次に、立会人型電子契約の電子署名が、電子署名法上の「電子署名」にあたるとして、成立の真正についての規定である電子署名法3条の適用を受けるか検討する必要があります。

この点について、前記Q&Aによると、①電子文書に、「必要な符号及び物件を適正に管理することにより本人だけが電子署名を行えるようになっている」電子署名が付されており、かつ、②当該電子署名が作成名義人本人の意思に基づき行われたことの要件を満たす場合に限り、電子署名法3条により電子文書の成立の真正が推定されます。

要件①を見ると、電子署名法第2条1項の「電子署名」より更に要件が加重されています。同法3条の効果を生じさせる前提として、暗号化等を行うための符号について他人が容易に同一のものを作成できないことを要求する趣旨です。十分な暗号強度(例:2要素認証)を有する電子署名に限り、同法3条の適用を受け得るということです。

また、紙の文書に関しては、作成名義人本人の意思に基づいて文書上の印影が顕出されたことを前提として、その文書の成立の真正が推定されるとされるため(民事訴訟法228条4項の解釈)、電子文書についても同様、本人の意思に基づき電子署名が行われたことが要求されます(要件②)。

以上のとおり、立会人型電子契約でも、電子署名法3条によって成立の真正が推定される余地が十分あるということになります。

4.しかし、立会人型電子契約について成立の真正の推定を受けるには、立会人型電子契約の利用者と電子契約の作成名義人の同一性が担保された、暗号強度に信頼性のあるサービスであることが前提です。

そのため、紛争予防の観点から、立会人型電子契約を導入する際は、当該サービスの、利用者の身元確認の程度、なりすまし防止対策、暗号強度のレベルをしっかり確認することが重要です。電子契約導入にお悩みの方は池田総合法律事務所にご相談ください。       <藪内遥>