取締役の報酬に関する規律の見直し

2021年3月1日に施行された改正会社法で、取締役の報酬に関する規律の見直しがなされました。一部の改正については対象が上場会社等に限定されていますが、そうした改正についても、今後上場を目指している経営者の方は、知識として把握しておくと良いでしょう。

 

1 概要

取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させるとともに、株式会社が業績等に連動した報酬等を適正かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、概ね以下の内容の改正がなされました。

① 上場会社等の取締役会は、定款の定めや株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められない場合には、その内容についての決定方針を定めなければならないこととなりました。

② 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととなりました。

③ 上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととなりました。

④ 事業報告による情報開示の充実

 

2 個人別の報酬等の決定方針の決定の義務化(会社法361条7項)について

(1)改正の内容

取締役が報酬、賞与その他の職務執行上の対価である財産上の利益(報酬等)を受領する場合には、その額や具体的な算定方法を定款もしくは株主総会の決議で定めなければなりません(会社法361条1項)。

もっとも、こうした規制の目的は、高額の報酬が株主の利益を害する危険を排除することにあるため、定款・株主総会決議により個々の取締役ごとに金額等を定める必要は無く、取締役全員に支給する総額等のみを定め、各取締役に対する具体的配分は、取締役会に委ねることが出来るものとされていました(最判昭和60年3月26日判時1159号150頁)。

しかしながら、上記の手続では、個々の取締役の報酬を定めるプロセスが透明性に欠けます。また、取締役会が具体的配分を代表取締役に一任する例も多く、そうした場合には、取締役会による代表取締役の監督に不適切な影響を与える可能性があります。

報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要があることから、後記(2)の会社については、取締役会において、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として会社法施行規則98条の5各号に定める事項(報酬等の決定方針)を決定し(会社法361条7項)、事業報告に開示しなければならないものとされました(会社法施行規則119条2号・121条6号)。

 

(2)対象となる会社

改正1の対象となるのは以下のいずれかに該当する会社です。

① 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの

② 監査等委員会設置会社

 

3 株式や新株予約権を報酬とするときに決議すべき事項について

従前より、取締役に対する非金銭的な報酬等として、株式や新株予約権(いわゆるストック・オプション)を付与することがありました。

こうした報酬等を付与する場合、改正前の会社法では、「具体的な内容」を定款や株主総会の決議で定めなければならないとされているだけでした。

この度の改正で、株式や新株予約権を報酬等とする場合に、報酬として付与される株式や新株予約権の数の上限等、定款や株主総会で決議すべき事項が具体的に規定されました(株式について会社法361条1項3号・会社法施行規則98条の2、新株予約権について会社法361条1項4号・会社法施行規則98条の3)。

 

4 報酬として株式を発行等する場合の金銭の払込みの不要化について

上場会社が取締役の報酬として株式を発行等する場合に、出資の履行(金銭の払込み等)を要しないこととなりました(会社法202条の2)。

会社法199条1項の募集株式の発行等においては、募集株式の払込金額またはその算定方法を定めなければならないこととされています(同2項)。そのため、取締役の報酬等として株式を交付しようとする場合、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役に会社に対する報酬債権を現物出資する形をとっていました。

改正後の会社法では、こうした手法をとる必要はなくなります。

 

5 事業報告による情報開示の充実化について

公開会社について、事業報告における取締役の報酬等に関する記載事項の充実が図られました(会社法施行規則121条4号~6号の3)。

<川瀬 裕久>

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑩

20216月、ニューヨーク にて。コロナ感染を考える

ニューヨーク州から市民宛に送られてきたEメールを訳してみました(そのEメールの原文(一部)は末尾にありますのでご覧ください)。

2020年初め緊急事態宣言後から今まで州知事から毎日来ていたemailは、「親愛なるXXXさん」で始まります。

 

「本日、パンデミックの緊急事態を解除し、ニューヨークのCOVID-19非常事態宣言は終了しました。 しかし連邦CDCガイダンスは引き続き実施されます。つまり、ワクチン接種を受けていない場合は、屋内の公共の場ではマスクを着用する必要があります。 公共交通機関や医療施設などの特定の場所では、マスクは引き続き必要です。 COVIDとの戦いとニューヨーカーへの予防接種は依然として私たちの最優先事項ですが、緊急事態は終わりました。これは、ニューヨーカー、特にすべての重要な労働者の努力のおかげです。私たちは、COVIDの回復と、ニューヨークの再考と再建に引き続き注力していきます。」

 

緊急事態宣言後、生活に必要な食料品店以外はすべて閉店。美容院、ネイルサロン、もちろん洋服店などは当然閉店でした。マンハッタンは、劇場も映画館もホテルもすべて閉鎖、娯楽は全くなくなりました。寂しいという感じは全くなく、緊張した日が続きました。今は、すでに博物館や美術館は定員制限の予約制ですが開館しました。もうすぐブロードウェイも戻ってきます。

去年を思い出すと、公共交通も医療従事者や食料品の従業員など、必要不可欠な人以外は使わないようにと告知され、6か月間は、事務所は自粛閉鎖。去年の秋から、事務所まで徒歩30分ほど、途中の道は、誰にもすれ違うことがなく、車が走っていないため信号機が不必要でした。当時、事務所にも人がいませんが部屋を出る時は、マスクをして、ドアやノブを触る度に消毒は欠かせませんでした。

マーケットは人数制限をして、床には一方通行の印が有り、並ぶときには2メートル間隔で並ぶように床には印があります(今もあります)。エレベーターはサイズに関わらず3人まで、アパートのエレベーターは2人まで、皆我慢をしていました。買い物かごは、部屋に即持ち込まず、半日や1日置きっぱなしにして感染を防いでいました。

ここまでしなければ ダメなのかしら?と思うかもしれませんが、こうした防御は、自分を自分で守る方法でした。私の住んでいるビルからも感染者が出ましたし、ビルの管理者も感染しました。感染はすぐそばにあるもので、でも見えないもので、対策をとっても感染してしまう可能性がありました。

 

 

あれから1年半が経ち、ワクチンが進み、事務所のビルはマスクなしで入れます。エレベーターは3人から4人まで乗れます。事務所内でもマスクなしで過ごせるようになり、事務所の住人の笑顔が見えます。それでも習慣化したマスクやデスタンスは残っています。

ニューヨークでのワクチン接種は、2021年1月から始まり、75歳以上の高年齢者、医師や医療従事者(高年齢者施設の職員も含む)、そしてその2週間後には、65歳以上の市民、マーケットの従業員、公共交通従事者、警察官、消防士らの接種が始まりました。予約はインターネットで行い、年齢が判る身分証明書(人によっては職種証明書や雇用証明など)を持って接種所に向かいました。場所は幕張メッセの様な大きな施設(週末は、州の学校)を会場にしていました。私の接種時に一緒になった若い人たちは、職業の証明書を見せていました。

どのくらいの勢いで接種が進むのかが気になっていましたが、かかりつけの医師や病院の関係者、その次に、マーケットのレジのお姉さん、食料品を運んでくるトランクのおじさん、バスの運転手、地下鉄の運転手など、24時間働いて普段の生活を支えてくれる人達が高年齢者と一緒に接種が進み、生活を支えてくれている人たちが受けられて、本当にほっとしました。

 

 

今は誰でも即接種ができます。PCR検査も同じように移動車が回っています。どちらも気軽にその場で受付してもらい無料です。徐々に通常の生活に戻ってきている感じがします。車の渋滞を見ますし、朝の通勤ラッシュで人が多く移動しています。

マンハッタンの接種率は、大変高いですが、でも全員ではありません。それに、他の州からの訪問者もいます。通勤で使うバスの中には、マスクを外している人をたまに見ます。不愉快と感じているのは私だけではないようです。

マーケットでは、接種をした人はマスクが不要といいますが、自己申告で本当のところはわかりません。マスクをしていない人に限って、マスクの件を指摘されると、自分は接種していると言い張ります。同時に、お店のレジの人達は、緊張して笑顔が消えます。レストランやバーではもちろんマスクを外していますが、お店の人たちは、マスクをしています。

もちろん病院では、全員マスク着用です(これは今後長きにわたり残ると思います)。こうしてニューヨークのマンハッタンのことを書いていますが、では米国全体としてどうなのでしょう?

 

 

米国では、自分の身は自分で守る。個人の意志を尊重する考え方があります。ここに住み始めて、よく聞かれたのは、「あなたは、どうしたいの?」という言葉でした。その通りにならないとしても自分の思いを言うようにとよく言われました。

宗教、個人の考え、体調、どんな理由であれ、接種は強制できません。もちろんインフルエンザや他の接種についても同じです。今回は政治的な背景があるようですが、それも個人が判断することです。

日本からの訪問者だけでなく、多くの国から米国に入国する人たちも、国内での移動時など、他人が1メートル以内に長い間いるような移動は、気になるようです。私も気になります。私が気になる理由は、もしかしたら2020年の3月ごろ、同じ事務所を使っていた人がマイアミに行き、機内で感染して2週間後に亡くなったせいかもしれません。40歳ぐらいでがっちりとした体格の健康そうな人でした。誰もが驚きましたが、どうにもなりません。本人が一番驚いたと思います。

世界中を巻き込んでいる感染ですから、国内に持ちこませまいとすべてのことを遮断していても日本に入って来てしまうでしょう。

インドもEUも他のアジアでも感染はどこでも起きています。パスポートで母国に帰る理由で行き来する渡航者、ニューヨークの様に二重国籍の多いところでは、人の動きを止めるよりも、できる限り接種して、感染犠牲者を防ぎたいと考えていると感じます。誰が接種完了したか判りませんから。

 

 

先日、ブルース・スプリングスティーンのコンサートがあり、入場には、チケットと身分証明、それに2回の接種完了の証明がないと会場に入れない、という方法が取られました。接種証明書は、アメリカでは反対派が多く、実現しないと言われていますが、ニューヨーカーはニューヨーク独自の接種証明書をApp化しています。

ここ世界中の人が住んでいるニューヨークでは、確実に死者や感染者が減少しています。6月24日発表では、ニューヨーク州人口20,759,365人中、PCR検査113,108人中343人の感染、死者は5人、入院中442人です。

6月28日発表では、PCR検査55,334人中、290人の感染確認、死者は3人、入院中346人でした。

感染者や患者の中で、ワクチンを打っていない人が多いのもまた事実です。

 

 

今後、出張や旅行、すべての移動に制限を付けてはいられません。観光大国は日本だけではなく、マンハッタンもパリもミラノも観光は、大きな経済の支えです。オリンピックイベントだけではなく、海外アーテストのコンサートやオペラ、演劇など、多くの海外からの文化を遮断することはできないと思うのです。

何十年も前の話ですが、私は、日本を出る時に予防接種をしました。米国入国時に接種をしていなければ入国できなかったのです。そんな時代もあったのです。

私は(もし陽性だとしても)人に移したくないし、これ以上知り合いで亡くなって欲しくないです。味覚障害や臭覚障害は、一度なってみないと判らないことですが、とても辛いでしょう。体調不良や呼吸疾患なども治る保証はありません。

 

 

以上、ニューヨークで改めて考えさせられたことを書きました。ニューヨークで事業展開や投資業務のお手伝いをしている私ですが、安全・安心の下、ビジネスを進めていかなければなりません。現地情報が必要な方々は、私の会社窓口までお尋ねください。いつでもお気軽にお尋ね頂ければ幸甚です。

 

 

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

 

New York StateからのMailの原文(一部分)


June 24, 2021.

Dear Yoko,

Today we close out the emergency chapter in the pandemic—effective today, New York’s COVID-19 State of Emergency has ended. Federal CDC guidance will remain in place, meaning if you’re unvaccinated, you should still wear a mask in public indoors. Masks will also still be required on public transit and certain other settings, like health care facilities. Fighting COVID and vaccinating New Yorkers are still our top priorities but the emergency is over—and that’s thanks to the hard work of New Yorkers and especially all our essential workers. We will continue to focus on COVID recovery and reimagining and rebuilding New York.

 

  1. COVID hospitalizations are at 442. Of the 113,108 tests reported yesterday, 343, or 0.30 percent, were positive. The 7-day average percent positivity was 0.35 percent. There were 101 patients in ICU yesterday, down one from the previous day. Of them, 60 are intubated. Sadly, we lost 5 New Yorkers to the virus.

 

  1. As of 11am this morning, 71.3 percent of adult New Yorkers have completed at least one vaccine dose, per the CDC. Over the past 24 hours, 56,547 total doses have been administered. To date, New York administered 20,759,365 total doses with 63.5 percent of adult New Yorkers completing their vaccine series. See additional data on the State’s

 

社外取締役を置くことの義務付けについて

令和元年の会社法改正により、監査役会設置会社のうち、公開会社であり、かつ大会社で、金融商品取引法上、発行株式につき、有価証券報告書の提出義務を負う会社については、社外取締役を置かなければならないとされ(改正会社法第327条の2)、既に改正会社法は施行されております。但し、改正法の施行当時(2021年3月1日)、上場会社等であって社外取締役を置いていないものについては、選任のために臨時株主総会を開催することは要せず、改正法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までに、社外取締役を選任すればいいことになっています。したがって、3月末日を決算日とする会社については、来年の定時株主総会までに対応すればいいことになります。

 

これまでは、上記の対象会社が社外取締役を置いていない場合には、取締役は定期株主総会で、社外取締役を置くことが相当でない事由を説明しなければならないとされていたものを一歩進めて、義務化したものです。少数株主を含む全ての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場として、業務執行者から独立して経営を監督し、コーポレートガバナンスを実効的に機能させていくという社外取締役の役割、有用性が広く認知されていることもあり(令和2年7月現在で上場会社の98.4%において社外取締役が選任)、義務化されたものです。

 

対象会社は、以下の要件を全て満たす株式会社です。

①監査役会設置会社であること

なお、監査等委員会設置会社や指名委員会設置会社については、2人以上の社外取締役を必ず置くこととされており、今回の改正は監査役会設置会社のみを対象としたものです。

②公開会社であること

全株式を自由に譲渡できる株式会社であること(株式の譲渡制限のない会社)

③大会社であること

貸借対照表上の資本金が5億円以上であるか、又は、負債の合計額が200億円以上で計上されている株式会社

④金融商品取引法24条第1項により、株式について有価証券報告書の提出義務を負う会社

金融商品取引所に上場されている株券の発行者である会社、すなわち、上場会社がその対象となります(同項1号)。また、上場していなくても、株主が1000人以上である株式会社等は対象会社となります(同項2号)。

 

施行後遅滞なく社外取締役の選任をしなかった場合には、取締役としての善管注意義務違反が問われ、また、100万円以下の過料に処せられます。

また、事故等により、社外取締役が欠けるに至った場合も、社外取締役を選任するための手続きを遅滞なく進めて、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、それまでの間になされ取締役会の決議は無効とならないとされています。但し、長期間欠員のまま放置され、社外取締役による監督がなされていない状況の取締役会の決議は無効となる場合もあります。

 

社外取締役が1名の場合は、不慮の事態に備えて補欠取締役の選任(会社法329条3項)をするといった対応も必要であると考えられます。

また、東京証券取引所が上場会社に求める主要な原則をまとめた改訂コーポレートガバナンスコード(令和3年6月11日施行)では、市場再編後のプライム市場上場会社においては、独立社外取締役を3分の1以上、それ以外の市場上場会社は、2名以上選任すべきとされています。

 

池田総合法律事務所は、会社の組織運営・株主総会運営等を含め会社法務全般について業務を取扱っており、社外取締役、監査役として稼働している弁護士も在籍しております。お気軽にご相談ください。

(池田伸之)

中小企業とリース契約

1 はじめに

中小企業であっても,大企業であっても,複合機をはじめとした設備機器をリース契約で導入する事業者は多いと思います。

オペレーションリース契約であれば,税法上,賃貸借取引となり,リース料を支払うべき日において経費処理ができるという費用の平準化メリットがあります。また,中小企業でも,リース会社にリース物件の所有権が留保されるファイナンスリース契約では,オペレーションリース契約と同様,税法上,賃貸借取引として処理することができます。

このように費用の平準化をすることができる,貸借対照表上の資産に計上されずにオフバランスできるというのがリース契約のメリットとなります。

 

2 リース契約の特徴

リース契約の特徴は,ユーザー(賃借人),販売会社(サプライヤー),リース会社(賃貸人)の三者関係である点です。

従って,一般的に,ユーザーは販売会社を通じて,リース会社にリース契約を申込み,リース会社とリース契約を締結します。

 

3 中小企業でのリース契約トラブル

中小企業(株式会社,有限会社,社会福祉法人,医療法人等)は事業者であり,一般消費者と異なり,消費者契約法等の消費者保護のための法制度の適用がありません。

サプライヤーの営業担当が,ユーザーのもとを訪問し,必要な機器であるとしてリースでの機器の導入を勧められ,営業担当者が誤った説明等をした場合でも,消費者契約法の直接の保護は得られません。

また,最近はIT機器の導入営業もありますが,事業者側が十分に理解できないまま,営業担当者が必要というのを鵜呑みにしてリース契約の申込みをしてしまうこともあります。

この場合,営業担当者の営業行為には,ユーザーの錯誤(勘違い)を誘発するものや,詐欺にあたるものもあり,民法95条,民法96条で問題になる余地はありますが,リース会社は第三者に当たりますので,リース会社がユーザーの錯誤やサプライヤーの詐欺を知っていた場合(悪意)やリース会社に過失がなければ,リース会社に対して錯誤や詐欺を主張できない(対抗できない)ことになります。

従って,一度,リース会社との間でリース契約が締結されてしまえば,ユーザーはリース料を支払い続ける必要があります。

 

4 早急な申込みの撤回を

ユーザーは,サプライヤーを通じて,リース契約の申込みをし,サプライヤーからリース会社に申込みがあったことが通知され,リース会社が審査をして,契約締結に応じるか否かを判断します。

そこで,リース会社がリース契約の審査が終了するまえ(契約が締結される前)に,ユーザーからリース会社に対して契約申込みを撤回することで,リース契約締結に至ることを回避できる可能性があります。

池田総合法律事務所でも,サプライヤーとリース会社双方に内容証明郵便を発送し,リース会社に申込みの撤回を認めさせた事案もあります。

しかし,この申込みの撤回については,リース会社の審査終了前という限られた時間内で内容証明郵便などで意思表示をする必要があります。

このような極めて短時間での対応をするには,日頃からコミュニケーションを取っている顧問先の事業者様に限られます。

リース契約をはじめ,法的トラブルは事業を続けていく上では避けがたいものです。顧問弁護士であれば,早急な対応により,より良い解決を導ける可能性もありますので,顧問弁護士の活用をおすすめします。

池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記〉

ハラスメント防止のための社内体制の強化を! ~ハラスメントはどこにでも起こりうる意識をもって~

1 今求められる社内体制強化

いわゆる労働施策総合推進法(※以下本文は法令を略称で説明し、正式名称は末尾に記載します)が改正され、パワーハラスメント防止対策が強化、パワーハラスメント相談窓口設置が義務化されました(令和2年6月1日施行)。

パワハラについては、これまで事業主の措置義務等を定めた法律はありませんでしたが、いわゆる労働施策総合推進法30条の2第1項が、パワハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることを大企業に義務付けるに至りました。すでに令和2年6月1日から始まっています。この対策義務は、中小企業にも令和4年4月1日から課せられます。

 

2 ハラスメントの法的責任

令和2年7月1日の厚生労働省発表によると、「『いじめ・嫌がらせ』に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が8年連続トップ」(※)であり、大きな社会問題となっています(※参考URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000213219_00003.html

 

職場内におけるいじめ・嫌がらせといったハラスメントは多様で、性的な言動によるセクシャルハラスメント(セクハラ)や職務上の地位・権限を背景とするパワーハラスメント(パワハラ)だけでなく、妊娠・出産・育児に関わるマタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)も問題になりえます。

このようなハラスメントは、労働者の人格を傷つけ、働きやすい職場環境で働く利益を侵害する行為であり、被害者はハラスメントを行った者に対して損害賠償請求をすることができます(民法709条)。また、加害者に不法行為責任が認められる場合には、事業主に使用者責任(民法715条)や債務不履行責任(民法415条)が認められることもあります。法律上、事業主はハラスメント防止に関する雇用管理上の必要な措置を講ずることが義務付けられており、必要な措置を講じていない場合には事業主への損害賠償請求が認められやすいといえるでしょう。

 

3 ハラスメント防止を義務付ける法令(複数あります)

このような事業主のハラスメント防止に関する雇用管理上の必要な措置を基礎づける法律や指針は、改正が相次いでいます。セクハラに関するいわゆる男女雇用機会均等法11条やいわゆるセクハラ防止指針が、マタハラに関しては男女雇用機会均等法改正法11条の3、育児介護休業法25条、いわゆるマタハラ防止指針が、それぞれ改正を重ねる中で内容を充実させながら事業主のハラスメント防止義務を基礎づけてきました。

 

 

4 事業主に義務付けられる必要な措置

ハラスメントに関する各種指針で事業主が雇用管理上講ずべきとされるのは、主に以下の措置です。

・事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

・相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

・職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

・併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取り扱いの禁止等)

・原因や背景となる要因を解消するための措置(マタハラのみ対象)

事業主は以上の措置については必ず講じなければなりません(なお、実施が望ましいとされている取り組みも別途定められています)。

簡単に説明すると、事業主は、労働者の意識啓発を行うなどハラスメント防止対策の周知徹底をはかり、相談窓口が相談しやすいものであるかをチェックするとともに、発生したハラスメントへの迅速な対応を行わなければなりません。

 

5 ハラスメント防止のための社内体制確立の必要性

このような措置が義務付けられた背景には、ハラスメント行為が一義的に定まらないという事情があります。ハラスメントは、社会通念上許される限度を超え、社会的に相当といえない場合に違法と評価されますが、判断に際しては両当事者の職務上の地位・関係、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の諸般の事情が考慮されます。業種や企業文化、当事者の職業的キャリアや社内的立場によって、同じような行為でもハラスメントに該当すると裁判所に認定されるケースもあれば該当しないとされるケースもありえます。

前項で述べた事業主に義務付けられる必要な措置のうち、事業主の方針の明確化及びその周知・啓発は、各企業・各職場でハラスメントの線引きに関する認識をそろえてその範囲を明確にすることで、多様なハラスメント行為を防止することにつながります。

また、ハラスメントは、社内の立場を利用したり、被害者側の業績不振が背景にあったり、密室で行われたりと表面化しづらいケースも一定数あります。企業や事業主の把握できない水面下で労働者の人格的利益が損なわれ、休職・退職や訴訟といった形で突如問題として表面化することも少なくありません。

前項で述べた事業主に義務付けられる必要な措置のうち、相談しやすい環境を整えることと相談に対して迅速かつ適切な対応を行うことは、仮にハラスメント行為がなされた場合でも人格的利益の侵害を最小化するためのものです。

このように、ハラスメント防止の社内体制の確立は、企業や事業主にとって、法的リスクを軽減させる手段であるとともに、大切な労働者の人格的利益を守るための手立てでもあります。重要な意義を有するものですので、実効的なものとなるよう積極的に取り組む必要があります。

事業主の方針の作成、ハラスメント研修、相談窓口のマニュアル作成や相談窓口の外部化など、当事務所が支援できることがたくさんあります。ハラスメント防止の社内体制構築についてお気軽にご相談ください。

(山下陽平)

 

※ 第3項中でふれた関係法令の正式名称は次のとおりです(上段が略称、下段が正式名称)。

・労働施策総合推進法

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の 安定及び職業生活の祷実等に関する法律

・男女雇用機会均等法

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

・セクハラ防止指針

事業主が職場における性的言動等に起因する問題に対して雇用管理上講ずべき措置についての指針

・育児介護休業法

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

・マタハラ防止指針

事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

令和に入って初めての会社法の改正~株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化~

会社運営に欠かせない会社法の改正への対応は、株主をはじめステークホルダーにとっても重要な視点です。平成時代の前半は規制緩和のニーズもあり、ほぼ毎年のように改正がなされました。今回の改正は、令和になって初めての改正ですが、5月から6月の株主総会シーズンを前に、おさらいしておきたいと思います。

何回かに分けて取り上げる予定ですが、今回は、まず、株主総会に関する重要な改正について、御紹介します。今回の改正では、株主総会に関して重要な改正が2つ行われました。

 

1 一つには、「株主総会資料の電子提供制度」です。定時株主総会に関して、株主に送付する招集通知などの資料のうち、一定の資料について、紙で送る代わりに、会社のウェブサイトなどに掲載することで株主に提供したこととする、という制度です(会社法325条の2)。

資料とは、①株主総会参考資料、②議決権行使書面、③437条の計算書類及び事業報告書、④44条6項の連結計算書類です。

 

書面投票制度と異なり、電子投票制度の採用は義務付けられてはいません(会社法301条2項は、「できる」と書かれています)が、デジタル情報社会の進行に伴い、増えていくものと思われます。会社としては、印刷や郵送のための時間や費用を節約することにもなります。

 

電子提供制度を採用する場合、定款で定め、登記をする必要があります。

また、株主総会の3週間前(又は招集通知を発した日のいずれか早い日)までにウェブサイトへの掲載を開始する必要があります。また、株主総会の日の3ケ月後まで掲載を続ける必要があります。EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子公開システムで、金融庁が公開している)において、有価証券報告書の提出を行うことで電子提供を代替することも可能となります。

 

注意すべきは電子提供制度を採用する場合であったとしても、招集通知は書面で発送する必要があることです。招集通知の発送期限は公開会社、非公開会社を問わず一律に株主総会の2週間前です。

また、重複投票がなされて混乱することがないように、書面投票と電子投票の両方がなされたときのルールを定め、会社側の恣意的な判断とならないように準備することも必要です。

 

今年、この制度を先取りして、実際の出席、書面での議決権行使に加えて、インターネットでの議決権行使も併せて記載した通知を送付した企業も多いと思いますが、この制度が導入されると、システムの整備など、総会の実務に大きな影響を与えます。例えば定款変更しておきながら電子提供措置を取らなかった場合には過料が課せられます(会社法976条19号)。この制度については、他の改正内容とは違って、施行日は、本年3月1日からではなく、公布日から起算して3年6か月を超えない日として政令で定める日から施行されることとなっています(2023年(令和5年)3月末)。

 

2 もう一つは、株主提案権のうち、株主が一つの株主総会で、自ら提案する議案の内容を会社の招集通知に掲載せよと要求できる権利(議案要領請求権)について、提案できる議案数が、今までは無制限だったのですが、今回の改正では10個までに制限されました。

 

10を超えるときの優先順位は、取締役が定めるものとされ、株主が優先順位を定めている場合には、取締役はそれに従って定めるものとされます。

なお、国会に提出された法案では、数だけでなく、不当な目的等による議案を制限する規定も提案されていたのですが、株主の権利保護の観点から、衆議院で修正され、削除されました。

 

次回は、改正の中でも重要な取締役に関する規律の変更について、取り上げます。

 <池田桂子>

不正競争防止法を意識していますか

他人の商品や営業の表示等を模倣したり、顧客情報などを盗んだりするなど、不正な手段で売上を伸ばそうとする行為は、不正競争防止法によって禁止されています。

しかし、禁止されている行為を知らなければ、不正な手段だと知らずに当該行為を行ってしまう場合もあるかもしれません。不正競争防止法は、企業活動で意識することの必要な法律であると言えます。

そこで、不正競争防止法ではどのような行為が禁止されているのか、以下条文に沿って、過去の著名なケースを中心にご紹介します。

1.周知表示混同惹起行為(第2条第1項第1号、第21条第2項第1号)

他人の商品・営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為が禁止されています。

過去の裁判例では、ソニー(株)の有名な表示である「ウオークマン」と同一の表示を看板等に使用したり「有限会社ウォークマン」という商号として使用した業者に対し、その表示の使用禁止及び商号の抹消請求が認められました(千葉地判平8.4.17)。

また、大阪の有名かに料理屋の名物「動くかに看板」と類似した「かに看板」を使用した同業者に対し、看板の使用禁止及び損害賠償が認められました(大阪地判昭62.5.27)。

 

2.著名表示冒用行為(第2条第1項第2号・第21条第2項第2号)

他人の商品・営業の表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為が禁止されています。

過去の裁判例では、三菱の名称及び三菱標章(スリーダイヤのマーク)が、企業グループである三菱グループ及びこれに属する企業を示すものとして著名であるとして、同名称及びマークを使用した信販会社、建設会社や投資ファンドに対し使用を差し止めました(三菱信販事件-知財高判平22.7.28)(三菱ホーム事件-東京地判平14.7.18)(三菱クオンタムファンド事件-東京地判平14.4.25)。

また、任天堂の「MARIOKART」「マリオ」等の表示と類似する「MariCar」、「MARICAR」、「maricar」等の標章を営業上使用している会社に対して、著名表示冒用行為に当たるとして、使用差止め等と損害賠償が命じられました(マリカー事件-知財高判令2.1.29)。

 

3.形態模倣商品の提供行為(第2条第1項第3号・第21条第2項第3号)

他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為が禁止されています。

同一の形態の商品であっても、自ら独自に創作した場合は該当しません。また、商品の機能を確保するために不可欠な形態が同一である場合も本条に該当しません。

 

4.営業秘密の侵害(第2条第1項第4号~第10号・第21条第1項、第3項)

窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、若しくは第三者に開示する行為が禁止されます。

過去の裁判例では、投資用マンションの販売業を営む会社の従業員が、退職し独立起業する際に、営業秘密である顧客情報を持ち出し、その情報に記載された顧客に対して、転職元企業の信用を毀損する虚偽の情報を連絡した事案で、損害賠償請求が認められました(知財高判平24.7.4)。

また、石油精製業等を営む会社の営業秘密であるポリカーボネート樹脂プラントの設計図面等を、その従業員を通じて競合企業が不正に取得し、さらに中国企業に不正開示した事案で、図面の廃棄請求、及び損害賠償請求等が認められました(知財高判平23.9.27)。

 

5.ドメイン名の不正取得等の行為(第2条第1項第19号)

図利加害目的で、他人の商品・役務の表示と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有またはそのドメイン名を使用する行為が禁止されます。

過去の裁判例では、原告の商号である「電通」と類似する「dentsu.org」など8つの「dentsu」を含むドメイン名を取得・保有し、原告に10億円以上の金員で買い受けるように通告してきた被告に対し、ドメイン名の取得、保有及び使用の差止めと登録抹消申請手続、損害賠償(50万円)が命ぜられました(dentsuドメイン名事件-東京地判平19.3.13)。

 

6.誤認惹起行為(第条第1項第20号・第21条第2項第1号・第5号)

商品、役務又はその広告等に、その原産地、品質、内容等について誤認させるような表示をする行為、又はその表示をした商品を譲渡等する行為が禁止されます。

過去の裁判例では、富山県氷見市内で製造もされず、その原材料が氷見市内で産出されてもいないうどんに「氷見うどん」等の表示を付して販売する行為は、原産地の誤認に該当するとして、損害賠償(約2億4000万円)が命じられました(氷見うどん事件-富山地判平18.11.10、名古屋高判平成19.10.24)。

また、食肉加工事業者が鶏や豚などを混ぜて製造したミンチ肉に「牛100%」等と表示し、取引先十数社に約138トンを出荷する等して、代金約3900万円を詐取した行為につき、商品の品質・内容を誤認させ不正競争防止法及び刑法(詐欺罪)に違反したとして、元社長に対し、懲役4年の実刑が科せられました(ミートホープ事件-札幌地判平20.3.19)。

 

このように、企業活動における様々な行為が不正競争防止法に当たるとされており、企業は、自らの活動が禁止されるものでないかを常に意識する必要があります。将来予期せぬことで他企業から訴えられないよう、事前に弁護士にご相談いただくと安心です。

<石田美果>

 

債権回収の進め方

1 はじめに

新型コロナウイルス感染症は,需要が瞬間蒸発してしまった航空業界に代表されるように,日本経済のありかた,産業のありかた,会社のありかた等を劇的に変えてしまいました。

新型コロナウイルス感染症の影響による経済活動の低迷に対しては,日本政策金融公庫による新型コロナウイスル感染症特別貸付事業が導入されるなど,政府による下支えがありました。

この劇的な変化に対して,個々の企業では業態転換させて収益を維持している企業,IT分野などのコロナ禍をチャンスとしての業績を拡大させた企業がある一方,生き残りができない会社や業界をも生み出しつつあります。

そして,業態転換やコロナ禍をチャンスとして業績を拡大させた企業など事業は順調に行っているにもかかわらず,取引先が破綻し売掛金が焦げ付いたことにより,連鎖的に資金繰りに窮して連鎖破産を強いられる場合があることは否定できません。

しかし,連鎖破産は,適切な与信管理が行われていれば,回避できる可能性もある事態です。

そこで,今回は債権回収の進め方と題して,債権の管理から回収までの概要を説明させていただきます。

 

2 債権の管理

(1)取引先は大丈夫か

特に新規で取引が始まった先などは,その実態が分からず与信管理が難しい面があります。

新規取引先等については,必ず登記を取得して役員構成等を把握しておく必要があります。通常は取締役や監査役が退任する際には,任期満了か辞任となり,その内容での登記がされています。しかし,登記を確認すると,取締役や監査役が解任されているような会社があります。役員が解任されている会社では,会社に内紛が生じており,経営が成り立っておらず,キャッシュフローの赤字化,従業員の流出が目立たないまでも進んでいる可能性があります。

また,取引先の窓口担当者が定期異動などの理解できる理由もないままに頻繁に変更される場合も,従業員の管理すらできていない,あるいは従業員が働き続けることもできない会社であることの現れとも考えられますので,やはり注意が必要です。

次に,帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社に調査を依頼する(あるいは調査済みの報告書を購入する)ことで,資金状況やその調達力,今後の見通しなどの専門企業による情報を手に入れることができます。このような信用調査会社の調査結果に基づいて取引先の信用度を把握していく必要があります。

(2)債権の管理はできているか

売掛金等の債権を,どの会社に,いくら,入金期限はいつで保有しているのか明確に把握されていますか。債権を回収した際には,正確に消し込み処理をしていますか。債権の存在を証明する契約書,請求書などはありますか。

裏付けとなる資料を含む債権の管理ができていないと日常の債権回収もできませんし,緊急に債権の回収を図るべき局面において資料整理等で時間を浪費することになります。この時間の浪費が回収の遅れを招き,他の債権者の後塵を拝することにもなりかねません。

先日の「デジタル時代の契約書と文書管理について」(https://ikeda-lawoffice.com/law_column/%e3%83%87%e3%82%b8%e3%82%bf%e3%83%ab%e6%99%82%e4%bb%a3%e3%81%ae%e5%a5%91%e7%b4%84%e6%9b%b8%e3%81%a8%e6%96%87%e6%9b%b8%e7%ae%a1%e7%90%86%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/)も参考にしていただき,債権管理をする必要があります。

(3)その他の情報収集

債権回収を図る際,最終的には現金が回収できなければ意味がありません。債務者が任意に支払わない場合には,強制執行等の手段で強制的に回収を図る必要があります。

そこで,将来を見据えて,取引先の情報を取得する際には,債務者の取引先銀行名と支店名,主たる取引先などの住所・名称等を把握しておくと,将来の強制執行の場面で情報を活かすことができます。

 

3 債権の回収

(1)内容証明郵便の発送

債権回収に延滞などの問題が生じた場合には,弁護士はまず内容証明郵便で債務を支払うように債務者に通知します。

代理人である弁護士からの内容証明郵便を受け取って,それをきっかけとして債権回収ができることもありますし,債務者側に資力があるにもかかわらず何らかの争点があって支払に応じない場合には弁護士が交渉をして回収できることもあります。

この内容証明郵便と交渉という方法は,もっともコストがかからず,短期間で回収できる可能性があるというメリットがあります。これは債務者側に支払余力があるという一定の信頼がベースにある方法です。

しかし,コロナ禍においては,すでに財務状況が毀損していたり,融資の元利払いでキャッシュフローが悪化している場合も考えられますので,時間との競争という局面では回収不能のリスクがあることになります。

(2)保全手続

債権の支払が受けられないが,債務者所有の不動産や,債務者の取引先銀行,債務者の取引先等が事前に判明している場合には,それらに対する民事保全(仮差押)をすることで,事前に債権を保全しておくことも重要となります。

しかし,保全の手続を行おうとした場合,そもそも仮差押えをすべき相手方の資産の内容が把握できていることが前提となります。また,保全の場合,債権者は裁判所が定める金額を供託しなければなりませんので(最終的に供託金も手元に戻ってくることもありますが),その費用負担は相応にあります。

保全をすべき事案かどうかは,債権管理としてどういった情報を事前に収集されているかなどを加味して,弁護士としての意見をお伝えさせていただくことになります。

保全の必要性を吟味するためにも,早めにご相談をいただきたいと思います。

(3)訴訟

債務者が任意に支払わない場合,強制執行をする前提として裁判所の判断が必要になります。

通常は,地方裁判所に訴訟を提起することになりますが,民事裁判は最も円滑に進んでも3~6か月の時間がかかります。

それを短縮する方法としては,簡易裁判所での支払督促という簡便な裁判手続をとることも選択肢にはなります。しかし,支払督促の場合,債務者から支払督促に異議を出されると通常訴訟に移行せざるを得なくなりますので,支払督促は特に争点がなく,債務者の抵抗が予想されない場合に選択することになります。

(4)執行

訴訟をして裁判所から判決(=「債務名義」ともいいます)を得ると,次に強制執行です。

強制執行では,債務者の財産で金銭に換金できるものについては,裁判所の力を借りて換金し,債権回収を図ることになります。

執行の種類としては,不動産の差押え・競売,預金等の差押えが代表的なものです。

その中で,預金の差押えが最も簡単にできるものですので,事前に収集されている預貯金口座の中の預貯金を差し押さえたり,仮差押えしている預貯金口座があればそれに対して強制執行をして回収を図ることになります。

また,改正民事執行法が2020年4月1日から施行(ただし,不動産に関する情報取得手続のみ2022年施行予定)されました。

改正民事執行法により,強制執行手続が不発に終わった場合,金融機関等(銀行等+証券保管振替機構+日銀)に対し,預貯金債権や振替社債等に関する情報を取得できる制度が導入されました。この手続では,裁判所が申立により金融機関等に照会をし,金融機関等が書面で裁判所に情報提供します。ただし,どの金融機関等に照会するかは申立時に決める必要があります。

この制度を利用することで,差し押さえるべき預貯金等がどの金融機関にあるか不明であっても,預貯金の所在の情報を得られる可能性が広がりました。しかし,この手続を法人取引先に利用しようとしても,法人側が最初の強制執行の段階で,他の預貯金等をすべて現金化して引き出してしまえば,やはり実効姓のある強制執行はできないことになるという限界はあります。

また,改正民事執行法では,あまり利用されていなかった財産開示手続も改正されました。改正により,正当な理由のない財産開示手続期日への不出頭については6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が定められましたが,どの程度実効姓のある手続になるかは不明確ですので,実務の集積を待つ必要があります。

 

4 最後に

債権回収は『水もの』とも言われるほど,迅速・的確に手を打っていかなければ,回収不能となり,貸し倒れとせざるを得なくなるものです。

この『水もの』としての性質はコロナ禍においてはより一層当てはまることになってしまいました。

現在,正確に債権管理ができていない事業者様においては,弁護士として債権管理の仕方をご相談しながら構築していくことができます。

また,債権の回収を図らなければならない局面にいたってしまった場合には,裁判手続などの採れる手段をすべて講じて,迅速に全額あるいは少しでも債権を回収する行動を起こすことが必要ですが,そこは弁護士が知識や経験を総動員して対応すべき場面ですので,弁護士にご依頼していただく必要があります。

債権管理や債権回収については,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記〉

デジタル時代の契約書と文書管理について

昨今のデジタル技術の普及に加え、コロナ禍におけるリモートワークの推進により、契約書や文書の電子化が急速に進んでいます。

本コラムでは、電子契約や電子文書を扱う上での法的な注意点をお伝えします。

 

1 電子契約について

()電子契約とは

電子契約とは、「電子的に作成した契約書を、インターネットなどの通信回線を用いて契約の相手方へ開示し、契約内容への合意の意思表示として、契約当事者の電子署名を付与することにより契約の締結を行うもの」(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)電子契約委員会「電子契約活用ガイドライン 2019年5月 Ver.1.0」より)とされています。

紙の契約書の場合、当事者が合意していることを示すために署名や押印がなされますが、WordやPDFなどで電子的に作成された契約書には署名や押印をすることができません。そこで、電子契約においては、一定の暗号措置を用いて作成者を表示する「電子署名」を付与します。

 

()電子契約の証拠としての価値

契約書には、後日、紛争になったときに、契約の存在及びその内容の証拠となる機能があります。

電子契約についても、証拠としての価値は紙の契約書と変わりません。裁判等で紛争となった際には、電子契約を証拠として提出することになります。

電子契約を証拠として提出する際に、成立の真正(電子契約が契約当事者として記載されている人の意思に基づいて作成されているか)が問題となることがあります。

これについては、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)という法律が、一定の場合に成立の真正が推定されることを規定しています(同法3条)。

電子契約を扱う際には、当該電子契約が同法の適用を受けるものなのか、留意する必要があります(詳しくは、コラム「立会人型電子契約に関する論点」をご覧ください)。

 

2 電子文書について

()電子文書とは

電子文書とは、「電子的な手段によって作成された文書情報」をいいます(JIS Z 6015:2016「文書情報マネジメント用語」より)。Wordファイル、Excelファイルなどがこれにあたります。

類似の言葉として「電子化文書」というものがあります。これは、「スキャナなど文書読取り装置を利用して書面を画像情報として電子化した文書情報」と定義され(JIS Z 6015:2016「文書情報マネジメント用語」より)、紙の文書をスキャナで読み込んで作成されたPDFなどがこれにあたります。

いずれも、紙媒体と比較して、

・保管場所を取らず保管コストが低減される

・文書内の情報の検索が容易

というようなメリットがあります。

一方で、

・複製が容易で、短時間の内に広範囲に情報が流出する可能性がある

・修正や改ざんの痕跡が残りにくい

といったデメリットも存在します。

 

()電子文書の管理

 ア 文書管理の必要性

文書管理の必要性には大きく2つの方向性が考えられます。

一つは文書を適切に管理することにより、そこに記載された情報に適時にアクセスできるようにすることです。

もう一つは、法定保存書類(法律上、一定期間保存することが義務づけられている書類)の管理やリスク管理といったコンプライアンスの側面からの必要性です。

 イ 電子文書の管理について考えるべきこと

 ()情報へのアクセスやデータ利用の観点から

(1)で述べたとおり、電子文書には、「文書内の情報の検索が容易」であるというメリットがあります。業務上の文書を電子文書で保存、管理することにより、必要な書類に瞬時にアクセスできたり、過去の文書から得られる情報をデータとして活用したりすることが考えられます。

このような電子文書の特性を最大限生かすためには、例えば以下のような工夫をすることが考えられます。

①極力全ての文書を紙ではなく電子文書にする。

紙の文書と電子文書が混在していると、検索が容易、情報をデータとして活用といったメリットが生かせなくなってしまいます。もっとも、全ての文書を電子化してしまって良いかという点については、後述(イ)①・②で述べる点のついて注意が必要です。

②予め検索しやすい形式で保存する。

電子文書の保存場所を一定にする、ファイル名称の付け方に一定のルールを設けるなどしておくと、後々、情報の検索や利用が容易になります。

 ()コンプライアンスの側面から

コンプライアンスの側面からは、以下のような留意点があります。

①法定保存文書については、電子化の可否、電子化の要件などを確認し、その要件を満たしておく必要があります。

②契約書が紙で作成されている場合の原本など、将来、紛争化したときの証拠資料として、紙文書もあわせて保存しておく必要がある場合があります。

③(1)のデメリットで述べたとおり、電子文書は、紙の文書と比較して、流出や改ざんの危険性が高いと考えられることから、技術的なセキュリティ対策をするとともに、文書の重要性・秘密性に応じてアクセス権限者を制限するなど、文書の性質に応じた管理をする必要があります。

④文書の管理にあたっては、文書情報管理規程を設けて文書管理体制や管理方法等を決めておくことが有用です。既に社内に文書情報管理規程が存在する場合、それが電子文書に対応していない可能性もありますので、見直しを図る必要があります。

 

電子契約の導入や文書管理の見直しをご検討の方は、池田総合法律事務所にご相談ください。

<川瀬裕久>

身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう!

春は就職の季節。新しいスタートでいろいろな書類を会社に提出することが求められます。求められたら提出するのが当たり前という意識が雇う側にも雇われる側にもあり、従来の慣行をそのまま続けているということも少なくないと思います。

 

気を付けていただきたいものの一つが身元保証契約書です。企業が採用した被雇用者の身元を第三者である身元保証人に保証させる書類です。身元保証人が被雇用者の経歴や素性に問題がないか、万一、被雇用者が会社に損害を与えた場合に被雇用者と連帯して賠償責任を負うことを約束する文面になっています。

このような場合、多くは親や兄弟が保証人になることが多いと考えられます。会社によっては、身元保証人を両親等一定の関係にある親族に指定する場合もあると聞きます。

 

身元保証契約に関する法律では、保証期間は5年が限度、保証期間を定めなければ期間は3年。契約の更新が可能ですが、保証期間や内容に変更があればそれを保証人に遅滞なく通知しなければ責任を問えないと規定されています。契約の更新を通知された保証人はそれ以降の契約を解除することができます。

 

また、2020年4月に改正された民法では、保証人が支払いの責任を負う金額の上限額を定める必要があります。連帯保証人の保護強化を目的に、極度額(上限額)の定めのない連帯保証は契約自体が無効とされることになりました。身元保証契約においても、今後は保証の上限額を定めておかなければならないことと解され、注意が必要です。ひな型を用意しておられる場合には、連帯保証条項の見直しをしましょう。

 

賠償の上限額ですが、仮に1億円と定めて身元保証を交わしても、起きた事象について、業務上の横領のような従業被雇用者(従業員)の側に責任が明確にあるような場合はともかく、事故等の多くは、雇用者(会社)側に過失はなかったのか、従業員となった社員の仕事の変化や状況など一切の事情を検討すべきことが多く、身元保証契約を締結する時点で、具体的な金額の定めをしたから、それで足りるということにはならないものです。実際、身元保証書を交わしている事案でも、多額の請求額が要求された場合に、裁判所が情状酌量して減額を命じた(認容額において)裁判例もあります。

被雇用者に支払われる給与額を考慮した現実的な上限を一つの目安として、例えば月給の12ケ月分といった具体的な内容を念頭に置いておくべきではないでしょうか。1億円というような法外な上限額を定めたとしても実質的にみて上限額を定めたことにならず無効とされる余地もあります。

 

以上のような諸点を前提として、身元保証を交わす意味はどこにあるのかですが、若い従業員が、例えば、精神疾患を発症したといった場合には、将来のことも考えて、身元保証人がいれば、休職や退職をめぐる話し合いにおいて身元保証人が重要な役割を果たすということを期待することができると考えられます。金銭保証の意味合いよりも人物保証としての意義を考えれば、身元保証を得ておくことは、それなりの意味はあるものとも思います。しかし、ネットなどで本人の素性など個人情報もある程度確認できる時代ですから、従来の慣行だからそのまま続けるというのではなく、身元保証を約束する意味があるか否かを、今一度検討していただきたいものです。

また、従業員の身元保証に関しては、就業規則にも定めて、従業員に周知しておかれるとトラブル防止にもつながると思います。                                                         <池田桂子>