民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情

1 はじめに

売買の買主が契約の内容に基づいてお金を支払ってくれないとき、あるいは、交通事故の被害にあったのに加害者が損害賠償金を支払ってくれないとき、訴訟を提起するという手段があります。訴訟の中で請求者の言い分が認められた場合には、裁判所から「被告は原告に○○円を支払え」という判決が出されますが、それでも相手(被告)がお金を支払おうとしないことがあります。こうした場合でも、例えば裁判所が判決の通り支払いがなされることを保障してくれたり、あるいは、支払いをしなかった人に刑罰が科されたりすることはありません。請求者としては、強制執行という別の手続をとることで、相手の財産から強制的に取り立てる(例:預金や不動産を差し押さえてお金に換えるなど)ことができます。

もっとも、強制執行をするためには、請求者(債権者)において、対象者(債務者

がどんな財産を有しているのか、把握しておく必要があります。しかしながら、債権者が債務者の財産について全く情報を持っていないということも少なくありません。

法律(民事執行法)上は、債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述により取得する「財産開示手続」という制度が設けられていました。しかしながら、この制度はなかなか使いづらい側面があり、あまり利用されていませんでした。

そこで、2019年に民事執行法が改正され、2021年5月までにその全てが施行されました。

本コラムでは、今後7回にわたり、民事執行法の改正内容や、強制執行の中で実務上重要な預貯金債権の差押え、賃貸物件の明渡について取り扱います。

 

2 民事執行法等の2019年改正の概要

上記のような背景の下、2019年5月10日に民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律が成立し同月17日に公布されました。

改正の概要は以下のとおりです。

(1)債務者財産の開示制度の実効性の向上(民事執行法の改正)

ア 現行の財産開示手続の見直し

財産開示手続をより利用しやすく実効的なものとすべく、現行制度の見直しがなされました。この点については、後記3で詳しくご紹介します。

イ 債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設

執行の対象となる債務者の財産の情報を取得する手段として、債務者以外の第三者からの情報取得手続が新設されました。

この制度では、裁判所の命令により、①金融機関から、預貯金や上場株式、国債等に関する情報を、②登記所から、土地・建物に関する情報を、③市町村、日本年金機構等から勤務先(給与債権)に関する情報を取得することができます。

 

(2)不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策(民事執行法の改正)

公共事業や企業活動等からの暴力団排除の取り組みが官民を挙げて行われている中、不動産の競売手続において、裁判所の判断により、暴力団員、元暴力団員、法人で役員のうちに暴力団員等がいるもの等が買受人となることが制限されるようになりました。

 

(3)国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化 及び、国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し

日本国内で子の引渡を強制的に行う場合、従前はその方法について規定がなく、動産と同じような取扱をしていました。

そこで、裁判の実効性を確保しつつ、子の利益に配慮する等の観点から、規律が明確化されました。

また、国際的な子の返還の強制執行に関しても同様の規律の見直しがなされました。

 

これらの改正以外にも、民事執行の手続が円滑になされるよう様々な改正がなされました。

 

3 財産開示手続に関する改正内容と利用の実情

(1)制度の概要

債務者を裁判所に呼び出し、どのような財産をもっているかを裁判官の前で明らかにさせる手続です。

確定判決等の債務名義(強制執行によって実現されるべき権利の内容などが記載された文書のうち、これを基に強制執行をすることが法律上認められているもの)を持っている債権者の申立により開始され、債務者が出頭しなかったり虚偽の陳述等をしたりした場合には、30万円以下の過料の制裁がなされることとなっていました(改正前民事訴訟法)。

 

(2)改正の内容

改正前の民事訴訟法では、財産開示の手続の申立を出来る債務名義が限定されていて、例えば仮執行宣言付支払督促や執行証書を持っていても、財産開示手続の申立をすることができませんでした。改正により、これらの債務名義でも申立ができることとなりました。

また、改正により、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する制裁として、刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。刑事罰として懲役刑まであるというのは、場合によっては逮捕・勾留され、前科となる可能性がありますので、債務者に対して大きなプレッシャーになると考えられます。

当該改正は、令和2年4月1日から施行されています。

 

(3)利用状況

財産開示手続の従前の利用状況は以下のとおりで、年々件数が減少しており、令和元年度の件数は、平成23年度の件数の約半分となっていました。

この間、債権執行の件数は概ね横ばいから微増という状態ですので、強制執行を要する案件の数は減っていない、むしろ増えているにもかかわらず、財産開示手続はあまり利用されてこなかったということがわかります。

ところが、令和2年になると財産開示手続の新件数が前年比約7倍と大幅に上昇しています。(コロナ禍の影響がなければもっと増えていたかもしれません。)

 

判決等は取得したが回収ができていないという方は、これを機に財産開示手続を検討されてはいかがでしょうか。

【2021年11月25日追記】

2021年11月20日で岐阜新聞のウェブサイトに、正当な理由無く財産開示手続に出頭しなかった債務者が、民事執行法違反の疑いで逮捕されたという記事が掲載されました。

https://www.gifu-np.co.jp/news/20211120/20211120-124341.html

 

本件で、逮捕に至った具体的な事情は明らかではありませんが、民事執行法の改正により、不出頭等に対する制裁として、懲役刑が法定されたことは大きく影響していると考えられます。

実際に被疑者の逮捕に当たっては、逮捕をするための一定の要件があるため、単に財産開示手続に出頭しなかったからといって直ちに逮捕されるという訳ではありません。しかしながら、上記のような法改正及び運用の状況をみると、財産開示手続の呼び出しがあった場合には、安易に変えて、無視してしまうことは危険です。

(川瀬 裕久)

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2

~盛土と残土~

 

1 はじめに

2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害では,盛土の崩壊が疑われています。

それをうけ,国が「盛土による災害防止に向けた総点検」をすることになり,例えば愛知県では2019箇所を抽出し(盛土の総点検における点検対象箇所の抽出結果について – 愛知県 (pref.aichi.jp)),今後は土地利用制限の権限をもつ地方公共団体が具体的な点検を行うことになります。

 

2 盛土の規制について

 盛土は,ほかの場所から持ってきた土を使って土地を平らに造成するなどのため,土を盛ることです。

適切に施工されていないと,盛土はもともとの地盤ではないため,崩壊しやすいという側面があります。

盛土は,宅地造成等規制法の定める宅地造成工事規制区域となっていれば,宅地造成工事の許可が必要になります。また,都市計画法の開発許可の対象にもなりえます。

さて,熱海市の土石流災害では,仮に盛土が原因であるとすれば,誰にどのような責任が生じるでしょうか。

まずは,土地所有者の責任が考えられます。民法717条(土地工作物責任)は,土地の占有者(=土地の現実の利用者)が第一義的に責任を負いますが,占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしていれば,土地所有者に損害賠償責任が生じます。

土地所有者の責任は無過失責任ですので,盛土が通常有すべき安全性を欠いていた場合には,盛土の強度などについて認識をしていなくても,土地を所有しているという事実のみで土地所有者は損害賠償責任を負うことになります。

次に,盛土の施工業者についても,強度等に問題のある盛土をしたのであれば,土石流災害で被災した方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。

従って,盛土は十分な強度計算に基づいて施工されなければ,人命の喪失や家屋の損壊など取り返しのつかない損害を生じさせ,当然その賠償額は高額になりますので,重大なビジネス上のリスクになりえます。

 

3 残土の規制について

 盛土の原料となる土については,造成工事の区域内で一部の土地を切り土した場合にはその土が使われることもあるでしょうが,他の場所で生じた残土が利用されることもあります。

残土は,例えばトンネル工事をした場合には,山にトンネルの空間を空けますので,その分の土砂が残ります。これを残土(建設残土,建設発生土とも)といいます。

残土はただの土ですので,産業廃棄物処理法の「廃棄物」ではありません。地球の一部である土砂そのものはゴミとは言えないためです(昭和46年10月16日「環整43号」参照)。

もちろん,土砂ではなく汚泥となる場合(基準は,平成23年3月30日環廃産第110329004号を参照)や,陶器片や木材片等が混じっている土砂は土砂と廃棄物の混合物となりますので,全体として廃棄物となると考えるべき場合はあります。

では,純粋な土砂について,何か法規制があるかというと,従来は残土についての法規制は特にありませんでした。

しかし,残土を山のように積み上げたところ,それが崩落したなどといった残土の処理が問題となる事案もありましたので,愛知県内では以下の自治体で残土条例が定められています。

・半田市土砂等による埋立て等の規制に関する条例

・春日井市土砂等の埋立て等に関する条例

・刈谷市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・西尾市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・常滑市土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・大府市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・尾張旭市土砂等の埋立て等に関する条例

・豊明市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・日進市土砂の採取及び埋立てに関する条例

・みよし市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・長久手市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例

・東郷町土質等規制条例

・扶桑町埋立て等の規制に関する条例

・阿久比町土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・南知多町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・美浜町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

・武豊町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例

 条例の内容は,例えば半田市であれば,1000㎡以上の土砂等による盛土工事を行うためには工事着手前に市に届出をし,住民説明会を実施することなどが事業者に求められています。また,土地所有者についても,土地を適正に管理する責務なども定められています。

 

4 最後に

生命や身体を守るため,地域環境を保全していくためにも,適切な盛土の施工や残土の処理が必要になります。

特に,開発をする際などには,ディベロッパーにとっては細心の注意を払うべきです。

土地開発や残土処理などについて,お困りの点がありましたら,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記〉

環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載1

~リサイクルと廃棄物処理法~

 

1 はじめに

持続可能な開発目標(SDGs)や企業の社会的責任(CSR)などの観点から,事業活動にはより一層,地球環境との調和,環境問題への十分な取組,再生可能エネルギーなどのより環境負荷の少ない事業モデルの構築などが求められるようになってきました。

そこで,今後,不定期ですが,環境法制,環境問題,再生可能エネルギーなど,環境分野について不定期でのコラムを掲載し,企業活動のための情報を提供させていただくこととしました。

不定期コラムの第1回は,廃棄物(ゴミ)とリサイクル(再生利用)の法規制を改めて検討してみます。

 

2 リサイクルと廃棄物処理法

(1)そもそも「廃棄物」とは?

私たちが食べるために育てている牛や豚,ニワトリからはふん尿が大量にでます。

肉も魚も野菜も売れ残ってしまえば,もったいないですが,処分されることになります。

建設現場からはコンクリートなどのがれきが大量にでてきます。

工場からは金属のくずが大量に出ますし,水での処理が必要な工程があれば汚水を処理した後には汚泥もでます。

設備を更新しても,古い設備は不要なものとして粗大ゴミなどになってしまいます。

そして,これらのゴミは,そのまま使う,資源となる物を取り出す,燃やして熱エネルギーに替えてしまう,埋め立ててしまうなど,地球環境に負荷をかけながら処理されていくことになります。

 

では,そもそも廃棄物とは何でしょうか?

 

廃棄物処理法2条1項は,廃棄物を『ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物または不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)。』と定義しています。

また,産業廃棄物とは,『事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物』と定義されています。

 

簡単にいえば,廃棄物は『不要物』をいうことになります。

廃棄物処理法に触れる機会があれば,必ず一度は検討する「おから事件」(最高裁平成11年3月10日判決)は,(平成4年法105号改正前の条文の解釈にはなりますが)『不要物とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かはそのものの性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。』と判示し,おからを産業廃棄物としています。

この判例は,総合判断説を採用されたといわれるもので,結局,物が不要物か必要物(有価物)かは,諸事情を検討して判断するとしたものです。

 

(2)リサイクル(再生利用・再資源化・熱回収など)

では,不要物を引き取ってリサイクルする場合,それは廃棄物を引き取っていることになり,廃棄物処理法の適用を受けるのでしょうか?

例えば,火力発電所などで石炭を燃焼させるときに発生する灰(フライアッシュ)は,もともとは産業廃棄物でした。

しかし,セメントにフライアッシュを混合したフライアッシュコンクリートは,強度の増進,乾燥収縮の減少などの特長があるため,フライアッシュはコンクリートの製造工場に納入される商品となっており,国内であれば国内需要に対応する供給である限り必要物となります。

 

まず,必要物(有価物)として引き取る側が代金を支払うという取引が成立する限りにおいて,廃棄物処理法の適用はなく,一般的な売買契約などの商取引になります。

この場合,平成17年3月25日環廃産業発第050325002号は,「引渡し側が輸送費を負担し,当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても,少なくとも,再生利用又はエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については,廃棄物に該当しないと判断しても差し支えないこと」としています。この意味は,譲り渡す側にとって手元マイナスが生じていても,総合判断の中で手元マイナスだけでは「廃棄物」となるという考え方はとられていないということです。

他方,不要物を引き取る場合には,どうなるのかが問題となります。

そこで,昭和52年3月26日環計37号は,「排出者が不要とした物を原則として無償で引き取り,専ら再生利用のみを行っている者について,その再生利用が確実に行われると都道府県知事が認める場合は許可を要しない」とし,「再生利用の認定は,再生利用の主体,目的及び方法並びに取引関係等を特定して行う」としています。

よって,認定を受ければ,廃棄物処理法上の許可を得ずに不要物の処理を業として行うことができます。

 

3 リサイクルと企業の責任

持続的可能な開発目標(SDGs)目標12「つくる責任つかう責任」のターゲット12.5は「2030年までに,廃棄物の発生防止,削減,再生利用及び再利用により,廃棄物の発生を大幅に削減する。」としています。

まずは,自社で生じてしまう廃棄物は,適切に処理できていますか?この点から,再確認することが必要です。そのうえで,さらに何をしていくかを考えることになります。

さらに何をしていくかは,方針だけであれば,リサイクル・リユースなどのより一層の推進です。

他方,リサイクル・リユースをするうえでは,国内法としての廃棄物処理法等の環境法制の十分な理解は必要不可欠です。環境法制の十分な理解なくしてコンプライアンス経営もできません。作業手順、社内規程の整理や見直しは必須であり、また、SDGsの目標達成の具体的なプラン作りも重要です。

弁護士として企業の事業活動をサポートさせていただく中では,事業者の皆さまが環境法制を十分にご理解されていないのではと感じる場面もあります。

池田総合法律事務所では,廃棄物処理法等の環境法にもとづくコンプライアンス構築のお手伝いもできますので,一度ご相談ください。

〈小澤尚記〉

会社法改正に伴う事業報告書の記載事項の変更について

これまで、会社法の改正点について、役員報酬、会社補償、役員賠償責任保険のルール変更等の解説をしてきましたが、これらの改正に伴い、事業報告書に記載すべき事項について、会社法規則により定められています。

なお、事業報告書には、計算書類ではわからない定性的な情報を補足する役割があります。すべての株式会社が作成を義務づけられています。

 

第1.役員報酬等について

以下のような事項が、事業報告書への記載対象として定められています。なお、上場企業等の公開会社を前提としています。

 

1.会社役員ごとの報酬等の総額(業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等がある場合は、それぞれの総額)及び員数

具体的には、下表のような記載となります。

役員区分 員数(名) 報酬等の総額(百万円) 報酬等の種類別の総額(百万円)
業績連動報酬等 非金銭報酬等 その他報酬等
取締役 社内取締役 5 470 150 160 160
社外取締役 3 13 13
合計 8 483 163 160 160

 

2.業績連動報酬等に関する事項については、その算定の基礎として選定した業績指標の内容及びこれを選定した理由、その額又は数の算定方法及び額または数の算定に用いた業績指標に関する実績

これは、業績連動報酬等が役員に適切なインセンティブを付与するものであるかどうかを株主が判断するために必要な情報の開示を求めているものです。必ずしも、株主が開示された業績指標に関する資料等から業績連動報酬等の具体的な額や数を導くことが出来るような記載までが、求められているものではないとされています。

 

3.非金銭報酬等については、その内容

 

 

4.会社役員等の報酬等に関し、定款の定めや株主総会決議がある場合には、その定め又は決議の日、内容の概要及び会社役員の員数

 

5.取締役の個人別の報酬等の内容が、定款や株主総会の決議で具体的に定められていない場合には(取締役会で、その決定方針を定めなくてはいけません。)、決定方針の決定の方法、方針の内容の概要、個人別の報酬等の内容が、この方針に沿うものであると取締役会が判断した理由

 

6.取締役会から委任を受けた取締役等が、取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、委任を受けた者の氏名、地位及び担当、委任された権限の内容及び権限を委任した理由

従来から、取締役の報酬につき、株主総会から取締役会へ、取締役会から代表取締役への報酬の決定権限の委任といったことが行われてきましたが、そのプロセスを可視化し規制していくものです。

 

第2.会社補償、役員損害賠償保険に関する記載

役員等賠償責任保険や補償契約に関する事項についても、事業報告書に記載しなければならなくなりました。

また、これらの事項は、取締役等の選任に関する議案を株主総会に提出するとき、その参考資料としてその概要を記載することも求められています。

(池田伸之)

社債に関する改正点

1 社債に関する規定の改正について

2021年3月1日に施行された改正会社法で、社債に関する規定も改正されました。

社債は、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、募集社債に関する事項の決定に従い償還されるものと定義されており(会社法2条23号)、会社による資金調達の一手段です。

しかし、社債を発行するにはいくつかの高いハードルがあり、十分に活用されていないとの評価があったようです。今回の改正では、社債の活用を促進するための改正がなされました。以下、従前からある「社債管理者」制度と新たに創設された「社債管理補助者」制度を中心に社債に関する改正点について説明します。

 

2 社債管理補助者制度の創設について

(1) 改正の背景

社債を発行するには、原則として会社は「社債管理者」を定め、社債権者のために社債の管理を委託するとされていました(会社法702条本文)。しかし、社債管理者は広範な権限や裁量を有する一方で適切な権限行使の責任が大きいこと、銀行や信託銀行等しか社債管理者になれないという資格要件も厳格であることから、社債を発行する上で設置のコストの高さや担い手の確保が大きな障害となっていました。そのため、実際に社債を発行するケースでも、社債管理者の設置を免除される法律上の例外規定に該当するよう社債を設計することが多かったようです。

しかし、そのような例外措置には社債権者保護が不十分というデメリットがありました。本来、デフォルト発生時(債務被履行時)などには社債管理者が社債権者のために権利行使をすることになっていますが、社債管理者が設置されていない社債については、デフォルト発生時に社債権者自身が自ら権利行使をせざるを得ない点で、社債権者の負担が大きいのです。

このような点に配慮して創設されたのが、「社債管理補助者」(会社法714条の2)の制度です。

(2) 社債管理補助者制度の概要

社債管理補助者は、社債管理者よりもその権限や裁量を限定されるとともに、その責任やコストを軽減したという特徴があります。

社債管理補助者は、社債権者が自ら社債を管理することを前提に、あくまでその補助を行うものであり、その権限は社債管理者の権限の一部(会社法714条の4第1項)とその権限が限定され、その他の権限は委託契約で定めるとされました(会社法714条の4第2項)。

そして、権限が限定されたことに連動する形で、資格要件も緩和されました。つまり、社債管理者になる資格を有する銀行や信託銀行に加えて、弁護士及び弁護士法人も社債管理補助者になれるとされたのです(会社法714条の3、会社法施行規則171条の2)。要件緩和により社債権者保護の役割の担い手が増えることが期待されます。

なお、社債権者保護の役割を担う以上、社債管理補助者は、公平誠実義務(公平かつ誠実に社債の管理の補助を行う義務)および善管注意義務(善良な管理者の注意をもって社債の管理の補助を行う義務)が課せられます(会社法714条の7、704条1項、704条2項)。

社債管理者設置のハードルにより社債発行をためらっていた会社には、社債管理補助者制度の創設により、資金調達の選択肢が増えたといえるでしょう。

 

3 その他社債権者集会に関する改正事項

(1) 改正の背景

改正前の会社法では、社債権者集会の元利金減免権限や、社債権者集会決議省略手続きにつき、明文の規定がないため議論が分かれる論点がありましたが、今回の改正で明文規定が置かれました。

(2) 元利金減免権限の明文化について

改正前の会社法では、社債権者集会決議による社債の元本及び利息の全部または一部の免除(元利金減免)は、改正前会社法第706条1項1号の「和解」に含まれるので、社債の元利金減免ができるとする見解が有力でしたが、明文規定がなく解釈により運用されていました。

この元利金免除権限につき、改正会社法706条1項1号は、「当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務若しくはその債務の不履行によって生じた責任の免除又は和解」と改正され、社債権者集会の元利金減免権限が明文化されました。

(3) 社債権者集会の決議の省略の明文化について

一定の事項には社債権者集会を開催して決議をすることが法律上求められており(会社法第716条、706条等)、社債権者集会の決議は裁判所の認可を受けなければ効力を生じないとされています(会社法第734条)。

しかしながら、債権者の全員が個別に同意している場合に、わざわざ社債権者集会を開催した上での決議や裁判所の関与が必要かについては議論がありました。

その点について明文により、株主総会と同様に、社債権者全員の書面による同意があれば社債権者の決議があったと見なされ(会社法第735条の2第1項)、裁判所の認可も不要とされました(同条第4項)。

 

4 以上が社債に関する改正点のあらましです。

社債をはじめとする企業金融には多くの事項を検討する必要があります。お気軽にご相談ください。

山下陽平

株式交付に関する規定の新設

1.株式交付とは

2021年3月1日に施行された改正会社法での改正点を連続コラムで解説する第4回目は、株式交付に関する規定の新設についてです。

株式交付制度(会社法2条31号)とは、他の株式会社を買収しようとする株式会社が、その株式を対価として、円滑に当該他の株式会社を子会社とすることを可能にする制度です。

具体的には、他の株式会社を買収しようとする株式会社(買収会社,A社といいます。)は、当該他の株式会社(被買収会社,B社といいます。)の株式を譲り受ける際に、B社株式の譲渡人に対して、その対価として、A社の株式を交付することができるという制度です。

 

従来から、他の株式会社を買収するには、①株式交換(被買収会社が、その発行済み株式の全部を買収会社に取得させること)、または②現物出資(買収会社が、被買収会社の株式を現物出資財産として、被買収会社の株主に新株発行等を行うこと)といった方法があります。

しかし、①株式交換については、対象会社を完全子会社とする場合でなければ利用することができないこと、②現物出資については、原則として裁判所が選任する検査役の検査が必要であり、その時間・費用が発生すること、手続が複雑であるという指摘がされています。

このような問題を解消するため、今回の改正法により、株式交付制度が新設されました。

 

2.株式交付の手続き

(1)株式交付計画の作成・承認

株式交付を行う場合は、買収会社は株式交付計画を作成する必要があります。

株式交付計画では、つぎのような事項を定める必要があります。

・被買収会社の株主から譲り受ける被買収会社株式の数の下限

・株式交付の対価として交付する買収会社の株式や金銭等の内容およびその割当てに関する事項

・株式交付の効力発生日 等

なお、株式交付計画は、原則として、株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります。

(2)買収会社による通知

買収会社は、被買収会社の株主のうち譲渡を申し込もうとする者に対して、株式交付計画の内容等を通知します。

(3)被買収会社の株主による株式の譲渡の申込み

申込者(被買収会社の株主)は、申込期日までに、譲渡しようとする株式数等を記載した書面を買収会社に交付します。

(4)申込者への割当て

買収会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者およびその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め、その内容を申込者に通知します。

(5)被買収会社株式の譲渡

申込者は、効力発生日に、被買収会社株式を買収会社に給付します。これによって、申込者は買収会社の株主となります。

(6)事前・事後の備置き

買収会社は、事前開示として、株式交付計画備置開始日から6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容その他一定の事項を記載した書面(または電磁的記録)を本店に備え置く必要があります。

また、事後開示として、効力発生日後遅滞なく、株式交付によって譲り受けた株式の数等を記載した書面(または電磁的記録)を、効力発生日から6か月間本店に備え置く必要があります。

 

以上が、株式交付の大まかな手続きです。

今回の株式交付制度の新設により、株式を対価とした企業買収が、より円滑に行えることになると考えられます。

<石田美果>

野上陽子の摩天楼ダイアリー⑪

ynassociates.net の最近の投稿より

まだまだ続くコロナ感染をニューヨークから。続編

Posted 2021年8月14日 YokoNogami

世界中で感染が止まらない状況をニューヨークから見ていますが、ここマンハッタンでは、7月初めから やっと街の様子が、前の状態に戻っていくように感じました。人混みも増え車の渋滞も増えてきました。

クラクションの音はこの1年半聞くこともあまりありませんでしたが、それも戻ってきました。「あぁ〜、うるさいな~」と感じる反面、なんだかホッとする私がいます。

これまでは、感染防止対策で仕方がなく車道まではみ出していたレストランやバーのテーブルは、ちょっと気軽に軽食をするホッとした場所に変わり、週末には、大人数のグループがワイワイと子供を含めて食事するのも見るようになりました。こうした雑踏もなんだかよいものだと感じています。マスクを外して散歩、住んでいるビルではマスクなしでランドリーに行けます。

しかし、米国全体を見ると、感染拡大中のパンデミックです。ニューヨークなどの大都市を有する州の感染が静まり、今度はその他の州で、感染拡大がひどくなってきています。ニューヨークやカリフォルニア、ボストン、シカゴなど大都市のある州から多くの感染者が出て、恐ろしいほど早い広がりを見せていた時、感染拡大は都会の外国人のせいだと騒いだり、感染は限定的だ、ワクチンは信じない、感染はインフルエンザ程度と共和党議員たちが言い、トランプ大統領も「自分を見ろ。心配はない」と主張し、そういった意見を支持していた州の住民が、今、犠牲になっています。

テレビでは、「専門家の意見を聞こう! 医学を信じよう!」と宣伝していますが、米国中を見ると感染が増えるばかりです。予防接種に積極的な地域では、感染のおさまりが見られ、接種に批判的な地域では感染拡大が起きています。

こうした状況でも、人の移動に制限ができないので、今週からは、ニューヨークでもマスクをできるだけするように、特に建物の中ではマスクをしてくださいとテレビで盛んに言っています。確かに外でマスクをする人が増えましたし、エレベーターでは、マスクを自主的にする人を多く見かけます。

私は、過去にインフルエンザでひどい目に遭ったことがあります。年末の休暇中に寝込み、「もっと気を付けていたらよかった」と寝込んで思っても手遅れでした。今は予防接種をしたり、体調を考えたりしていますのは、忍び寄る癌やその他の病気も含めて、自分の体調を過信したり、知らないうちに病気になることが起きると実感し、早期診察や健康診断をしています。

ワクチンがなく、接種したくてもできない国がある反面、ワクチンが十分にあるのに打たない人たち、米国ニュースでは、ワクチンを打たないのは、自由な考えとして報道されていますが、その中には、まったく根も葉もないバカバカしい理由もあり、根拠のない理由もあります。

米国人は「自由」という言葉が好きです。基本的には、本人の意思で決め、強制はできないと、以前も書きました。その通りなのですが、街を歩いていて、接種したのに今も感染するかもしれないと怯えて気を使って行動する人たちと 接種に反対し普段の生活も変えず、マスクもしない人たちの、その両方がすぐ近くにいます。

米国で接種する人としない人を差別してはいけないと、多くの人が言います。米国では予防接種をしなければ渡航Visaが取れない時期がありました。差別ではなく、感染の可能性は本人も周りも同様ですが、現状況では接種をしていない人の重症化が明らかです。

今のマンハッタンでは、美術館や博物館、映画館などでは、入場制限をして密にならないようにするための安全対策をして開館しています。以前紹介したように6月には、ある大規模な音楽コンサートで、チケット購入しても接種完了を示す証明がなければ、会場に入れないことが記事になりました。参加ミュージシャンがインタビューでファンに「できるだけ安全対策をしてみてほしい」と言いました。

だいぶ前ですが、あるミュージシャンは、観客だけでなく演奏家も大きな透明な風船の中に入れてコンサートをして話題になりました。去年の夏は、それぞれが間隔を空けるよう、円を書いてその中で日光浴をしていました。

観光地ハワイでは、入島する際にはワクチン接種の証明が必要などの処置がとられています。秋から本格的に開演するブロードウェイのショーは、出演者、劇場関係者全員の接種が必須、そして観客には“接種証明書が必要”としました。そして、オペラ、バレエ、コンサートホールのあるリンカーンセンターでも、観客はチケットと接種証明、それと接種のできない年齢の子供は、観劇できないと決めました。これは、それぞれの劇場労働組合や海外出身の出演者の健康安全第一で、万が一感染すれば、すべての公演中止になる恐れがあるからです。特に長いオペラシーズンでは、冬場の公演が中止になれば大問題です。

州外からの観光者に対しては、接種した証明を持ち歩くこと、外国からの観光客には接種を勧めることによって、ニューヨークで感染拡大がまた起きないようにすることを狙い、接種していないと観光が制限されます。

ニューヨーク州では3月から州独自の接種カードを作りました。初めは2回の接種の確認のためだけだったのですが、新しい接種カードには、接種をした日時、ワクチンの種類、そしてそのワクチンのロット番号が記載されていて、3度目のワクチン接種をする際には、記憶に頼らなくてもよいわけです(私は今は両方携帯に入れて必要であればすぐ提示出来る様にしていますが、まだ提示を求められたことはありません。)。

今後レストラン、バーでも接種証明の確認を義務づける発表がありました。接種をするかしないかは本人の自由だけども、他人の生活を妨げてはいけない。レストランやバーで働く人も感染する可能性があるのだから、接種した証明書を提示すのは当たり前だとの考えのようです。

客の接種確認して、その確認を怠った場合は、レストランやバーが罰金を支払うことになります。以前から、お酒の提供や購入には、年齢証明書を確認する義務があり、これを怠った場合と同様になります。

レストランやバーでマスクを外し、食事をしながら会話をするのは楽しいことですが、隣のテーブルの人が自分と同じく接種しているかどうか気になります。サーブする側もされる側も感染リスクをいつも考えます。日本でも、居酒屋の感染対策を強化し、お店の感染対策を問われますが、どんなに除菌をしてもお客が持ち込む感染は、防げません。

マンハッタンでは、去年、宅配人をビルに入れない徹底ぶりでした。今の日本では、ただただ息をひそめているしか方法がないかもしれません。

ニューヨークでの、1年半の間、多くのレストランやバーが閉店しました。閉店した店舗はまだ空き店舗です。開店していて感染違反で罰金や営業停止など多くの問題がありました。今やっと感染が減り、ワクチン接種だけが感染を防ぐ方法だと感じます。この方法も完全ではありませんが、今できる感染死亡を防ぐ方法として接種が必要だと思う人がいますし、3回目のワクチン接種の医学的根拠と時期について興味がある人が多くいます。

ニューヨークの接種証明確認は、苦肉の策ですが、すでにスポーツジムでは、接種証明と身分証明書が必要になったと友人が言います。ワクチン接種をして感染したくない人達は、新たな感染拡大防止策に前向きです。

このようにマンハッタンの感染対策を徹底することは、観光、演劇、芸術の分野や多くの経済の後押しになると信じたいです。そして、これは経済立て直しの始めになります。

米国の深刻な問題は、日本でもすでに報道されていますが、米国で「接種はしない」、「普段の生活は変えない」と声を上げていた人たちが、今パンデミックの中にいます。都会から離れて密にならない田舎で、教会や親族パーティー、学校など集まる場所で感染が増えています。もちろんレストランやバーも通常通り運営していた州は、今医療崩壊の危機にいます。もう一つ、東京で開催のオリンピックに現地まで応援に行けないアメリカ選手団の親族が実況中継見ながら、集まって大声で観戦、応援をしていました。これを見て、オリンピック開催が感染拡大につながっているのは、日本だけじゃなく、もしかしたらどこの国でも起きているのではないかと感じていました。

感染は、また起きうることです。代表的なものとしてエボラですが、それ以外にも多くの感染症の予防薬や特効薬が開発されていません。日本は地震大国で地震は、また起きます。米国の竜巻も同じで止めることは出来ません。でも、過去のデーターを分析し対策を考えることはできます。現に今回のコロナワクチンも何十年ものデーターの解析で得た資料が基になっているということです。日本の地震予測はどの国よりも優れていると何かで読んだ覚えがあります。

今の世の中、コンピューターを使い多くの学術的資料を探せるのですから、多くの予備知識を蓄え、世界中から学んで、うわさやデマなどに惑わされないよう行動してほしいと思います。最後に自分で決断をして行動を取るのは災害の時と同じだと考えます。

資料です。NY州でワクチンパス 携帯アプリで表示、全米初―新型コロナの日本での記事です。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032700310&g=int

野上陽子(ニューヨーク市マンハッタン在住、コンサルタント会社を経営)

サイトのご案内  https://www.ynassociates.net/

土壌汚染対策法の概要

2020年6月11日掲載の法律コラム「土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点」で土壌汚染が疑われる土地売買にあたっての注意点などを挙げましたが,土壌汚染については土壌汚染対策法で規制がかかっています。

そこで,今回は土壌汚染対策法の概要をまとめました。土壌汚染の問題は環境分野の一つではあり,古くて新しい問題であり続けています。現在では,ESG投資という言葉もあるとおり,土壌汚染は環境,社会,企業統治のいずれの面からも問題になる可能性がありますので,ご参照ください。

 

1 土壌汚染対策法の目的(法1条)

土壌汚染対策法では,①汚染土壌から有害物質が地下水に溶出し,その地下水を飲用利用等する経路による健康被害,②汚染土壌の摂取(例えば,砂塵となった土壌が口に入る場合など)や皮膚からの吸収による直接摂取の経路による健康被害を防止することに目的があります。

農用地の土壌汚染については,人の健康を損なうおそれがある農畜産物の生産及び農作物との生育の阻害を防止することを目的として,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づく規制があります。

ダイオキシン類による土壌汚染については,特別法であるダイオキシン類対策特別措置法が土壌汚染対策法よりも優先適用されるものと考えられます。

放射性物質による土壌汚染についても,特別法である放射性物質汚染対処特別措置法による規制が優先されます。

廃棄物の処理等を原因とする土壌汚染については,土壌汚染対策法の規制対象ですが,土壌中の廃棄物は廃棄物処理法の規制対象になります。なお,土壌が汚染されておらず,産業廃棄物も存在しない「土壌」,いわゆる建築残土などの『土』そのものは,土壌汚染対策法の規制対象にもなりませんし,『土』は廃棄物=ゴミではないので,廃棄物処理法の規制対象にもなりません。

 

2 土壌汚染対策法の規制対象物質(法2条)

土壌汚染対策法の規制対象物質は,法2条とそれをうけた土壌汚染対策法施行規則で定められた,①第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)(12項目),②第2種特定有害物質(重金属等)(9項目),③第3種特定有害物質(農薬,PCB等)(5項目)があります。

そして,①~③については,「土壌溶出量基準」が定められ,地下水に溶出した場合の健康リスクを防止しようとしています。

また,②については,「土壌含有量基準」も定められており,直接摂取による健康リスクを防止しようとしています。

例えば,土壌汚染対策法施行規則第1条第1号に定められている「カドミウム」(第2種特定有害物質)は,富山県神通川流域でイタイイタイ病という公害をもたらした原因物質であり,神通川流域にカドミウムが排出され,土壌中に入り込み,そこで育った作物等の摂取を通じて人体に取り込まれ,人の健康に害を及ぼしました。そこで規制対象となっています。

 

3 土壌汚染状況調査(法3条)

(1)調査対象土地

調査対象となる土地は,特定有害物質を使用等する水質汚濁防止法の特定施設(特定物質使用特定施設)が設置されている工場または事業場(工場等)の敷地です。

(2)調査の契機

調査は,工場等を廃止(特定有害物質の使用をやめる場合も含む)し,土地の用途を工場等以外の用途に変更する時点です。

(3)調査の実施主体

工場等の土地の所有者,管理者,占有者があたります。

所有者が調査主体となるのは,調査のため土地の掘削等を要するので必要な権原を有するのは所有者であるためです。

しかし,必要な権原を所有者が破産していれば破産管財人が権原を有しますので,その場合には管理者,占有者が調査実施主体になります。

(4)他の調査

他に,①土壌汚染のおそれがある土地の形質の変更が行われる場合の調査(法4条),②土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地の調査(法5条)があります。

 

4 土壌汚染の除去

(1)土壌汚染の除去主体(法7条)

土壌汚染の除去の主体は,汚染原因者,土地の所有者,管理者,占有者です。

これも調査の考え方と同じで,土壌汚染を除去しようとする場合には土地そのものに手を入れる必要があることから,権原として所有権を有する所有者が主体になります。

(2)費用の請求(法8条)

土地の所有者等が,土壌汚染の除去をした場合,その除去費用は,所有者から汚染原因者に請求できます(汚染者負担の原則)。

しかし,土壌汚染対策法8条に基づき,土地所有者等が汚染原因者に請求できるのは,土壌汚染対策法に基づく指示を受けた場合に限定されます。

また,土地所有者等が,汚染原因者に請求できる費用は,指示の差異に示された措置(指示措置)に必要な計画の作成,変更及び指示措置のための実施費用に限定されています(土壌汚染状況調査の費用や指示措置以外の内容の費用は請求できません。)。

(3)消滅時効

①実施措置を講じ,汚染原因者を知ってから「3年間」

②実施措置を講じてから「20年」経過

に請求しなければ消滅時効となり,権利が消滅するおそれがあります。

 

5 最後に

土壌汚染対策法は,土壌汚染の原因を作ったわけではない土地の所有者等が最終的に土壌汚染の除去工事をしなければならない可能性があるとしています。

工場跡地などの大規模商業施設開発,大規模マンション開発の際には,避けて通れない問題ですし,一度,土壌汚染が判明すれば多額の費用をかけて土壌汚染対策工事除去工事をする必要があります。

法人の事業等において,土壌汚染の問題がありましたら,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉

会社補償・役員賠償責任保険のルールの新設

1 はじめに

2021年3月1日に施行された改正会社法での改正点を連続コラムで解説する第3回目は,会社補償や役員賠償責任保険(D&O保険(Directors and Officers Liability Insurance))のルールです。

失敗から学び,試行錯誤しながら事業を行っていくなかで,役員などが職務執行にあたって失敗した場合に賠償責任を負うことになると,大胆な職務執行ができなくなる可能性がありますが,他方,何らの責任も負わないとすると会社法が役員等の賠償責任を認めている意味がなくなります。

これらの両要素のバランスをとるためのルールが導入されました。

上場会社,非上場会社にかかわらず,役員等の賠償責任の問題は生じますので,会社経営者や取締役等として会社の経営に携わっている方は,知識として把握しておくと良いでしょう。

 

2 会社補償(会社法430条の2)

(1)会社補償とは

会社補償は,役員が職務執行に関して損害賠償請求,刑事訴追等を受けた場合に,役員等が要した争訟費用,損害賠償金等の全部・一部を会社が負担することです。

(2)会社補償契約の内容決定

会社が会社補償契約の内容を決定するには,

①取締役会設置会社では,取締役会決議

②取締役会非設置会社では,株主総会決議

が必要になります。

(3)会社補償契約の内容

補償契約の内容としては,

・役員等が,職務執行に関し,法令違反(刑法・独禁法等)が疑われ,または責任追及に係る請求を受けたこと(悪意・重過失があっても良い。必要であれば430条の2第3項で返還請求をします)に対処するために支出する費用(例えば,弁護士費用)(430条の2第1項第1号)。

ただし,通常要する費用を超える部分は補償できない。

善意・有過失の役員等が,職務執行に関し,会社以外の第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合に,①損害を役員等が賠償することにより生じる損失,②損害賠償に関する紛争について当事者間で和解が成立した場合の和解に基づく金銭の支払いにより生じる損失(430条の2第1項第2号)

ただし,会社と取締役が連帯して第三者に賠償責任を負っている場合に,取締役負担部分は補償できない(この補償を認めると取締役の会社に対する責任を免除したことと何ら変わらないため)。

 


※第2号の損失補償については,悪意・重過失の役員等の補償はできません。したがって,会社法429条の役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条1項「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは,当該役員等は,これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」)は,役員等の悪意・重過失を要件としていますので,カバーできないことになります。


(4)補償の実行

すでに締結済みの補償契約に基づき,補償を実行する場合には,取締役会や株主総会の決議は不要です。

ただし,補償の実行額等によっては,会社の重要な業務執行の決定に当たることも考えられますので,取締役会決議が必要になることは想定されます。

(5)補償についての重要な事実の報告

取締役会設置会社では,補償契約に基づく補償を受けた役員等は,遅滞なく,補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないと定められています(430条の2第4項)。

(6)公開会社における補償契約の内容の開示

公開会社では,

①補償契約を締結している取締役の氏名・契約内容

②費用を補償した場合において当該役員等が責任を負うこと等を知ったとき

③損失を補償した場合には,その旨及び金額

を事業報告において開示する必要があります。

また,取締役選任の際の株主総会参考書類に,補償契約の内容の概要を記載しなければいけません。

 

3 役員賠償責任保険(会社法430条の3)

(1)概要

役員等を被保険者,会社を保険契約者として,役員等が業務について行った行為(不作為を含む)を理由に損害賠償請求を受けた場合に,役員等の損害を補填する損害賠償保険のことを役員賠償責任保険(D&O保険)といいます。

役員賠償責任保険は,1993年の販売認可により導入されてきましたが,会社が保険契約者ですので,その保険料は会社が負担します。しかし,会社が保険料を支払って,取締役の会社に対する損害賠償責任に対しても保険金が支払うことも可能であり,会社補償契約よりも問題が大きいとされていました。

そこで,今回の会社法改正で役員賠償責任保険のルールが導入されました。

(2)役員賠償責任保険の内容決定

会社が,役員等の職務執行に関し責任を負うこと,または責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者(=損保会社)が填補することを約束し,役員等を被保険者とする保険契約の内容を決定するには,

①取締役会設置会社では,取締役会決議

②取締役会非設置会社では,株主総会決議

が必要になります。

(3)役員賠償責任保険の更新

役員賠償責任保険の更新時には,契約内容が従前のままでも,取締役会または株主総会の決議が必要となります。

(4)公開会社における役員賠償責任保険の内容の開示

公開会社では,

①被保険者の範囲

②保険契約の内容の概要(被保険者が実質的に保険料を負担している場合には負担割合,保険事故の概要等)

を事業報告において開示する必要があります。

※保険金額・保険料,契約に基づく保険給付の金額等は開示対象外です。

また,取締役選任の際の株主総会参考書類に,候補者を被保険者とする役員賠償責任保険の内容の概要を記載しなければいけません。

 

4 まとめ

以上のように,これまで会社と役員等の利益相反にあたるのではないかと考えられていた会社補償契約や役員賠償責任保険が,どういったルールのもとで締結できるのかが改正法により明確になりました。

会社補償契約や役員賠償責任保険は上場,非上場にかかわらず導入できる制度です。これらの導入をすれば,役員等の人材確保や積極的な経営判断につながり,会社の活性化につながりえるものです。

例えば事業承継を検討されるなど,会社のこれからを検討されている事業者様に対しては,会社の現状をお聞きして,将来に向けて何ができるのかを弁護士としてアドバイスさせていただきます。

是非,池田総合法律事務所にご相談ください。

 

<小澤尚記(こざわなおき)>

取締役の報酬に関する規律の見直し

2021年3月1日に施行された改正会社法で、取締役の報酬に関する規律の見直しがなされました。一部の改正については対象が上場会社等に限定されていますが、そうした改正についても、今後上場を目指している経営者の方は、知識として把握しておくと良いでしょう。

 

1 概要

取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させるとともに、株式会社が業績等に連動した報酬等を適正かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、概ね以下の内容の改正がなされました。

① 上場会社等の取締役会は、定款の定めや株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められない場合には、その内容についての決定方針を定めなければならないこととなりました。

② 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととなりました。

③ 上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととなりました。

④ 事業報告による情報開示の充実

 

2 個人別の報酬等の決定方針の決定の義務化(会社法361条7項)について

(1)改正の内容

取締役が報酬、賞与その他の職務執行上の対価である財産上の利益(報酬等)を受領する場合には、その額や具体的な算定方法を定款もしくは株主総会の決議で定めなければなりません(会社法361条1項)。

もっとも、こうした規制の目的は、高額の報酬が株主の利益を害する危険を排除することにあるため、定款・株主総会決議により個々の取締役ごとに金額等を定める必要は無く、取締役全員に支給する総額等のみを定め、各取締役に対する具体的配分は、取締役会に委ねることが出来るものとされていました(最判昭和60年3月26日判時1159号150頁)。

しかしながら、上記の手続では、個々の取締役の報酬を定めるプロセスが透明性に欠けます。また、取締役会が具体的配分を代表取締役に一任する例も多く、そうした場合には、取締役会による代表取締役の監督に不適切な影響を与える可能性があります。

報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要があることから、後記(2)の会社については、取締役会において、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として会社法施行規則98条の5各号に定める事項(報酬等の決定方針)を決定し(会社法361条7項)、事業報告に開示しなければならないものとされました(会社法施行規則119条2号・121条6号)。

 

(2)対象となる会社

改正1の対象となるのは以下のいずれかに該当する会社です。

① 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの

② 監査等委員会設置会社

 

3 株式や新株予約権を報酬とするときに決議すべき事項について

従前より、取締役に対する非金銭的な報酬等として、株式や新株予約権(いわゆるストック・オプション)を付与することがありました。

こうした報酬等を付与する場合、改正前の会社法では、「具体的な内容」を定款や株主総会の決議で定めなければならないとされているだけでした。

この度の改正で、株式や新株予約権を報酬等とする場合に、報酬として付与される株式や新株予約権の数の上限等、定款や株主総会で決議すべき事項が具体的に規定されました(株式について会社法361条1項3号・会社法施行規則98条の2、新株予約権について会社法361条1項4号・会社法施行規則98条の3)。

 

4 報酬として株式を発行等する場合の金銭の払込みの不要化について

上場会社が取締役の報酬として株式を発行等する場合に、出資の履行(金銭の払込み等)を要しないこととなりました(会社法202条の2)。

会社法199条1項の募集株式の発行等においては、募集株式の払込金額またはその算定方法を定めなければならないこととされています(同2項)。そのため、取締役の報酬等として株式を交付しようとする場合、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役に会社に対する報酬債権を現物出資する形をとっていました。

改正後の会社法では、こうした手法をとる必要はなくなります。

 

5 事業報告による情報開示の充実化について

公開会社について、事業報告における取締役の報酬等に関する記載事項の充実が図られました(会社法施行規則121条4号~6号の3)。

<川瀬 裕久>